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第2話 追放

 レスリー王が退室した後、丸戸と有野も別の部屋へ移動していた。どうやら2人の処遇について、内々に話し合うようだ。


 丸戸たちは来客用の控え室に案内された。

 小学校の教室ほどの広さがあり、派手な装飾品などはなく、落ち着いた雰囲気のある一室。

 部屋の奥にテーブルとソファがある。2人は腰を下ろし、城の使用人が入れてくれた紅茶を飲みながら会話をしていた。



「なんか大変なコトに巻き込まれちゃいましたね。あ……こんな状況で改めて言うのも変な感じですが、初めまして、有野です」

「こちらこそ初めまして、丸戸です。いやぁ、ほんとまいりましたね」


 丸戸は身長175センチメートルで細めの体型。清潔感のある短髪で穏やかそうな顔の青年。関心のあることに対しては好奇心も強いが、ふだんは平凡な生活をしている。これといって特に秀でたものもなく、どこにでもいそうな一般人である。


 大学生の有野は身長182センチメートル。サークルでテニスをしており、細マッチョなスポーツマンタイプ。髪は茶色に染め、やや長め。日焼けした肌からチャラい印象はあるが、人に好かれやすい外向的な性格の持ち主。


 召喚された部屋では自由に動けなかったこともあり、ここに来てようやく面識を得ることとなった。



「僕は今まで聞いたことがなかったんですが、丸戸さんはシンディヤナって国、聞いたことあります?」


「私も聞いたことがないです。アメリカのインディアナ州や、中国のチャイナを一部の民族の言葉でシンディヤナと発音する可能性もあるのかなぁと思いました。でも、さすがに王様まで出てくると、常識では考えられないようなことが起きているとしか……。言葉が通じるようなスキルがあったり、召喚したとか言ってましたしね」


「やっぱりここは異次元とか別次元の世界なんですかね? 僕ら、これからどうなるんでしょう?」


「それはなんとも……。王様は追い返せって怒鳴っていたから、日本に返す方法があるのかな? と、一瞬思ったんだけど」


「なら、日本に戻れる可能性もありそうですね!」


「うん。でも、召喚するのにけっこうお金かかったみたいなことも言っていたから、返すのも同じくらいお金かかるんじゃないかな? あの王様の怒り具合を見たら、そこまでお金かけてくれるかどうか……それなら殺してしまえと言いそうですよ」


「あぁ、あの様子じゃ、有り得ますね……。う~ん、帰れないのも困るけど、死ぬのはもっとヤダなぁ」



 王様の怒りを目の当たりにしているだけに、自分たちの能力がこの世界ではたいした価値のないものであると認識している。あまり良い待遇は受けられないだろう。


 異世界に来てしまった現実を意識し不安を感じ始めたところで、部屋のドアがノックされる。

 二人とも椅子から立ち上がり、丸戸が「どうぞ」と声をかけた。



 部屋を訪れたのはケラム・ウォード宰相とその部下らしき男性。「掛けたまえ」と宰相が二人に着席を促す。

 丸戸と有野は、どんな扱いを受けるか、緊張していた。


「お前たちの処遇についてだが……」


 宰相から自分たちの今後について聞かされた。

 有野は騎士団に所属し、訓練を受けた後、魔物の駆除にあたる。

 丸戸は準備が整い次第、国外へ追放する。


「私が追放処分となった理由を教えてもらえませんか?」


 丸戸がそう言うと、宰相はジッと丸戸の顔を見て、話せる範囲で語った。


「我々が望んだのは、救国の英雄や勇者だ。お前は何か間違いがあって紛れ込んだというのが結論だ」

「間違いだったから追放なんて、おかしいじゃないですか? 国で保護とかしてくれないんですか?」


 宰相の言葉を聞いて、有野も黙っていられなかったようだ。


「お前たちを召喚するのに莫大な金がかかっておってな。保護した場合、誰かが面倒を見なくてはなるまい。他人から見れば、国費を私物化していると、あらぬ疑いをかけられるかもしれぬ。すすんで世話をしようなんて名乗りをあげる者もなく、追放処分と決まったのだ」



 宰相は言わなかったが、丸戸たちが召喚された最大の理由は、戦費の節約のためであった。

 森の資源を巡る隣国との争い。長引けば、貴族たちも私財を費やさねばならない。

 戦争に勝っても名誉と少しばかりの報奨金を得るだけで、私財のほとんどを失っては意味がない。


 いや、全員が同じような状況ならまだいい。

 自分だけかなりの戦費を負担し、他の貴族、とくに敵対する派閥の貴族があまり出費しなかった……となるのが嫌だったのだ。


 それで闇ルートから神聖魔法書を国費で購入し、戦闘に長けた英雄や勇者を召喚、戦況を優位に運ぼうとしたのである。

 これなら私財を使わずに済むと同時に、戦況が好転すれば、自分たちの手柄にもなると考えて――。



 しかし、結果は期待はずれであった。


 丸戸の身を引き受けると、「召喚にかかった費用をいくらか出せ」と言われるかもしれない。あるいは、厄介ごとを押し付けられることも考えられる。

 仲の悪い貴族から、このことで言いがかりをつけられる可能性もあった。


 一言でいえば、貧乏くじみたいなもの。

 鑑定の結果、多少スキルはあるものの、そこらの一般人と変わらない。わざわざ面倒を見る気にはならないだろう。



「私の追放理由はなんとなくわかりました。でも、どうして国外なんです?」

「自分の領地でトラブルを起こされても困るからな。国外ならどうなろうとかまわんと言うのが、会議での大方の意見であった」


 会議といっても責任問題をごまかすための相談である。

 即座に処刑という案も出たが、それが絶対に外部に漏れないという保証はない。

 今ならまだ、「召喚されたのは一人だった」と押し通せるので、国外追放と結論が出るのは早かった。


 自分たちの都合でしか考えず、もはや丸戸を厄介者としか見ていないようだ。

 有野は丸戸の追放処分に、まだ納得がいっていない様子。


 だが、不要だからと殺される可能性もあっただけに、丸戸はこれで良かったのかもしれない……と、思い始めていた。

 そして自分たちのこと以外にこちらの世界についてなど、あれこれ聞いてみたい気持ちはあるが、丸戸は一番気になっていたことを宰相に尋ねてみた。


「王様が退室されるとき、私たちを追い返せと聞こえたのですが、私たちが元の国に戻れる方法はあるのでしょうか?」


「我が国には召喚された者を帰還させる手段はないな。陛下もそれを知っておられるから、実現不可能なことをあえて口に出され、やり場のない怒りを堪えられたのだろう。とはいえ、我々が知らぬだけで、この世に絶対無いとは言い切れぬ。どこかのダンジョンや他国の宝物庫に眠っておるやも知れぬな」



 一国の宰相をもってしても、明確には答えられないようだ。

 丸戸は質問に答えてくれたことに礼を述べ、これからのことについて説明を受ける。


 シンディヤナ国の西方にエンフェルデという国があり、丸戸はそちらへ向かうよう言い渡される。馬車移動となるため、乗車券や身分証、旅に必要なものを用意してくれるらしい。


 無価値な自分に対し、予想外の対応に驚いたものの、よほどこの国に残ってほしくはない、少しでも早く追い出したい……そんな思惑が透けて見える。

 自分という存在がこの国にとって、そこまで都合が悪いのかと、なんだか可笑しく思えてしまう。



 しばらくすると使用人から宰相へ準備が整ったと報告され、荷物が運びこまれる。この後、丸戸は出立するため、有野とはここで別れることとなった。

 出会って1日も経っていない関係ではあるが、お互い別れを惜しみ、有野は使用人に連れられ部屋を退室した。


 宰相から身分証と馬車の乗車券、それに当座の生活費として10万Gガレルが手渡される。


 丸戸はお金の価値がわからないので、説明してもらった。

 ガレルは多くの国で使用される通貨単位で、皮製の袋の中に2種類の銀貨が入っている。

 大きいほうが1万G、小さいほうが1千Gで、丸戸の感覚では1ガレルは1円に相当しそうだと感じた。


 身分証は30日間の有効期限があり、国によっては使えない場合もある。

 これから訪れるエンフェルデで、期限が切れる前に身分証を作成すれば良いと助言をもらう。


 馬車の乗車券は予約引換券なので、こちらはあとで丸戸を連れて手続きをするとのこと。

 乗車券には馬車料金の他、指定された宿泊施設の利用料金も含まれている。

 宿場町に寄るたびに宿泊の手続きをするのもわずらわしいということで、馬車と宿泊施設の利用がセットになったものがあるそうだ。


 旅に必要なものは茶色っぽい皮でできた大きな袋状の中に入っており、皮袋ごと貰い受ける。召喚されたときに持っていたリュックサックも、忘れずに持っていかねばならない。


(そういえば持ち物検査みたいなことはされなかったな)


 召喚で予想外のことがおき、ドタバタしてそこまで気が回らなかったのだろう。

 自分からわざわざ言う必要もないので黙っておくことにした。



「いろいろと配慮していただき、ありがとうございました」


 そちらの都合で召喚しておいて、期待はずれだから追放するという身勝手さに怒りを感じないわけではない。

 確実に早く国外追放するという理由があるにせよ、身支度してもらったことには素直に感謝した。


「うむ。城を出てから馬車の受付所までは、こちらの者に案内させるのでついて行くが良い」


 そういって宰相は退室した。

 丸戸もリュックサックを背負い、荷物の入った皮袋を左肩に掛け、部屋を後にする。


(宰相の言葉はあてにならないけど、日本に戻りたいなら、自分で帰還方法を探さないと駄目か?)


 そんなことを考えつつ、使用人に誘導されるまま屋外へ出た。日本にいたときは午後8時を回りすっかり夜になっていたが、こちらはまだ夕暮れの時間帯であった。

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