第38話 簡単なお仕事
ゴブリンの集落へ向かう冒険者ギルドの本隊で、丸戸たちは一晩過ごした。
翌日ネレスに向け出立し、日没前に到着。
依頼を受けた冒険者用の宿泊施設で各自の部屋に入り、久々のベッドで熟睡する。
翌朝、食堂で3人一緒に食事を取りつつ、今日の予定を話していた。
「すぐ集落を探しに出たから、ぜんぜん町を見てないわ」
「僕も初日に少し家のほうに顔を見せたくらいだよ」
「じゃあ、ギルドで依頼の報告をして、集落にあったものを査定してもらったら、宿の手配のついでに町を散策しよう」
こんな感じで予定が決まり、朝食を終え、冒険者ギルドへ。
冒険者の多くが集落に向かったので、人は少なかった。
時間を待つことなく、すぐに依頼の報告をする。
冒険者を率いるニルスから受け取った依頼に関する書類を、ギルド職員に渡した。
「集落の捜索ですね」
職員が書類を確認すると、奥の部屋から小さな袋をもって来た。
「こちらが報酬となります」とそれぞれ硬貨の入った皮袋を受け取る。中には9万Gが入っていた。
宿については依頼主であるネレスの役所が、この一件が完了するまで部屋を抑えているので、丸戸たちもまだ無料で利用できるとのこと。
集落制圧の確認が取れれば、さらに報酬を受け取ることになるので、しばらくこの町に留まっているようにとも言われる。
ゴブリンが持っていた装備品やお宝を査定してもらった。
前日にいちおうニルスに確認したら、取得品は冒険者のものということだったので、全部売るつもりだ。
結果はゴブリンの装備品が24万G、お宝は硬貨12万G、武器130万G、防具40万G、装飾品100万G、魔物素材30万Gで、合計336万Gだった。
今回報酬は4等分にする。1人多いのはエドのぶん。
魔石はパーティーでひとまとめにしているので、エド用に魔石17個と84万Gを皮袋に入れ、アイテムボックスに保管する。
ギルドで用件を済ませ、町を散策する一行。
南のロディールという町につながる道と、東のクロスウィッチ方面の道にお店が多いようだ。
以前、フロストが言ったように同じ宿場町クリフよりも、こちらのほうが栄えている。
丸戸たちの宿や冒険者ギルドは東街道沿い。フロストの宿屋は南街道ということで、そちらに向かう。
数日間の野営では、いろいろ足りない部分を感じさせられた。
水風呂や水浴びできるくらいの水と、それを入れる容器。魔道具のランタンやコンロとか。
借りた野営具に薪も入っていたが、アイテムボックスがあるなら、自前でそろえておいたほうがいいだろう。
食事もそれほどレパートリーがない。屋台で売っているようなものでも買い置きしたり、野菜なんかはスキルで購入したものではなく、その辺で売っている野菜でもいい。
丸戸はそんなことを考えつつお店をまわり、フロストの宿屋へたどり着いた。
宿の名前は『白翼亭』。壁は白く、L字型で3階建て。
丸戸とリナは挨拶だけでもと思ったが、フロストが「そんなのいいよ~」と頑なに固持するので、2人は笑いながら、道を引き返した。
途中立ち寄った店で、共同生活費から屋外用のテーブルと椅子、木製の食器などを購入。
丸戸がスキルで買った商品は品質が良いので、普段使いはもっと安いものでいいと、フロストとリナが選んだのだ。全部で2万Gもかからなかった。
ついでに飲食店で昼食を取ることにした。
「エドがいつ戻るかわかる?」
野営用具も報酬も渡せないので、丸戸がフロストに尋ねた。
「本隊が集落の確認をするまでは同行するみたいだから、2~3日かかるんじゃないかな?」
「宿の心配をしなくていいのは助かるけど、ちょっと暇になりそうね」
「何か依頼でも受けてみる?」
「ああ。ゴブリンを倒した後、野営とはいえ休息もとったしな。リナもそれでいいかい?」
丸戸が意思を確認すると、もちろんとの返事だった。
再び冒険者ギルドに向かい、依頼を確認する。
Gランクは雑用、一部の薬草採取、夜営時の見張りなどがあった。
Fランクも雑用、周辺の弱い魔物の討伐、近隣の運搬の手伝い。
Eランクは付近の村の護衛、魔物の討伐、遠方の運搬の護衛補佐など。
「どれにする?」とリナ。
「簡単に終わりそうなのは、近くにあるヨルグの村からこの町への運搬のお手伝いだね」
「簡単って、どれくらい簡単なんだい?」
「村で取れた野菜なんかを荷馬車に積み降ろす仕事だよ。いちおう護衛も兼ねているけど、そっちには魔物はあまりいないから、道中は自由なんだ」
「それで報酬は……6千Gか。俺たちもいつか護衛の仕事をするかもしれないし、そのときの練習と思えばいいかもね」
「ただ、問題が一つあって……」
リナが何かと聞いたら、出発が早朝なので前日までに村にいる必要があるとのこと。
村までは3人の足なら2時間もかからないようだ。
「魔物討伐なんかは日中ずっと活動するだろうし、荷物の積み降ろしは確かに簡単だな。移動もたいして負担じゃないし、これでいいんじゃないか?」
「泊まるところはあるの?」
「村で用意してくれるけど、宿とかに比べたら居心地は悪いと思う」
「なら、テントに泊まるか?」
「そうね、テント生活にも慣れたから、問題ないわ」
依頼を受けることにし、カウンターで手続きをしてもらう。
なお、報酬はパーティーでも6千Gは変わらず。
本来は力仕事が得意な冒険者が、一人で受けるような仕事であるからだ。
丸戸たちは報酬は二の次であったため気にせず依頼を受け、村に向かった。
町に留まるよう言われていたが、依頼でこの町に戻ってくるので問題ないだろう。
エンフェルデ第二の都市ロディールをつなぐ街道。道幅はそこそこ広く、整備されている。周囲は草原で、ぽつぽつと樹木も見える。
その辺でテントを立ててバーベキューをしたり、自転車でサイクリングするには良さそうだ……などと思いながら、丸戸は歩いていた。
夕暮れ前にヨルグ村に到着。木製の柵で村の周りを囲っているが、ところどころ空間もある。
この辺は魔物が少ないみたいなので、それでじゅうぶんなのだろう。
木造の家屋がほとんどで、いかにも村という印象だ。
村人に依頼者であるゴランの家を教えてもらい、訪ねた。
家の中から、中年の男性が出てくる。身長は低く、太め。あごにひげをたくわえている。彼が依頼主のゴランだった。
「依頼を受けてくれるのはありがたいが、まさか3人もくるとは思っていなかったな。いつも冒険者には空き家を使ってもらってたが、せいぜい2人が寝られる程度なんだが……」
「テントを持ってきているので、気にしないでください」
寝泊りの問題が片付き、依頼の話をする。
丸戸たちは日の出前に荷物を積み、町へ移動。町に着いたら荷を降ろす作業をして依頼完了となる。
仕事の時間になったら呼びに行くが、早く起きたらゴランの家に行くこと。
道中は好きに過ごしていいそうだが、何かあったら助けるようにと言われる。
夕食は分けてくれるというので、ありがたくもらうことにした。あとで空き家に届けてくれるそうだ。
話を終えると、空き家に案内してもらう。4畳くらいしかスペースがないが、いちおうトイレと流し台はあった。
空き家のそばの平坦な場所に、テントを設置。村人が夕食を持ってきてくれたので、お礼を言って受け取った。
翌日未明、日が昇る前に起き、身支度をする。準備ができた者から手早く食事を済ませ、テントを撤収。ゴランの家へ向かった。
ゴランもすでに起きていて、丸戸たちを仕事場となる倉庫へ案内する。
倉庫の前には荷馬車が2台あり、「こっちのは、この荷台に。あちらのはもう一台に積んでくれ」とゴラン。
空が明るくなり始め、村人が商品となる野菜を持ち込んでくる。
それをゴランともう一人の男性が品定めして、買い付けるようだ。
「じゃあ、重そうなものは俺が運ぶから、2人は軽いのを運んでくれ」
丸戸がスキルのアイテムボックスを使って、倉庫内の荷物を荷台に移す。
野菜だけでなく、瓶に入った何かの乳もあった。
あっという間に作業が終わり、5時前に出発。
2台の荷馬車の後ろに3人が並んで歩く。
早朝のひんやりとした空気が心地よく、仕事というより散歩している気分だ。
「この辺は盗賊も出ないの?」とリナ。
「盗賊が出ると、ロディールにとっては物資の運搬に支障が出るからね。報告があれば、領軍が全力で捜索して全滅させるんだって。だからここらで馬車や村を襲おうと考える盗賊はいないよ」
ネレスからかなり西へ進んだ先、もしくはダンジョンの町シルバストの北方。いずれも他国との国境付近で 盗賊が多いそうだ。
ネレスには8時ごろに到着した。取引先の店と市場の倉庫に荷物を降ろし、依頼は完了。
手伝いの人数が多いぶん仕事が早く終わったと、ゴランが笑顔で依頼書にサインをしてくれた。
そのままギルドに向かい、書類を提出、報酬6千Gが支払われる。
「一人だと受ける気にならないけど、パーティーならこういう依頼もいいわね」
「パーティーだと収入が低すぎるよう。でも、楽な仕事でランクポイントがたまると思えばいいかな?」
「ランクあがっても依頼や収入はあまり変わらないし、ポイントなんてあまり考えたことなかったよ」
「ダンジョンって確かランクの制限があるよね? 行こうと思ったとき入れないと困るから、レイもなるべくランクは上げといたほうがいいわよ」
「うん。いちおうEランクから。シルバストの低階層ならFランクも入れるよ」
「そんな制限あるの? 自己責任で入らせてもらえない?」
「入れるところもあるけど、シルバストみたいに町を作って管理しているようなダンジョンは駄目だと思うよ。たぶん入り口で止められる」
「そうかあ。シルバストってここから近いんだよな。せっかくそばまで来たんだから、ちょっと見てみたかったが、しょうがないか」
「なんだお前ら、今度はシルバストに行くつもりか?」
丸戸たちが声のしたほうへ振り向くと、そこにはエドがいた。




