第27話 例えるなら低レベルで強装備プレー
丸戸はスキルで購入した商品を買い取ってもらうため、商業ギルドに来ていた。
ギルドの中は左右にはカウンター、奥のほうまで続く通路沿いに扉が見える。その先の一番奥は階段があった。
カウンターの右側のほうに商人らしき人が多いので、丸戸もそちらに向かう。
「こんにちは。本日はどういったご用件でしょうか?」
受付の女性の問いに、身分証を提示しながら、石鹸や布製品などを買い取ってもらいたいことを告げる。
「あちらの4番の部屋でお待ちください」といわれ、先ほど見た扉のほうを示された。商談用の個室があるのだろう。
中央の通路を歩き部屋に向かうと、目線の高さに『4』と書かれた扉があった。中に入ると、そこにはすでに三十代くらいの男性が待っていて、席を勧められた。
「初めまして、当ギルド職員のフックスと申します」
「初めまして、レイ・マルトです。よろしくお願いします」
挨拶を交わして、さっそく商品を取り出す。
まず石鹸を見てもらった。これは薄い橙色の薬用石鹸だが、フックスの査定は2万Gだった。
日本ならなんの変哲もない青いタオルも2万G、白いバスタオルが6万Gだった。
(ブレモンドでカーティスさんに買い取ってもらったときは、たしか2万5千Gだから悪くないのか? いや、2度目に持ち込んだときは倍くらいの値で売れたっけか? タオルも前と同じ4万Gくらいで売れると思ったんだが、だいぶ低いな……)
丸戸が不服そうな表情をしているのを見て、フックスが話しかける。
「できる限り高く査定したつもりですが、ご不満なようですね。どれほどの額を見込んでおられましたか?」
「他の町で似たような商品を買い取ってもらったときよりも、金額が低かったのでね。ちょっと想定外でした」
「どの町でおいくらだったか、お聞きしても?」
「はい、ちょっと待ってください。え~と、ブレモントではこの白い石鹸が初めは2万5千Gでしたが、次が5万G、この白い布が4万Gでしたね。それとそちらの大きな布よりサイズが少し小さいですが、この青い布が6万Gでした」
メモ帳に記載した金額を確認し、以前、カーティスに売った商品を見せ、説明する丸戸。
「ブレモントでしたら、貴族や富裕層が多いので、その価格でも買い取るでしょうね。ここではあちらほど見込み客がいないので、価格を下げないと売れ残ってしまいますから」
「そうですか。富裕層向けの商品は、またブレモントで買い取ってもらうことにします。他の商品も見ていただけますか?」
そう聞くと、もちろんですと言われ、他の商品も見てもらう。
ガラス製の小さなコップ、湯のみ、シチュー皿、パン皿、小さな陶器の入れ物、花瓶、ドライフラワー2種、竹製の洗濯籠、布製リストバンド、麦藁帽子、ベージュのバケットハット、癒しグッズの猫のぬいぐるみを言い値で売却。
合計103点で、22万4500Gの売り上げ。仕入れに6万1900Gかかっているので、16万2600Gの利益となった。
商業ギルドで用件を済ませた丸戸は、冒険者ギルドと南門の間にある武器屋に向かう。
そこで狙い目の魔物、それに応じた武器を教えてもらい、今後の狩りに役立てるつもりなのだ。
店には客が数名おり、カウンターには男性店員もいるが、丸戸をチラッとみただけで、何も言わない。
少し店内を見回し、剣や槍を手にとって見たりしたが、性能まではわからず、中年の男性店員に話しかけることにした。
「すみません、クロスの森で猪とか蛇を狩っていたんですが、もう少し強い魔物を倒すなら、どういった武器が良いでしょうか?」
「漠然とし過ぎて、なんとも言えないな。お前一人でか? 主な武器はなんだ?」
店員の質問に答えていく丸戸。低ランクのパーティーなら、オークを狩ることが多いようだ。
丸戸の鋼の槍でも十分戦えるが、一撃で仕留められる技術がなければ、手数をかけるしかない。
「オーク相手ならそうだな……、刺すだけでなく、ナイフのように切りつけることもできる槍が戦いやすいと思うぞ」
そういって渡されたのは、2メートルほどの重い薙刀。丸戸が所有している槍は、重量軽減の効果があるため、普通の槍では重く感じてしまう。これを持って1日狩りをするのは厳しい。
「軽くて威力の高い槍ってありますか?」
「あるにはあるが、高いぞ」
価格を聞いたら、500万Gとのこと。それでも買おうと思えば、買える金額であるため、いちおう見せてもらった。
柄は黒く、灰色の反った片刃。魔物素材が使用され、金属製より軽いのが特徴。
切れ味と耐久性を高める魔法付加により、そのぶん価格が高いとのこと。
槍を持たせてもらい、片腕で上げ下ろしをしてみる。
「軽くていいですね。これでちょっと魔物を狩ってみたくなります」
「森の中では動きが制限されるだろうが、中ランク冒険者が狙う魔物にも通用するぜ。もっとも、使うやつの腕次第だがな」
上のランクの人たちはどんな魔物を狩っているのか聞くと、上位のオーク、オーガ、ジャイアントパンサー、オウルベアあたりを狙って狩りをするらしい。
この黒い柄の槍でも、攻撃は通るそうだ。
不向きなのは、鎧の素材となるような金属製並みの硬度を持つ昆虫類の魔物など。
低ランク冒険者が狩る魔物なら、じゅうぶん過ぎるほどの武器である。
「気に入りました。これ、ください」
この世界だけでなく、人生で一番高い買い物だ。
(そういや200億Gのギルド証券あったんだ。換金すれば良かったかな? でも、あのお金はいつか日本に帰るために使いたいから、そのままでいいか。現金化すると無駄遣いしそうだし)
代金を渡すと、店員が「まいどっ」といって、手入れの道具などをおまけしてくれた。
鋼の槍を下取りするかと聞かれたが、ほかに武器はないので、予備として残すことにする。
オーク以外に低ランク冒険者が狙いやすい魔物も教えてもらった。
森固有のクロスベアという熊と、中型のクモもお金になるという。
丸戸たちが狩ったのは小型で、中型は丸戸よりも大きいから、見ればわかるとのこと。
あれよりも大きいクモなんて、狩りたくはないな……と思いながら、宿に戻る丸戸であった。
夕方にリナとフロストが帰ってきた。少し早めに食堂で夕食を取りながら、お互い報告しあう。
「俺は武器屋の店員に話を聞いてきた。低ランクはオーク、クロスベア、中型のクモあたりを狙うそうだ」
「僕らが聞いたのと同じだね。あと、ゴブリンやオークが集落を形成していることもあるから、そこにお金とか価値のある武器とかあるみたいだよ」
「探して見つかるものではないけど、宝箱に偽装した魔物もいるそうよ。倒せば良いものを得られるかもしれないって」
「宝箱の魔物を狙うのも、面白そうだな」
「それでね、倒しやすいのがクモで、お金になるのは熊だって」
「なるべくクモは避けましょう……」
「そうだな……。武器屋が言うにはオークを狙うパーティーが多いみたいだったが、熊より狩りやすく、お金にもなるってことか」
「私たちもオーク狙いにする?」
「僕らの実力で倒せるかな?」
「あっ、俺、新しい槍買った」
狙う獲物を決める前に、500万Gで買ったことに、唖然とするリナとフロストであった。
翌日、3度目の狩りへ向かう丸戸たち。
フロストたちが聞いた狩場ポイントは、冒険者に踏みならされた道をまっすぐ南下して、道の状態が変化したあたりで、左右どちらか斜めに南へ向かうといいらしい。
前回は早い段階で東南に進んだので、弱い魔物が多かったようだ。
30分ほど歩いていたら道幅が狭くなり、地面から雑草が生えている。
道を歩く人の数が減った。つまり、このあたりから東南か西南に分かれるパーティーが多いことがわかる。
丸戸たちは今回も東南を選んだ。
この日の最初の獲物はゴブリン6匹。
丸戸を頂点に三角形となり、正面と左右のゴブリンをなぎ払う。リナは後方のゴブリンに魔法を放ち、フロストは丸戸の攻撃範囲に入らず、向かってきたゴブリンの相手をする。
人数の上では倍だが、攻撃を受けることなく、すべて倒した。
「レイの新しい槍、すごい威力ね」
「複数のゴブリン相手に、ここまで一方的に倒せるとは思わなかった」
「500万Gするだけのことはあるな……」
Gランクの冒険者が500万Gもの武器を買って狩りをするのであるから、まるでゲームの序盤で、強力な武器を持って戦うような状態だった。
わりと苦労したカマキリも、フロストが囮になり、後方から丸戸が首を落とし、一撃で仕留めた。
ある程度進むと、周囲の様相が変わる。一本一本の木が太くなり、間隔が広がっている。
「ここからオークとか出るみたいだよ」
日光は差し込むのでじゅうぶんな視界があり、リナが「あそこ……」と東のほうを指差した。
今日も数匹倒したクモがいる。だが、遠めに見てもサイズが大きい。
「じゃぁ、作戦通りで」
フロストの言葉に2人が頷く。
丸戸とリナは木の陰に隠れ、フロストが軽自動車くらいの大きさがあるクモに攻撃すると、クモを中心に時計と反対周りに移動する。
クモはモタモタと遅い動作で方向転換するのだが、正面にはすでにフロストがいない。
クモの頭部が丸戸とリナの正面に向きかけた瞬間、石槍の魔法と直接攻撃で頭をつぶした。
重たいものが地面に置かれたような音と振動があり、クモの動きが止まる。
「倒し方を聞いていたからとはいえ、こうもあっさり倒せるとは……」
「クモは勘弁してって思ったけど、安全に狩れるなら我慢するわ」
「他のパーティーは素材を持ち帰るために、1度の狩りで1匹か2匹くらいまでしか倒さないそうだけど、僕らはレイがいるから、たくさん狩れるね」
その後も中型クモを見つけるたびに倒し、休憩前までに4匹ほど狩った。
丸戸がアイテムボックスからテーブルを取り出した。
早めの昼食は、コッペパンにソーセージと玉子をはさんだものを一つずつ。
ソーセージにはケチャップ、玉子はマヨネーズで和えてある。両手を使うより、片手で食べられるものを丸戸が選んだ。
飲み物は、リナが紅茶、フロストが炭酸飲料、丸戸がコーヒー。
これらの代金を丸戸は受け取らない。狩りではリナもフロストも、それぞれ血抜きや魔石の回収と仕事をしている。
せめてこれくらいは……と、丸戸も何かしたかったのだ。
「こんな森の中でちゃんとしたご飯食べるのって、私たちくらいよね」
「移動中ならともかく、狩りでは食事抜きのほうが多いみたいだよ」
「活動時間が長くて、おなかすいて力が入らないと困るからな。食べられるときに食べておこう」
リフレッシュして、狩りを再開。
相変わらずゴブリンが多いが、ついにオークも現れた。
身長は2メートル半あり、上半身は裸、下半身は腰みののようなものを巻いている。武器は1体がこん棒、もう1体は無手。
「2体いるね」
「周囲に他の魔物はいないわ」
「俺がこん棒持ちを引き受ける。2人はもう1体を足止めしてくれ」
オークにはクモのような対策はない。強いて弱点をあげるとすれば、動作が機敏ではないことくらいだ。
これまで狩ってきた魔物と同じく、囮や盾役が相手の注意を引き付け、他の者が攻撃するしかない。
リナがオークにギリギリまで近づき、魔法で石の槍を当てる。
オークが攻撃を受けた方向を見ると、リナの姿はなく、フロストが短剣を構えていた。
怒声をあげ、フロストに向かうオーク。
もう1体も仲間に連れられ、移動しようとしたところ、ひざ裏に攻撃を受けて、ひざ下が切り落とされた。
前方に倒れたオークの首を目掛け、丸戸が力いっぱい槍を振り下ろす。
切断するには首が太すぎたが、これが致命傷となり、間もなくオークは息絶えた。
フロストはオークとの間にある太い木を障害物にして、短剣で切りつけている。
ときどきリナがオークの背後から、魔法で攻撃していた。
しっかり連携が取れているようで、オークの動きが鈍い。
丸戸も木の陰に入り、背後から足首を狙って切り落とす。オークが転倒すると、さらに残る足も切りつけた。
オークは両手をついて立ち上がろうとするが、立ち上がれない。
フロストがのど元に短剣を突き刺し、とどめをさした。
力が抜け、地面に倒れこむオーク。
完全に死んだことを確認し、丸戸たちに笑顔がこぼれる。
「僕らでオークが倒せるかどうか自信なかったけど、倒せちゃったね」
「足首ごと切断するなんて、レイの攻撃がすごかったわ」
「あのオークは2人に翻弄されていたから、俺がいなくても、そのうち動けなくなっていたよ」
初めてオークを倒して興奮しそうになるが、ここはまだ森の中。
冷静さを失わず、やるべきことを済ませ、次のターゲットを探す。
この後、さらに中型クモ5匹、オーク6匹を仕留め、帰路につく丸戸たちであった。
翌日、冒険者ギルドへ向かう3人。
中型クモが9匹で124万6千G、オークが8匹で176万Gとなり、他の魔物の査定も含め315万3千Gと魔石15個を受け取った。一人当たりの収入は105万1千G。
倒した魔物の数は前回と大差ないが、収入が10倍も違う。
「報酬がいくらか、楽しみだね~」なんて、のんきに話しながらここへ来たが、思っていたよりも高く、動きが固まる3人。
内訳を読み上げる職員も顔を引きつらせていた。
 




