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第5話 冒険者ギルドで登録

 翌朝、丸戸は起床して食堂で朝食をとった後、部屋を出て受付に向かった。

 職員に部屋の鍵と、使い終わった乗車券も渡す。

 この町について少し話をしたかったが、後ろに人が並んでいたこともあり、商業ギルドの場所だけ聞いて、建物の外に出た。


 目の前の通りには、日本では見ないような服装の人々が行き来している。

 昨日、馬車から降りたときは日が落ちていたし、すぐに建物の中に入ったため、周りの景色はほとんどわからなかった。

 改めて周囲に視線を向けると、日本の家屋や高層ビルなどはなく、中世ヨーロッパのような街並みが広がっている。


(ヨーロッパの、あまり発展していない古い町へ旅行しているみたいだな)


 異国情緒があり、スマホで写真撮影したいくらいだったが、いつまでも観光気分に浸っているわけにはいかない。

 町並みを眺めながら、職員に教えてもらった商業ギルドへ歩いていく。



 南北を貫く大通りを北上すると、付近の建物よりも大きく立派な作りだったので、商業ギルドはすぐに見つかった。

 中に入ると、右側は壁、左にカウンターがあり、天井から総合案内という札が吊り下げられている。中央にはベンチに腰掛けた人が何人か見える。

 宿屋でも見かけた、照明の道具が多く使われているようで、建物内は明るかった。


 丸戸は総合案内に向かい、列に並んだ。


「おはようございます。本日はどのようなご用件でしょうか?」


 丸戸より年上っぽい、欧米風の女性に話しかけられる。

 仕事と宿を探していること、あと身分証について質問した。


 ギルドで紹介できる宿は、旅人や商人など、この町に馴染みのない人向けに、ここなら満足してもらえるという、それなりの料金がする宿である。

 どの宿が長期間でどれだけ割引されるかまではギルドも把握していないので、自分で探してもらうしかないとのこと。



 身分証については、三つの選択肢になる。


 3万Gで町の住人として申請。

 職業に応じて5万Gから10万Gで申請。

 1万Gで冒険者として申請。


 所持金を考えれば、冒険者で申請するしかない。その場合、商業ギルドではなく、冒険者ギルドで身分証を作成することになるそうだ。



 仕事については、左側の壁に掲示板があるので、そこから条件に合うものを選び、カウンターにてさらに詳しい話をする。問題がなければ、後日面接をして合否が決まる流れになっている。


 受付のお姉さんにお礼を言って、掲示板へ向かう。

 掲示板は、細長い板が横になって壁に掲示されており、リスト表示された状態で、情報が見やすい。


 どうやって壁に設置しているのだろうと確認すると、板の左側上下に留め具があり、落下しないようになっている。板を外すときは右側にずらせばいい。

 よくできてるなと感心しつつ、リストを眺める。


 職種別に配置されており、ザッと見た感じでは、固定給制で条件が良いのはやはり経験者だった。

 あまり経験が必要なさそうなものはパートタイムで、女性限定が多い。


 丸戸でも採用されそうなものは、居酒屋での皿洗いと雑用の仕事で日給5千G。労働時間は日没の鐘が鳴ってから、閉店して掃除が終わるまで。閉店の時間は書いていない。

 仮に日没の鐘の音が18時として、閉店が0時。掃除などで1時間かかるとすると7時間労働。時給にすると700Gちょっと。閉店が長くなり、仕事終わりが午前3時だった場合、9時間労働で時給555G。


 こちらの世界の1か月は30日。毎日働いても15万G。住み込みならともかく、家賃がかかると厳しい。もう少し詳しく知りたいが、どうしてもその仕事をやりたいわけではない。

 他に仕事が見つからなければ……と、商業ギルドでの職探しはあきらめた。




 続いて、商業ギルドへ行く途中にあった、冒険者ギルドに向かう。石造りで頑丈そうな外観は、商業ギルドほどではないが、付近の他の建物に比べたら大きいのでわかりやすい。

 中に入るとロビーがあり、お昼前の時間でもけっこう人が集まっていた。商業ギルドと違って、騒がしい。


(あれは本物の剣か? 本当に別世界に来ているんだな……)


 金属や皮の鎧を着た人たちの腰に、剣が収まった鞘があるのを見て、体が強ばる丸戸。

 奥のほうにカウンターが見える。身分証はまだ三週間くらい有効だが、お金を持っているうちに冒険者の身分証を作っておきたい。


 カウンターの場所ごとに、対応する業務が決まっているのか、一部のカウンターでは人が少ない列があった。

 そこに並んで順番を待つ。まもなく前の人が、カウンターを離れていった。



「冒険者ギルドへようこそ。本日はどのようなご用件でしょうか?」


「こちらで身分証を作ってもらいたいのですが……」


「冒険者として登録されるということで、よろしいですね?」


「はい、お願いします」


 受付嬢が机の下から一枚の書類を取り出し、ペンとともに丸戸の前に置く。


「お手数ですが、こちらの書類に必要事項をご記入ください」


「すみません、文字を書くことができないので、代筆をお願いしても良いですか?」


 丸戸には文字が複雑で、書けないのだ。自分で名前を書く練習もしたが、それはどういうわけか読めなかった。お手本に似せて書いたつもりでも、微妙に違うようだ。


「はい、構いませんよ。それでは名前から、お聞かせください」


 受付嬢の質問に丸戸は名前を、「レイ」とだけ答えた。

 フルネームで答えると、それ以降もフルネームで呼ばれてしまうのだ。


 丸戸が話したことのある人物は、宿や食堂の従業員として働く人が多く、フルネームで呼ばれるのもそういう習慣なのだと思っていた。

 しかし、馬車で同じ客の立場の人たちからもフルネームで呼ばれてしまう。

 それに苦痛を感じてしまい、「フルネームで呼ばず、レイと呼んでくれ」とお願いした。

 どうやら人によっては、フルネームがそのまま名前と勘違いされていたようだ。


 受付嬢の問いに答えていく。特技・技能の項目は、算術と目利きだけを申告しておいた。



「登録料として1万Gをご負担していただきます」


 事前に聞いていたので、リュックサックに入れた小さい皮袋から1万Gを取り出して、受付嬢に渡す。

 受付嬢は書類とお金を持ってバックヤードに姿を消し、すぐに戻ってきた。


「身分証が作成されるまでの間、冒険者ギルドについて説明させていただきますね」


 冒険者ギルドの役割や冒険者の仕事、注意事項が説明される。

 ザックリ言えば、ギルドで依頼を受けて報酬をもらい、実績によってランクがあがるということだった。


 受付嬢の説明が終わったところで、バックヤードから男性職員が来た。


「レイ様、こちらが冒険者ギルドの身分証となります」


 そう言って、男性職員から身分証を受け取る。

 金属製の黒っぽい名刺サイズのカード、名前とランク、それに記号と数字が記載されている。


 ランクはAからGまであり、丸戸は一番下のGランクの冒険者として活動することとなる。

 Gランクは見習いみたいな扱いで、冒険者に不向きな者はここで挫折しやすく、他の職業へ転向する者も少なくない。

 楽な稼業ではないと知っても、まだ何もしていないので実感がわかず、初めて自動車免許を受け取ったときのような、ちょっとわくわくした気分だった。



「すみません、あと、宿屋について教えて欲しいのですが……」


 丸戸は盗難される心配がなく、できるだけ安い宿という条件を伝える。


「冒険者にとっては立地条件は悪いですが、東門区画にある『草月亭』という宿か、西門区画にある『大地のささやき亭』あたりがおすすめですね」


 男性職員のいう立地条件の悪さが気になった。治安が悪いのか?


 その点について尋ねると、冒険者ギルドは町の中央にあり、門の近くの宿泊施設で泊まると移動に時間がかかる。

 ギルドに近い場所に泊まるほうが、移動時間のロスが少ない。

 依頼の受付は早いもの順。遠いほうが不便で立地が悪いというのもうなづける。


(冒険者に成りたての自分が、報酬の良い依頼を受けたところで仕事をこなせないだろう。立地の悪さくらいどうってことないな)


 丸戸は二人にお礼を言って、冒険者ギルドから出る。

 東西どちらの宿屋に向かうか少し考え、距離的には西門のほうが近いと判断し、まずそちらへ向かうことにした。



 町は東西南北に大通りがあり、冒険者ギルドは南北の大通りに面し、東西の大通りの裏道に位置する。『大地のささやき亭』という宿屋も、同じ裏道の西門近くにあった。


「道沿いに西へ向かえば良い」と聞いたとおりに歩く。時間を計っていなかったので正確ではないが、一時間以上は歩いた。


(なるほど、依頼を受けるためにはこの距離を毎回歩かねばならないのか……)


 1日や2日ならどうってことないが、これが毎日続くとなると気が重くなる。

 男性職員の言葉に納得する丸戸だった。



 木造で3階建ての宿屋に入ると「いらっしゃいませ。お食事ですか、それとも宿泊ですか?」と女性従業員に聞かれた。


 丸戸が宿泊したいと答えると、料金の説明をしてくれる。

 一泊2200Gで朝食つき。トイレは共同、シャワーや風呂はない。有料でお湯を販売しているし、裏庭に井戸があるので、自由に使って構わないそうだ。

 長期滞在なら日数に応じて割引きもあるという。10日間で一泊あたり200G安くなる、20日なら400G、30日で600Gの割引きになる。


 肝心の防犯はどうなんだろう……と思って聞いてみたが、強盗に無理やり襲われたらさすがに被害は避けられない。ただ、このあたりは門の近くで衛兵もすぐに駆けつけてくれるし、しっかり部屋の鍵を掛けておけば、日中に盗難される心配はほぼないとのこと。


 快適さより、料金と安全性を優先しているので、悪くはない。

 でも、もう一つの宿屋の料金も調べておきたい。


「二泊でお願いします」


 丸戸はとりあえず二日間泊まることにした。一泊だけだと明日の昼間も荷物を持ち歩かないといけないし、今から反対側の門付近へ行って戻ってくるとなると、4時間くらいかかるだろうか?

 宿の料金を調べるのに、そこまで時間は掛けられない。


 名前を代筆してもらい、料金を支払うと、2階の部屋に案内された。室内はシングルベッドに机と椅子。6畳くらいの広さがある。


 時間は13時過ぎ。また冒険者ギルドに戻って何かするにしても、時間が中途半端だ。

 荷物の中から衣類を取り出し、裏庭に向かう。今までまともに洗濯できていなかったので、洗剤無しで水洗い。洗っている最中に、明日の行動について考え、部屋に戻り、室内干しをする。



 明日は一日冒険者として活動することに決めた。今の自分が一日でいくら稼げるのか知っておきたい。


 明日の準備を済ませたら、所持金の計算。

 8万Gちょっとだった。


 身分証と宿の料金を払っただけなのだが、大きくお金が減ったことで、急に心細くなる。


「日本に戻る方法を探す前に、生活をどうにかしないと。とにかくお金を貯めないと駄目だな」


 明日はなんとしても稼ぐぞ!……と、気合を入れる丸戸だった。

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