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第25話 クロスウィッチの町

 丸戸たちがシンディヤナ国の王都、ディヤローゼンを出発したのが7月の2日目。

 それから5日後には、エンフェルデ国クロスウィッチの町に到着した。


 クロスウィッチは東西南北から街道が交わる地点に町がある。

 漢字の田の字で表すと、右の東部より、左の西側部分のほうが栄えている。

 南門側の街道を挟んた少し先が森になっていることもあり、元々が宿場町とは思えないほど、外壁が高い。



 丸戸たちは指定先の宿泊施設で1泊し、まずは拠点となる宿を探す。


「さすがに宿場町クリフのときみたいに、低料金で条件の良い家は借りられないよな……」

「そうね。まずは宿にするか、家を借りるかを決めましょう」

「このくらいの規模の町なら、パーティー単位で泊まれる宿も多いはずだから、宿から探すほうが良いと思うよ」


 フロストの助言に従い、まずは宿を一軒ずつあたっていく。

 日本の学生が部活動の合宿で泊まるような、広い部屋があるだけの宿は避け、なるべく部屋数の多い宿を探す。


 1泊3万G以下だと、部屋数はあっても全体的に狭い。良さそうな部屋は最低でも5万Gくらいかかった。

 賃貸では1か月あたりの出費は抑えられるが、家事の負担もある。


「1人部屋なら1万Gも払えば良い部屋を取れるけど、それも今さらなぁ……」


「パーティー内で共有しているものもあるし、貸し借りで部屋を行ったりきたりするのも面倒よね」


「クリフくらいの収入が見込めるなら、多少高くても僕は平気だよ」


「じゃぁ、料金は気にせずパーティー用の部屋を取るか。2人は気になった宿はある?」


「私は3件前に見た宿屋かな」


「僕も値段を考えないんだったら、リナと同じところがいいと思う」



 リナとフロストが選んだ宿は1泊7万G以上する宿だった。

 1か月単位で宿泊すると200万G以上、1人当たり70万以上の出費。


 額だけ見ると高いと思うが、1人当たり月に280万Gくらい稼いでいたのだ。

 日本円で月収28万円の人が、7万円の家賃を払うと考えれば、そこまで高くは感じない。


「それならもう、そこに決まりだね」


 丸戸たちは目的の宿へ向かい、ひとまず1か月宿泊することを決める。

 本来なら4人用の部屋に、長期滞在で一括払いということで、少し割り引いてもらうことができた。

 1泊7万2千Gが6万6千Gとなり、丸戸が1か月分の198万Gをその場で払う。



 案内されたのは3階の部屋。西側に2部屋、南側に2部屋あり、台所や風呂、トイレは東側にある。中央が広い共有スペースだ。


「俺は荷物置き場と自室で2部屋もらうから、先に2人が部屋を選んでくれ」


 2人が希望した部屋はそれぞれ別の部屋だったので、すんなり部屋割りが決まった。

 リナが風呂場のほうに近い南の部屋を取り、フロストも南側の角部屋を選ぶ。丸戸が西側の2部屋を使用することとなった。


 丸戸に宿の代金を渡し、各自荷物を置いたら、冒険者ギルドへ向かう。



 ギルドは南の街道に近い大きな通りにあった。外観はこの国の首都ブレモントと同じだが、建物じたいは少し大きかった。

 中に入ると、正面に受付カウンター、周囲の壁には依頼などの情報が掲示されており、配置は同じようだ。

 お昼前で人が集まるピークの時間帯は過ぎたが、まだ30人ほど残っている。

 丸戸が職員にクリフから移動してきたことを告げる合間に、リナとフロストが掲示板の情報をチェック。


「ここはGランクとFランクの常設依頼は同じなのね。ポーションの材料の採取はともかく、魔物の素材や魔石の収集も常設依頼って、Gランクには難しくない?」


「この町で活動するなら、Gランクでもそれくらいの仕事ができるんだと思うよ」


「通常の依頼も指定された素材の採取がいくつかあるわ。残っているってことは、割に合わないか、少し難しい依頼のようね」


「Eランクになると、運搬の護衛補助とかもあるんだ。高い宿取っちゃったし、何日もかかるような依頼は避けたいな」


 リナとフロストが情報を見ていると、丸戸も掲示板を見にきた。


「どうだい? ここでなんとか活動できそうか?」


「常設依頼で魔物の肉があったよ。たぶん干し肉にするんだと思う。僕らでも倒せる森の魔物もいるはずだから、ここでもやっていけそうだよ」


「常設依頼以外で、この依頼を受けようって思えるものはなかったわ。というか、自分たちがどのくらいの仕事ならできるのか、判断できないのが問題ね」


「それじゃ、森の魔物相手に戦ってみるか。それで自分たちの実力もわかるだろう」



 ギルドを出て、お店で昼食を取りながら、話し合う三人。とりあえずの試しで……と、明日森に行くことを決めた。


 その後、武器や防具を見に、お店を回る。すぐに買うわけではないが、どういった装備が売られているのか見て、参考にするためだ。

 武器も防具も100万G以上するものが普通に売られている。この町で一人前の冒険者をするには、これくらいの装備が必要なのだろう。



 日没後、丸戸はスキルでおすすめを確認する。


【工事現場用ヘルメット 3000】【アイスホッケーマスク 4000】【耐熱性手袋 4000】



(昨日も一つ3千G以上の商品があったけど、今回もあるな。所持金が増えたわけではないのに、なんでだろう? 購入した合計金額や、買い物した回数とか?)


 ちなみに昨日買ったのは、【黒毛和牛焼肉セット250g 3800】だった。もちろん10点購入。


「それにしても、今回は迷うな……」


 金額が低ければ、必要性を深く考えず購入するのだが、さすがに今回はまとめて買うには高い。

 手袋は5点、ヘルメットは3点買うことにし、ホッケーのマスクはあきらめた。



 翌朝、丸戸たちは森へと向かう。


 丸戸はブレモントで買った鋼の槍、大緑鰐の鎧とブーツ、甲虫の篭手、防刃手袋といった装備。

 フロストはクリフで買った短剣と木に金属板を張った小盾、低ランクでは一般的な皮の鎧とブーツ。

 リナは冒険者になる前から持っていた魔法使いが使う杖と緑のローブ。クリフで買った魔力を少し上昇させるアクセサリーや、防御力を高めるインナーも着込んでいる。



 街道を横切り、数百メートル進むと森のすぐそばまで来た。すでに何組かのパーティーが森の中に入っていく。


「まずは森の浅い場所を西に向かって歩いて、魔物を探そう」


 フロストの知識では西のほうが比較的安全と言うので、そちらから探索する。

 他のパーティーは南下していったが、丸戸たちは森の外の境目に沿うように西へ歩を進める。


 森の浅い場所は光が届き、暗さはない。

 しかし、初めての場所での狩りということもあり、3人は緊張していた。

 そんななか、フロストが魔物を見つける。


「大牙猪がいる。黒鹿ほど強くはないけど、こいつも牙が危険だから気をつけて」


 フロストが小声で皆に伝える。周囲に木があるので、遠距離からの攻撃は当てにくい。

 槍で間合いが取れる丸戸を囮にし、リナが魔法、フロストが猪の死角から襲う作戦。


 大牙猪も丸戸の存在に気づき、威嚇するように牙を向けると、突然に走り出した。

 短距離で一気に速度を増す大きな猪。


 真正面から槍を突き刺すにしても、体重差で弾き飛ばされる。

 身体を少し斜めにして、猪の突進に備えた。


 丸戸まで数メートルまで近づいたとき、右方向から槍状の石が勢いよく何本もあたり、猪は横倒しになる。

 そこを丸戸が槍で胴体を、どこからか現れたフロストが首元を短剣で切りつけた。


「うまくいったわね。血抜きは私がするわ」


「あぁ、狼や黒鹿を結構狩った経験が活きてるな。それにしても2人とも、なんか強くなってない? というか、リナが血抜きするの?」


「うん、僕らはリナのお兄さんと合流したとき、ときどき訓練してもらったんだ。リナなんて、魔法で血抜きできるようになったんだよ」


「兄の部下に同じ学園の卒業生がいて、妹で後輩ならと色々教わったの。これは錬金術魔法の応用よ」


 フロストは使っている武器は前と同じなのに、身のこなしや一撃の威力が高く感じた。

 リナの魔法も、以前は握りこぶしほどの石だったのに、槍のように先端を尖らせた形状で、殺傷力を増している。

 そして今は滴り落ちる血で地面に何やら書き込み、少し大きめの魔石を置いて魔法を唱えた。


「これで少し待てば、血抜きは終わるわ」と、手にした杖をかざしながら、状況を説明してくれる。


 慣れないうちは血の流れ出る量が少なく時間がかかるけど、慣れれば短時間で終わるという。

 ゲームには出てきそうもない魔法に驚くとともに、自分が軟禁されている間に2人が成長して、頼もしく感じる丸戸であった。



 森の浅い場所を西へ移動すること1時間。

 大牙猪を5匹、丸鶏を3匹ほど狩った。


 丸鶏は文字通り、羽の部分が丸みを帯びて、丸っこい姿に見える。森の土に生息する虫などを主食とし、凶暴性はないため、素人でも狩りやすい魔物だ。


 獲物としてはやや物足りないため、さらに少し森の中へ入り、今度は東進する。



 すでに戦った2種に加え、大きな蛇や蛙が出てきた。


 蛇は全長数メートル、太さは20センチくらいあり、大人も丸呑みする。巻きついて締め上げられたら、自力では脱出できない。

 蛙も高さが1メートル以上あり、人間相手にはジャンプして押しつぶすか、前足や舌で打撃攻撃をしてくる。


 いずれも刃物による攻撃には弱く、攻撃さえくらわなければ、森の中では倒しやすい部類に入る魔物だ。



 蛇は動きが早くはないので、丸戸が牽制して動きを止め、フロストが易々と頭を切り落とすと、蛙はリナが悲鳴をあげながら、石の槍を多量に突き刺し瞬殺した。


 1時間ほど進んだら、いったん森の外に出て休憩する。



「出発地点あたりは結構人がいるのね」


「狩った獲物を森の外まで持ち出し、荷車で運ぶんだよ」


「そういえば、森に来るまでに空の荷車を引いてる奴がいたなぁ。森の中までついていくんじゃなくて、外で待ってるのか」


 森から町までは遠くはない。

 森から獲物を運び出し、町まで運搬する人と契約しているいくつかのパーティーが、荷車を待機させているのだ。



 この後、再度森に入り、先ほどよりもさらに深い位置で西へ進み、折り返して東に戻ってきたが、苦戦するほどの魔物はいなかった。


 もう一往復するくらいの時間はあったが、今日は試しということで早めに切り上げる。



「倒した魔物は町の外にある解体場に持ってくんだよ。町の中にはないからね」


 町の南門の西側に、解体場があるとフロストが教えてくれた。

 すでに荷車が何台か、そちらに向かっているのが見える。


 荷車の後を歩いていくと、開放された門を通り抜ける。町より少し低いが、ここの外壁も頑強そうだ。

 外壁の中に入ると、目の前には大きな倉庫みたいなものが3つ並んでいた。

 手前にもお店や住居だろうか? 3階建てで石造りの建築物がある。


 荷車は一番右側の倉庫らしき建物へ向かっていった。


「そのままついていっても駄目だよねぇ?」


「僕もここの中のことまではわからない……」


「あそこの建物に、職員さんとか誰かいるんじゃない? 聞いてみましょ」



 リナの案に従い、建物の中に入る。

 扉から入って右側にカウンター、左側にテーブルや椅子が設置されていた。


 カウンターに一人の男性がいたので、丸戸が話しかける。


「すみません、森で魔物を倒してきたんですけど、どこに持っていけば良いですか?」


「冒険者の方ですね。ここは初めての利用ですか?」


 そうだと答えると、施設の説明をしてくれた。


 ここは冒険者ギルドが魔物素材を管理する施設で、商人などが売りに来たり、買い付けに来ることもある。

 3つの大きな倉庫らしきものは解体場で、いちおう魔物の種類や大きさ別に、解体場が決まっているらしい。


 丸戸たちが狩った魔物は、一番右の建物でいいそうだ。解体場での流れや手順も教えてもらった。

 お礼を言って管理施設を去り、解体場に向かう。



 解体場の中は、正面が真っ直ぐな通路、左右にカウンターが設置されている。

 教えてもらったとおりに、カウンターで受付を済ませ札を受け取り、魔道具のランプが点灯している一室に入る。


「獲物をこっちの台まで運んでくれ」


 解体係りの中年男性に言われ、アイテムボックスから台の上に獲物を取り出した。

 この台の上で解体を行うようだ。


「おいおい、お前、魔法の鞄の持ち主か? 何匹仕留めたんだよ?」


「え~と、40匹くらいですね」


「それなら問題ねえな。種類別にこっちの荷台に乗せてくれ」


 直接台の上ではなく、脇に置いてあった荷車を持ってきて、その荷台に獲物を置いていった。

 すべて取り出すと、札を渡す。


「確かに受け取ったぜ。今日中には終わるからな。報酬は明日にでも冒険者ギルドで受け取ってくれ。でも、獲物が多いときは、次からは隣の中央の解体場に持っていったほうがいいかもな。この一室じゃぁ狭いし、作業する人数も限りがあるしよ」


 札の持ち主の獲物は、ひとつの部屋でまとめて解体処理をするので、別の部屋に持ち込んで解体はしない。

 理由は単純で、ミスを避けるためである。


 解体したものは、専門の職員が査定し報酬を決める。

 あとになって別の部屋にも残っていたり、誰の獲物かわからなくなった……なんてことはあってはならないのだ。



 助言にお礼を述べ、解体場を後にする。


 解体場の右側は、町の西壁になっていて、北上すると町の中へ入れる通り道があった。

 この解体区域を利用する者は、冒険者や商業ギルドの関係者がほとんどということもあり、通行するなら身分証を見せるだけで良い。


 丸戸たちもその通路を通って町に入った。



 まだ夕方前だったので、宿に戻り、明日の予定を話し合う。


 体力的には明日も狩りに出られそうだったが、今日の稼ぎがまだわからないため、3人とも金額を確認したい気持ちが強かった。

 報酬を受け取った後は、丸戸がアイテムを整理するかたわら、2人にもほしいものがあれば販売する予定で決まる。




 そして翌日、3人は昼前にギルドへ向かい、報酬を受け取った。

 合計で66万6300Gと魔石が8個。一人当たりの報酬は22万2100Gであった。


 ついでに、クリフで狩りをしていたときや、馬車の休憩中に採取した素材も査定してもらう。

 こちらは200点以上の素材があり、合計で13万8千G,一人当たり4万6千Gの報酬になった。


「早めに撤退した割には、けっこう稼げたわね」


「僕は宿代の心配をしなくていいのが、うれしい」


「暇なときに採取した素材も、こんなに溜まってたんだな」


 1匹あたりでは黒鹿には遠く及ばないものの、猪も蛇も10匹は狩っていたので、思っていた以上に高い報酬となった。

 幸先の良いスタートで、満足感に浸る3人。


 しかし、その後のアイテム販売会は、種類が多すぎて収拾がつかず、皆、頭を抱えるのであった。

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