第22話 再会
監禁された屋敷から脱出し町を出た丸戸は、街道を西に進み、宿場町で宿泊していた。
ここで3か所目となる宿場町である。
朝早くから出発しないと、次の宿場町に到着できない可能性が高い。
この日も太陽が昇らないうちから出発しようと、丸戸は町の出入り口に向かっていた。
街道を右へ進めばディヤローゼン。左に進めばエンフェルデ国との国境に向かう。
出入り口にはすでに出発準備をしている馬車が数台あった。
「へ~、ずいぶん立派な馬車だな」
丸戸が思わず独り言をつぶやいた際、馬車に荷物を積み込む作業をしていた従者らしき1人が、丸戸のほうに顔を向ける。
「レ……レイ?」
「あぁ……、うえぇ? フロストか?」
フロストは荷物をその場に置いて、レイに駆け寄り抱きついた。
「レイのおかげでリナと合流できて、レイを探しに来てたんだ。良かったぁ、ほんとにレイだ」
「そ、そうか、探してくれてたんだな。ありがとうフロスト。でも、どうして俺がこっちにいるとわかったんだ?」
「リナのお兄さんがいうには賊が来た形跡がなくて、おそらくこっちじゃないかって話になって……」
フロストのその後の行動がわからないので、話を聞いてもさっぱり理解できなかったが、賊から開放された後は無事だったようで、その点についてはホッとした丸戸であった。
「あ……、リナにも教えなくちゃ。レイも一緒に来て!」
そう言われてフロストに引っ張られて連れて行かれる。フロストたちが宿泊している宿に入ると、ロビーでリナが立ち話をしていた。
「フロストどうしたの? あ、あれ? もしかして……レイ?」
一瞬、見間違いかと自分の目を疑うリナ。そこにレイがいるという事実がなかなか認識できない。
「リナ、久しぶりだね。元気なようで安心したよ」
丸戸の声を聞いて現実だと知り、我に返るリナ。
「バカァ、安心したのはこっちよ。ものすごく心配したんだからね」
「そうだな、心配かけてごめん。そして探しに来てくれてありがとう」
丸戸が誘拐されてから、20日以上経過したが、ようやく再会を果たした。
お互い無事を確認しあって喜んでいると、一人の男性が話しかけてきた。
「リナ、話しているところ悪いけど、そろそろ私を紹介してくれないか?」
「え、えぇ、すっかり忘れていたわ。レイ、こちらは私の兄のルークです。兄様、彼がレイよ」
お互い、簡単な自己紹介をした上で挨拶を交わす。
リナの兄ルークは、リナと同じ金色の髪と緑色の目をした、20代半ば過ぎの軍人であった。
彼は間もなく出発だといい、持ち場に戻っていった。
出発と聞いて、リナたちも行くのかと聞くと、明日までにディヤローゼンに行くという。
「それなら俺は、国境を越えたところで待ってるよ」
「何を言ってるのレイ? あなたも一緒に行くのよ」
わけがわからぬまま、リナとフロストに連れられ、馬車に乗せられる丸戸であった。
馬車の中でも再会を喜び、お互いの経緯を話していた。
この馬車の持ち主はダンジョンの町の領主で、丸戸と犯人を捜しに来ていた。
すでにルークから領主へと連絡され、1人で国境を越えるまで歩いていくより、一緒に行動したほうが安全とのこと。
予定通り宿場町に1泊し、翌日の昼過ぎにはディヤローゼンの町に入った。
丸戸は門で捕まるんじゃないかと不安だったが、馬車はろくに検査もされず通過。高級住宅地区にある、豪華な屋敷の前で馬車を降りた。
メイドに案内され、3人は同じ部屋に通される。
3人ともシャワーを借り、丸戸とフロストはスキルで購入した服を、リナは元々持っていた服を着て、おしゃべりしながら部屋で待機。
夕方になり、メイドから食事の席に案内される。
格調高い家具や装飾品の数々、いかにも貴族の住まいといった印象しかない。
テーブルにはリナの兄と初めて見る白人の男性が隣にいた。丸戸の印象では30代後半。
オールバックで濃いグレーの髪と目をしており、柔らかい表情で丸戸たちを迎えた。
「レイ殿、こちらはダンジョンの町、シルバストの領主であるウィリアム・シルバスト伯爵です。伯爵、こちらがレイ・マルト殿です」
「初めまして、レイ・マルトと申します。この度は私と仲間のために尽力していただき、ありがとうございました」
「こちらが勝手に首を突っ込んだのだ。君たちは私の客人として、気兼ねせずくつろいでくれたまえ」
食事を取りながら、お互いの情報を刷り合わせた。
リナは所持金のほとんどを依頼料として軍に所属する兄に丸戸の捜索を頼み、兄も賊が自国に入り込まれては困るため、隣国であるエンフェルデに協力を求めた。
リナの兄ルークは、突然妹からの高額な依頼料を不審に思い、はじめはだまされて借金をしたのではないかと心配したようだ。
冒険者となって日が浅いのに、これだけのお金をポンッと出せるわけがないと。
賊はまだ捕まっていないが、今は権力争いによる誘拐とわかり、犯人探しと平行しながら、シンディヤナ国の状況を調べることにした。
伯爵は、丸戸が商業ギルドに持ち込む商品の愛用者で、商業ギルドを通じて丸戸が誘拐されたと知り、賊の行方を追っていた。
周辺の捜査報告から、賊は自国内に残る可能性は少なく、国境を越えたと判断し、リナとその兄を誘ったのである。
リナたちを誘ったのは丸戸の仲間だったからで、これを機に友好を深めたいという下心もある。
懇意にしたい人物の誘拐事件に隣国の貴族が絡んでいたのであれば、相応の報いを受けてもらうつもりだと、微笑んでいた。
そして丸戸は誘拐されて以降のこと、サテウの話、屋敷から逃げてきたことを話す。
サテウの話の部分は、木製のスピーカーに取り付けたボイスレコーダーをそのまま聞かせる。
現在、派閥間で罪を押し付け、互いに相手を潰そうとしている。そんなことのために丸戸が利用されていると、皆が理解した。
片方の派閥のサテウの発言だけではまだ不十分だが、派閥争いの結果がもう出ているかもしれない。この件についてはシルバスト伯爵とリナの兄に任せることにした。
「それにしてもこの魔道具……、不思議なものだな。ダンジョンからも魔道具は発見されるが、こんなの見たこともないぞ。それに君たちの身だしなみにも驚かされる」
伯爵は今まで我慢していたみたいだが、あれこれ聞きたいようだ。
この件が落ち着いたら、丸戸たちはエンフェルデの町クロスウィッチに戻るつもり。
そのときに商業ギルドに商品をいくつか卸すので、楽しみにしていてくださいと言って、会食を終えた。
いちおう友好国である伯爵の供に手を出すようなことはないだろうが、あまり外出はしてほしくないらしく、丸戸たちに自由に過ごしてくれと、屋敷の2階の一角が与えられた。
丸戸が預かっていた荷物を2人に返し、それぞれの部屋で荷物整理などをする。
3日ほど何事もなく過ごしていた。
丸戸たちはとくにすることがないので、料理をしたり、部屋の模様替えなどをする。
ここには料理道具がそろっており、オーブンも使えるので、これまで手をつけられなかった料理を中心に、少し作りおきもしておく。
完成したら、丸戸がアイテムボックスに収納するのだ。
時々伯爵やリナの兄ルークが報告がてら、顔を見せにくる。
「料理や飲み物も、味わったことのないものばかりで、ここはまるで遠い異国のようだ」
「屋敷のなかで、この一角が一番快適な空間になっているのだが……」
この日のお昼は冷凍ピザトーストと冷凍たこ焼き、それに冷凍チキンのサラダ。飲み物はコーヒーや炭酸飲料など各自好みのもの。デザートは自然解凍で食べられる三色串団子。
ピザやたこ焼きをちょっと味見をするつもりが、食べたくなってしまって、丸戸がお昼にしてしまったのだ。
そこにルークとシルバスト伯爵がやってきて、冷凍ものばかりでどうかと思ったが、一緒に食事をしたわけである。
丸戸がスキルで購入した装飾品、クッションやカーペットなどは、日本では低価格なもの。食べ物や飲み物もほとんどが、どこでも買える。
それでもこの世界では異質なようで、一緒に食事をした2人も驚かずにはいられなかった。
丸戸がどこからか仕入れてきたのだろうと予測するも、それらの商品がどこで扱われているのか、見当がつかない。
元々、エンフェルデの高官がこの国の活動拠点としてお金をかけて建てた屋敷。そこに異国の食べ物や生活品などが持ち込まれた。
物珍しさと居心地の良さに、ついつい長居してしまい、後ろ髪を惹かれる思いで、2人は仕事に戻っていった。
 




