第60話 ひらめき
12月下旬。
お店は順調で、冬物の物販が午前中で完売。
フロストが掃除をしようとすると、「あ、私がやります」と手の空いた者が申し出る。
それじゃあ、レストランフロアで仕事をしようかと向かうと、そちらもすでに他の人が仕事をしていた。
労働力が足りて暇を持て余していると、自分は他の場所へ移動されるかもしれない。
そうなると特別報酬は満額をもらえないだろう。
そんな危機感から従業員たちは率先して仕事を見つけ、働いていた。
フロストと同様、売上金を2階に運んで戻ってきたリナも、今はすることがなくなっていた。
「あれ? 2人ともどうしたの?」
商品を補充し、倉庫から出てきた丸戸が2人に声をかけた。
「とくにやることがなくなっちゃって……」とリナがつぶやく。
『疾風迅雷』としては店の警備という仕事もあるが、依頼主から具体的な指示はない。
そこへ従業員が「冒険者ギルドからお客様です」と伝えにきた。
3人で3階の応接室へ向かうと、ギルド職員のニーナが待っていた。
「こんにちは、みなさん。急に押しかけちゃってごめんなさいね」
「ニーナさんがわざわざ来るって、どうしたんですか?」と丸戸が問う。
「ええと、あなたたちに依頼を受けてもらいたくて……。ギルドに顔を出す冒険者が少なくて、適任者が見つからないのよ」
3人はなんとなく想像がついた。
内容を聞くと、その想像通り護衛の依頼だった。
「う~ん、俺たちもこの店がありますからね。ちょっと商会の人に聞いてみます」
メイドにフースを呼びにいってもらうと、間もなく応接室にやって来た。
事情を説明するニーナと丸戸。
「2日で戻ってくるんですよね? それでしたらそちらの依頼を優先させてください。文官の業務が滞ると、我々商人にも少なからず影響しますからね」
「ほんとに依頼、受けちゃっていいんですか?」
「商品の補充さえしていただければ、後は我々でなんとかなりますので、任せてください」
「いちおう警備の依頼も受けているのですが……」
「出発前と戻ってきたときに、いつものように報告書を出していただければ大丈夫ですよ」
報告書といっても簡素な木の板だ。そこに日時と「異常なし」と記入すると、商会が確認しサインが書かれる。
これでその日の仕事をやり終えたことになるのだ。
いちおう商会の物件を巡回して警備する冒険者パーティーもいるので、よほどのことがない限り、問題はないという。
「大丈夫みたいですので、その依頼をお受けします。いいよな?」
リナもフロストも同意し、その場で依頼の手続きを進める。
「ありがとう、助かったわ。さっそく依頼主へ伝えにいくわね」そういってニーナは慌しく、部屋を出て行った。
それから2日後の朝、冒険者ギルドで依頼主のソアラと合流。
「依頼を受けてくださり、ありがとうございます。またお世話になります」
ぺこりと頭を下げるソアラ。一同は馬車に乗り込み、出発した。
雪が舞っているが、街道には降り積もっていない。
それでも道の状態が良くないため、やや速度を落として移動したこともあり、以前より30分ほど多く時間がかかった。
依頼主が用件を済ます間、近場で食事を済ませた『疾風迅雷』は、待機場所に戻っていた。が、馬車が来ない。
「前の依頼のときなら、とっくに馬車が来て町を出ている時間だよね?」
「そうだな。何かあったのかもしれない」
「私たち護衛なのに、こんなところにいていいのかしら?」
「門にいる兵士に話してみよう」
そういって荷物を持って移動しようとしたとき、フロストが声をあげる。
「あっ、待って! 馬車が来るよ」
雪で視界が悪いが、馬車が近づいてくるのは見えたようだ。
やがて丸戸にも確認でき、目の前で馬車が停止する。
「お待たせしました。すぐに出発しますので、馬車に乗ってください」と御者。
とりあえず何事もなかったようで安心し乗車すると、馬車がゆっくりと動き出す。
その日の夕方。
テント内で食事をとるソアラと『疾風迅雷』。
ソアラは自前で用意した服に着替えている。
丸戸たちは宿泊業を営んでいるわけではないので、寝具や着替えを持参することを条件に依頼を受けていた。
「今日は馬車が来るのが遅かったですけど、何かあったんですか?」
「いえ、ちょっと父に長く捕まってしまいまして。遅くなってごめんなさい」
「そういうことでしたか。もし何か問題が起きていたらと、門兵に報告しに行くところでしたよ」
「ほんと、ごめんなさい」
どうやら父娘で少し揉めていたらしい。
休暇はいつからいつまでか、年末は家に帰ってくれで始まり、あの貴族の新年会には一緒に出席するぞとか、いつまで仕事を続けるのか、こっちで仕事をしたらいい……などなど。
仕事で顔を合わせるたび、同じような話となり、今回は長引いたようだ。
「お父様は娘であるソアラさんと離れて、寂しいんじゃないかしら?」
「ああ、そうかもしれないな」
「そういわれても、今の仕事をやめる気はないですし……」
「手紙を書いてプレゼントを渡すとか、どうかな? 私は家を出てから、たまにだけど手紙を出しているわ」
「そうなんですか? 私の場合、歩いても1日で行ける距離なので、そういったものは思いつきませんでした」
「リナだったら、自分の父親に何を贈る?」
「そうね……、今の時期だったらマフラーかなあ。もしくはティーカップとか? マフラーを巻いたり、お茶を飲むたびに、私が選んだものだと喜んでくれると思うわ」
「あっ……」
「何? どうしたの?」
「ちょっと良いものが思い浮かんだ。ほら、店の物販は今月限りで終わりで、次の準備を進めていただろう? もうひとつ稼げそうな考えが浮かんだんだ」
「それと今までの話と何か関係あるの?」
「僕わかった! ソアラさんの父親に贈るものが、お店の売り上げにも関係するんだよね?」
「そう。用意しなくちゃならないものもあるけど、最低でも1千万G。準備ができたら、1億Gから2億Gはいくかもな」
具体的に何をするかまではわからず、戸惑うリナ。
さっぱり話がみえず、固まるソアラ。
「ソアラさん、いつ休み?」
「ええと、町に戻ってから翌日だから、明後日のお昼休みの前までですね」
「それじゃあ、明後日、なるべく早い時間にうちの店に来てもらえますか? 贈り物にする現物を見てもらったほうがわかると思うので。あ、場所わかりますか?」
「え、ええ」
まだソアラが贈り物をするかどうかも定かではないのに、「これは稼げそうだ」と思い、先走る丸戸であった。
 




