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13.図書館

 ニニブの日、国立図書館――。


 ローズはバックにノートを入れて街へと出る。街の中心からほんの少し外れた場所に、国立図書館があった。基本、毎週ニニブの日は午前中のみの営業だった。


 国立図書館という名だけあり、書物を探す時はここに来れば大半は見つかる。馬鹿げた本から真面目な本まで揃った図書館だ。外観は石造りの地味な彫刻がされ、入口前にはある人物の彫刻があり、この国立図書館を創設することを提案した人物、リーブル・ド・フイ・パ=パージュパジュの彫刻だ。

 偉大な人物なのだが、国民のほとんどが名前を忘れている。


 ローズは図書館へと入る。図書館には何度も来ていた。休日にはよく小説を借りて読み耽っていたからだ。主に読むのは恋愛小説だった。

 入ってすぐに受け付けがあり、女性2人が作業をしている。ローズはそこで名前を記入し、紐が付いたトランプ程の大きさのカードを受け取ると、それを首に掛けた。


 図書室は二階建てで、床から天井まで本がぎっしりと詰まっていた。1番上の本に手が届くよう、部屋の端には階段状の踏み台が何個も置いてある。壁沿いには1人用のテーブルや、他に10人ほど座れる大きめのテーブルがいくつか置いてあった。


 そして端のテーブルに羽根ペンとインク瓶が大量に置いてあり、1つずつ取ると本棚へと向かう。


 ローズの目当ての本は、貴族について書かれた本とミーズガルズ王国の領地地図である。棚からめぼしい本を何冊か探し出すと、壁沿いにある1人用のテーブル席に座った。席についていた光源石のランプを照らして本を開き、鞄からノートを出した。


 そしてレオナールからのヒントを書き出した。


【ヴェストリ出身、海に面した領地、軍港がある】


 ヴェストリ地方は、王都から西の地方全体を指す。そして軍港のある領地をノートへと書き出した。


【ヴァン・ラファル家】

【ヴァン・ミストラル家】

【ヴァン・クードゥ家】

【セルヴォラン家】

【ドラポー家】


(ヴァンの貴族が三家。無称号の貴族が二家か……うーん。ヴァンの貴族なのかなぁ…… そんな事ある? 四大貴族じゃない……)


 ミーズガルズ王国は約1000年前に建国。初代の王パランケルスと共に敵国と戦った英雄4人が建国したと言われている。

 初代王パランケルスは精霊と仲が良かった。火の精霊サラマンダー、土の精霊ノーム、水の精霊ウンディーネ、風の精霊シルフィードと特に仲が良く、共に暮らしていたと言われている。


 英雄4人はパランケルスが製作した魔具を使っていた。その1人、エアリエル・ラファルは風の剣(シルフィード)を使用して侵略者と戦う。その功績を称えられ「ヴァン」の称号と侯爵の地位を貰い、以降、エアリエル・ヴァン・ラファル侯爵となる。


 その後、西の地であるヴェストリへと移り住む。


 以降、ヴェストリ地方はそのエアリエルの子孫とそれを支持する貴族の地となっている。


(やだなぁ、ヴァンの貴族だったら。良い印象ないのよね……)


 ヴァンの貴族の印象は、金の亡者でありこの世の悪い出来事は全てヴァンの貴族と繋がっている、といった印象だ。


 ――金さえ払えば何でもする。


 人身売買から人体実験、そして殺しまで何でも手を出していると言われている。約500年前にあったの国王暗殺の件も――彼らは否定をしているが――ヴァンの貴族がやったと噂されていた。


 ローズは貴族について書かれた本を開く。ページを捲り、目当ての項目まで辿り着いた。



【精霊称号、西の地ヴェストリのヴァンの貴族】

【ラファル家。侯爵であり、本家。その他ヴァンを名乗る貴族は分家である。ラファル家はエアリエルの第一子アトモスフェールが継ぐ。魔具、風の剣(シルフィード)を管理。

【ミストラル家、テュルビュランス家、タンペット家、ウラガン家、カルム家は伯爵家。エアリエルの子供の血筋である。

【セゾニエ家、ブリズ家、ブリュム家、オラージュ家、トゥールビヨン家、ブルイヤール家、クードゥ家は子爵家。エアリエルの孫の血筋である。

【ヴァンの名を冠するのは孫の代まで。侯爵、伯爵、子爵の爵位だが、他精霊称号の貴族と同様、ヴァンを冠した伯爵、子爵家は無称号の貴族よりも爵位はひと階級上となる。だが本家であるラファル家は、公爵よりも上、王よりも下の階級となる】



 他にも書かれていたが目当ての名前が出てきた為、読むのを一度止めた。


(うーん、ヴァンの貴族なのかな……)


 はぁと溜息を吐いて項垂れた。そして他にヒントは無かったかと、あの日のことを思い出す。


(他にレオナールは何か言ってた? 収穫祭の後はまた収穫祭をやるんだっけ)


 収穫祭の後に再び収穫祭をやるなど普通は無い。ローズは別の本を広げる。長い時間かけて探したが、収穫祭の後に再び収穫祭をやる領地の事は書いていなかった。


(何かもっとヒントは……)


『今日も収穫祭をやるが、その数日後、一族が集まってまたやる』


(一族……)


『収穫祭で戦ってもらった精霊に対して労う気持ちでやる』


(やっぱり相当信仰が強いよね。わざわざ精霊を労うって……)

 

 ローズは【華麗なる精霊称号の一族 ―精歴1020年版― メレーズ・ジェコ著】と書かれた本を手に取った。ページをパラパラと捲る。



【精霊称号の貴族はそれぞれ特色が違う。


【北ノルズリ地方の(フゥ)の貴族は、なんというか小狡い貴族だ。良い話にはすぐに乗り、風向きが変わると直ぐに降りる。ヴァンの貴族とは仲が悪くないようだ。


【東アウストリ地方の(ソル)の貴族は、のほほんととしている貴族だ。流されやすいと言うのか、世の中に興味が無いのか。四大貴族の中で1番おおらかである。


【南スズリ地方の(オー)の貴族は、正義感溢れる貴族だ。また義理人情に溢れ、困っている人を見ると例え平民であろうと手を差し伸べる。そのせいかヴァンの貴族と仲が悪い。


【西ヴェストリ地方の(ヴァン)の貴族は、悪であり冷酷な貴族だ。金を積めばなんでもやる。殺しもやっているに違いない。優しいのは身内にだけ。金にがめついせいか四大貴族の中で1番金がある。次いでに言うと自尊心(プライド)も1番高く嫌な貴族である】


(この本の筆者、ヴァンの貴族がとても嫌いなんだな……)


 そしてさらにページを捲った。


【精霊称号の貴族は絆が深い。1000年以上も血筋とその絆を保つ為に、定期的に集まり酒盛りをしている】


(これ……これじゃない?? 絶対そうだ。レオナールはヴァンの貴族なんだ)


 セルヴォラン家とドラポー家に二重線を引いた。残るはラファル家、ミストラル家、クードゥ家である。


(自尊心が高いってとこも同じ……はぁ……嫌だなぁ……)


 ローズは背伸びをしてゆっくりと呼吸を吐いた。時間はかかったが、ここまで辿り着けたのだ。自分で自分を褒めたい気分である。


(……剣術大会で騒がれてる精霊称号の貴族ってレオナールかな)


 そして、ふと目に入った【貴族のマナー フェべ・ミリユー著】と書かれた本を手に取った。これはレオナールの家名を探るのに必要は無いが、少し気になって手に取ったものだった。


【貴族のお支払い事情】

【あなたと貴族がもし、万が一、食事をすることになったのなら、素直に奢られましょう。平民から割り勘を提案される、もしくは奢られる等は、貴族からすれば最大の侮辱にあたります。「平民にすら奢ることも出来ない貴族」と言った意味になります。貴族同士であれば貸し借りやお返しなどもありますのでまた違いますが――……】


 ローズは目をぱちくりとさせ驚き、あの時のレオナールが怒っていた理由を知った。そして小さな鈴を鳴らす音が聞こえ、「閉館10分前です」と女性の声が聞こえた。


(今日はこんなものかな……)


 持ってきた本の何冊かを棚へと戻し、2冊程受け付けに持って行って借りる手続きをし、首にかけていたカードを返却した。そして図書館を出てすぐに、女性達数名がヒソヒソと話している。


「ねぇ、あの人かっこいい」

「誰か待ってるのかな」

「貴族だよね?」

「うん、そうだね。かっこいいー」


 女性達は図書館前の銅像近くにいる男性を見ていた。その男性を見るとレオナールだった。


(黙ってればなんですよ、お嬢さん方)


 ローズはレオナールの元へと向かうと、レオナールは気付いたようで微笑んできた。その微笑みにドキッとしてしまい、俯きながら傍まで寄った。


「待った?」

「いや、今来た」


 レオナールは腕を出してきたので、自然とローズは腕を掴んだ。

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