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第18話 活動拠点の変更

「よし! フロスト、とどめだ」


 速度を落として、ヨタヨタと歩いていた黒鹿が横に倒れる。そこにフロストが寄り、ナイフでとどめを刺した。


「大丈夫? 2人とも怪我してない?」


 後方からリナが、2人に駆け寄る。



 今日も早朝から採取して、帰る前の数時間で狩りをしていたが、この日初めて黒鹿を倒したのだ。


 角兎同様、黒鹿は丸戸が知っている鹿よりもだいぶ大きい。

 黒鹿が警戒する線を越えると、侵入者を追い出そうと大きな角を向けて体当たりをしてくる。

 その性質を利用して、フロストが囮になり、リナと丸戸がダメージを与える作戦だった。というか、角兎とほぼ同じ狩り方である。


 体格が大きい点と、丸戸がまだ槍の技術が未熟ということもあり一撃で仕留められないが、槍の性能の良さで深手を負わせることはできていた。

 リナも火属性魔法ではなく、土属性魔法の石つぶてで応戦。小石を投げつける程度なのでダメージにはならないが、黒鹿の集中力を乱す働きとなった。


 フロストが血抜きをしている間に、リナが監視、丸戸が高報酬の薬草を採取し、撤収。


 町に戻ると解体場で荷車を借り、人目のない場所へ移動。丸戸が角兎と黒鹿を荷台に乗せて、安い毛皮をシート代わりにして、獲物の上を覆う。

 フロストと丸戸が荷車で運搬して解体場へ持ち込んだ。リナは冒険者ギルドの受付で各種薬草の採取品を提出し、解散。



 翌日、ギルドで待ち合わせて、報酬と小さな魔石7個を受け取る。

 薬草採取が10万8千G、角兎が4万5千G、黒鹿が13万8千G。合計29万1千G、一人当たり9万7千Gの収入となった。


「報酬の桁を間違えてるんじゃない? って、思っちゃうんだけど……合ってるのよね?」

「僕、こんなにたくさんのお金持ち歩くの怖い……」

「黒鹿の報酬がかなり大きかったな」



 魔物を倒す数が増えるに連れ、連携が良くなり、狩りの効率が上がっていた。

 この後、3日に1度のペースで2回、薬草採取と狩りに出かけ、計4頭も黒鹿を討伐した。


「フロストってば、なかなか逃げようとしないもんだから、見ているこっちが怖くなるわ」

「早く動いちゃうと、囮にならないから……」

「ぎりぎりまで粘ってくれるから狙いやすいけど、無理はしないでくれ」



 一人当たりの報酬は前回が12万7千G、今回が12万3200G。魔石は計10個。

 リナとフロストも最低限の防具を買うだけの資金がたまり、今後の方針を話し合う。


「まずは、この町を拠点にして、薬草採取の時間を減らして狩りを行うか、他の場所へ移動するかだな」


「この町で狩りをするとなると、移動時間が問題よね」


「ランクの低い冒険者は、隣町か大きな町に近い宿場町を拠点にして活動するみたいだよ」


「じゃぁ、この町を離れて活動してみるか? といっても、俺は地理がわからないので、場所は2人に任せるけど」


「東西にある隣町も台地にあるから、この町で活動するのと大差ないかもね。南の宿場町、クリフのほうがいいかしら?」


「僕も南側のほうは割と詳しいから、そっちがいいな」


「では、南の宿場町へ行こう……って、移動は馬車? 誰か馬車の手配とかわかる?」


「この町を離れるなら、一応ギルドに報告しておいたほうがいいわね。そちらはレイに任せるから、馬車の手配は私がするわ。2人ともあとで料金もらうわよ」


「うん、わかった。えっと、出発は明日?」


「いやいや、それは急すぎる。商業ギルドで少し買取してもらって、ついでに行商できそうなものも調べたいから、3日後に出発しよう。いちおう確認のため、明後日の二番目の鐘の時間に、ここに来てくれ」


 商業ギルドに持ち込むつもりの物の中で、欲しいものはあるかと聞いたら、2人ともトートバッグを選んだ。

 普段使いに便利だが、お店で買うとけっこう高いらしい。2人から代金1000Gずつ受け取った。


 2人が帰ると丸戸は、商業ギルドに持ち込むものをまとめ、準備をしておく。

 夕飯のため食堂へ向かう途中、宿屋の女将さんから宿泊は今日が最終日、明日以降はどうするか聞かれ、町の出発日にあわせ3泊延長した。




 翌日、丸戸は商業ギルドに向かった。取引カウンターで受付けしてもらい、商談用の個室で待っていると今日はカーティスが来た。


「おはようございます、カーティスさん。本日もよろしくお願いします」

「おはようございます、レイ様。いつも良い取引をさせていただいて、ありがとうございます。前回、買い取らせていただいた商品も大変好評でした」


 いつ持ち込まれるかわからない丸戸の商品は、希少性が高いらしい。それまで縁のなかった貴族と商談する取っ掛かりにもなり、多くの商人がなんとしても入手したいそうだ。


 そんなよその事情を聞きながら、持参した商品を査定してもらう。

 庶民向けの皿や洗濯板から、富裕層向けのワイングラス、蜂蜜など、計9種類ある。


 プラ容器に入った蜂蜜はそのまま売らず、丸戸が他店から専用の容器を買い、中身を移し変えたものだ。約300グラム入る容器が15個。ふたを開け、一つひとつに細い棒状の道具を刺し、素材不明の薄い皮か布っぽい生地に置いていく。


「これはどういった検査ですか?」


「庶民が購入するようなものは、ハニニモという植物の成分で嵩増ししているので、それが入っていないかを検査しているのです。もしハニニモの成分が入っていれば、生地が変色するのですよ」


 しばらく待っても変色なし。生地にちょっぴり残った蜂蜜をカーティスが味見する。


「最高級ではないですが、良い蜂蜜ですね。一瓶、これでいかがです?」


 提示された額は9万G。高すぎない? と丸戸は思ったが、最高級であれば、その数倍となるそう。もちろん言い値で承諾した。


 同じようにイチゴジャムも持ってきていたのだが、こちらは庶民価格で400Gだった。品質は良いのだが、味見をしなければ、その良さがわからない。

 富裕層向けにブランド化されていれば桁ひとつ違っただろうし、丸戸個人がそういった人たちに売り込む選択肢もある。

 買取はどうするかと聞かれたが、そのまま買い取ってもらうことにした。


 蜂蜜のほかに、今日持ち込んだ中で高く査定してもらったのがワイングラスで1点2万5千G。ついで白いロングTシャツが2万G、オフホワイトのトートバッグが1万Gであった。


 買い取ってもらった品数は合計77点。買取額は186万9400G。


 丸戸はカーティスに、明後日、町を離れることを伝える。年会費と税金の支払いをすることと、移動先の宿場町クリフまで何か仕事があるか、聞いてみた。


「クリフなら日用品やポーション、酒の運搬など、いくつかありますね。少々お待ちください」


 そう言ってカーティスは退室し、書類を持って戻ってきた。


「こちらが商業ギルドの年会費と税金の書類です。そしてこちらが運搬の依頼書です。まず、年会費と税金の手続きを済ませましょう」


 丸戸は空き時間で筆記の練習をしていたので、書類の記入は自分でできるようになっていた。年会費1万Gと税金5万Gを渡し、カーティスが再度、書類とお金を持って退出する。その間に丸戸は依頼書を見ていた。


 日用品は報酬が5千Gと安い。ポーションは10万Gだが、破損したぶんは売値の半額を弁償。酒は1樽1万Gで最低3樽から最大10樽を運搬する。

 こちらも破損したら弁償だが、4樽のうち1樽までなら許容するとのこと。最大10樽なら、2樽までは許容される。


 カーティスが戻ってきたので、酒の運搬をしたいと告げる。

 南門付近の一角にある、商業ギルドが所有する倉庫で、荷物の受け渡しをするとのこと。出発の1日前には準備ができているので、丸戸の都合のいい時間に荷物を受け取っていいそう。その際の書類のやり取りの説明を受けた。


 丸戸から仕入れることがしばらく出来ないなんてと、カーティスが嘆いていたが、確認作業も終わったので、商業ギルドを去った。



 続いて丸戸は冒険者ギルドに向かった。

 受付で丸戸のパーティーが宿場町クリフに移動することを伝える。そのときにパーティー名が登録番号のままであると言われてしまった。

 そのうちに変更しようと思っていたが、いい名前が思い浮かばない、いずれ登録するといい、冒険者ギルドから出て行く。




 翌日、丸戸の部屋にリナとフロストが来ていた。明日、クリフへ出発するので、連絡事項を伝え合う。


「俺は出発前に、商業ギルドの仕事で荷物を取りに行ってきます」

「馬車と宿場町の指定宿を手配したわ。出発は2番目の鐘だから、その前に南門に集合してちょうだい。料金は1人6千Gよ」


 レイとフロストがリナにお金を渡す。


「宿場町に到着した日はともかく、その後って、泊まれるところってあるの?」


 丸戸が馬車の旅をしていたときは、すべて指定先の宿泊施設だったので、普通に泊まれるほど、宿屋はあるのか疑問を感じたのだ。宿場町育ちのフロストがそれに答える。


「うん、あるよ。良い宿屋は指定先にされやすいから、望みどおりの部屋が取れるとは限らないけどね」

「直接行ってみないとわからないってわけか。一泊したら、まず、宿屋探しだな」


 明日は直接南門に集まることにして、解散した。




「お世話になりました。戻ってきたら、また寄らせてもらいます」


 丸戸は宿の女将に礼を言って、南門付近の倉庫へ向かった。

 商業ギルドで教えられたとおり、担当者に会って荷物をアイテムボックスに収納。

 書類にサインをもらい、仲間が待つ南門へ向かう。



「レ~イ、こっちこっち!」


 リナが丸戸の姿を見つけ、呼びかける。フロストも大きく手を振っている。

 今日は3人とも冒険者として活動するような服装ではない。

 男性陣は町の人が着ているような、茶系統の地味な色の普通の服装。

 リナは水色のワンピースに同系統の薄手のコートで、どこかの良家の娘みたいだ。


 お互いに挨拶を交わして、リナが手配した馬車へ向かう。

「道中に不要な荷物は預かるよ」と言って、丸戸が2人から荷物を受け取って収納した。


 他にまだ乗客は来ていないようだ。御者に乗車券を見せ、乗客リストと確認してもらい、丸戸たちは馬車の中に入る。

 馬車は10人乗りで、内部は左右に長椅子が設置されていた。

 右側の一番奥にリナ。その隣にフロスト。反対側の一番奥に丸戸が座る。


「いよいよ、私たちもこの町から離れるのね。思っていたよりも早かったわ」


「僕もそれまでの収入を考えたら、1年くらいは覚悟してた……」


「俺はパーティー組まずに1人だったら、この町を出なかったかもしれないな。なんか、今ここにいるのが不思議な気分だよ」


 リナとフロストが、それは自分たちも同じだよと笑いあう。


 他の乗客たちも到着し、馬車はブレモントを出発した。

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