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第59話 ボーナス効果?

 12月11日のお昼前。

 店内の広い場所に、手の空いた従業員が集まっていた。彼らの前に立つ商会代表のトーレが挨拶をする。

 丸戸も連絡事項があるため、前に出て皆に伝える。


「おはようございます。皆さんの協力のおかげで、開店する日を迎えることができました。それで突然ですが、ひとつお伝えすることがあります。トーレ代表と相談し、このお店の利益の一部を特別報酬として、皆さんに支払われることが決定しました。売り上げに応じて金額も増加するので、一緒にがんばりましょう」


 どよめきと歓声が沸き起こった。


 従業員のほとんどはトーレ商会から派遣された人である。

 基本給の他に派遣手当てをもらっているが、1か月で最大でも3万Gほど。


 売り上げが特別報酬にどれだけ反映されるかわからないが、この規模のお店なら、桁がひとつは違ってくるはず。

 皆、そう思って喜んだのであった。



 特別報酬は丸戸の考えだった。ボーナスがあったほうが売り上げも伸びるだろうと、トーレに相談したのだ。

 それなら辺境伯が負担するという話になったが、他の店も同様に報酬が出るかはわからない。

 丸戸のお店で働く人たちだけ辺境伯が特別扱いするというのは、商会にとっても良いことではない。


 派遣先からボーナスがでるぶんには、そのお店の方針なので、不満に思われることもないだろう。

 ボーナスは利益の1割を考えていた。それで売り上げを1割以上伸ばしてくれたら、丸戸も損はしない。




 こうしてお昼前に『竜宮宴』が開店した。

 飲食フロアは一般用と上流階級用、持ち帰り品販売用のカウンター、富裕層が購入しそうなアイテムを販売するフロアに分かれている。


 丸戸は厨房、リナはアイテムの販売員、フロストはフロアの清掃員として持ち場で仕事をする。


 辺境伯の人脈か、あるいは前日の試食会が噂になったのか、開店前から並ぶお客の数が多かった。

 ほとんどがどこかのお屋敷のメイドや使用人だが、直接馬車で来店する貴族もおり、従業員が速やかに店内へ案内する。

 いちおう貴族とそれ以外の客とで別々に対応できるように従業員を割り振り、貴族が順番待ちをすることはない。



 食事のメニューはメインディッシュ、野菜サラダにスープ、パンかライスといった定番のセットが12種類。だいたいが3万G前後の料金設定だ。

 サイドメニューは50種類以上。ドリンクも多種多様にある。数量に限りがあるので、売り切れたら終わりとなってしまうのが痛いところである。



 持ち帰り用のお菓子は、クッキーやチョコレートを安いものとちょっと高いものに分けたり、スナック菓子やキャンディなど何種類かそろえ、1万Gから3万Gの価格帯で多数用意。


 一部の料理やデザートも持ち帰ることができ、コロッケやカツサンド、ピザ、チョコレートケーキやチーズケーキ、アイスクリームなどが売れていく。これらも8千Gから3万Gあたりの価格だ。


 アイスは溶けてしまうので、試食会の段階では出さず、売れるかどうかは微妙だった。

 ファミリーサイズの棒つきのアイスで、チョコレートがかかっていると説明されると、こちらも売れ出した。



 一番最初に馬車で乗りつけた貴族は、日本国内産のトンカツを食べている。

 前日の試食会にも参加していたらしく、衣のサクッとした食感とソースがかなりお気に召したようだ。


 しかし、店内で定食を注文するお客は少なく、ケーキやお菓子目当てに来店する人のほうが多かった。

 ケーキは切り分けるだけなので、厨房は思ったほど忙しくはない。

 丸戸は店頭販売のほうを見に行った。


「皆、入れ物のような箱を持っているけど、あれはなんでしょうか?」


 丸戸の相談役となった商業ギルド職員、モーガンに尋ねた。


「あれは料理を持ち帰るための容器ですね。魔道具で内部の温度を冷たいまま、あるいは暖かい状態に保つことができるのですよ」


「へえ、そんな魔道具もあるんですね」


「見てのとおり、大きさはそれほどでもありません。今まで使う人は少なかったのですが、このお店が開店するにあたり、増産しました」と、こちらも丸戸をサポートするために商会から派遣されたフース。


「魔道具ってことはやっぱり高いんですか?」


「そうですね、安いものでも100万Gはします。冷凍状態を維持するものは200万Gはしますね」


 いちおう持ち帰り用の容器をこちらでも用意し有料販売しているが、自前で持ってくる人も多い。

 どうやらこの機会にトーレ商会は一儲けできたらしい。




 夕方にはドレスター辺境伯も来店。


 目当てはナポリタンスパゲティ。

 麺類はまだ好まれないと思っていたが、辺境伯は珍しい食べ物として興味を持ったようだ。


 マヨネーズが塗られたロールパンには、ハム、スライスチーズと生野菜がはさまれている。それにサラダとレトルトのコンソメスープ。

 これらで日本円なら千円にも満たない額だが、この店では2万G。


 以降、辺境伯は知人らを誘って来店するようになり、丸戸の手が空いている時などは紹介された。

 丸戸もお店では扱わない料理や飲み物などを提供し、客を楽しませてもてなす。



 夜になるとお酒を飲みに来る客が増えた。

 上流階級側のフロアにはバーもある。

 場末の居酒屋ではないので、無駄に騒いだりしない。

 味わったことのないお酒の味を、それぞれが楽しんでいるようだった。


 20時過ぎに丸戸たちは仕事を切り上げ、お店は22時あたりで閉店した。




 次の日の開店前に、前日の売り上げが伝えられる。


 店頭販売の菓子が完売で1400万G。持ち帰りを含めたデザート、ケーキ類が300万G。惣菜やパン、店内での食事が441万G、酒とおつまみが45万G、冬物の衣服が4種類40点完売で2250万G。

 合計4436万Gの売り上げだった。


「え? 1日でそんなに売れていたんですか?」


 菓子類の他にダッフルコートが1点150万Gと高く、数字が伸びた。

 高級毛皮のコートともなると数百万もするので、ここらの店では特に高い買い物でもないそうだ。


「店頭販売が好調で、すべて売り尽くしましたからね。店内での食事の定番セットは200万Gを超える程度です。大衆向きではないとはいえ、もう少し売り上げを伸ばしたいですね」


 丸戸は特別報酬の話が効果てき面で従業員ががんばってくれたと思ったが、フースはまだ満足していないようだ。




 2日目は昨日よりも来客数が多かった。

 持ち帰った商品から、すぐに口コミで広まったらしい。

 店内で食べたり飲んだりする人も増え、厨房は忙しかった。


 持ち帰り用のお菓子、アイスやケーキ、惣菜パンなども、まだ日が高いうちに完売。

 タオルなど商業ギルドで買取されるような商品を扱った物販にいたっては、数が少ないのでお昼前に売りつくしてまった。


 この日の売り上げは約3600万G。

 タオル類の物販の売り上げが800万Gと、初日より下回ったためであった。

 しかし、店内での消費は200万Gから562万Gと増加。

 商会の人たちはまだまだ増やせると、目をギラつかせていた。




 3日目。

 店頭販売で完売してしまうのがもったいないと、改善策を考える。


「自分たちで作れるものとなるとクレープやパンケーキ? 惣菜やパンのほうは、焼きそばパンやお好み焼きあたりかな? ちょっと上で作ってきます」


 そう言って丸戸は3階に上がり、試作品を作った。

 クレープは業務用の皮がたくさんあるので、そちらを利用。

 生クリームにフルーツを入れたものと、アイスクリームを使用したもの、2種類を用意した。


 パンケーキは同梱されたレシピを参考に、生クリームやフルーツを添えたシンプルなもの。

 焼きそばパンはインスタントのカップ焼きそばを使用し、お好み焼きは冷凍ではなく、普通に作る。



 お昼のピークが過ぎてから、モーガンとフースに試食をしてもらう。


「見た目はケーキほどの華やかさはありませんが、クレープというのもいいですね。食後でも、アイスクリームのほうならぺロッと食べられそうです」とモーガン。


「パンケーキはここまでの水準ではないですけど、普通に他のお店でも食べられますからちょっと厳しいかもしれません。もちろん美味しいのですが、他の商品と比べると意外性に欠けるというか。持ち帰り品としてではなく、店内で食べてもらうほうが良さそうです」とフース。


 そして焼きそばパンとお好み焼きについては、2人とも食べたことがない。

 ソースの黒っぽい見た目が少し気になったみたいだが、じっくり味わって食べていた。


「焼きそばパンは胡椒とソースの香りで食欲がそそられますね。ただ、見た目というか色味が良くないので、もう少し工夫がほしいです」


「お好み焼きというのも、初めて出されたら戸惑いそうです。持ち帰り用に準備しても、厳しいかもしれません」


「ああ、馴染みがないものは、そうなりますよね。ちょっと考えが浅はかでした」


「いえいえ、どちらも美味しかったですから、もう少し考えて見ましょう」


 とりあえずクレープのアイスクリームを、2万Gで売ることが決まった。



 カレーパンの在庫がなくったので、ホットドッグを投入。

 それから3日後、焼きそばパンも加えた。

 茶色一色だったので、キャベツのような野菜で彩りに変化をつけ、売ってみることにしたのだ。


「そちらのカツサンドにも使われているソースと胡椒が効いていて、美味しいですよ」という店員の説明もあり、こちらも完売。


 お好み焼きも鰹節や青海苔をかけず、表面に豚肉が見えるようにし、肉が使われている料理だと認識させることで、見た目のハードルを越えた。



 お店にこもりっ放しの生活の影響からか、スキルで表示される商品も業務用の食品が多数並ぶ。

 惣菜50食分3万とか、40食分のケーキ4万とか、ピザ20人分で9万とか……


「ピザ、高っ! ってか、そっちもまるで在庫一掃セールだな」


 補充できた食品は料理長のデニスに味の確認をしてもらい、値段などは相談役の2人に任せた。

 在庫がなくなったら、新しいメニューを追加し、客の興味や好奇心に訴えかける。



 こうしてあっという間に10日間が過ぎ去った。


 冬服や寝具、食器類など36種360点の販売による約1億2千万Gの売り上げを含め、ここまで稼いだ額は5億1134万G。

 商会の人たちがムチャクチャ稼ぎまくっていた……

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― 新着の感想 ―
[一言] すさまじいボーナスになりそう…… 丸戸!雇ってくれ!!
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