第8話 おすすめ品を全部買っちゃう
丸戸は一晩かけてユニークスキルを検証していた。
現時点で知り得たことは、お金は日本円だけでなく、ガレルも使用できること。入金するだけでなく、出金もでき、その際、強く意識することで通貨も選べる。
(仮に、日本に戻れる方法があって、こっちで億単位のお札を出金させて帰還できるだろうか? 偽札を持ち込んだとして捕っちゃうか?)
……と、どうでもいいことまで考えてしまうほど、高揚していた。
商品だけでなく、他の道具も升目に移動して、出し入れできることもわかった。
ゲームでよくある、インベントリやアイテムボックスみたいなもの。
最下部の右端には箱のようなマークがあり、予想するまでもなく、ゴミ箱機能ということも確認した。
日本で買った商品の包装紙や容器が捨てるに捨てられず、小さな皮袋にまとめて所持したままだったので、ゴミ箱機能があって助かった。
買った商品は、返品できない。また、1度購入した後、さらに追加で買うこともできなかった。なので、湿布薬は初めに買った1点のみである。
ヨーグルトとバランス栄養食は最大数の10個購入。
ヨーグルトは常温保存できないので、後で一気に食べることになるかもしれない。
買い物ができなくなり、やることがなくなった。
(時間が経てば補充されるのか、買えなかったものも再び買えるのか?)
気になることはあるが、何をしたらいいか思いつかず、少し横になって睡眠を取ろうとした。
しかし、夕方まで寝ていたし、興奮していたせいもあり、寝付けなかった。
再び寝ることはせず、そのまま食堂で朝食を済ませる。今日はギルドへは寄らずに東門を出て、直接、薬草採取に向かうつもりだ。
買い物すればお金は減るばかり。商品をこっちの世界の人に売ることができれば、生活しやすくなるけれど、今回買ったものは売りにくい。
足腰はまだ痛むが、昨日丸一日休んだので、少しでも収入を得たいという気持ちが強かった。
長距離移動で、帰りは疲れて動けなくなるのも困るため、1時間ほど街道を歩き、そこから草地に入る。
もう少し手前で採取したかったが、他の人が見えたため、少し距離を取ったのだ。
やはり街道近くには、対象の植物は見当たらない。街道から魔物と間違えられて攻撃されることを警戒し、200メートルくらい歩いたところで各種薬草を採取する。
4時間ほど移動しながら採取をしたが、前回よりも収穫量は少ない。町から徒歩1時間圏内では、やはり見つかりにくいのだろう。
座るのにちょうどいいサイズの岩を見つけ、そこに腰を下ろす。
アイテムボックスからヨーグルトを取り出そうとしたら、画像の部分が変わっていた。
初めてみたときは黒い布に見えたけど、明るい屋外にいるためか、少し透けている。
【石鹸 150】【歯磨きセット 200】【ボディーシート 200】
(時間はわからないけど、毎日更新されるのか? この3つが表示されるって、そんなに不潔な状態だったんだろうか?)
歯磨きは元々所持していた歯磨き粉の容量が少なくて、1日1回しかしていなかった。
身体もシャワーを浴びるだけだった。
自分の汚れっぷりに、納得してしまう丸戸であった。
問題は、何をどれだけ買うか?
買いそびれるともう入手できないかもしれない。そう考えると全部買いたい。
「お金に困ったら、石鹸なら他の人にも売れるんじゃないか? あの時買っておけばと後悔するくらいなら、全部買っちゃうか……」
価値の無いものだと思ってた日本円が、2万3千円ほどあった。そのぶんを日用品の購入に当てても良い。
丸戸は自分に言い聞かせるように、表示された商品をすべて購入するのだった。
そしてヨーグルトを一つ取り出す。まだ冷えた状態だった。昼食にバランス栄養食のソフトクッキーとヨーグルトを食べ、採取を続ける。
町から遠ざかるように東方向へ進み、3時間ほど採取して町に戻った。
7時間採取したが、前回より数が少ない。ギルドで鑑定された結果は、5900Gであった。
(まぁ、そうだろうとはわかってたけど、厳しいなぁ)
採取時間と移動時間を合わせると、9時間半ほど。時給計算してしまうと、金額の低さに心が折れそうになる。
(あいつらの保身のために自分が犠牲になるなんて、やっぱりおかしい。お金を要求すればよかった……)
なんで自分がこの程度の額を稼ぐために、半日近くもがんばらないといけないのか、憤りを感じるのであった。
夕飯は宿の食堂で取ることにした。シャワーを浴びてからと思ったが、昨日もまともに食事していないので、荷物を部屋に置いて食堂へ。
普段は500Gと安いメニューしか頼まないけど、今日は奮発して800Gのステーキセットだ。
単純に焼いただけの牛らしいステーキは、ボリュームがあり、それなりに美味しかった。ここまで節約してばかりだったので、お腹も心も満足した夕食だった。
部屋に戻ってシャワーの準備をする丸戸。
アイテムボックスを表示させると、画像が更新されていた。
【靴下 100】【軍手 100】【ゼリー飲料 100】
「今のおすすめはコレってことなんだろうけれど、どういう基準なんだ?」
軍手はちょっと考えたが、他の仕事で役に立つことがあるかもしれないと、全部10点買い。
改めて石鹸を取り出すと、3個で1セットだった。つまり石鹸を30個所持している。
「さすがにこんなにはいらないだろう。毎日買い物していたら、採取の仕事だけじゃお金が足りない。石鹸を少し売るか?」
とりあえず石鹸を一つ持ってシャワールームへ入るのだった。
翌日、疲労はあるものの、直接採取へ向かう。
今回は西門方面と同様、東門方面も町から2時間ほど離れたところで採取をする予定。
ヨーグルトは相変わらず冷えたまま。丸戸のユニークスキルは時間経過しないアイテムボックスのようだ。
朝食後にヨーグルトを食べ、新しい靴下を履いて出発。
鐘が鳴る前に東門を通過。数分歩くと、街道から少し離れたところで採取している人がチラホラ見える。
冒険者になったばかりか、早朝に少し小遣い稼ぎをして、別の仕事をする人たちなのだろう。
2時間ひたすら歩いて、草地に入る。
目利きでどのあたりに価値のある植物があるか試してみたが、見渡しただけでは判別できなかった。
(そこまで都合の良いスキルじゃないか)
軍手をはめていつものように採取をしていく。
黙々と採取すること4時間。西門で採取したときよりも多く採取できた。
休憩できそうな場所を見つけ、昼食のついでにおすすめチェック。
【ゆで卵 50】【食用塩 90】【缶コーヒー 40】
安い商品ばかりだったので、とくに考えずまとめ買い。
たった今買ったものと、バランス栄養食、ヨーグルトを出す。
塩は小瓶に入ったありふれたもの。缶コーヒーは特定地域で販売されているのか、見慣れないデザイン。
皮袋に入った水で手を洗い、久々にゆで卵に塩をかけて食べる。50Gで買えるものが、こんなに美味しいとは!
味わって食べるつもりが、夢中になってしまい、あっという間に食べ終えてしまった。
「よしっ、後半もがんばるか!」
昼食に満足し、リフレッシュできた丸戸は、採取に精を出す。
「わざわざ遠出して来たんだから」と、ギリギリまでがんばり続け、町に戻った。
アイテムボックスのおかげで、荷物は最低限持つだけで良い。
採取したものも劣化しないので、いったん部屋に戻る。
すでに日没となり、外は暗かった。この時間帯にギルドに行っても待たされるので、部屋でしばし休憩。
ついでにおすすめが更新されているかと確認したら、更新されていた。
【下着 150】【肌着シャツ 200】【スポーツドリンク 100】
下着とかは召喚された日にもらったものを使いまわしていたけど、こまめに洗濯してないからなぁ……と、迷うことなく、全部購入。
「う……今日もおすすめだけで6千Gも使ってしまったか」
丸戸は日本にいたときは、下着なんて5~6枚しか持っていなかった。もう購入できないかもしれないという心理が、判断に影響しているのは間違いないだろう。
報酬を受け取りにギルドへ向かう。
日没後でも大きな通りの店から明かりが漏れ、人もまだ多く出歩き、危険は少ない。
ギルドの中も人はまだ残っていたけれど、これくらいならそんなに待たずに済みそうだ。
丸戸の順番が回ってきて、「あまりは処分で」と告げて、今日の収穫品を提出する。
量が量だけに、鑑定するのに時間がかかっているようだ。西門で採取したときよりも倍以上あった。
担当するギルド職員が戻ってくる。
「お待たせしました。本日の報酬がこちらです。ご確認ください」
買取内容を聞いて、2万4800Gを受け取った。
「薬草採取で1万Gを稼ぐ人はたまにいますが、2万G以上は滅多にいないですね。品質も良いものばかりで、すばらしいです」
ギルドの職員さんに、褒められてしまった。
ちゃんと時間を確認していなかったけれど、移動時間も含めて約12時間ほど。時給にすると2千G。
心の中でガッツポーズする丸戸であった。