第42話 ドロップ品収集
夕方、ほぼ1日を休んだ丸戸たちは、馬車でダンジョンの拠点へと移動した。
冒険者ギルドの職員が派遣されている管理所のカウンターで手続きを済ませ、右側の通路にある部屋へと進む。
ダンジョンの転移装置を使い、地下10層目の部屋にたどり着いた。
部屋から広間に出ると、正面奥にはダンジョンの外につながる転移装置がある部屋。
左右に大きな扉がある。左手はボスがいた部屋で、右手は下の階へ進む扉だ。
装備の確認をし、右の扉を開いて通り抜けた。
念のため、反対側から扉が開くか試すと、問題なく開く。これでいざというときには、逃げ帰ることもできるだろう。
扉の向こう側は階段があり、下の階へと続いていた。
周囲はこれまでと同様、青っぽい灰色で一定間隔に照明がついてる。
並びは前回と同じで先頭をフロスト、後方はリナ。丸戸はマッピングを、フロストは罠探知を意識して歩を進めた。
この階層に来て数分歩くと、5匹でグループを形成した狼が出現。
少し身体が大きく、毛並みはより黒っぽい狼もいる。
10階層より前までは単体か少数だった。
これくらいの数ならフロスト一人でも対処できるが、並みの装備のFランク冒険者ではきついだろう。
先頭に立つフロストが複数の狼を相手にする。
丸戸もフロストの死角をカバーし、1匹ずつ倒していった。
リナは前方を見つつ、背後からも魔物がこないか警戒する。
すべて倒された狼が消滅すると、毛皮と牙、魔石が地面に残っていた。
「確か、毛皮より牙のほうが少し高かったかしら? かさばらないから、冒険者には良い獲物ね」
リナの言葉どおり、狼狙いで狩りをしているパーティーと何度かすれ違った。
安全地帯らしき10層の広間が近いので、逃げ込んで休めるということもあり、低ランクの冒険者には人気の狩場なのだろう。
今の丸戸たちにとってはたいした稼ぎにならなので、マッピングのスキルを頼りに、この11階層を足早に去る。
12階層は狼のほかに、蛇も現れるようになった。
クロスの森で遭遇した大蛇よりもサイズはだいぶ小さいが、黒っぽい紫色で、気色悪い。
「毒蛇かもしれないから、噛まれないように気をつけて!」
フロストの言葉に、2人は警戒を強め、遠距離から魔法で蛇を狙う。
リナが火炎球を蛇当てると、炸裂した部分を中心に炎が広がる。
炎に包まれ、瀕死となった蛇をフロストが仕留めた。
ドロップ品は何か液体の入った小さな瓶。
「蛇の毒が入った液体だと思うよ」とフロストが拾い、丸戸に手渡した。
「解毒ポーションはまだ10個以上あるが、残り5個くらいになったら引き上げよう」
蛇は強くはないが、噛まれると軽度の毒状態になる。
体力を奪われ、動きが鈍り、本来の力を発揮できなくなるのだ。
ここで長時間も活動する気にはなれず、出口を探す。
下への階層は1時間ほどで見つかり、13階層へ。
少し大きめの狼と紫の蛇のほかに、黒味を帯びた青いサソリが加わった。
背景色に溶け込んで認識しづらく、不意打ちをくらう冒険者も少なくない。
そのサソリが今、ちょうど目の前にいた。
30センチくらいの大きさで、ハサミと針状の尾をこちらに向け、威嚇している。
「やっぱり攻撃を受けると、毒とか麻痺状態になるんだろうな……」
過去に遊んだゲームのイメージから、そうつぶやく丸戸。
「撃つわよ」というリナの言葉で丸戸とフロストは身構え、サソリの動きに集中する。
火炎球が直撃した勢いでサソリは後方に転がったが、炎をまといながら前進してきた。
丸戸がサソリの背中を狙って槍を突き刺すと地面まで貫通。
槍から逃れようと身体を動かしていたが、やがて力尽きた。
「こいつも何か液体の入った瓶だね」と、フロストがドロップ品を拾う。
「魔法、あまり効かなかったのかしら?」
「衝撃で吹っ飛んで、じゅうぶんダメージが通らなかったんじゃないか? 外側の甲羅はたいして硬くなかったから、石の槍のほうがいいかもな」
「狼はともかく、蛇やサソリは毒をもらうとめんどうだね。たぶんドロップ品より、ポーション代のほうがかかると思うよ」
「Fランクで移動制限があるのも納得だわ」
蛇とサソリが多そうな階層は長居しないほうが良いと判断し、下層を目指すことを優先した。
他の階層と同様、階段の踊り場はいちおう安全地帯になっており、休息が取れる。
14階層への階段の手前にはすでに先着が1組いたようで、丸戸が代表して挨拶をして、離れた位置に座り込んだ。
ちょうど日付が変わる時間帯で、軽く食事をとることに。
自然解凍させたスモークチキンとチーズにバジルソースがかかったバゲットサンド、ゆで卵、インスタントのオニオンスープ。デザートはコーヒーゼリーだ。
他のパーティーもいるので、静かに食事を済ませ、壁にもたれて少し休んだ。
休憩を1時間ほどで終え、14階層へ。
ここでは狼の数が減り、クロスの森で見かけたサイズの小型のクモが現れるようになった。
噛まれると軽い麻痺状態にされるのだが、戦い慣れた相手だったので遅れをとることはない。
「見慣れた奴が出ると、なんか安心するね」とフロスト。
決して油断をしているわけではなく、的確にクモを撃退する。
順調に14階層、15階層と通過し、16階層までたどり着いた。
最初にダンジョンへ入ったときの1階層と同じような広い空間があり、魔物の姿はない。いくつか通路が見える。
すでに3つほどのパーティーが休憩していた。
丸戸たちも他のパーティーから離れた場所に腰を下ろす。
どの通路に入るかを相談した結果、1階層と同じく、東側の右の通路を選んだ。
通路はまっすぐ東に伸び、突き当たりで北に折れる。左右に部屋があるようで、扉のついたものとないものが見えた。
フロストが一番近くの扉を確認、罠がないことを伝えると扉を開ける。
部屋の中にはゴブリンが3匹、丸戸たちを認識すると迷うことなく襲ってきた。
斧を振り上げるゴブリンを丸戸が一突きで仕留め、もう1匹を牽制する。
短剣を持つゴブリンをフロストが切り倒すと、丸戸に気をとられているゴブリンの死角に回り込み、首を落とした。
死体とともにゴブリンの持っていた粗末な武器は消えてしまったが、別の場所に中古品っぽい短剣が落ちている。
「ドロップ品の剣のほうが質が良くて高く売れそうだね」と、うれしそうに話すフロスト。
部屋を確認して魔物がいたら速やかに倒し、通路を進む。
分かれ道はなく、道なりに進むと右手に大きく立派な扉があった。
静かに扉を開け中に入ると、左右の壁まで数百メートルはありそうな広い空間があった。
姿は見えないが、人の声や何かがぶつかったような音がかすかに聞こえる。
おそらく他のパーティーが、ここで魔物と戦っているのだろう。
岩や木、石の塔など障害物らしきものが見える。
真ん中を突っ切っていくのは避け、壁沿いに右側へ進む。
「うわっ!」
突然、狼が目の前に現れ、驚くフロスト。
狼も状況判断ができず、固まっている。
丸戸があわてて槍を突き刺し、狼を倒した。
「びっくりしたー! いきなり目の前に出るなんて思わなかったよ」
「ここはこれまでのダンジョンとは様子が違うみたいね」
まるでゲームだな……と、丸戸は思った。
オンラインゲームでは、狩り場で他のユーザーが倒すと、別の場所で新しい敵が出現するものがある。
延々と沸く魔物を倒して、経験値やドロップ品を稼ぐのだ。
想像通りであれば、この広い空間で倒した魔物は、扉の外の場所には出現しないだろう。
「たぶん、ここで冒険者はドロップ品を稼ぐっぽいな。俺たちも少し狩っていくか?」
「そうね。どんなものが出るか、知りたいわ」
「僕、どんどん倒して持ってくるよ」
「壁沿いを歩いても魔物とは遭遇しにくそうだな。ここから北上しよう。フロストは他の冒険者のほうには近づくなよ」
わかったといって、フロストが中央よりの場所へ駆けていった。
リナが東側の壁に近い場所を歩き、丸戸は2人の間で魔物を倒していく。
ゴブリンが多めだが、狼や大きな蛙といった魔物も混ざっている。
いずれも低ランクでも倒せる魔物だ。
ドロップ品を調べるため、少し様子を見るつもりだったが、休憩を挟みつつ、結局2時間くらい狩りをしてしまった。
ドロップ率は悪いのだが、狩りやすく、数多くを倒せるので、つい夢中になったようだ。
この広い空間の北側に扉があり、その先は通路で下層へとつながっている。
階段の踊り場では、2組ほどパーティーが休んでいた。
まだスペースに余裕があったので、丸戸たちも休憩する。
ダンジョンに入ってから、もう少しで半日が過ぎようとしていた。
事前に熱湯で暖めていたレトルトのおでんとハンバーグを皿に移し、パンを添えて食事をする。
他者の視線が気になるが、他のパーティーはこれから進むか引くか、ドロップ品はどれを持っていくかと話し合っているようで、こちらには興味がないようだ。
休憩を終え、丸戸たちは先へ進んだ。
17階層以降も似たような造りで、安全地帯らしき広間から道なりに進むと、広い空間の狩り場に出る。
ここもゴブリンが多い。しかも、剣や槍などちゃんと武装もしていた。
「なあ、気のせいか、ゴブリンの体つきが良いというか、ちょっと鍛えている感じがしないか?」
「そうね。森や集落で戦ったゴブリンは、もっと貧弱だったわ」
「たぶん、ゴブリンファイターとかゴブリンソルジャーと言われているやつだよ。僕は見たことないけど、聞いた話と同じ特徴をしているよ」
身長は150センチメートルあるかどうかというくらいだが、記憶にあるゴブリンよりも腕や太ももが太い。
思考回路までは強化されていないようで、単純に力任せで攻撃してくるだけである。
数匹のグループ単位で行動し、集落のときのように何十匹もまとまって向かってくることはなかった。
自分たちが知っているゴブリンよりは強いが、上位種というほど強いわけでもない。
この階層でもしばらく魔物のグループを倒し、ドロップ品を収集する。
ちなみにゴブリンのドロップ品は、数種類の武器だった。剣、槍、斧が多く、低ランクの冒険者が所持する程度のもの。そして極小サイズの魔石。
たくさん倒しても持って帰ることが難しいため、魔石以外は残していくパーティーがほとんどである。
「ひとつひとつはそんなに高くないけど、たくさん収集したから、どれだけの稼ぎになるか楽しみだね」
「前回は3人で60万Gほどだったけど、あれだけ狩ったんだもの。今回はかなりの額になるんじゃないかしら?」
「弱い魔物が無限に沸き、狩りやすい。素材収集や魔法の実験という説も、あながち間違いではないかもな」
ダンジョンの町へ向かう途中に聞いた話を思い出しながら、ドロップ品をすべてアイテムボックスに収納する丸戸であった。
 




