第44話 活動拠点の選択
馬車が出る時間まで、転移装置の部屋があるダンジョン20階層の広い空間で休んでいた。
数時間後、丸戸とリナがテントから出てくる。
朝食をとりながら、すぐに帰るんじゃなく、この先も少し見たいというフロスト。
何も早い時間に町に戻る必要もないと、下層を見ていくことにした。
21階層は、体長1メートルくらいの体毛が白い猿の魔物が多かった。
1~2匹相手ならどうということはないが、4~5匹まとめてこられると、動きに惑わされて攻撃が浅くなり、引っかかれたり噛みつかれたりする。
丸戸はブーツの上から噛まれたので怪我はしなかったが、鋭い牙は重傷を負わせるにはじゅうぶんなほど。
多少引っかかれても噛みつかれることにだけ注意して、1匹ずつ確実に仕留め、白い猿を撃退した。
23階層に降りる階段を見つけたところで、引き返す。
ここまで4時間かかっていた。
帰りは最短ルートで帰るが、狩りながら進んだので、20階層に戻るまで2時間かかった。
「ふぅ、みんなお疲れ。猿はちょっときつかったね」
「僕は速さで勝ったぶん、どうにか対処できたよ」
「魔法は遠距離だと、当てづらかったわ。もっと速く当てないと逃げられちゃう」
地べたに座って初めて見た魔物について話をしつつ、一休みする。
転移装置を使いダンジョンを出たときには、お昼をだいぶ過ぎていた。
シルバストの町に戻ると、冒険者ギルドでドロップ品を買い取ってもらう。
高そうな斧が300万Gなど、ゴブリンからドロップした武器が1820万G、オークの肉や素材が840万Gと大半を占め、合計3160万5千G、一人当たり1053万5千Gだった。
魔物を2000匹以上倒しており、極小サイズだが魔石を500個も入手。
「1日以上ダンジョンにいて一人約1千万Gか。クロスの森と比べるとちょっと少ないかな? まあ、初めはこんなもんか」
「ゴブリンがたくさんいたところで狩ったぶんが、かなり大きいわね。あの場所だけで狩ったら、クロスの森以上じゃない?」
18~19階層で2000万G近く稼いでいた。大雑把に計算すると1時間260万G。とくに高収入となるオークがいた19階層は約360万Gだった。
逆に収入的に厳しいのは白い猿。
1時間あたり約8万Gと、強さの割には収入が寂しい。
「そういえば、こっちではどんな依頼があるか、見ていなかったな……」
3人で依頼掲示板を見にいった。
Gランクは運搬の手伝い、ダンジョンの拠点でお店の雑用、常設依頼は薬草採取や壁の修復など。
Fランクも上記に加え、拠点の夜間の見張りがある。
Eランクは周辺の村の警備や、拠点へ運搬する荷馬車の護衛があった。
「拠点まで近いからか、Eランクでも護衛の仕事があるのね」
「拠点へ移動するとき、ついでに受ければ良かったか? いや、それだと無駄に体力使っちゃうか……」
「ランク昇格のためのポイント稼ぎなんて、休養日にちょこっとやればいいから、そこまで気を使わなくていいわよ」
「店の手伝いとかなら、俺が露店するのに手伝いの依頼を出して、2人が受ければ、ポイント稼げそうだな」
「僕らは良いけど、それだとレイはポイント稼げないよ?」
「2人に露店を任せて、俺は別の依頼を受ければ良いのさ」
「あ、そういう手もあるね」
魔物の素材を大量に持ち帰って稼ぐことができていたため、丸戸は冒険者ランクにあまり興味がなかった。
しかし、ランクによってやりたい依頼が引き受けられなかったり、入りたい場所に入れないというのも困る。
Gランクでどれだけ稼ごうが、他人からは見習いの冒険者としかみられないのだ。
さすがに今のままではまずいと、ランクやポイントを少しは意識するようになっていた。
「ポイントとお金を稼ぐのにダンジョンとクロスの森、活動拠点とするなら2人はどっちが良い?」
「ポイントはどちらも大差ないわね。この先収入がどうなるかまだわからないけど、私はダンジョンかなあ。森だと魔物を探し回るのに、それなりに歩くし、時間も限られるしね」
「僕もダンジョンのほうが足場を気にしなくて良いから、戦いやすい」
「それじゃ、しばらくダンジョンで稼ぐとしようか」
こうして、ダンジョンの町を拠点にして、活動することを決めた。
2日間で下の階層の攻略と、19階層でゴブリンとオークのまとめ狩り。
ダンジョンを出てから、3日間は休養というスケジュール。
休養の間に、冒険者ギルドですぐに終わりそうな依頼をこなす。
3回目のダンジョン探索で2397万G、4回目は3480万G、5回目は4698万Gと稼ぎ、一番小さなサイズの魔石1634個を入手。一人あたりでは3525万Gの収入となった。
もっとも、1回の探索に二日かけているので、一日あたりの報酬はクロスの森で狩っていたころには及ばない。
休養日を過ごすうちに、9月最終日を迎える。
魔物を狩って素材を売却する収入は前月よりも半減。
商業ギルドとも取引をしなかったが、この1か月で丸戸が得た収入は、4千万G弱であった。




