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11.次のデート

 2人はカフェで休憩をし、その後も祭りを楽しんだ。


 あの後も、ローズはちょっとした嫌がらせをしてみた。お化けの類いは怖がるかとお化け屋敷に入ってみたものの、レオナールは全く怖がらず怖がったのはローズである。高い所は怖がるかと観覧車に乗ってみたが、やはり怖がったのはローズだった。


(レオナールって苦手なものないの!? 運動神経も良いみたいだし。あ……そうか猫が苦手なんだっけ)


 だが猫に関する催し物は無い。猫触り放題カフェなんてものがこの世に存在すれば良いのにと思った。


(そんな名前してるくせに猫が嫌いなんて……)


 はぁ、と溜息を吐いて立ち止まった。次はどうしようかと周りを見ると、今人気の舞台【精霊王と村娘】のポスターが目に入った。


【精霊王と村娘】

【ブラギ座にて好評公演中】

【主演男優 バンジャマン・ピエモンターニュ】

【主演女優 オディリア】

【――それは真実の愛――】


 こう書かれた文字と、主演男優と女優が描かれたポスターだ。女優の名前に苗字が無いのは、芸名だからである。芸名で舞台俳優をやっている人は多い。だが彼女の場合、奴隷出身や、どこぞの貴族出身など様々な噂がある女優だった。


 人は噂好きである。


 彼女が現れたのは約3年程前。あっという間に主演を張るようになった。そのせいで新聞には、【若くして主演女優となったのは枕営業のお陰】と書かれていた。だが他の新聞には【貴族出身で金を積んだから】とも書かれていた。

 だが舞台が公開されてからは【美貌と実力を備えた期待の新人】と掌を返している。


「これが気になるのか?」


 ポスターをじっと見ていたせいか、そう聞かれた。


「うーん。この女優さんが気になっただけ」

「オデットが?」

「名前違うよ。オディリアだよ」

「ああ……そう言えばそんな名前だったな」


「この女優さん。若いから最初すごい批判されてて、そんなこと初舞台でねじ伏せた人なんだよ」

「知っている」

「舞台観るの?」


「たまにな」

「私は最近行ってなくて……この女優さん好きなんだよね」


 舞台は借金が出来る前はよく行っていた。だが事故の後、舞台へ行くなら借金返済に当てた方がいい気がして行っていない。


「なら観るか……と言いたい所だがどうやら今日の公演は終わりの様だな」


 公演時間を見るともう終わってしまったらしい。ちょうど多くの人が劇場から出てきている。


「また今度だな。毎週ニニブの日は休みか?」

「そう」

「なら来週ニニブの日に」

「え、いいの?」

「構わん。それよりも、約束は守れよ」


「え? あ……」

「『やっぱり行けなくなった』は駄目だ。いいな」

「でも、その、今度の休みは図書館に行こうとしてて――」

「ニニブの日の図書館は午前中までだろう。だから、午後の時間に行くぞ」


「う……ん」

「安心しろ。観やすい席を取ってやる」

「でも――」

「嫌か?」

「嫌じゃない、嬉しいけど――」

「なら素直にもっと喜べ」


 不思議そうな目でこちらを見てくる。だが、こんなふうにデートの約束をサクッと入れられたことはない。戸惑うことばかりである。


「ありがとう」


 感謝の言葉を述べ、一角獣のぬいぐるみに顔を埋めた。


(ダメダメ! あいつは、レオナールは、色んな女の人にこう言ってるんだ。私なんてその中の1人なんだから、嬉しくなっちゃダメ!)


「どうした?」

「別になんでもない」

「そうか。日も暮れてきたな。ローズは何時迄に帰りたい? 最後まで見るか?」


 収穫祭の夜は祭壇に何本もの蝋燭を置く。そして司祭や修道女達と共に祈りを捧げる。その後は酔っ払い達で賑わう。その時間には帰る人も多く、大衆馬車や貸馬車は大混雑だった。


「ううん。そろそろ帰るよ。早いけど蝋燭お供えしようかな」


 最後までいれない人の為、蝋燭を購入して祭壇へと置くことが出来る。火を灯すのは、夜に係の人がつけるのだ。


「そうか、ならそれが終わったら家まで送ろ――」


 レオナールは言おうとしていた言葉の途中でハッとしたような顔をし、ローズを抱き寄せ背を向けた。


「な、何――」

「静かに」


 彼の腕の中からチラッと見ると、前にレオナールの傍にいた背の高い青年と派手顔美人の女性が、劇場から出てきて腕を組んで歩いていた。


「あの人……前にレオナールと歩いてるの見た。友達?」

「まぁ……幼なじみであり、俺の専属騎士でもある」


(専属騎士? 騎士が必要な程身分が高いの??)


「……レオナールってとっても身分高い?」

「さあな」

「爵位はもうあるの?」

「今は子爵位だな」

「それは子爵領を持ってるの? それとも次期当主とか?」

「後者だな」


「なるほど……今日はあの人がデートだから護衛無しなの?」


「まぁ……そうだ」

「歯切れ悪い。何かあるの? わざわざ隠れるし」


 そう言うとレオナールはふっと笑い「少しな」と答えた。そして抱き締めたまま、ローズをじっと見つめる。

 

「何?」

「いや、案外大人しく腕の中にいてくれるものなのだなと」

「え」


 慌ててレオナールの胸を押し、腕の中から離れた。そう言えば抱き締められていたのだと、忘れていた事実に腹が立つ。


「もう!」

「なんだ、可愛かったのに」


 残念そうにしながらも、笑っているレオナールにぬいぐるみを投げつけた。それを易々とキャッチし、「では行くか」と言って歩き出した。


 再びレオナールの腕を掴み祭壇まで向かう。蝋燭を購入し、お供えをした。そして家まで帰ろうと大衆馬車を使おうとしたが、レオナールが貸馬車屋の前で立ち止まり、貸馬車で一緒に帰ることになった。


「家、ブランティグルから遠いよ」

「構わん」


 ローズは御者に家の場所を教え、レオナールと共に馬車に乗り込んだ。数分後、馬車は動き出した。


「結構歩いたし、疲れたー」


 ふぅと溜息を吐いて、だらしなく座る。背筋など伸ばしてられない。背もたれに寄りかかり、背伸びをした。


「満足したか?」

「うーん、うん。満足かな」

「なら良かった」


 そう言って笑うレオナールはやはり格好良い。黙っていれば、顔だけ見れば好みである。何かクイズのヒントになるものはないかとじっと見ていると、レオナールもじっと見つめてきたので慌てて目を逸らした。


「ふっ」

「な、何よ」

「いや、何でもない。そうだ、もう俺に聞きたいことは無いのか? このままでは家名を当てられないだろう?」


 レオナールはどうやらクイズを楽しんでいるらしい。当てられても構わないのだろうか。


「いいの? 次に当てちゃうかもよ?」

「その時はその時だ」


「……なら、質問。領地に軍港はある?」

「ほう。いい質問だな。答えは『ある』」

「そうなんだ。……もしかして、騎士学校に通ってるのはそのせい?」

「まぁ、多少は」


 他にも幾つか質問したが、あまりヒントにはなりそうになかった。馬車に揺られること数十分。家の前へと着いた。

 レオナールと共に馬車を降りる。


「次のニニブの日。家に迎えに行く」

「あ、待って。図書館に行くから図書館がいいかも」

「分かった。図書館が閉まる時刻に行く」


 レオナールは持っていたぬいぐるみをローズへと渡す。


「ありがとう」

「お休み、ローズ」


 そしてレオナールは左頬へとキスをした。あまりにも自然な流れで拒否をする事も出来ず固まった。レオナールは馬車に乗り込むと馬車は行ってしまった。


「ほ、ほほ、ほほうほほほほ、頬に頬ににあにに」


 左手で頬を抑えながら混乱する。深呼吸をして落ち着かせ、家の中へと入った。


「あら、おかえり」

「たたただいま」

「顔真っ赤よ。どうしたの?」

「なん、でもなっいっ」


「そう。まぁ、一角獣のぬいぐるみじゃない」

「うん」


 ローズはぬいぐるみをテーブルへと置くと、母親は手に取った。


「なんだかこのぬいぐるみ、いい匂いね。ムスクかしら?」

「えっ!?」

 

 ローズは驚いて顔をひきつらせた。


「いい匂い!?」

 

 ぬいぐるみにレオナールの香水の匂いが移ったのである。


(何で……ああ、私が投げつけたあと、あいつが持ってたからそれで……)


 忘れようにも匂いでレオナールを思い出してしまう。


「ローズ、どうしたの?」

「何でもない……」


 ローズは寝間着に着替え、今日起こった出来事を悶々と考えていた。



***


「お帰りなさいませ、レオナール様」


 レオナールが家へと戻ると、シュエットが出迎えた。


「長いお散歩でしたね。もう少し遅くなれば捜索願いを出すところでした」

「ははっ」


 気まずさを誤魔化すように笑い、レオナールはコートを脱いでシュエットへと渡す。


「冗談ではありません。何かあれば私達の首は無くなってしまいます」

「何もない。安心しろ。周りが思うより、俺はさほど有名ではないのだから」


「……平民から見たらそうでしょう。ですが、社交界ではそうではありません」

「シュエット。王都は人も多い。そう易々と暗殺されるようなことはない」


「そうは言いますが、レオナール様は将来ヴァンの貴族の頂点に立ち、国王陛下に次ぐ地位を得られる方です。何かあってからでは遅いのです。それなのに、自由奔放に動かれては困ります」


 レオナールの家は、1000年前建国に携わった英雄の1人、エアリエル・ヴァン・ラファルの血筋であり、ヴァンの貴族の本家である。本家当主の地位は国王に次ぐ地位だった。


「アルよりはだいぶ不自由だ」

「アルベール様は魔法が使えますし、ジャードから出ない事が条件です。それに警備も騎士軍が――」

「はぁーあ、そうだったな」


「それから、女性と遊ぶのも程々に。旦那様が頭を抱えております」

「遊びではなく本気だったら?」


「……でしたら尚のこと」


 レオナールがふぅと溜息を吐くと、シュエットが「食事の準備が出来ておりますが、如何なさいますか」と聞いてきた。


「食べるがその前に――」

「入浴の準備も出来ております」


 レオナールはそのまま風呂場へと向かった。

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