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第62話 お返し

 写真を売り物にすることをフースと相談した翌日の朝、丸戸たちが生活する店の3階にソアラが来ていた。

 前日、仕事で隣町のボールトンを往復していたので、今日の午前中が休み。

 午後からは仕事なので、マントの下は制服だ。


「じゃあ、リナの部屋で持参した服に着替えてください」


 リナが着替えを手伝うため、ソアラと一緒に部屋に入っていった。

 丸戸とフロストは撮影するための部屋に入り、準備に取り掛かる。



 着替えを終えたソアラが、リナに連れられ、部屋を移動した。

 パーティーなどで着る薄い青色のドレスだが、派手さはない。


 室内には丸戸たちのほかに、店の従業員もいる。

 撮影のために家具の位置を変えたり、別のソファを運んだりしてもらったのだ。

 まだやってもらうことがあるので、そのまま残ってもらっている。

 彼らも協力者ということで挨拶をかわした後、部屋の奥にある机の席に座った。


「それでは、そちらの席に座ってください」とリナに誘導され、入り口手前側の二人がけのソファに着席するソアラ。

 リナは左側の一人がけのソファに座った。

 これから姿絵が作成されること、それをお父様へのプレゼントにと説明される。


 店でも売る予定なので、今回は試験的なもの、お金は要らない。

 そう聞いたソアラは恐縮しつつも、姿絵を描いてもらうことにした。



 談笑してくつろぐリナとソアラ。

 彼女たちの座るソファとテーブルの周囲には棚が置かれ、上には木材や筆、不思議なオブジェなどが無造作に乗っかっている。

 従業員数人が正面の棚の後ろへ移動すると、リナがソアラに声をかける。


「これから始めるみたいね」


 彼らは木の板に何やら書き込みながら、ソアラを見ている。その中の一人が話しかけた。


「すみません。少しの間、こちらの丸い部分に視線を合わせてもらっていいですか?」


 いつの間にか棚の上には白い物体があり、表面に丸い部分が見える。


 一点を見つめることで、見られている意識が薄れ表情の硬さが取れたり、彼らが描きたい構図になるのだろうか?

 ソアラはそんなことを思いつつ、言われるままレンズ部分を見つめ、リナと談笑を続けた。



 それほど時間はかからず、「ありがとうございました」と先ほど話しかけた従業員がお礼を言うと、その場にいた数人が奥の席に戻っていった。

 その中に丸戸がいたことに気づいたソアラだったが、「彼もいたんだ」と思う程度で、とくに気にもしなかった。



 その後、リナとソアラは部屋を退室。

 リビングで軽食をとったりしながら、姿絵の完成を待つ。


「数人で作業をしたとしても、そんな短時間で完成するの?」

「絵自体はものすごく小さいですからね」


 ちょうどそこへ、手に布を載せた丸戸とフロストがやってきた。

 同じテーブルの席に着き、布をソアラの前に置く。


 布の上には白い札がある。リナにひっくり返すよう言われ、札に触れるソアラ。

 そこには驚くほど精密な自分の姿絵があった。


 これは鏡でそこに自分が映っているのかと、札の角度を傾けてみたりしても変化はしない。

「こんなの見たことがないです!」とか「あんな短時間でどうやって」と興奮は治まらなかった。



「お父さんに贈るならこの裏側にメッセージを書くと良いですよ」と丸戸。


 小さなサイズなので文字数は限られる。どんな言葉を書こうかと考えすぎ、だいぶ時間がかかってしまった。

 メッセージのほかに、日付けと撮影場所も記入。

 写真を写真立てに入れ、それを柔らかい布で包み、小さな木製ケースに入れる。

「仕事の帰りにこちらに寄っていただければ、すぐにお渡しできるようにしておきますので」とリナ。


「今日はありがとうございました。とても素晴らしいものをいただいて、何もお返しできないのが申し訳ないです。みなさんのお役に立てるようなものがあればいいのですが……」


「気にしなくていいですよ。あ、でも、できたら写真を見たお父さんの反応を知りたいので、また依頼で会ったときに教えてもらっていいですか?」


「ええ、もちろん良いですよ。そういえば皆さん冒険者でしたね。……うん、そちらのほうでお役に立てることがありそうです」


 ソアラが何か思いついたようだ。

 まだどうなるか自分でもわからないため詳細は語らず、微笑を浮かべながら出勤していった。




 数日後、普通にお店で働いていると、『疾風迅雷』との面会を求め、ロゼイア国軍の関係者がやって来た。


「初めまして。私が『疾風迅雷』リーダのレイです」


「自分はロゼイア国第2騎士団に所属するニックであります。こちらを届けるようにとの命を受け、参りました」


 ニックは持参したカバンの中から、数点の持ち物を取り出す。

 書類らしきもの、腕章やペンダントのようだ。


「こちらの書類は『疾風迅雷』が軍施設に立ち入ることを許可するものです。その際には腕章かペンダントを身につけてください。一部の施設、区域で活動することが可能となっております」


「ま、待ってくださいっ。軍施設で活動ってどういうことでしょうか?」


「自分も命を受けただけでして、詳しい経緯は知らされておりません。書類の内容も聞いておりませんが、おそらく訓練場の使用許可でしょう。冒険者の方なら、それほど珍しいことでもないですから。軍関係者と家族であったり、親戚であったりする場合にこういった事例が多いので、そちらに心当たりはありませんか?」


 丸戸がリナとフロストの顔を見る。2人は顔を左右に振る。心当たりはないようだ。


 軍の施設で書類を見せて手続きが済めば、軍施設内で行動できると説明し、「自分はこれで……」と用件の済んだニックは去っていった。




「これ、どうしたものか……」


「わかる人に聞くしかないわね」


「冒険者ギルドで聞いてみる?」


 フロストの案に従い、店が忙しくない時間帯に冒険者ギルドへ向かった。

 ニーナがいたので、別室で書類などを見てもらう。


「これは冒険者が軍で訓練することができるようにと、許可がおりた書類ですね。申請者は……ディノ中隊長ですが、お知り合いでしたか?」


「まったく知りません」


「それでは誰かがあなた方に許可がおりるよう手続きをした人がいたのでしょう。何か思い当たるようなことはありませんでしたか?」


「それも……」


「あっ! ソアラさんよ、きっと」


「そういえば何かお礼がしたいようなこと言っていたな」


「ああ、彼女でしたか。中隊長とは遠縁なので、そうですね、おそらく彼女でしょう」


「でも、なんで訓練なんだ?」


 しばらく考え込む3人……。


「僕ら、依頼ではまったく戦ってなかったから、魔物を倒せるほど強くは見えない?」


「そう思われていたとしたら、彼女なりに心配してくれたんだろうな……」


「この国は広いですから冒険者だけでは魔物を倒しきれず、軍が討伐に向かうこともあります。身内に冒険者がいれば訓練に参加させることがありますので、彼女もそうしたのでしょう」


「せっかくだし、一度見学しに行ってみるか?」


「そうね。魔法の練習場所がなかったから、利用できるなら助かるわ」


「店が休業中の間に、行ってみようよ」


 こうして空き時間に軍施設へ向かうことが決定した。

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