特殊警察
「で、こちとら反体制派の一斉検挙が終わったばかりだってのに新しい仕事かよ。ホントっ、俺たちの使い方荒いよなあ、王様はよお」
コンコッド・リーマンはため息を吐いて嘆いた。
「しかし、早急に決着をつけるようにとのご命令です」
「だから、そういうことよ。荒いのは。国外逃亡した男女を捕まえるのなんて短期間じゃ済まねーぜ」
「それは承知の上でしょう。いつもの圧力ですよ」
「まあ、そうだろうなあ」
コンコッドは部下に愚痴りながらお気に入りのホットコーヒーを口に含む。
「で、クラウスの親族、友人たちは何か吐いたか?」
ランドルフの命を受け、第一段階としてコンコッド率いる特殊警察はクラウスの三親等までの親族と彼の友人を逮捕した。
罪状はレミリーの婚約者の逃亡へ協力した罪と王室への侮辱罪だった。
逮捕した親族、友人は尋問され、ときには拷問さえされた。
「いえ、それが何も……」
「だろうなあ。"吐かない"んじゃなくて"吐けない"んだろうあ。本当に何も知らない。知らされていない」
「そうでしょうか」
「ああ、違いねえよ。一般人が俺たち特殊警察の尋問と拷問に耐えられるわけがねえんだ。下手に嘘を言うわけにもいなかい。だから、何も言えねえ」
「なるほど」
「いやあ、可哀想なもんだなあ、親族も友達連中も。そいつら全員地獄に突き落としておいて、自分は女と駆け落ちたあ、クラウスって奴もひでえ男だな」
「噂によるとレミリー様が強引にクラウスに迫ってたようですが」
「まあ、な。それでもってもんさ。今の時代は身分がものいう時代なんだぜ。暴君の娘に惚れられたんじゃあ、てめえの好きな女は諦めて潔くレミリーと結婚する道しかねえんだよ」
「なんか、荒れてますね。コンコッド長官」
「そりゃあそうだろ。クラウスって野郎のせいで休暇がパーだ。パー。せっかく南国に息抜きに行くつもりだったのによお。お前も内心は一緒だろ?」
「ええ、まあ。正直なところは」
「な。特殊警察でも休みはいるんだ。今度、王様に言ってやろーぜ」
「……はあ」
「おい、呆れるな」
「私はやめときますよ」
「ふざけんなっ」
「はいはい。愚痴はこのくらいにして仕事に戻りましょう」
「ちぇっ。ノリワリーの」
「さきほどちょうど報告が上がって来たんですよ」
「はあ。またどうせ手がかりなしだろう?」
「いえ。そうでもありませんよ」
「ん? 良い報告か?」
「それは微妙なところですね。ランドルフ様の決断次第では一大事になりかねません」
「ほう。これがその資料ねえ」
コンコッドはコーヒーを一気に飲み干し、テーブルの上の紙を手に取った。
そして、面倒そうに顔を歪めた。
「あちゃあ。クラウスってもしかしてとんでもねえ、馬鹿なのか?」
「かもしれません」
「よりによって、隣のハーバークに逃げることはねえだろうが」
特殊警察の報告に上がってきたクラウスの潜伏先とされるハーバーク王国。
それは長年シュフテンガルド王国と敵対関係にある国だった。