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第29話 競売に出品する条件

 クロスウィッチの商業ギルド副ギルド長オリビアからの誘いを受け、丸戸たちは商業ギルドを訪れていた。

 入って右側のカウンターに進むと、前日冒険者ギルドにいたビビという女性が待っていた。


「皆様、こんにちは。本日はギルドまでお越しいただき、ありがとうございます」

 少しオレンジがかった金髪を後ろにまとめた小柄な女性、ビビに案内され、副ギルド長の部屋に入った。

 丸戸たちの姿を見てオリビアが自分の机から立ち上がり、迎え入れてくれる。


「よく来てくれました、レイ様。そちらのお二方は初めましてですね。副ギルド長のオリビアと申します。よろしくお願いしますね」


 やわらかい表情で挨拶するオリビアに、手短に2人を紹介する丸戸。

 室内は大人の女性が好みそうな落ち着いた雰囲気の部屋で、商談をするためのソファに腰を下ろす一同。テーブルにビビが紅茶を出してくれた。


「昨日、レイ様と面会後、商人たちとも話し合いを致しました。そこでレイ様たちのことは伏せ、商品を競売に出品しても良いと思える条件を、商人たちに考えてもらったのです。その結果がこちらです」


 そういって羊皮紙を数枚取り出した。

 そこには武器、防具、魔法書などの名前があり、横に数字が記載されている。


「商人たちは、ここにある商品なら記載されている料金で売っても良いとのことでした」


「あの、私には商品の料金がだいぶ安く感じるのですが……」


 リナが自分の勘違いかと、半信半疑でオリビアに尋ねる。


「はい、商人たちはこれらの儲けは度外視しても良いと考えるほど、レイ様の商品を欲しているようです」



 商人たちは仕入れの半値で商品を提供しているのだが、丸戸が知っているような商品はなかったので、どれだけ安いか実感できなかった。

 フロストもそこまで詳しいわけではないが、お店で買うより安いことだけは、わかるらしい。


「レイの商品は他の町でもそのうち買えるんだから、わざわざ売れる商品を手放す必要はないと思うんだけどね」

「そのぶん、安く購入するんじゃないかしら?」


 フロストとリナが率直な感想をもらす。


「その心配は無用です。商業ギルドで最低価格を設定して競売されますので、レイ様は通常の買い取り額よりも多くの売り上げが見込めます」



 丸戸たちは現在5千万Gほどの現金がある。これで買えるだけ買って、他者に倍額で売れば、購入した金額に応じて倍になって戻ってくる。

 今ここで購入してギルドに売れば、それだけで数千万Gが稼げるだろう。

 そのお金で欲しい商品を買っても良い。丸戸にとってはまったく損のない話だ。

 昨日、副ギルド長は良い案を考えてくるとはいったが、あまりにも条件が良すぎて、逆に怖い。



「こちら側に有利すぎると思うのですが、商人側からなにか条件はあるのですか?」


「いえ、特には。ただ、できる限り商品を提供して欲しいそうです」


 目先の利益を逃しても、丸戸の商品を仕入れたいようだ。


「種類を多くということであれば、それなりに時間がかかるので、少し相談させてください」


 この話を受けると、今後の予定が変わってくる。丸戸一人の判断では決められないので、相談しようと思ったのだが……。


「相談するもなにも、商業ギルドの仕事をがんばるべきよ」


「こんな良い条件なんだから、相談する必要なんて、ないよね?」


「数日間は狩りに出られなくなるぞ? というか、話が都合よすぎて、怖いとか怪しいとは思わないの?」


「森の魔物はいつでも狩れるわ。このお話は今回きりでしょ?」


「商業ギルドが間に入っているんだから、怪しむ必要なんてないよ」


 2人の意見は、相談するまでもないようだ。

 クロスの森で稼ぐことができているので、少しくらい休んでも問題はない。


「え~、そういうわけでして、競売の話を受けようと思います」


「助かるわ。お二方も、ご協力ありがとうございます」



 こうして丸戸が競売に出品することが決定した。


 商品が書かれた羊皮紙はそのまま持ち帰って、購入するものを決めたら、いつでも取引をしてくれるそうだ。

 多少予算オーバーしても、商業ギルドが無利子でお金を貸してくれるという。


 この後、競売の期日や商品の受け渡し場所、お金の流れ、連絡方法なども説明される。

 出品の際に必要なものがあれば用意もしてくれるとのことで、要望を伝えて、この日は宿に戻った。




「じゃあ、俺は競売の準備をするから、2人は武器や防具でも選んでてくれ」


 丸戸は自分の部屋にこもり、商品の選定。リナとフロストは、羊皮紙を見ながら、自分の所持金で買えるものを選んでいる。

 食堂に行って食べる時間も惜しみ、お湯を注ぐだけのカップうどんで夕食を済ます3人であった。


 出品する商品のなかで、自分たちでキープしておきたいものは、共同生活費から購入。リナとフロストが個人的に欲しいものも含め、丸戸に支払われた金額は約25万Gだった。




 翌日、商業ギルド職員のビビが、丸戸たちの部屋に来ていた。出品する際に必要なものを持ってきてもらったのだ。

 ついでにどれだけの利益を得られるのか、気になっていたので聞いてみた。

 売ろうか、売るまいか悩む品もあり、あまり稼げないなら、無理して売る必要もないかと考えていたのである。


「具体的な金額はいえませんが、前回レイ様がお持ちいただいた石鹸でしたら、最低でも5万G、最高で10万Gくらいになると思います」


 前回提示された金額は2万Gだった。それが数倍になるという。にわかには信じられないが、自分より詳しい職員がいうのだから、そうなのだろう。

 ただ、どうしてそんなに高く売れるのか、気にはなる。


「石鹸以外も、同じように高く売れるのでしょうか?」


「すべて同じようにというわけにはいきませんが、普通にギルドで買い取るよりも、高く売れるのは間違いないですよ。というのも……」


 ビビの説明によると、今回は商業ギルドの取り分が、丸戸に上乗せされるのだ。


 商人たちに言わせれば、ギルドが買い取らなかったということは、儲けはいらないということ。

 自分たちが断った話に、儲けられるとわかってから割り込むな、その分を丸戸に上乗せすれば、彼にとっても利益になるだろう……と。


 そして商人たちは仕入れた商品の多くを、それぞれの得意先に売るつもりであった。

 つまり一般的な価格よりも高く売れるわけである。



 彼ら商人にとっての重大な点は、丸戸がどれだけ商品を出してくれるかだ。


 それには、丸戸が「これは儲かる」と思ってもらわなければならない。

 ギルドから丸戸たちが欲しそうなものを聞いていたので、安く譲ることは決めていた。

 しかし、それだけでは不十分ではないか、自分たちの取り分はそこまで多くなくて良い、丸戸が一番儲けられるようにと結論を出したのだった。


 ギルドが買い取るよりも、最低価格のほうが高いとは聞いていたが、そういう話になっていたとは思いもしなかった。

 自分が一番儲けられると聞いて、商品を出せば出すだけ稼げると判断。張り切って商品を選定する丸戸であった。




 その翌日にもビビが来て、競売の日程が8月の初日に決まったと報告される。

 会場は商業ギルド所有の施設で、そこに商品を保管するとのこと。

 丸戸が運んでも良いし、ギルドが受け取りに来ることもできるそうだ。


 競売開催日の2日前に、すべて持ち運ぶとビビに伝える。

 パーティーで商品を買う日時や、ギルドからの支援金などを少し話し、ビビは帰っていった。



「競売の日が決まったぞ。2人とも何を買うか、選べたか?」


「僕はだいたい決まったよ」


「私はまだ迷っているわ。欲しい魔法書を買うと、装備にまわすぶんがないのよね……」


「ギルドからは3千万Gまでなら無利子で借りられるってさ」


「え? そんなに借りられるの?」


 リナが驚きの表情を見せる。


「ここに来てからのパーティーの報酬を調べて、そのくらいの額までなら短期間で返せると判断されたみたい」


 丸戸たちは半月ほどで2500万Gを稼いでいた。1か月も活動すれば、余裕で返済できる金額だ。


「ぼ、僕、もうちょっと考えてみるよ」


「3等分すると、1人1千万Gまで借りられるってことよね。うわぁ、これはこれでまた悩むなぁ」




 丸戸は商業ギルドへ行き、競売に関わる職員に商品を実際に見せながら、取り扱い方や注意点を説明をする。

 リナとフロストは商品選びで悩みつつも、町の中でできる冒険者ギルドの雑用の依頼をこなしていた。


 予定通り、競売の2日前に商品の移送を済ませ、7月最終日は商人たちから買いたいものをいくつか決めて、一日を終えた。


 安く良い装備が買えるという興奮と、競売でどれだけの収入になるかという期待で、なかなか寝付けない丸戸であった。

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