暴君
「お父様ーーっ!」
レミリーは父親であり、シュフテンガルド王国の王であるランドルフ・シュフテンガルドに泣きついた。
「クラウスが、クラウスが、クラウスがああああっ」
「ど、どうしたレミリー?」
ランドルフの強面が娘の涙に困惑している。
そんな父親にレミリーはクラウスの手紙を見せた。
「クラウスには他に愛している女がいて、そいつと駆け落ちしたのっ」
「何ぃ?」
娘の結婚式を心待ちにしていた父親の顔に一気に怒気が宿った。
ランドルフ・シュフテンガルドは暴君として知られている。
そんな暴君の怒りを察した式の参加者たちの間に緊張感が走る。
「我が娘を捨て、国外逃亡……か。なかなか挑発的な挑戦だな、若造」
ぱりいいんっ!とランドルフが空のワイングラスを叩き割る。
「ワシの可愛い可愛いレミリーを悲しませ、侮辱したその行為、万死に値する」
「お、お父様……殺しちゃ嫌よ? クラウスを取り戻して私と結婚させて」
「おお、そうか。ならば我が国の全力を以てクラウスを連れ戻そう」
「ありがとう、お父様っ!」
レミリーがランドルフに抱きつく。
ランドルフはレミリーを抱え、立ち上がった。
そして、大声で叫ぶ。
「特殊警察を動かせっ! 何としてでもレミリーの最愛を連れ戻すのだっ!」
そして、レミリーの結婚式は中止となった。
国民はレミリーへの祝福ムードから一転、全員が懸賞金をかけられたクラウスを探すことに躍起になるのだった。