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第4話 お金はやがて尽きる

 丸戸が召喚されたシンディヤナ国の隣にあるエンフェルデ国の王都、ブレモントに到着した。

 町に入るための列に並び、乗客と積荷の簡単な検査を終え、馬車の手配所前で下車する。

 馬車の近くには照明があるため明るいが、日没で空は暗かった。


「皆様、お疲れ様でした」


 馬車を降りたところで、従業員が出迎える。

 ここからは自由行動だが、乗車券はまだ有効で乗客用の宿泊施設に一泊できるとのこと。

 宿泊希望者は受付にて手続きをし、そうでない者は従業員に乗車券を渡し、自分の荷物を受け取って解散。


 このまま自由行動する乗客の二人が先に荷物を受け取り、皆に挨拶をして去っていった。残りの丸戸とミハエルを含めた四人も順番に荷物を受け取り、部屋の鍵を受け取るため、受付に向かう。


 前に馬車の手続きをしたときにも施設を利用しているが、建物内部の作りは似たようなもの。

 さっそく部屋に移動しようとしたところで、先に手続きを終えていたミハエルに声をかけられた。



「レイ、君から薬草を譲ってもらうことで、私は他の材料を採取する余裕ができた。おかげで良いポーションが作れたよ。少ないけどお礼に受け取ってくれ」


「いや、こっちこそ色々教わったお礼だから。レッスン料を払いたいくらいだよ」


「作る予定のなかったポーションを作る時間ができたから、レッスン料はじゅうぶん稼がせてもらったさ。これから先、何かあった時のために持っておいてほしい」


「ありがとう、それじゃ困ったときに使わせてもらうよ」



 ミハエルは価値観のズレや一般常識の欠如から、丸戸が別の大陸から来たと思って、心配してくれているようだった。強く断るのも悪いので、素直に好意に甘えることにした。


 ポーションの使い方、効果について教えてもらい、さらに少し話した後、二人は別れてそれぞれの部屋に向かった。




 丸戸が泊まる部屋は個室で四畳ほどの広さ。ベッドに小さな机と椅子があるため狭い。宿泊するだけなら、このサイズで十分なのだろう。

 部屋には魔道具を使った照明をはじめ、トイレとシャワーもついている。


 旅の間のご飯は朝と晩だけ。日中、空腹を感じたときに、保存食のパンや干し肉を少量食べるくらい。

 今日は朝食の後、何も食べていなかったので、さすがにお腹がすいていた。


 異世界に来た初日の夕飯は、リュックサックの中に日本で買った助六寿司と餃子があったが、今はもうない。

 ペットボトルのお茶2本も飲みきってしまい、今では水筒代わりになっている。

 旅の途中はみんな同じ場所で食事を取っていたので、どこで食事をするか考えることはなかった。


 ここには食堂があるみたいなので、今夜と明日の朝はそちらで食事をするが、今後の衣食住を考えなければならない。



 食堂で夕食を済ませた丸戸は、部屋に戻ってから食費や宿泊費について考え込む。


 パンと野菜とスープがついたステーキセットで500G。

 宿場町でも同じようなメニューで金額もほぼ一緒だったから、外食すると最低それくらいはかかる。宿泊すると朝食が無料だったり、割引サービスを受けられる宿屋もある。

 馬車の旅ではなるべく安いものを選び、1日の食費は600Gから800Gだった。


 宿泊費は一泊3千Gくらいが良いと、ミハエルが言っていた。2千Gだと、なにかしら欠陥があるらしく、1千Gともなると論外。

 1か月単位の泊まりで、大きく割り引いてくれる宿屋もあるそう。

 賃貸もあるが、契約期間が1か月単位で、初めにまとまった金額を支払う必要がある。



 食費で少し減ったが、宰相からもらったお金は9万5千Gほど残っている。かなり切り詰めても2か月は持たないかもしれない。


 日本で就職してからは、あまりお金を使わないようにしていたが、そのころと同じくらいの生活は送りたいものである。



(どうやって生計を立てていくか、考えないとなぁ)


 丸戸がシンディヤナで能力を調べられたときのスキルは、【算術】【接客】【料理】【目利き】【言語理解】、あと【レコメンドシステムセット】。


 学生時代、数学の成績は良いほうだったし、仕事でお金の計算もするから、算術のスキルはわかる。

 接客も得意とは思っていないが、仕事で身についた技能という扱いなのだろう。


 料理はわからない……。

 バイトで多少経験はあるが、基本的には冷凍食品を温めなおし、盛り付けるだけ。あれを料理というのは違うと思う。

 食べ物を扱った情報番組やドラマ、漫画は好きで見るし、一人暮らしだから自炊もするけど、料理が好きかと聞かれると、そうでもない。


 目利きもどういった理由か、見当がつかない。自分の興味ある分野についてなら、違いが分かることもあるが、目利きってほどでもないし。


 言語理解もよくわからないスキルだ。こっちの人と話ができる、文字も読めるので便利ではあるが、文字は書けない。

 召喚された者と話ができるように、魔法でもかけられたのだろうか?


 そして一番の謎はレコメンドシステムセット。


 最近は遊んでいなかったけれど、それなりにゲームはしていた。作品によっては特殊な固有スキルというのもあったが、今まで聞いたこともないスキルである。

 まぁ、ゲームのほうの固有スキルも、説明文を読まないと理解できないものも少なくなかったので、そういうものなんだと無理やり納得する。


 こういった場合、使ってみればなんとなくわかるということもあるが、そもそも使い方がわからない。思いつくことを適当に試して、移動中に事故でも起こしたりしたら洒落にならないと、自重していた。



「カタカナを日本語で直訳すると、レコメンドは……おすすめという意味しか思いつかないな。システムは仕組みでいいか? セットは置く? いや、ランチセットみたいな意味のほうのセットか? だとすると、組み合わせとか一式?」


 丸戸は言葉を当てはめていく。


【おすすめ・仕組み・一式】


 儀式みたいなことをして魔法を発動させるのだろうか?

 ゲームで言えば、ガチャのコンプリートみたいなものとか?


 おすすめの部分も、自分が欲しいもの、必要なものと仮定すると、今欲しいのはお金である。

 何かを収集すると、お金が一杯に増えるとか、高価なものがもらえる……だったら、いいんだけどな、と妄想する丸戸。


(そういえば、不思議なボールを7個集めたら願いがかなうという漫画があったっけ。それだったら、日本に帰してもらいたいんだが、まさかそんなわけないか……)



 他のスキルが多少なりとも自分と関係性があったことを考えると、【レコメンド】も単なるおすすめではない気がする。

 仕事関係で人におすすめしたり、提案することもなくはないけど、圧倒的に多いものがあった。

 それはニュースサイトやオンラインショッピングの【あなたにおすすめの○○】である。


 おすすめの記事や商品はけっこう見ていた。

 であれば、何か行動したり利用すると、【あなたにおすすめ】と提案されるのだろうか?



 仮にそうであった場合、システムセットの部分がまたわからなくなる。

 提示されたおすすめが欲しければ、システムセットに関係する行動をするのか、それともおすすめされた何かを集めれば良いのか?


 そして、この世界に来てまだ一週間ほどしか経っていないけれど、何かをおすすめされた形跡はない。

 言語理解のように常時発動するスキルじゃないなら、おすすめされるよう、目利きを使うときみたく強く意識してみたり、魔法の呪文みたいなものが必要なのかもしれない。



 時計を見たら5時を回っていた。

 旅をしてわかったことの一つに、時間がある。一日の時間は地球と大差がない。


 太陽の位置や影の向きなどで、鐘を鳴らして時を告げるようで、こちらの世界との時差は6時間前後であること。

 よって、今は23時過ぎになる。あれこれ考えているうちにだいぶ時間が過ぎていたようだ。


 明日は宿を探し歩くから、しっかり休まないと。丸戸は照明を消して、眠りにつくのであった。

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