第36話 ゴブリンの集落
ゴブリンの集落を確認したら、全員戻って報告するというのが今回の任務だった。
しかし、丸戸たちは集落を潰すためにこの依頼を受けたので、どうにかエドを納得させ、彼一人を報告に戻らせた。
装備は一番新しいものに替え、作戦を話し合う。
「ゴブリン相手なら、一番慣れた三角形の並びで乗り込もうと思うんだけど、どうかな?」
「地形も数もわからないから、そのほうが良さそうね」
「僕もそれでいい。オークと違って、素材のことは気にしなくていいのが助かるよ」
「戦闘が長引いた場合のことも考えておいたほうがいいわね」
「そうだな。負傷したり、途中で疲労を強く感じたなら、遠慮なく教えてくれ。あまり長くかかるようなら、いったん引こう。3時間、ええと、ろうそく3本分の時間が経過したら、俺が拾った岩や倒木を出して障害物にする。それを撤退の合図にしよう」
2人がうなずき、それぞれ装備の確認をする。
肉眼で拠点とわかる位置まで来ると、周囲をうろつくゴブリンと強制的に戦闘となった。ほとんどをフロストが倒し、丸戸は余裕があれば死体を収納。
何組かのグループを倒しながら、集落の少し手前に到着する。
何十年も前に廃村となったようで、村を囲むような柵や壁はなく、周囲は荒野が広がっている。ボロボロな家屋が数軒見え、とても人が住めるような環境ではない。
すでに丸戸たちの存在は気づかれ、集落の中ではゴブリンが集まりだしていた。
各自、身体強化やダメージ軽減、障壁の神聖魔法を張り、後方中央にリナ、右前方に丸戸、リナの少し前の左側にフロストが陣取る。
お互い一定の距離を保ちながら東側から前進すると、多くのゴブリンが怒声をあげながら丸戸たちに襲い掛かってきた――。
100匹とまではいかないが結構な数の先頭集団が、勢いよく接近してくる。
射程内に入ったことを認識したリナが杖を掲げ「フレイム!」と唱えると、約100メートル先の集団へ向けて、大きな火炎が放たれた。
何匹ものゴブリンが炎に巻き込まれ、悲鳴をあげて倒れる。
さらに上空に石の槍が複数出現し、接近してきたゴブリンに撃ちこまれた。
ゴブリンはFランクの冒険者でも討伐依頼を受けられる魔物であり、基本的に弱い。
高価な装備で魔法の威力が上昇したリナの火炎と石の槍の連射攻撃で、先頭集団の半数近くを戦闘不能状態にした。
丸戸とフロストも強力な武器を持つため、ゴブリンにとっては一太刀受けるだけで重傷となる。
丸戸は囲まれたらなぎ払いと雷属性の追加攻撃で一網打尽。直接攻撃が届かず、横を通り抜けるゴブリンには雷魔法で動きを阻止した。
対集団戦において最大火力となる魔法使いのリナを守るように壁となって立ちふさがり、ゴブリンを近づけさせないことに専念する。
フロストも2本の剣を操り、ゴブリンの急所を狙って素早く倒していく。
時おりリナのほうを確認し、フォローの必要がなければ、丸戸と同じく前に位置取り、次々とゴブリンを屠ると定位置に戻る。
複数体への攻撃手段がないフロスト側に多くのゴブリンが寄せれば、リナが魔法で対応。
リナは大小の石の槍を使い分け、丸戸とフロストの攻撃範囲外、あるいは2人の間を抜けてきたゴブリンを撃破。
ゴブリンも弓や魔法で遠距離攻撃してくるが、精度が悪く、同胞が犠牲になるだけだった。攻撃を当てようと近づいたところを石の槍を浴びる。
3人は攻守のバランスを取って戦い、それほど時間をかけずに先頭集団を壊滅させた。
2つ目の集団が向かってくる。
1つ目の集団の結果を見て、左右に分かれて前進すれば魔法による被害は片方で済むのだが、そう考えて行動できるほど、ゴブリンたちは頭が良くなかった。
リナの攻撃魔法を防ぐ手段もないため、接近する間に半数を失う。
そのタイミングを計って丸戸が前進。攻撃魔法によって多数の味方が倒れたところで、不意をつかれ無防備な状態だった。
丸戸はその場に残っていた無傷の集団に雷魔法で追い討ちをかけ、すぐさま離脱。
これにより先ほどの集団よりも時間がかからず、2つ目の集団が撃退される。
それを見て後方に控えていた3つ目の集団が接近してくるも、ゴブリンには戦況を覆すだけの戦力は、すでになかった。
遠距離からの攻撃魔法で狙い撃ちされ、次々と地面に倒れていく。
前方にいたゴブリンの壁がなくなり、丸戸の視力でも奥のほうに大きなゴブリンの姿が見えた。あれがこの集団のボスかもしれない。
フロストも気づいたようで、丸戸をチラッと見る。
(劣勢となり、逃げられて別の場所に集落を作られても困るな)
丸戸が左手で前方に手を伸ばすと、フロストは頷いてその場から離脱、単独行動に出た。
丸戸とリナはその場に留まりゴブリンの相手をする間に、フロストがゴブリンのリーダー格を狙いにいったのだ。
やがてゴブリンたちの行動がバラバラになる。
戦闘中の丸戸とリナには聞こえなかったが、ゴブリンのリーダーが悲鳴を上げて、倒されたようだ。
悲鳴の聞こえた方向へ向かう者、どこかへ逃げ出してしまう者、変わらず丸戸たちに襲い掛かる者。
徐々に抵抗するゴブリンが少なくなり、内部に向かって前進する。
逃げようとするゴブリンをリナが優先的に倒していると、フロストが戻ってきた。
「仕留めてきたよ。ホブゴブリンだった。武器とか装飾品なんかもいくつかあったから、あとで回収して」
「リーダーが倒されたと知って、ゴブリンたちも急に乱れだしたよ」
「フロストもゴブリンが逃げ出す前に、どんどん仕留めちゃって」
「うん、わかった。僕は北側に回って片付けてくるよ」
「じゃあ、俺は南側に回りこもう。リナはこのまま東側を頼む」
3人が別行動を取ってから1時間もかからずに、集落に残っていたゴブリンたちは全滅した。
フロストとリナは魔石や武器の回収、丸戸も武器を拾いつつ、ゴブリンを2つに区分けしてアイテムボックスに収納していく。
「魔石持ちっぽいのだけ出すから、頼めるかい?」
「うん。でも、そんなのわかるの?」
「解体して取り出しているのを見てたせいか、なんとなくね。まあ、信頼性は欠けるけど」
「少しでも確率が高くなるなら助かるよ。あ、解体用に着替えたいから、僕の荷物袋、出してもらえる?」
汚れてもいい、普通の服に着替えるフロスト。
丸戸はその間、ゴブリンの死体を並べて、それが終わると、武器とお宝の回収に向かった。
丸戸とリナがフロストの所へ戻ると、すでに魔石も取り終えていた。
「レイ、すごいね! 50体以上あって、外れは3つだったよ」
なんのこと? と、首を傾げるリナに、フロストが興奮気味に説明した。
目利きのスキルが、効果的だったようだ。
「ゴブリンを俺のほうで処分しちゃ、まずいよな?」
「そうね。集落に来たギルドの人たちが、何もないのを見たらどう思うか考えると……」
「僕が冒険者になる前に今日あったことのお話を聞いたら、ゴブリンたちはどこかに移動したと思っちゃうよ」
「かといって、これだけの数を数日間、放置するのもなあ」
「みんなが来るまで保管しておいて、近くまで来たら取り出す?」
「出すぶんには一瞬だから、それがいいかな」
集落の外にあるゴブリンの死体や武器もすべて回収し、集落から3kmほど離れた距離で夜営の準備をする。すでに夕方となる時間帯だった。
「なあ? 俺たちも戻って報告したほうが良くないか?」
翌日の朝食時に、丸戸が2人に意見を求めた。
「集落は潰したから冒険者を集める必要はないって僕も思うんだけど、信じてもらえるかどうか……」
「町の出身者のフロストがそう言っても、駄目なのかしら?」
「Fランクの冒険者だからね。仮にEランクのエドがそう言っても、すぐには信じてもらえないと思う」
「俺たち3人が戻って、ゴブリンの死体を見せればどうだ?」
「それなら信じてもらえそうだけど、確認のために集落へ冒険者のグループをいくつか向かわせるんじゃないかな」
「結局、冒険者が多くくるか、少ないかの違いしかないのね」
「無駄にお金や時間をかけないほうがいいだろうと思ったんだが、自分たちの行動を信じてもらうためにあれこれ考えるのもなあ……」
「元々報告が任務だったしね。冒険者を集めてこちらに向かわせるのにお金もかかるだろうけど、そこは僕らが考えなくてもいいと思うよ」
報告を受けて、他の冒険者が来るのは3日後。それまでとくにやることがない。
野営に使えそうなものはないかと周辺で大きな岩や、集落で木材や、竃の石などを集めた。
野営地に戻ると、リナは魔法で堀をつくる。魔力消費の関係で少しずつしか掘れないのがもどかしいと思いながら、周囲を堀っていった。
丸戸もリナを見て、地面を収納すれば穴が掘れそうと思い試したが、穴を掘るより表面を削るといった感じで、きれいに掘れない。
そこでリナの掘った穴に入り、反対側から土の壁を削るように収納すると、今度は思ったとおりに削れたので、そのまま堀を広げていった。
リナは掘ったぶんだけ魔力を消費するが、丸戸はそうではない。大半を丸戸が作業することで掘り方を学習し、周囲に堀ができた。
掘った土と集落で集めた木材や岩で、障害物や壁を作る。
魔物は幅2メートルの堀と高さ2メートルの壁を一気に飛び越えるか、バリケードのある南側から入るしかない。
夜間はバリケードの背後に木の板と岩で塞ぐので、この周辺の魔物では入り込む隙がなくなる。
念のため夜間も誰かが起きてはいるが、壁の存在で心理的負担も減り、数日の間なら、問題なく過ごせるようになった。
キャンプ生活の影響か、丸戸のおすすめにも関連商品が表示され、ついに2万以上する商品も表示される。
【テント 2部屋タイプ 22000】【テント 6人用1ポールタイプ 26000】【ドラム缶 8000】
テントは前日にも8千Gのものを10点買ってしまったばかり。今回は3点ずつ買うことにした。
せっかく買ったので、翌日以降、それぞれ設置して使い勝手を試しつつ、時間をつぶす3人であった。




