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第45話 緑の書のうわさ

 夏の陽気がすっかり失せた10月初日。

 丸戸たちは6回目となるダンジョンを探索していた。


 21階層から30階層までの前半は大小の白い猿が多かったが、後半から中型のクモやオーク、緑色のサソリが多くなっていた。

 今日は29階層からの攻略で、ここはオークやホブゴブリンが多い。

 丸戸たちにとっては狩りやすく稼ぎやすい魔物だが、ドロップ品を持ち運べる量に限りがあるため、他の冒険者はほとんど見かけない。


「ここは僕らにとって良い狩場になりそうだね」


「ああ。探索が一区切りついたら、ここでどれくらいの稼ぎになるか狩ってみよう」



 進路上にいる魔物を狩る程度にとどめ、順調に地図を埋めていいき、下の階層へと下りていく。

 30階層も出現する魔物に変化はなく、マップも狭いので、20分ほどで大きな扉の前までたどり着いた。


「この先がたぶん、階層ボスの部屋だよね? どんな魔物がでるかなあ?」


「私は魔物より、あの宝箱が出るかどうかのほうが気になるわ」


「すぐにボス部屋に入りたい気持ちもわかるが、あそこの小部屋でしっかり休憩しよう」



 19階層でひと稼ぎする前に休んでいた際、たまたま居合わせたほかのパーティーが、小部屋について話しているのが聞こえたことがあった。


 今まで知らなかったが、ダンジョンには魔物が来ない小部屋があるそうだ。

 休憩を取ったり、魔物をやり過ごすために逃げ込むことができ、たいていボス部屋の近くにもあるらしい。



 丸戸たちはボス部屋から100メートルくらい離れた部屋に入った。

 扉はなく入り口が広い。床と天井はここまでと同様、青っぽい灰色だが、壁だけ金属でできたように光沢を帯びている。


 入り口奥の右隅にテーブルとイスのセットを出し、サッとゼリー飲料や栄養バランス食を口にする。

 じゅうぶん休息をとり、装備の最終確認を済ませると、ボス部屋に向かった。



 部屋の内部は半径100メートルほどの半円形状で、オークが3つの集団に分かれている。総数は50以上。

 各集団のリーダーらしき大きなオークの雄叫びが合図となり、オークたちが丸戸たちめがけ、突っ込んできた。


 入室した瞬間から、リナを後方に逆三角形で並んでいる。

 雷魔法の準備をした丸戸が、できるだけ範囲内にオークを入れようと少し前に出て、魔法を放つ。

 雷鳴が響き、先頭にいるオークたちの動きが止まると、後方から押される形で次々と倒れ込んだ。


「下がって!」


 騒音のなか、どうにか届いたリナの声に従い丸戸が下がると、一際大きな火炎球がドミノ倒しのようになっているオークたちに命中し、多数のオークが炎に包まれた。

 丸戸とフロストが手負いのオークを次々と仕留める。


 その間、リナは少し離れた位置にいる右側の1匹の大きなオークに向かって炎の矢を何本も浴びせて沈めた。


 中央の大きなオークには丸戸が槍を胴体に突き刺し、雷属性で追加攻撃。ダメージを受け、自力で立っていられず前に倒れるところを、フロストが首を跳ね飛ばす。


 フロストが左側の大きなオークを見ると、リナが炎の矢で足止めしていた。フロストはリナのほうを見て頷くと、オークに突進。

 リナもタイミングを見計らって攻撃を止め、戦況を見守る。


 炎の矢を見ていた大きなオークには、フロストが認識できていない。


 いつの間にか左足が切断され転倒。

 地面が迫ってくることはオークも見えていたが、そこから先は何も見えなかった。

 フロストの足元にはオークの頭が転がっていた。



 仕留めそこなったオークはいないか確認する。


「あ、あそこ……」


 フロストが指差す方向に視線を向けると、出口側の扉のそばに例の宝箱があった。

 ドロップ品をあわてて回収し、宝箱に近寄る3人。


「やっぱり出たわね」


「罠はないね。じゃあ、開けるよ」


 そう言ってフロストが宝箱を開けた。中にはこれまでと同様、深緑色のほぼ白紙の書籍が入っていた。



「毎回3冊あるけど、やっぱりパーティーの人数が関係しているんだろうな」


「そう考えると、ちょっともったいない気がするわね」


「宝箱の出現条件がわかればいいんだが……」


「こんなのがダンジョンにあるって知ったら、きっとものすごい騒動になると思う」


「ああ。でも、証明するものがないんだよなあ。今度、商業ギルドの人にでもそれとなく聞いてみるよ」


「うん。それじゃ、僕から試してみるよ」


 フロストが魔法陣に手の乗せる。白く発光するページの隣には『闇魔法』と書かれていた。


「闇魔法みたいだ」と、丸戸たちが教える前にフロストはわかったらしい。

 魔法書で水魔法を取得したときと同じようだったともいう。


「これと魔法書は何が違うのかしら?」


「魔法もスキルの一部と考えられるんじゃないか? 魔法書は決まった魔法しか覚えられないけど、こっちは魔法も含めてスキルが身につくとか? 事前に何を得られるかわからないのは欠点だが……」


 丸戸も地面に置いた書物の魔法陣に手を乗せた。

 魔法陣が発光すると、丸戸の脳内に雷魔法の情報が流れ込む。


「雷魔法だ」と丸戸がつぶやくと、2人は頷いた。


「レイは雷魔法使えるから、何か特別なもの?」とフロストが不思議そうな表情を浮かべる。


「いや、俺の場合は槍に雷魔法を発生させる素材が使われているから、俺自身は雷魔法は使えないぞ」


「そうだった。魔法書みたいに特定の雷魔法とか覚えたわけじゃないんだね」


 表紙が青い魔法書であれば、雷魔法の『落雷』や『電撃』といった書物がある。

 取得して練習をすれば、これらの魔法が使えるようになる。

 一方、表紙が緑の書物は、青い魔法書のような分類がなかった。


「槍がなくても、落雷の魔法が使えるようになるのかな?」


「練習しだいでは、使えるようになるかもしれないわ。そして最後は私の番ね」



 リナも魔法陣に手を乗せると、隣のページには『魔力消費軽減』と浮かび上がった。


「なんだろう? 私にはちょっとわからなかったわ」


「魔力消費軽減だって」


「魔法じゃなかったみたいだな」


「2人が魔法だから、私も魔法かと思ったけど、違う場合もあるのね」


「青い表紙が魔法書なら、緑の表紙はさしずめスキルの書ってところか」


「スキルの書みたいなのが売られているなら、みんな知ってるはずだし、どんなスキルを得たとか自慢話するよね? 僕はお客さんから今まで聞いたことないから、やっぱり緑の本を知っている人は少ないのかな?」


「私も聞いたことないから、ほとんどの人が知らないと思うわ」


「魔法書が安いものでも数百万Gするから、スキルの書は内容が不確定とはいえ、数千万Gしそうだ。売られてたとしても、買える人は限られるだろうな」


「闇魔法は使いこなす自信ないから、僕は違うのが良かったな……」


「まあ、そういう場合もあるさ。これで次からは30階層まで来られるようになったな。オークがたくさんいた29階層まで戻って、どれくらい稼げるか調べたい。そして今日は早めに切り上げようと思うが、良いかい?」


 2人ともそれで良いというので、転移装置のある広間があることを確認すると、29階層に戻ってひたすらオークを狩るのであった。



 その日の夕方に町に戻り、冒険者ギルドでドロップ品を査定してもらう。

 オークだけで500匹以上倒したこともあり4842万G、1人当たり1614万Gの収入と285個の魔石を得た。


 ボス部屋を攻略した後のオーク狩りは、1時間当たり400~500万Gと、19階層より効率が良い。

 31階層以降の探索後、29階層で稼ぐのがお決まりのコースとなった。




 翌日、Fランクの雑用の依頼を終えた丸戸は、商業ギルドに来ていた。

 競売から1か月経過し、買い取ってもらえそうな商品がいくつかあるのだ。


 いつものように商談用の個室に案内され、商品を査定してもらっていた。

 しかし、持ち込んだ商品数が多く、サイズの大きなものもあるため、個室では広さが不十分で部屋を移動したり、初めに応対した職員が途中で席を外すなど、手間取っていた。

 今はチャールズという50代くらいの男性職員が丸戸の持ち込んだ商品を見ている。


「これはすばらしい」とか「ダンジョン産でも見たことがない」など、褒めたり驚いたりと表情が豊かだ。


 丸戸が持ち込んだ39種468点の商品は、5326万Gで買い取ってもらうことになった。

 以前、競売に出品した商品は90種700点以上で、高く見積もっても4400万Gだった。


(スキルで購入する商品の単価が上がったぶん、商品数が少なくても高く売れて良かったよ)


 今回一番高値となったのは、防刃素材のシャツ3種とガラス板のテーブルで100万G。

 シャツはパーティー用に6枚ずつ残してあるので、買取数は12着。

 ガラスのテーブルはスキルの購入価格は1万Gほどの安物で、10点すべて売却した。

 軍用ナイフやバールなども思ったより高く、また、包丁や散髪用の品質の良さそうなハサミも高く売れた。



 商談を終えたところで、丸戸はスキルの書について、それとなく聞いてみた。


「表紙が深緑色で魔法書のようなものですか……。魔法書の多くはダンジョンから見つかりますから、光加減や汚れなどで、違う色に見えたのでは? 少なくとも、ここのダンジョンから緑色の魔法書が持ち込まれたという話は聞いたことがありませんね」


「魔法以外に、スキルなどを覚えられる魔法書みたいなものはあるんですか?」


「そういったものも見たことないですね。あ……、だいぶ昔にそういう話が出たこともありましたかな。一部の冒険者からそういう噂話があったとかで、少数の商人が買い付けようとしたことがあった気がします。結局、噂話止まりでしたけどね」


「そうですか。小耳に挟んでから、ちょっと気になっていたんですよ。やっぱり噂話なんですね。おかげでスッキリできました。ありがとうございます」


 その後、行商や露店などについて少し雑談をし、商業ギルドを後にした。



 表紙が緑の書は、なにか条件を満たすことで超レアなアイテムとしてドロップすると、ゲームの知識から推測。

 それが世の中に出回っていないのであれば、持ち出すことができず、その場限りのものなのだろう。


(もしかしたら、日本に戻れる魔法や道具が、ああいった形で入手できるのかも?)


 短絡的な考えだが、絶対にないとは言えない。



 ボス部屋に入って前と同じように戦っても、希少な宝箱は出現しなかった。

 1人1回までならまだいい。他の人が先に入手したら終わりという場合が困る。


 また、自分たちが緑の書の存在を明らかにしたところで、信じてもらえる可能性は低そうだ。

 下手すると、うそつき呼ばわりされるかもしれない。


 緑の書に関する情報を集めるのは、控えたほうが良さそうだと思う丸戸であった。

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