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第51話 国境を越える

 他のパーティーと合同で商隊の護衛を受けた丸戸たち。

 町から1日圏内の街道は比較的安全ということもあり、冒険者はみな軽装だ。

 馬のために休憩を取りながら、順調に距離を稼いだ。


 初日は数台の馬車とすれ違うくらいで何事もなく、暗くなる少し前に街道の脇に馬車を止める。

 ここで野営をすることになり、各自準備に取り掛かった。


 商人たちは馬車の空いたスペースで就寝し、御者は地面に毛皮を引いて、マントや毛布に包まり、その上に寝る。

 冒険者はテントがあればそこで寝泊りするが、人数に余裕がなければ緊急時にとっさに動けるよう、御者と同じように地面で寝ることになる。

 今回は他のパーティーがテントを張る作業をしていたので、丸戸たちもテントを設置した。


「他のパーティーがテント持ってて助かったよ」

「私たちだけテントでって、気が引けるものね」

「このテント、久々だあ」


 ダンジョンで活動する間に、居住性や利便性の高いテントを買って使用していた。

 ここでそんなテントを出すと周りの目が気になり、ゴブリンの集落捜索の依頼時に買った安物のテントを選んだ。

 もっとも、低ランク冒険者パーティーのテントに、誰も興味はない様子であった。


 見張りは完全休養、日付が変わる少し前、夜明けまでを、それぞれのパーティーが順番に担当する。

 数日先の行程を考慮し、『疾風迅雷』が完全休養、23時あたりまで『草原の大牙』、『明星の守護』が朝までと決まった。



 夕飯は商人が用意してくれ、乾パンと干し肉、野菜が少し入った味気ないスープをもらう。

 途中の宿場町に立ち寄った際、串し肉などを買って食べていたものの、やはり物足りない。

『明星の守護』が仮眠を取るため、早めにテントに入っていった。『疾風迅雷』も商人の片づけを手伝った後、テント内へ……。



「さすがにすぐには寝付けないな。腹もすぐ減りそうだし、2人とも軽く何か食べるか?」


 2人も食べたいというので、バームクーヘンを切り分けた。飲み物は皆、ホットミルクティー。


「今回は1日でも早くというみたいだから、野営多そうだね」


「宿場町に寄ったときにまともなものを食べておかないと、依頼完了まで体力が持たないわ」


「俺が食料を提供して食事を作ってもいいだんが、人数が多いからなあ。他の人には悪いが、今後もテント内で何か食べるようにしよう」



 もちろん他のパーティーも保存食は持っており、空腹時には持参したものを食べる。

 問題は美味しくはない保存食と、美味しそうなまともな食事である点だ。

 保存食を食べている者から見れば、不愉快であることは容易に想像がつくだろう。


 1日や2日ならともかく、最短でも10日以上。

 その間、険悪な雰囲気で仕事をしたくはないので、屋外では周囲と同じようなものを食べることにした。



 翌朝、うっすら明るくなってきたところで出発の準備をする。

 時間がもったいないため、朝食はない。

 馬の休憩時にパンをもらうため、朝から何か食べたければ、作業をしながら持参したものを食べるしかない。

 丸戸たちは朝食がわりにゼリー飲料で済ませると、テントを片付け、荷物を馬車に乗せる。


 出発前に冒険者のリーダーであるアルバから、今日の指示が出された。


「『疾風迅雷』は5番目と6番目、他は前後3台ずつ、御者台に乗って警戒してくれ。これだけ人数のいる商隊だから盗賊も手を出してこないと思うが、油断はするなよ」とアルバ。



 今日は盗賊がもっとも出やすいと思われる街道を通過する。

 昨日は軽装だったが、今はそれぞれしっかりと武装している。

 フロストが5番目、丸戸が6番目の御者席に座り、リナは馬車内で待機。


 数時間進むと、フロストが何やら気づいた。

 西から少し南より、300メートルほどまで近づいてきた者がいる。わずかな時間止まっていたが、折り返して反対方向へ消えていった。

 御者に伝えて、不審者が去ったほうを監視するフロスト。


 周囲は荒野で、岩や枯れ木がそこらに転がっている。

 漠然と眺めているだけでは、隠れながら移動する人を察知しにくい。


 2番目の馬車の御者席にいたボリも、荒野で移動する者に気づいていた。

 盗賊がいると判断し、手を使った単純な合図で後ろの馬車にも伝える。

 厳重に警戒していたが動きはない。同じようなことがもう一度あったが、盗賊が現れることはなかった。



「2つの盗賊団が偵察に来たみたいだが、こちらの護衛人数を見てあきらめたようだ。城砦までもう少しだが、気を抜かないように」


 盗賊の偵察だったと、休憩時に伝えるアルバ。

 魔物は人並み以上に倒しているが、対人戦はまったく経験がない。戦わずにすんで良かったと安堵する丸戸であった。



 日没が近づく中、馬車は走り続ける。本来なら野営をするのだが、城砦が目前だったのでそのまま移動し続けた。

 完全に暗くなる前に城砦に辿り着き、キャンプ地に入る。


 この城砦はブガンという。かつては魔物や敵対国から守るために築かれ、西側には高い城壁がある。

 南北には山があり、一部が崖となって壁の役割を果たしている。

 城壁の向こう側も一部がエンフェルデ国の領地だが、そこに町をつくっても維持するのが困難で、この城砦が国境の役目を果たしていた。



 現在は近隣国と友好関係にあり、以前ほど重要な拠点ではない。

 軍事施設は残っているが、商業施設が増え、商隊が休むためのキャンプ地も増設されていた。

 デニスの商隊も今日はキャンプ地で一夜を過ごす。


 元々は荒地で、面積はかなり広い。

 魔物が入らないよう壁や柵で周りを囲ったり、内部を区切ったりしてある。

 大人数の商隊用の区域に入り、馬を厩舎につなぐ。


 厩舎のそばには簡素な小屋が建てられており、商人と一部の御者はそちらで休むようだ。

 各パーティーはテントを張る作業に取り掛かった。



(まるで高速道路のサービスエリアみたいだな)


 道を挟んだキャンプ地の向こう側は商業区域で、飲食店や旅人のための宿屋もある。

 キャンプ地専属の見張りがいるので夜の見張りは必要ないが、何があってもいいように護衛は馬車のそばで寝泊りをする。

 屋台で好きなものを買ってくれるというので、荷物持ちとして冒険者が何人か、若い商人についていった。


 串に刺さった肉や野菜ばかりでごちそうではないが、皆ここぞとばかりに思う存分に食べる。

 まだ依頼中であり、完全に気を抜くわけにはいかない。

 それでも護衛経験のない丸戸たちにとっては、ここで一息つけるのはありがたかった。



 翌朝、商人のデニスが代表して出国の手続きを済ませると、城砦の西側の門を通り抜ける。

 厳密に言えばまだエンフェルデ国内であるものの、城砦から西へ出たなら、すでに国境を越えたと考える人が多い。


 王都や大きな町付近の街道のようには整備をされていないが、北西に向かって幅の広い道が伸びている。

 平地が広がり、西側遠くに大きな山が見えた。


「あそこから魔物が平地に降りてくるんだって」

 馬の休憩時に聞いた情報を、仲間に伝えるフロスト。


「群れて来られると、馬車を守りながら戦うのは難しそうだな」


「2人は馬車から離れて戦ったほうがいいわね」



 城砦付近はまだ安全圏だったので、3日目も可能な限り先へ進んだ。

 今夜は『疾風迅雷』が23時ごろまで、『平原の大牙』が朝までを見張りを担当する。

 食事を終え、商人たちが就寝するあたりで、大きな1本のロウソクに火をつけた。これが燃え尽きたら、見張りの交代となる。


 見張りは基本2人で行うが、見張りといっても23時くらいまでなら、普通に起きているのとあまり変わらない。

 3人でおやつをつまみながら、時間を潰した。リナだけ一足早くテントに入り、身を清める。

 交代時間となったので、『平原の大牙』を呼びに行き、丸戸たちもテントで休んだ。



 翌朝、本日の方針が護衛隊のリーダー、アルバから伝えられる。


「ここから先は魔物が多く出る。できるだけ馬車の速度を落とさず通り抜けたい。主戦力として『明星の守護』と『平原の大牙』が交互に魔物殲滅と後ろの警戒をする。『疾風迅雷』は状況に応じて援護を頼む」


「獲物の素材はどうするんだ?」と、『平原の大牙』のリーダー、ハイメが尋ねる。


「馬車に置いていかれない限り、素材の回収をしてもかまわない。が、解体する時間はないから、大部分は捨てていくしかないだろう。回収した素材は3パーティーで均等に分配だ」


 低ランクで人数が少ない『疾風迅雷』が、他のパーティーと同じ報酬という点では納得しない者もいるだろう。

 だが、そもそも護衛の仕事で素材を解体している時間はないため、売って得られる金額もたいしたことはない。


 仮に素材の売却額が6万Gだった場合、3パーティー均等なら2万G。

 人数に応じて分配すれば、『明星の守護』が2万5千G、『平原の大牙』は2万G、『疾風迅雷』が1万5千Gである。


 たかだか5千G多いか少ないかで争うほど愚かではなかったので、その条件で文句を言う冒険者はいなかった。



 全員、対魔物の装備を用意し、馬車に乗り込む。

 こうして護衛依頼4日目が始まろうとしていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] さてさて。 盗賊が来るか、魔物が来るか…… そろそろ見下してる連中を見返したいところ(。・ε・。)ムー
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