第39話 ダンジョンの町へ
丸戸たちが依頼の報告を終えると、ちょうどエドも冒険者ギルドに戻っていた。
「あっ、エド。戻ってたんだね」
「ああ、先ほどな。集落制圧の確認が取れたんで、責任者と一緒に馬で戻ったんだ」
「エド、預かった野営用具を返したいんだが、今ここで渡しても平気か?」
大丈夫とのことで荷物を取り出す丸戸。
「これはエドのものだ」といって、集落で得た報酬も渡す。
個人的に何か預けたっけ? と中身を確認したエドは驚き、返そうとする。
「パーティーで行動したんだから、それはエドのぶんだよ」
「誰かが報告に行く必要があったわ。その人だけ報酬なしなんて、おかしいわよ」
フロストとリナからもそう言われ、少し照れくさそうにお礼を言いながら、エドは報酬を受け取った。
「お前らがここにいてちょうど良かった。集落制圧ぶんの報酬も支払われるからな。今報酬の準備などしているはずだから、それまで待っていよう」
待ち時間の間、シルバストのダンジョンについて話していた。
「ゴブリンの集落を潰せるくらいなら、低階層より先へ進めると思うぜ」
「僕らまだFランクだから……」
「なあに、中に入っちゃえばわからねえさ。ランク制限といっても、絶対厳守しなければならないもんでもないしな」
「俺、Gランクだから、中に入ることすらできない……」
「そ、そうだったな。でも、同じパーティーならランク関係なく入れるんじゃなかったか?」
エドの話によると、パーティーがGランクばかり、あるいは何人かいる場合は入れないらしいが、一人くらいなら大丈夫だった気がするとのこと。
記憶があやふやなので、確かではない。あとで職員に聞いてみろという。
「とりあえず、行くだけ行ってみる?」
「もし俺が入れなかったら、2人だけで探索して、後で話を聞かせてくれるだけでもいいよ」
「レイがいなきゃ、探索なんてたいしてできないよ」
「あまり探索できなくても、ダンジョンでは何が必要かとか経験できるだろう? それを後で活かせればいいさ」
そんなことを話しているうちに、エドが呼ばれた。
丸戸たちも彼についてカウンターに向かう。
報酬は1人50万Gだった。
廃村の生活痕とゴブリンの死体の多さから、集落があり制圧されたことが事実として認められたので、大幅に増額されたとのこと。
制圧に参加する冒険者に支払うはずだった報酬や、Dランク以上の冒険者を呼ぶための予算の一部が、丸戸たちの報酬になったようだ。
報酬の受け渡しを終えたところで、シルバストのダンジョンについて質問してみた。
安全面を考慮して、できればEランク冒険者が1人はいたほうがいいということだったが、低階層ならFランク2人にGランク1人のパーティーでも大丈夫みたいだ。
「パーティーならGランクでも入れるようだから、ダンジョンに行くか?」
「僕、いつかダンジョン行ってみたいって思ってたんだ」
「今の私たちがどのあたりまで進めるか、ちょっと楽しみね」
こうしてダンジョンの町、シルバストへ向かうことが決まるのであった。
宿場町ネレスから北の方角へ、馬車1日から2日の距離にダンジョンの町シルバストがある。
以前、丸戸がシンディヤナ国の権力争いで誘拐された際、手助けしてくれたウィリアム・シルバスト伯爵が治める町でもあった。
丸戸が思うダンジョンは、ゲームのイメージしかない。
モンスターを倒してレベルアップ、お金を貯めたり、宝箱を探したり、中ボスを倒して高性能な武具を入手するといった感じだ。
すっかりそのイメージでいたが、こちらの世界のダンジョンが同じとは限らないことに気づいた。
ダンジョンの町への移動中の馬車で、丸戸は2人に質問をする。
「いまさらこんなことを聞くのもあれだけど、ダンジョンってどういうもの?」
「シルバストのダンジョンは不思議な転移装置があったりして、誰かが作ったかのようだって聞いたよ。そこにいろいろな魔物がいて、宝物なんかもあるんだ」
「人が住めない環境だったとき、神様が魔物をダンジョンに封じ込めたとか、最深部に魔物の王が眠っていて、魔物はそれを守っているとか、神に選ばれた者が鍛錬する場所とか、諸説あるわね」
「あっ、僕の町では魔物の素材を集めやすいように、神様がダンジョンを作ってくれたんだーって話が出たこともあったよ」
「私の町では、三大神が魔法の実験をするために、ダンジョンが作られたって話が流行ったわ」
「サンダイシンって?」
「最高神に仕える3人の英雄よ。三英神と呼ばれることもあるわね。この世界に人が住めるように魔物たちと戦い、役目を終えると神になったと伝えられているの」
「神聖魔法は三大神が作ったとも言われているよね」
「神聖魔法というのもいまいちよくわからないな……」
「言い伝えでは三大神がもともとある魔法を改良したり、新しい魔法を作ったのが神聖魔法とされているわ。昔は教会などの選ばれた人しか使えないと思われていて、今も高度な神聖魔法は一部の人しか使えないそうよ」
「へえ、そんな言い伝えがあるのか」
神様の存在はともかく、魔物や宝物、素材などが取れるなら、そんなにイメージからかけ離れたものでもないようだ。
丸戸たちは夕方遅くにシルバストに到着。
北東の大きな岩山にダンジョンがあり、シルバストの町はその付近にあった。
外壁は高いが、町自体はそんなに広くはない。
ここは冒険者が多く訪れることもあり、王都のような華やかさはなく、下町っぽい印象を受ける。
その日は指定宿で一泊。
翌朝、ダンジョンの情報や冒険者向けの宿を聞くため、冒険者ギルドへ向かった。
すぐそばにダンジョンがあるせいだろう。
よその冒険者ギルドと違い、依頼情報がある掲示板に群がる冒険者が少なかった。
ギルドの女性職員にネレスから来たこと、これからダンジョンに挑戦することなども伝え、おすすめの宿やダンジョンの注意点や利用方法について教えてもらう。
「あ! あれじゃない?」とリナ。
ギルド職員に教えてもらった『華月亭』を見つけたようだ。
青みを帯びた白い壁で2階建ての宿屋。さっそく中に入り、パーティー用の部屋を取る。
一泊5万Gでまずは10日間泊まることにした。
2階の部屋に案内された。部屋数は少ないが、料金の割にはけっこう広い。
ほとんどの客がダンジョンに行くので、毎日宿泊するわけでもない。そのぶん値段を抑えているそうだ。
2つの部屋にそれぞれベッドが2つある。必然的にリナが1人で使用するため、好きな部屋を選んでという。
単純に入り口に近いほうの部屋を丸戸とフロストが使用することにした。
まだお昼までだいぶ時間があったので、すぐにでもダンジョンを見てみたかったが、今日は冒険者向けのお店に行き、ダンジョンに必要な買い物をする。
逃走用の煙幕、魔物除けの魔道具、魔道具ランタン、罠解除用具セット、丈夫なロープ。
合計232万G。魔道具がそれぞれ100万Gと高かった。
丸戸とリナは魔力回復ポーションを3つずつ購入する。
ダンジョンの10階までの地図も売っていたが、10万Gと高い割りに内容は薄い。
上下の階層までのルートを線でつないであるだけで、どんなつくりなのかわからないのだ。
他にも野営用具や保存食、水筒などもあったが、それらは丸戸が所持しているので、買わなかった。
ついでに屋台で3種類ほど食べ物を購入。いずれもダンジョン産の動物系の肉の串焼きだ。
これらはダンジョンの休憩時にでも食べようと、アイテムボックスに収納する。
宿に戻ってからは明日の準備をし、早めに就寝するのであった。




