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第17話 明かされる事情

 今日もリナとフロストが丸戸の部屋に来ている。

 昨日は丸戸がギルドに呼び出され、中断したためである。


「昨日の続きといきたいところだが、先にギルドに呼び出された件について話そうと思う」


 そう言って、昨日のことも含めて、約1か月前に召喚されたことも話した。

 丸戸のいう異世界が2人にはいまいち理解できなかったようで、丸戸はどこか遠い別の大陸から来たと思われた。

 そもそも人を召喚することができるというのも、2人は初めて聞いたらしい。


「ちょっと私も状況がまだよく飲み込めていないけど、レイは家族や友人と別れてこちらの大陸へ、たった一人で来っちゃったのよね? 大丈夫? つらかったりしない?」


「一人暮らしをしてからほとんど実家に戻っていないかったし、今は大丈夫。心配してくれてありがとう」


 相手の出方によっては、今後、2人に迷惑をかける、場合によっては丸戸はこの町を離れるかもしれないため、そのときはパーティーを抜けることも伝える。


「冒険者をしていれば面倒な事に巻き込まれるなんて、珍しいことじゃないわよ」


「暮らしにくいと思ったら、他の町へ移るのも普通だよね。レイがパーティーを抜ける必要はないよ。僕らもついて行くから」


 せっかく仲間ができたのに、また一人に戻るかもしれないと思っていたので、2人の言葉がうれしかった。

 さらに召喚されたときに鑑定したことも伝える。


「言語理解は魔法でもあるから、召喚されたときに魔法をかけられたんじゃないかしら? それとも、その召喚にそういう魔法が自動的にかかるようになっていたとかね」


「なるほど、自動的にと言われれば、そのほうが自然と思えるな」


「鑑定は魔道具じゃなく、魔法もあるわね。私は使えないけど」


「鑑定魔法もあるんだ?」


「えぇ。でも、ユニークスキルについてはまったくわからないわ」


「僕もユニークスキルって言葉自体、初めて聞いた」


「説明するより、見てもらったほうが早いな……」


 丸戸はまずアイテムボックスを表示させる。

 丸戸には黒く透き通った画面が見えるが、2人に何か見えるか聞いても、見えないということで、他人には見えないようだ。


 丸戸はアイテムボックスから水色とピンク色のTシャツを1枚ずつだした。小さいものだと、手品と勘違いされそうなので、できるだけサイズが大きいものを選んだのだ。


「え? 急に現れたんだけど、どうして?」


「何かの魔法?」


「あぁ、これも魔法みたいなものか? リナ、そういう魔法ってあるのかい?」


「え、えぇ。何もない空間に持ち物を収納できる魔法があるにはあるわ。実際に使い手がどれだけいるかわからないけど。あと、容量以上に持ち物を入れられる鞄とかあるわね」


「やっぱり、そういうのあるんだね」


「僕には鞄から何かを取り出したようには見えなかったから、レイのは魔法?」


「俺も魔法かどうかはわからない。それで、今取り出したシャツとかスキルで買えて、アイテムボックスに収納されるんだ」


「ごめん、私にはレイの言っている意味がわからないわ」


「僕も同じく……」


「俺も最初は理解できなかったから。まぁ、ちょっと特殊な魔法の鞄を持っているとでも思ってくれればいいよ」



 丸戸の部屋で食べたり飲んでいるものは、スキルを経由して購入したもの。買うにはお金がかかること。1日2回、3種類の商品が最大10個まで買えることを話した。


「買える数に制限があるとはいえ、収納スキルだけでも貴重なはずなのに、お隣の国はなんでレイを追放したのかしら?」


「あぁ、そのときはまだスキルの使い方を知らなかったからな。この町にきて、使えるようになったんだよ。それに向こうが希望していたのは、戦闘要員だったしな」




 ひとまず丸戸の事情説明はこれで終わりにして、次の予定について話す。


「西門側はさらに歩く距離を伸ばす、または街道から大きく離れるか。それとも東門側に行くか。どれがいい?」


「歩く時間がもったいなく感じるわ。街道を離れるか、東門で迷うなぁ」


「僕も歩く距離は伸ばしたくない。一度東側がいいかな」


「それじゃ、東門側に行くか。歩く距離は短めで街道から離れるのと、長く歩いて街道寄りはどちらがいい?」


 歩く時間は短いほうが良いということで、そちらに決定した。採取に出る日にちを聞くと「明日が良い」とこちらはいつもどおりの返事だった。


 次は東門となると、西門よりに宿泊するフロストはかなり歩くことになるが大丈夫かと聞いたら、前回の報酬で中央により近い宿が取れたから問題ないとのこと。

 ついでに丸戸も先ほどの件のこともあり、宿は数日おきに変えることを話す。

 大まかな時間割を決めて、その日は解散した。




 翌朝、早い時間帯に出発。薬草採取らしき冒険者が他にもいたが、ほとんどが町に近い草地に入っていった。

 丸戸たちは街道を1時間ほど歩き、左側の草地に入り500メートルほど進んだところで、丸戸以外の2人が双眼鏡で偵察。

 確認した範囲では脅威となる魔物はいないとのこと。そのままフロストが偵察を続け、丸戸とリナが採取を始める。


 それぞれが見張りを1回ずつ終えたところで休憩し、この後の行動を話し合う。もう1回見張りをそれぞれこなすまで採取をし、休憩を挟んで角兎だけ狩ることにした。


 今まで試していなかったので、1匹目を倒したところで角兎をアイテムボックスに収納できるか試みる。

 角兎は骨だけとか、皮だけ収納されるような想定外のことがないか何度か出し入れして、問題なく収納できることを確認した。


「実際に目の前で見ているのに、何が起きたのかすぐに理解できないわ」

「僕も説明聞いたけど、自分の目が信じられないよ」


 目の前で血抜きを終えた魔物が、消えたり現れたりする。

 2人はアイテムボックスのことは理解したつもりでも、目の当たりにするとすぐには認識しづらいようだ。


「そのうち、慣れるさ。これで持ち帰りを気にせず、狩れるな」


 以前のように担いで持ち帰る必要はなくなった。

 時間いっぱいまで角兎を狩り、町に戻った。


 解体場へ向かう途中、人目につかないところで角兎の入った皮袋を取り出し、買取してもらう。

 採取品も数が多いので、鑑定するのに時間がかかると言われる。


 移動も含めて採取と狩りで12時間。町に戻ってギルドまで移動と、受付で採取品を渡すまでにも2時間以上かかり、さすがに疲労困憊。

 報酬は明日まとめてもらうことにして、それぞれの宿に帰っていった。




 翌日、ギルド内のテーブルで待ち合わせしていた丸戸パーティー。丸戸が到着すると、すでにフロストが来ていて、掲示板を眺めていた。


「僕ら、まだパーティー名を決めてなかったね」


 丸戸はすっかり忘れていた。

 2番目の鐘がなる少し前にリナも到着。カウンターに行き、採取と狩りの報酬と小さな魔石5個を受け取る。

 採取では11万2千G。角兎は3万5千G。合計14万7千G、一人当たり4万9千Gの収入となった。


「西門に比べると高そうな薬草がたくさん取れたけど、まさかこんなにもらえるなんて……」

「3人でだけど、僕の1か月の収入より、昨日1日の収入のほうが多いよ……」

「早朝から、日が暮れるまで活動した甲斐があったね」


 丸戸が1人で東側を採取したときは最高で3万Gだった。昨日は1人平均で3万7千G以上。さらに狩りの報酬も1万G以上あるのだ。

 パーティーを組まず一人で活動していたら、これほど稼ぐことはできなかっただろう。

 全員Gランクのパーティーとしては驚異的な数字であり、内訳を伝えるギルド職員も驚いていた。



 この後、リナの宿泊する食堂でご飯を食べながら、次の予定を決めていく。

 次も昨日とは反対側の場所で採取を中心に活動することを決めた。

 あと何回かの活動による収入で、角兎以外も狩れるよう、まず最低限の装備を購入することを目標とする。


 次の活動予定は明後日となった。さすがに昨日寝る時間以外は動きっぱなしで、1日置いて明日というのは体力的に厳しい。

 採取だけならともかく戦闘もとなると、疲労で怪我をしかねない。



 丸戸は明日、商業ギルドで買取をしてもらうつもりだが、欲しいものがあれば提供すると伝える。

 商業ギルドで全部売ったら、在庫なしなのだ。商業ギルドから商人に渡り、そこから買うとなると高くつく。


 どんなものがあるのか見せて欲しいということで、リナの部屋に移動する。

 部屋は6畳ほどでベッドと机がある。ベッドにリナが腰掛け、フロストが机とセットの椅子をベッド脇に寄せ、座る。丸戸は立ったままだ。


 アイテムボックスから、シャツ4種類、濃紺のスポーツタオル、木枠の小さな鏡をベッドの上に置く。


 売るのは1種類につき1点で、価格は丸戸が買う料金の2倍にした。

 それでもその辺の店で買うよりは桁違いに安い。


「私は白いシャツ以外、全部ください」

「僕は水色のシャツと袖のない白いシャツと厚い布がほしいです」


 数週間前までの彼らの稼ぎでは、かなりの金額となるが、安く良い品を買えたと満足顔であった。

 それぞれからお金を受け取り、少し談笑して解散する。




 翌日、朝食とおすすめの買い物を済ませて宿を出る。

 この日でチェックアウトなので、まずは次の宿を探し、今までと同じ6千Gの宿を選んだ。

 

 宿泊の手続きを済ませたら商業ギルドへ。

 受付でまたいくつか仕入れてきたことを話し、商談用の個室へ向かう。担当者が来る前に、アイテムボックスから商品を出して、一部はテーブルの上、残りはリュックサックの中や隣のイスに置いておく。

 間もなく誰か入ってくる。今回はカーティスではなく別の職員だった。


「生憎、カーティスは今、別の商談で取り込み中でして……」


 お互い自己紹介し、商談を始める。以前査定してもらった小皿にマグカップとガラスのコップ、新たに4種類のシャツは向こうの言い値で買い取ってもらった。

 しかし、鏡とタオルについては、値段が決められないようだ。


「すいません、私では判断しかねるので、少々お待ちいただけますか?」


 丸戸が待ってますと言うと、職員は部屋を出て行った。

 お茶を飲みながら待っていると、職員とカーティスがやってきた。


「いやぁ、お待たせしましたレイ様。また、素晴らしいものをお持ちになったとか。さっそく拝見させていただきますね」


 挨拶もそこそこに2つの商品をカーティスが査定する。


「こちらの2点は、店先に並ぶような商品ではないですな。ギルドとしてはこの金額で買い取らせていただきたいのですが、いかがでしょう?」


 そう言って提示された金額は、鏡が10万G、スポーツタオルが8万Gだった。


 スポーツタオルは以前持ち込んだタオルも含め、この世界では珍しい技法なのか、高く売れる。

 それよりも高いことに驚いたのが、木の枠の小さな鏡。日本であれば、OLさんが自分の机の上に置くような、シンプルなデザインのもの。


 それでお願いしますというと、あとは職員に任せ、カーティスは挨拶をして仕事に戻っていった。

 持ち込んだ商品をすべて渡すと代金を受け取り、書類にサインをし、無事取引を終えた。

 今回の売上は136万3500Gにもなった。



 帰り際、初心者の冒険者向けの防具店で、良い店はどこか尋ねると、冒険者ギルドと同じ通りにあるトマージの防具店をすすめられた。丸戸はお礼を言って、教わったとおりに道を進み、防具店へ向かう。



 防具店に入ると、正面にカウンター、両側に鎧や盾、篭手にブーツといった見本が置かれている。店内はそこそこ広いが、客は数名だった。


 丸戸は見本を見ながらウロウロするが、正直言ってどういったものが自分にふさわしいか、まるっきり見当がつかない。

 見ていてもしょうがないとカウンターに行って、自分の攻撃スタイルではどの防具がいいか見繕って欲しいと店員に伝える。


「そうだなぁ、あんたの場合なら動きやすい皮鎧とブーツが良いと思うぜ。予算はいくらだい?」


「30万Gくらいなら……」


「その金額だと、鎧は中古品になっちまうな。川鮫のブーツと中古で大熊の皮鎧が24万だ。それでいいかい?」


「すみません、もう少し上の価格帯だとどういったものがありますか?」


 魔物の皮を使用した防具が3つほど紹介されるが、丸戸は最後の3つ目に興味を持った。


「少し値は張るが、大緑鰐のブーツと鎧のセットが60万Gだな。こいつは柔軟性と弾力性があるから動きやすくて、表面のデコボコした部分が刃物や爪なんかの物理攻撃に強いんだ。といってもさすがに金属鎧ほどではないけどよ。お金がないってんならしょうがないが、一時的に中古品で装備を整えるより、こういったものを装備したほうが、後々得だぜ。どうする?」


 丸戸のパーティーは、丸戸が負傷して動けなくなると、パーティーの戦闘力が極端に落ちる。数万Gの差なら、少しでも良い防具を買っておきたい。


「そのセットのほうをください」


「はいよっ。サイズが合うように調整するから、試着してみてくれ」



 試着で店員に鎧の着用方法を教わり、微調整される。

 胴体と肩周りを覆う鎧は、深緑色に茶色を少し混ぜたような色。

 よく見ないと気づかないが、手で触れると全体に小さなイボ状のものがあり、これが防御力を高める効果になっているそう。


 ブーツも十分足首が動かしやすく、思っていたほど重さはない。長距離の移動もたいした負担にならないだろう。


「こいつはおまけだ」と言って、金属っぽい黒い篭手も装着された。

 昆虫が素材のようで、軽くて丈夫なんだとか。ただ、一度傷つくと修復は難しく、状態がひどくなったら処分して、買いなおせとのこと。


 調整作業が終わり、お金を払う。鎧は着用したまま、ブーツと篭手は皮袋にしまい、宿に戻った。

 明日はまたパーティーで採取と狩りをするため、この日は早く眠った。


 

丸戸がこの世界に来て、ちょうど30日が経過。

 収入が310万3820G。支出がちょうど137万G。

 残金は173万3820Gとなった。

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