第43話 ダンジョンで2つ目の宝箱
丸戸たちはダンジョン17階層を抜け、階層間で休憩を取りながら18階層、19階層と進んでいった。
こちらも下の階層への扉の前に広い空間があり、大きな扉に近づくほど、魔物の密集率が高い。
低ランクの冒険者にとっては難易度が上がるが、ドロップ品を集めたい丸戸たちにとっては好都合だった。
2階層ともゴブリンが多く、ホブゴブリンやオークも混ざっていたが、森や集落で戦ったときほど、まとまってはこないので、脅威ではない。
ここでも狩りに没頭する。
魔物の壁を突破できず、丸戸たちのほうに近づいて、どさくさまぎれに通り抜けようと企むパーティーもあった。
だが、次々に寄ってくる魔物に対処しきれず、逆に遠ざかる羽目に……。
じゅうぶんドロップ品を確保すると19階層を突破し、休憩を経て20階層へ。
ここは単純な一本道で、すぐにボス部屋らしき前まで来た。魔物はもちろん、他にパーティーの姿もない。
装備を確認、各自魔法で強化もし、扉を開いて中に踏み入った。
奥のほうにホブゴブリンが3匹おり、その前を50匹ほどのゴブリンが待ち受けている。
体育館ほどの広さはあるが、数が多いので広くは感じない。
ホブゴブリンの雄たけびで、ゴブリンが一斉に丸戸たちめがけ攻撃を仕掛けてきた。
ゴブリンが密集する場所にリナの火炎球が撃ち込まれ、小ぶりの石の槍が雨のように降りそそぐ。
丸戸は槍の一振りで雷属性の追加攻撃を発生させ、付近のゴブリンに大ダメージを与える。
フロストは速さを活かし、双剣で次々ととどめを刺していく。
この階層に来るまでかなりの数の魔物と戦っていたこともあり、これくらいの数の差は問題にならなかった。
前衛が壊滅すると、3匹のホブゴブリンが斧や剣を掲げ迫ってきたが、足を切断され転倒、のど元を突かれ倒れこみ、石の槍で頭部を粉砕と、あっという間に戦闘不能に陥った。
フロストが転倒したホブゴブリンに止めを刺し、戦闘が終了する。
魔物がすべて死んだことを確認すると、ドロップ品を回収。
他の階層で得た武器よりも、ちょっと品質が良さそうな武器が数点ある。
その中にはホブゴブリンが持っていた斧と同じサイズで、すこし高そうな斧もあった。
ドロップ品を集めている間に、前回のボス部屋で見かけた黄土色の箱があることに3人は気づく。
「これ、きっとアレよね?」
リナの言葉に、残る2人も同じ結論を出していた。
10階層のボス部屋で出現した宝箱から、ほぼ白紙の書物を入手。それを魔法書のように使ってみたら、スキルを得られたのだ。
「駄目だ、宝箱は収納できない」
丸戸がアイテムボックスに入れられないか今回も試してみたが、できなかったようである。
「宝箱に罠はないから、僕が開けるね」
フロストが箱のふたを開けると、中には表紙が深緑色の書物が3冊入っていた。
「やっぱり前と同じね」
皆が想像したとおり、魔法陣だけ描かれた、ほぼ白紙の書物だった。
「それじゃあ、また、僕から試してみるよ」
前回と同様、フロストが魔法陣に手を置いた。
残りの2人は、隣のページに浮かぶであろう文字に注目している。
そこには『剣術威力強化』と書かれていた。
丸戸は書物を持ち、扉を開けようとしたが、それもできなかった。
持ち出すことができないとあきらめ、丸戸、続いてリナと順に魔法書に手を置く。
丸戸は『雷属性魔法強化』、リナは『火属性魔法強化』だった。
「今回は戦闘に役立ちそうで、なかなか良いスキルだったな」
「これって、みんな何かしらスキルを得ているのかしら?」
「宿屋で何人も冒険者と話したけど、そんな話聞いたことないよ」
一定の条件を満たすことで特典がもらえるゲームもあるので、丸戸はそういったものではないか……と推測。
ただ、2人にゲームのことを話しても、伝わりそうにない。
こんなところで長々と説明するわけにもいかないので、あえて何も言わないことにした。
「途中のゴブリンの区域でつい夢中になって時間を取ってしまったから、今から戻っても馬車がないな。どうする?」
「もうそんな時間だったのね」
「僕はまだまだ平気だよ」
「休憩でポーションを飲んだから体力はあっても、精神的な疲れがあるかもしれない。きりもいいし、今日の活動はここまでにしよう」
「ダンジョン内で休む? それとも昨日と同じく、外に泊まる?」
「馬車が出るまで半日ほどかかるんだよなあ。外に出ても時間まですることがないから、ダンジョンで休もう。他のパーティーもけっこうダンジョン内で休んでいるみたいだし、俺たちも経験しておいて損はないだろう」
おそらくボス部屋の先は転移の広間があり、そこで休めるはずだ……と、丸戸たちは部屋の扉を開けた。
予想したとおりそこは10層目と同様2つ目の扉があり、そちらも開けて進むと広い空間があった。左右の壁までの距離が長く感じ、こちらのほうが広いかもしれない。
設営されたテントの数も多く、中央には噴水もあり、冒険者が水を汲んでいた。
「思っていたよりも人が多いわね」
「なんか、キャンプ場みたいだ」
「人が寄り付かなさそうなのは、あっちか、あの辺だね」
フロストが両側の壁の北の一角を指し示す。
西側にはダンジョンの外へ出るための部屋があり、東側にはダンジョンの外からこの階層へ来るための部屋がある。
ダンジョンを出る者、下の階層へ降りる者、噴水に寄る者……。
壁沿いの北の一角は、それらの歩行ルートから外れるので、落ち着きやすいだろう。
丸戸たちは北西へ進み、壁から少し離れた場所にテントを2つ張った。
足元は青が混ざった灰色だが、土の地面である。
壁際に石で竃をつくり鍋の水を沸騰、そこにレトルトカレーを入れる。
壁とテントの間にテーブルとイスを出し、軽装に着替えた。
レトルトカレーを皿に盛り、パンを添える。飲み物は各自好きなもの。デザートはクッキーでサンドしたアイスクリームだ。
安全と思える場所でも、ここはダンジョン。
満腹になって見張りに支障が出ても困るため、みな食事の量は控えめだった。
リナとフロストが先に休み、丸戸が見張りをする。見張りといってもここには魔物が来ないようなので、そこまで気を使う必要はない。
ノートにこのダンジョンの地図を書いたり、スキルで買った商品を整理したりして、時間を潰すことにした。
4時間後、リナと見張りを交代。それから2時間後、フロストが起きてくる。
目が覚めちゃったし、しっかり睡眠できたから、交代するという。
30分くらいおしゃべりして、リナも再びテントに入った。
イスを移動させ、丸戸が用意してくれたおやつやジュースを飲みながら、他のパーティーの様子を見るフロスト。
下の階層に向かうパーティーを見て、もうちょっと進んでみたいなと思うのであった。
 




