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第28話 商業ギルドからのお願い

 7月も半ばに入った。

 クロスウィッチの町は日本より湿度が低いが、日に日に暑さを増す。


 前回の狩りで、報酬一人当たり100万G以上を得た丸戸たちは、この日も狩りをしに森に入っていた。

 中型のクモとオークを狙い、それ以外はできるだけ回避した結果、クモが15匹、オークが12匹と大量に仕留める。

 翌日に得た一人当たりの報酬は158万5千Gにもなった。


「前回より今日はもっと多くなると予想はしていたけど、これだけの報酬を受け取れるなんて、やっぱりまだ信じられないわ」


「Dランク中心の3人のパーティーが、運搬用に人を雇って、一人当たりの収入が20万Gを超えるくらいだって聞いたよ」


「これだけ稼げるなら、ポーションの値段を気にせず買えるな。忘れないうちに、買っておこう」


 丸戸が2人からお金を預かり、各種ポーションを買って他人に見えないよう、アイテムボックスにしまい込む。

 報酬を受け取る日は完全休養日にし、翌日に狩りの準備と雑用。休憩時の食事の用意や装備品の手入れ、他人に頼めない洗濯などをする。



 通算で5回目となる狩りでは、初めてクロスの森の熊に遭遇。

 4つ足時は突進、立ち上がったときは爪撃と、はじめは対処の仕方がわからずバタついた。

 立った状態では遠距離からリナの魔法攻撃。

 突進には丸戸とフロストが回避優先で熊の足元を狙い、少しずつダメージを与えて動きを鈍らせ、持久戦でなんとか討伐することに成功する。


 この日はもう1匹熊と戦うことになり、他の獲物を狙う体力が尽き、撤収。一人当たりの報酬は約125万Gと前回を下回ってしまった。


 しかし、左右どちらかの前足を負傷させれば、4つ足での突進時は速度も力も乗らない……と、自分たちなりの熊の対処法もわかったことで、6回目の狩りでは191万Gと大幅に収入を得ることができた。


 7回目の狩りでは古びた木製の宝箱に偽装した魔物を発見。

 森の中に宝箱が落ちていることが不自然であり、一発で魔物だとわかるのだ。


「じゃあ、ふたを開けるよ」


 横が60センチメートル、縦と高さが40センチメートルほどの宝箱のふたを、フロストが恐る恐る開けると、中は暗闇で、そこから黒い武器を持った影の人形みたいなものが現れた。


 直後に攻撃されるフロスト。

 魔物は1メートルくらいのサイズでリーチが短く、すんでのところで身をかわし、距離をとる。

 武器はシルエットから短い剣と判断できるが、人形と一体化して影のようにしか見えない。

 どうやら魔物は宝箱の闇の部分からは出てこられないようだ。


 魔物の攻撃範囲外から、丸戸が槍で攻撃しようとすると、魔物は魔法を詠唱し始めた。

 火の玉が放たれたが、距離があったのでこれもかわす。

 その瞬間、魔物にナイフと魔法による石槍の攻撃が命中し、魔物がうずくまった。


 丸戸も最大限の距離をとって、魔物に槍を突き刺す。

 魔物の動きが止まったかと思うと、宝箱全体が闇に覆われた。

 そのまま待機していると、やがて闇は薄まり、中から別の装飾の施された宝箱がふたを開けた状態で現れる。

 中は闇ではなく、ネックレスと銀貨がつまった袋、それに小さな魔石が入っていた。


「これがお宝か? お? 魔石は熊と同じサイズの大きさだな」


 角兎や狼から得た魔石が最小で、熊から得られる魔石はそれらより1サイズ上。

 買取額も2万Gとそこそこ高いが、買うと10万Gするので、丸戸たちは売らずに保有している。

 金銀財宝がつまった宝箱を想像していた丸戸は、やや拍子抜けしたようだ。


「袋の中は大銀貨ね……、ちょうど10枚あるわ」

「僕は宝箱が見つけられただけで満足だよ」


 GやFランクの冒険者であれば、これだけでもじゅうぶんなお宝なのだが、この3人にとっては騒ぐほどでもなかった。

 この日は前回よりも少し多い30匹を狩って、町に戻った。




 翌日、いつもどおり報酬を受け取りに行く丸戸たち。

 カウンターで手続きをしていると、別の男性職員が声をかけてきた。


「レイ殿、あなたにお客様です。応接室でお待ちですので、少しよろしいですか?」


「お客様って、誰でしょう?」


 丸戸は、以前の出来事が頭をよぎった。

 また権力争いか何かの揉め事に巻き込まれるんじゃないか……と。


「商業ギルドの方です。なにか相談したいことがあるそうですよ」


(わざわざここまで来て相談って、なんだ? 俺なんかに相談されても困るんだが……)



 職員に聞こうと思っても、相談事なら職員は知らないだろう。

「こちらの用件が済んだあとなら、話を伺います」そういって、先に報酬を受け取ることにした。


 魔物の討伐が661万8千G、魔石が極小サイズが11個、小さいものが5個、宝箱とネックレスの査定は2万Gと15万Gだった。

 この2つはそのまま買い取ってもらう。これに大銀貨10枚分を合わせ、計688万8千G、一人当たりの報酬は229万6千Gとなった。


 1日の狩りでとうとうDランク冒険者の10回分に相当する報酬を得るようになった。

 丸戸はこのあと応接室へ行くが、2人が大金を持って呆然とした状態で宿に戻るのは危ない。

 お金を預かり、あとで分配することにして、2人を帰した。




 応接室に案内されて入ると、2人の女性が待っていた。


「はじめましてレイ様、クロスウィッチ商業ギルドの副ギルド長オリビアと申します。こちらは部下のビビです。急にお呼びたてしまして、申し訳ありません」


 2人は頭を下げた。釣られて丸戸も頭を下げる。


「どうも、はじめまして。レイと申します。私がここに呼ばれた理由をお伺いしてもいいでしょうか?」


「はい、実は……」


 明るい茶色のセミロングの髪に、濃い水色の瞳、白い肌のオリビア副ギルド長が、事情を説明する。

 どうやら丸戸に商品を売ってもらいたいようだ。


 前に丸戸が売却した商品を他の商人が買い取ったのだが、一部の商人が丸戸が扱う商品だと気づいた。

 ブレモントではもっと高価な品も売却されていたのに、この町では低価格なものしかない。

 他の商品は売り切れてしまったのか、どんな商品が売られたのかなど問われ、高価なものはないと言っても、信じてもらえなかったそう。


 商人は親しくしているギルド職員にも話を聞き、この町では高く売れないから商談が成立しなかったと知った。


 丸戸の商品はブレモントでは飛ぶように売れた。この町で買い取った商品も、売れ行きは良い。

 商人はブレモントでどれだけ人気か知っているだけに、売れ残りを心配するなんて、なんと愚かな判断をしたものだと怒ってしまった。


 これに他の商人も同調。丸戸から商品を買い取れなければ、取引を中断するとまで圧力をかけてきた。

 多くが大きな商会の商人である。その影響力は計り知れない。



「商品は他の町で売りますから、なにも取引を中断しなくても……」


「商人にしてみれば、商業ギルドにせっかくの商機をつぶされたようなものですから、彼らの気持ちも理解できるのです」


「買取を担当してくれたギルド職員さんは、別に間違ったことをしたとは思わないんですけどねぇ」


 連日、次から次へと商品が持ち込まれ、売られていく。

 買い手が見つかるまで、気長に待つよりも、少し価格を落としてでも、早く売買を成立させる意識が強い。


 職員の判断はもっともだと思ったから、丸戸も納得して商品を売らなかったのだ。

 それを後から他人にゴチャゴチャ言われても……と困惑する。



「それでは、また時間が空いたときにでも、商業ギルドへ行けばいいんですね?」


「いえ、できるだけ早くというのが商人たちの希望でして。それに通常の買取ではなく、競売方式になります」


「えぇと、どういうことでしょう?」


「レイ様が持ち込んだ商品を、商人たちで競りをするのです」


「商品の相場なんて詳しくないし、商人とのやり取りだってわかりませんから、競売なんて無理ですよ」


「レイ様には商品を提出していただければ、雑事は我々で致しますので、どうかご安心ください」


「提出って、この前持ち込んだ3点で良いのでしょうか?」


「あの、他にもありましたら、ぜひお願いします」


「あるにはあるのですが、ちょっと考えさせてください……」



 商業ギルドで買取してもらうのが一番手っ取り早く楽だったので、丸戸はだんだんめんどくさくなってきた。

 そもそも他の商人の商売に、自分が付き合うのも馬鹿らしい。

 今は狩りをしてお金を貯めることを優先したい。

 商売はその後でもいいのだ。ブレモントに行けば、高く買い取ってもらえることもわかっているのだから。



「すみません、やっぱり商品を売るのは、以前査定してもらった3点だけで良いですか?」


「こちらとしても無理をいって心苦しいのですが、理由を聞かせていただいても構いませんか?」


「冒険者として活動しているときは、商売のことは後回しにしているのです。パーティーとしては装備品を整えるのにお金を貯めている最中ですが、今すぐお金が必要というわけでもないですし。他人の商売にまで付き合っていられないというのが理由ですね」


 理由を聞いて、何やら思案する副ギルド長。


「……わかりました。では、レイ様だけでなく、パーティーにとってなにか良い案を考えておきますので、明日、商業ギルドのほうに皆さんでお越しいただけますか? それでも無理なようでしたら、商品3点でお願いします」


 丸戸が時間を尋ねると、朝一番の鐘が鳴った後なら、いつでもいいとのこと。カウンターで副ギルド長と面会の約束をしていると言ってくれれば、職員がそのまま案内するという。


 また明日ということで、宿屋に戻った。



 部屋のドアをノックする。ドアが開いてリナが出迎えてくれた。


「商業ギルドのお話終わったのね? ちょうどいい時間だし、ご飯食べに行きましょ」


 フロストもおかえり~と言って、部屋から出てきた。

 食事に行く前に、パーティーの報酬を分配する。


 2人は必要な額を受け取り、残りを丸戸に返す。どこかにしまうよりは、丸戸に預かってもらったほうが安心できるのだ。

 また誘拐されても困らない程度のお金は、自分たちで管理している。


 冒険者ギルドでも預かっているが、町を移動するときは全額引き出し、持ち出さなければならない。

 預けるにも引き出すにも手数料がかかるので、いつの頃からか、丸戸が預かることとなった。



 明日の件を伝えるため、食堂で食事をしながら話す。


「商業ギルドで商品を売るのに、ちょっと事情があってな。明日、2人にも商業ギルドに来てもらいたいんだが、いいか?」


 2人は別にいいよということで、狩りに必要な準備ができたら、商業ギルドへ行くことにした。

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