第53話 素材売却と護衛依頼の報酬
エンフェルデ国ナジェルの町から、ロゼイア国王都サンロードまでの、商隊の護衛依頼は無事完了した。
商隊の馬車の1台が冒険者ギルドの裏手へ回る。
道中で回収した魔物の素材を売却するためだ。
すでに解体済みで素材の査定をするだけなので、それほど時間はかからない。
その合間に、依頼主デニスから護衛依頼の報告書が各パーティ-リーダーへ渡される。
「皆さん、本当にありがとうございました。皆さんのおかげで、予定日数よりかなり早く到着することができました。また依頼を見かけましたら、ぜひよろしくお願いいたします」
リーダーたちと少し会話した後、デニスは冒険者ギルドから去っていった。
報告書を職員に渡せば、今回の依頼料が支払われるが、その前に素材売却金を分配するため、全員がその場に残っていた。
先に極小サイズの魔石42個を分配する。
「まさか、10日を切る速さで到着するとはな……。今もまだ信じられん」とアルバ。
「俺も遅れることはあっても、早まることはないと思っていたよ」
ハイメの言葉に彼のパーティーメンバーも頷いている。
少し立ち話をしていると、査定が終わったようだ。
職員が査定の内訳を説明し、報酬がアルバに渡された。
牙、角や皮、ゴブリンの所持していた武器などで、合計91万8千G。
3等分で1パーティー30万6千Gを受け取る。
「まさか、こんなに稼いでいたとは……」
「護衛の日当、何日ぶんだ?」
「普通の護衛依頼で得るような金額じゃねえ」
「それぞれ倒した数とかじゃなく、均等でよかったよ」
「ああ、人数割りだったら不公平すぎるだろう」
魔物討伐では一番パーティーランクが低く人数も少ない『疾風迅雷』が活躍をしたことは、全員が理解している。
ランクや人数で分配の割合を決めていたら、『疾風迅雷』の取り分は良くても2割くらいだっただろう。
ランクどおりの実力ならそれも当然と思えるが、ランクに見合わない実力のパーティーだった。
彼らがいたから魔物討伐が速やかに終わり、可能な限り素材を確保し、短期間で依頼を終えたといえる。
初めに素材の売却金を均等分配するとハッキリ決めておいて良かったと、『明星の守護』と『平原の大牙』の面々は思うのであった。
「あなたたちのおかげで大怪我する人もいなくて、ほんと助かったわ」
「俺たちも経験が積めて良かったです」
「また依頼が一緒になったらよろしくな」
「レイ、お前はランクを上げておけよ。いつまでもそのままじゃ、もったいねえ」
ここで各パーティーも別行動となる。お互いに挨拶をかわし、『疾風迅雷』以外のパーティーは荷物を抱えて出ていった。
丸戸たちの荷物も建物内に置いてあるが、アイテムボックスに収納して、冒険者ギルドのロビーに向かう。
すぐに報告書を提出して依頼の報酬を受け取るつもりだ。
ロビーには数十人の冒険者がいた。昼間にこれだけの人数がいるということは、それだけ依頼の数が多いのだろう。
カウンターで仕事をする職員の数も多いので、たいして時間を待たずに依頼の報告書を渡すことができた。
9日分の日給18万G、依頼完了の報酬5万G、それと予定より早かったということで特別報酬として5万Gが加算され、それぞれ28万Gを受け取った。
「今回の依頼で、リナ様が昇格条件を満たしました。ここでEランクに昇格なさいますか?」
護衛依頼で、ちょうど昇格できるポイントを達成していたようだ。
「お願いします」といって、自身のカードを職員に渡すリナ。
「リナもEランクか、おめでとう」
「リナ、おめでとう。これでEランクが2人になったから、Dランクの依頼も受けやすくなるね」
「ありがとう。昇格まではあと数回かかると思ってたんだけどね」
町の依頼などでは成果によってポイントが加算されることがある。
護衛依頼の前に受けていた魔物の討伐でかなりの成果を出し、ポイントを稼いでいたことが大きかった。
なお、Gランクはポイントが固定なので、1ポイントしか入らない。丸戸が昇格するにはもう少し時間がかかる。
職員から新しいギルドカードを受け取り、そのまま掲示板を見に行く。
「Gランクの常設依頼は外壁や街道の整備しかないや……」
「Eランクは街道の魔物討伐や、運搬の護衛兼手伝いが多いわ」
「Dランクも運搬の護衛が多いよ」
「何日もかけてきたのに、また依頼で別の町というのも寂しいわね」
「クロスウィッチからずっと狩り暮らしだったから、少しのんびり過ごすのも悪くないな」
エンフェルデの王都も大きな町だったが、そこで冒険者をしていたときは、3人ともその日暮らしでカツカツの生活だった。
パーティーを組んで町を転々としたが、宿場町よりは大きいといったレベル。
ここはロゼイアという広大な領土の国の首都。他の町より、きっと過ごしやすいだろう。
「とりあえず、宿を探そう」と丸戸。
護衛中も小まめに身体を拭いたりしていたが、一度シャワーでも浴びてスッキリしたい。
ギルドの職員にいくつか宿屋を教えてもらい、町を見学しながら宿を絞り込む。
サンロードは元々は四方を壁で囲った町であった。
人口が増えるにつれ外壁にも家が建ち、さらに防壁を築き拡大。
同じような過程で大きくなる町はあるが、サンロードの周囲は広い平地で増設しやすかった。
北には大きな川があり、農場が広がっている。ボールトンという町も形成されているため、人口は増え続けていた。
北西に城があり、南には東西の門につながる大きな通りがある。
城周辺は貴族が住み、東側が商業区域、大通りの南側は一般住宅街が多い。
冒険者ギルドも商業ギルドも城に近い大きな通りにあった。
宿は冒険者ギルドからあまり離れていない場所を選択。
パーティー用で一泊6万Gの部屋。
全体的にはクロスウィッチで借りた部屋よりは狭いが、ちゃんとお風呂と台所がついており、小さな個室が5部屋もある。
「お金には困っていないけど、1日で2万G稼げる依頼ってあるかなあ」
「ここは依頼が多いみたいだし、あまり報酬は気にせず、やってみたい依頼を引き受けていったらいいんじゃないか?」
「そうね。町の外で適当に狩りをすれば、それくらいすぐに稼げるんだし」
『疾風迅雷』は平均的なCランクパーティーと比べても、魔物を狩る実力は長けていた。
しかし、それ以外の依頼に対しては、同じEランクのパーティーよりも経験が浅い。
パーティーでできる依頼があればやる。
なければ自由行動で、個人でポイント稼ぎをしたり、魔法の勉強や鍛錬をするという方針で決まった。




