第54話 休日での探索
護衛依頼を終え、ロゼイア国の王都サンロードで一夜を過ごした丸戸たち。
さっそく翌朝から依頼を探しに……ということはなく、ラフな服装で町の散策に出かけた。
長期の依頼を終えて、何もすぐに次の依頼を受ける必要もない。
それよりもこれほど大きな町に来たのだから、みんなで見て回ろうという話になった。
東西に伸びる大通りから、まずは北へ向かう通りを歩く。
少し歩き進むと、通りの右側に白くて重厚な建築物が目に留まった。
手前側は立方体の建物で、せり出した屋根を支えるためか、柱が数本立っている。
壁の上部には彫刻が施され、奥にドーム状の水色の屋根と、左右に同色で三角状の屋根も見えた。
「あれが名所のひとつ、ロゼイア大神殿みたいね」
「今の王様が即位されるのにあわせて建てられたんだって、聞いたことあるよ」
「あの一番奥の広間に最高神と三大神がまつられているそうよ」
「へえ、そんなに信仰心がなくても、なんか神聖な場所って感じがして、見入ってしまうな」
神殿の敷地に入る門前まで来ると、門番らしき人がいる。
3人は立ち止まって見ているが、他にも同じように見ている人が数人いるので、不審がられて注意されるようなことはない。
数分眺めた後、さらに北上する。今度は左側の城壁へと視線が移る。
「あの壁は、この町ができたころに築かれたものね」
「風雨にさらされてボロボロになっていてもおかしくないのに、そうでもないんだな」
定期的に修繕されており、壁のところどころで色が違う部分が遠目にもわかる。
壁の向こう側に城が見えた。3階建てくらいの長方形に、丸みのある外壁の尖塔がいくつかくっついたような形状で、外壁は灰色。
城まではまだ距離があったのでもう少し近寄りたかったが、城壁のあるあたりからは一般人がうろつくような区域ではないらしいので、途中の道を右折した。
やがて前方右手に広い敷地面積を持つ、レンガ造りの建物が目に入った。
手前側は庭園で門から建物へ石畳になっており、身なりの良い紳士がその上を歩いている。
「たぶん王立図書館ね。建物の入り口の上に知神のレリーフが見えるわ」
「う……、レリーフが見えん」
「利用するのに、けっこうお金かかるんだよね?」
「ええ。国によって違うけど、少なくとも5千Gから1万Gくらいかしら? それとは別に保証金を預ける必要もあるわ」
「ちょっと覗いてみたかったが、今日はここで長居するわけでもないからなあ。また時間があるときに来よう」
3人は図書館前を通過。しばらく歩くと、南北に広がる大きな通りに出た。
通りの手前側には店が並び、向こう側は少し開けた場所で噴水がある。
噴水の周囲には屋台がいくつかあり、けっこうお客がいるようだ。
「わあ、屋台だ。ちょっと味見していきたいけど、僕らこれからご飯食べるんだよね?」
「そうよ。今は我慢しましょ」
「屋台か……。依頼受けない日は、屋台もいいかもな」
「え? 屋台やるつもりなの?」
「ああ、できたらだけど。取り扱いの問題で、食べ物なんかは商業ギルドの買い取りに出せないからな」
「屋台の話もいいけど、この通りのお店を見ていきましょうよ」
リナに促され、通り沿いの店を眺めながら北上する。
北門付近まで来ると、反対側の通り沿いへ。途中の屋台ゾーンは足早に通り過ぎた。
そしてあるお店の前で、3人は立ち止まる。
「ねえ? ここから良い匂いしない?」
「うん、僕もそう思った」
「予算的にも問題なさそうな感じね」
「じゃあ、このお店にしてみるか?」
初めて訪れた町ということもあり、誰かにおすすめを聞く前に、自分たちで良さそうなお店を探してみるというのが、本日の主題であった。
3人が選んだのは、『味彩堂』というお店。
中に入ると、もうすぐお昼ということもあり、そこそこ席が埋まっている。
「予約をしていないのですが、いいですか?」とリナが店員に声をかけると、大丈夫とのことで席まで案内された。
オークと兎の2種類のランチセットがあり、リナが兎、丸戸とフロストはオークを選んだ。
20分ほど待つと、メインの一皿、野菜、スープ、パン、ドリンクが運ばれてくる。
一口サイズにカットされたオークには、みぞれ状の何かがかかっている。
丸戸はさっそくオークを食べた。
「このオーク、普通のオークだよな? 思っていたよりすごく美味しいんだけど……」
フロストもうんうんと頷いている。
丸戸のオーク肉に対する印象は、「豚っぽい味がするような何かの肉」だった。
今まで食べてきたオークは安い料金だったので、まあ、そんなものだろうと。
しかし、この店のオークは「豚っぽい肉」になっている。
元々脂身が少ないのでしつこくはないが、みぞれ状のものがよりサッパリとさせ、脂身がちょっと苦手な丸戸としては、このお肉は食べやすかった。
みぞれ状のものは、一見すると梨っぽい。そのまま食べると甘味もあるが、酸味が強い。
どちらかの味が肉の旨みを引き出しているのか、それとも果汁が肉と反応して旨みが増したのか。
あるいは、他にひと手間かけられているのか。残念ながら丸戸には見当もつかない。
野菜ベースのスープにもちょっと驚かされた。
店員がテーブルに並べるとき、「兎肉入りのスープです」といっていたので、中に兎の肉が入っているのはわかっていた。
丸戸の知っている角兎の肉は、極端に言えば無味無臭といった感じ。
しかし、今食べている肉は、まるで別物のよう。
店員が何も言わなければ兎肉とは気づかず、異世界固有の鶏肉っぽい魔物の肉と思ったかもしれない。
「もしかして、リナのその兎も……」
「ええ、普通の兎ではないわね。たぶん山兎じゃないかしら? 前に何度か食べたことがあるわ」
どうやら兎はほんとに別物だった……。
生野菜に使われているドレッシングも独自に工夫されたもの。
パンも酵母が違うのか、もしくは生地に何か練りこんであるのか、そこらのお店で食べるよりもずっと美味しかった。
「これほど美味しいものが食べられるとは思わなかったよ」
「夜だとどんなメニューがあって、どれほど美味しいんだろう?」
「今度、夜も来てみましょう」
食事を終え、少し雑談した後、お店を去った。
料金は2万G。一食にかけるお金としては、ふだんの10倍だったが、それだけの価値はあった。
すっかり食事に満足してしまったので、屋台で串し肉を買って帰るのを忘れるほど。
その後は、一般的な服や魔道具など、買い物を楽しんで1日を終えた。
 




