第40話 ダンジョン探索
シルバストの町に到着して3日目。
ダンジョンへは歩いても行ける距離だが、よほど金欠でもない限り、たいていの者は乗合馬車で移動する。
丸戸たちも料金を払い、ダンジョンの手前にある拠点に到着した。
目の前に濃い灰色の大きな岩山があり、そちらへ舗装された道が続いている。
道の脇にはお店が並び、割高だがダンジョンに必要なものが売られていた。
道の先には煉瓦造りの2階建ての建物が見え、扉は開いている。
前を歩く荷物を背負った冒険者パーティーが中に入っていた。
丸戸たちも後に続く――。
建物の中に入ると左右にカウンターがある。
「ギルドカードの提示と、こちらで手続きをお願いします」と、冒険者ギルドの男性職員が話しかけてきた。
これからダンジョンに向かう冒険者と、ダンジョンから戻ってきた冒険者で、カウンターが分かれているようだ。
ここで冒険者の入出管理をしているのだろう。リナがパーティーを代表して手続きをする。
洞窟へ向かう出口も扉が開放されており、扉の手前で通路が左右に分かれていた。
前日、冒険者ギルドで職員から聞いた話では、通路の先にはそれぞれ部屋があるという。
ダンジョンの内部にある部屋へ、行き来することができるそうだ。
初めてダンジョンに挑戦する丸戸たちはまだ利用できないため、正面の出口から洞窟に向かった。
洞窟内は照明があり、明るい。
壁は岩でゴツゴツしているが、足元は歩きやすいよう、平らに整備されていた。
一本道で緩やかに下り、平坦な道になったところで、サッカーができるくらの広い空間に出る。
「ここからはもうダンジョンみたいだな」
フロストは初めて入ったダンジョンに興奮しているようで、「うわあ、ダンジョンだ~」とキョロキョロ周囲を見渡していた。
丸戸とリナも地面や壁に手を触れ、観察する。
足元の地面も含めて、周囲は青っぽい灰色。一定間隔で照明らしきものが白く光っている。
魔道具の照明ほど明るくはないので多少薄暗く感じるが、ダンジョン内での活動に支障が出るほどでもない。
天井は高く、息苦しさはない。とくに暑くも寒くもなく、土の中にいるような臭いもせず、不思議な空間だ。
立ち止まって話しあったり、ダンジョン用の装備に着替えているパーティーが何組かいる。
丸戸とフロストも、鎧を脱いだ状態で軽装だった。
後続者の邪魔にならない位置に移動し、武具を装備しつつ、方針を確かめあう。
「まずは次の階層への入り口を探すのよね?」
「ああ。地図作成に慣れるまで、はじめは歩く速さをゆっくりめで頼むよ」
3人とも地図作成の経験がないので、丸戸が引き受けることにした。
先頭はフロスト、真ん中に丸戸、後方リナの並びで、広間の右にある通路を選ぶ。
通路は高さ、幅は5メートルくらいあるだろうか。壁は気をつける必要があるが、これくらい広ければ、槍で戦うことができそうだ。
まだ1層目で他の冒険者が先行しているのか、魔物と遭遇する機会は少ない。
ようやく出てきても、大きなネズミくらいだった。
フロストが一撃でネズミを倒し、一定時間が経過すると、ダンジョンの中に消えていく。
魔物を倒すとアイテムをドロップするみたいだが、ネズミからはとくに何も出なかった。
魔物が少ないこともあり探索は順調に進み、地下2階層、そして3階層へと階段を下りていく。
ナメクジみたいな魔物やクロスの森で見たよりもさらに小さなクモなど現れたが、難なく倒す。
「あっ、なんか地面に落ちてるよ」
クモを倒したフロストが気づいた。
極小サイズの魔石と何か液体が入ったガラスの小瓶が落ちていた。フロストが拾い、丸戸に手渡す。
「へえ、ダンジョンではこういう形で素材がドロップするのか」
しげしげと小瓶を眺めるが、透きとおった紫っぽい色の液体が何かはわからない。
「私も昔から話は聞いていたけど、ほんと不思議ね。どうなっているのかしら?」
「解体とかしなくて素材を得られるから、楽でいいよね」
5階層目からは狼や大きな蛙が出現するようになった。単体か多くても3匹くらいなので、遅れを取ることはない。
「宿場町クリフで活動し始めたころだったら、苦戦していたかもね」とフロスト。
「そうだな。Gランクはダメというのも頷けるよ」
各階層間の階段にはそこそこ広さのある踊り場があり、そこで休憩をするパーティーが多い。
この場所は魔物が来ない安全圏のようだ。
丸戸たちも適度に休憩を取りつつ、下の階層へと進んでいく――。
7階層目からは、これまで見たことのない野菜や植物のような種類の魔物も現れたが、低ランクでも狩れるほど弱い魔物だった。
9階層の探索も終わり、10階層へ下る階段の踊り場で休憩する。そこには他のパーティーはいなかった。
「10階層には階層のボスがいる部屋があるんだ。一度入ると、勝敗が決まるまで出られないんだって。僕らなら大丈夫と思うけど、どうする?」
初めてダンジョンに来たパーティーは道順だけ調べて、後日改めて出直すこともあるそうだ。
「ボスしだいかなあ。ボスって何かわかる?」
「たしか狼って聞いた」
「狼って、クリフでよく狩っていた、あの狼?」
リナの問いに「うん」と返事をするフロスト。
「それなら、問題ないわね」
「よし。それじゃあ、少し休んだら倒しに行こうか」
ここまでたいした魔物は出てこなかったが、長時間歩いていたので疲れはある。
念のため、みな体力回復のポーションを飲み、装備を確認。
階段を下り、10階層を探索する。
他の階層に比べると狭く、魔物も見かけない。
やがて装飾された両開きの扉の前までたどり着いた。
「ここが階層ボスのいる部屋だと思うよ」とフロスト。
各自、魔法で自身を強化する。
「あわてないように、落ち着いて戦おう」
丸戸は自分に言い聞かせるように、2人に声をかけた。
扉を開けて中に入る。
体育館より少し広めの部屋に、狼が20匹ほどいた。
丸戸が右側、フロストがやや下がり目で左側に並び立ち、リナが後方に控える。
扉はすでに閉まっており、どちらかが全滅するまで開くことはない。
少し大きめの狼が吠えると、狼たちが襲い掛かってきた。
横に広がる狼に向かって、リナが小サイズの石の槍を頭上に浮かび上がらせ、何本も撃ち込む。
先にできるだけ多くの狼にダメージを与えることを優先し、威力よりも手数と速度を重視したのだ。
致命傷には至らないが、多数の狼が負傷し、中には転倒する狼もいた。
丸戸は接近する正面の狼に雷魔法を浴びせ、残った狼を槍で仕留める。
フロストはリナからあまり離れないよう位置取り、自身の正面と丸戸の左脇を抜けてきた狼を双剣で切り倒す。
劣勢に焦れたか、大きめな狼がフロストのいる左側から回り込んで接近してきた。
リナが即座に石の槍を射出するが、狼は右サイドにステップしてこれをかわす。
しかし、かわした位置にフロストが待ち受けており、前足に強烈な一撃をくらわせた。
狼は倒れこみながら、勢いよく壁に衝突。
すぐさま起き上がろうとするも体がいうことをきかず、立ち上がれない。
フロストが警戒しながら近づき剣を突き刺すと、狼は間もなく息絶えた。
残りの狼も掃討し、狼の死体が徐々に消え、ドロップ品だけが残る。
毛皮や牙、魔石のほかに、毛皮のマントや銀色のメダルのようなものが落ちていた。
これらも時間経過で消失するので、3人でドロップ品を拾い、丸戸が収納する。
「それ、ダンジョン移動用のアイテムだよ」
フロストがメダルを丸戸に渡しながら、説明する。
「こんなので移動できるんだ?」
「話を聞いただけで、僕も使ったことないけどね」
「あら? あそこに何かあるわ」
先ほどまで何もなかった奥の扉の前。そこに何かあるのを、リナが見つけたようだ。
3人は扉のほうへ駆け寄った。
 




