表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/66

第16話 某国からの使者

 角兎を多数討伐した翌日、丸戸の宿泊先で反省会をしていると、従業員から来客と伝えられる。

 リナとフロスト以外に丸戸を訪ねる人物に心当たりはないが、ひとまず玄関口まで向かう。

 見覚えのある薄い緑色の髪をした女性がいた。


「レイ様、おはようございます。冒険者ギルド職員のナタリアです。急なことで申し訳ありませんが、ギルドのほうへお越しください」

「こちらも今、来客中なのですが……。どういったご用件か、聞かせてくれませんか?」

「私も詳しいことは聞いておりませんが、このままだと外交問題になるとか。すみませんが、至急お願いします」


 冒険者ギルドがあったから、薬草採取だけで生活できるようになった。

 断るのも悪い気がして、行くだけ行ってみよう……そう考えた丸戸は部屋に戻り、2人に事情を説明して、また明日ということで解散した。


 ギルド職員ナタリア嬢とともに冒険者ギルドへ向かうと、階段を上って、応接室っぽい部屋に通された。

 部屋に入ると、丸戸に視線が集まる。

「レイ様をお連れしました」といい、席に案内された。ナタリアは一礼して部屋を出る。


 大きなテーブルの上座に、ガタイの良い初老の男性。その右側にローブを着た2人の男性。彼らの正面に丸戸が座る。


「レイ殿、急に呼びつけて申し訳ない。ブレモント冒険者ギルドのギルド長マルセルだ。お主を探していた者がおってな。すまないが、少し付き合ってもらうぞ。まずそちらの2人だが……」

「シンディヤナ国、リーソ子爵に仕えるコウゾと申します」

「同じく、サイーボ男爵の臣、サテウでございます」

「はじめまして、冒険者のレイです」


 それぞれ名乗ったところで、なぜここにレイが呼ばれたのか、サテウから説明がされる。


 国難を救うべく、約1か月前に大金で呼んだ1人の男性が、宰相の手配で放逐されたと判明した。

 国家の一大政策が失敗し、宰相たちが隠蔽工作をしたことも判明。

 宰相をはじめ誰も責任を取らない、宰相たちが重要な役職にいては国が滅ぶ。

 そこで行方不明者を探し出して隠蔽した事実を明らかにし、責任を取らせようということらしい。



(あぁ、期待はずれの俺をすぐに追放したことは内緒にしてたんだ。それがばれちゃったのね。もう1人いたんだから、別に隠す必要もないのに、なんで隠蔽工作までしたんだろ? そういえば、王様がめちゃくちゃ怒ってたっけ? それなら隠したくもなるか?)


 丸戸の存在を知られると、宰相たちにとっては都合が悪い。そのため隠蔽工作をしたのだ。

 逆に宰相たちの落ち度が、都合の良い者たちもいる。


「そちらの事情はなんとなくわかりました。それでどうするのですか?」


「ただちに我が国に戻っていただきたい。貴方から直接経緯を説明して、宰相たちの罪を明らかにして欲しいのです。そして我が国のため力をお貸しください」とサテウが答える。


(わざわざ自分が出向いて何があったかなんて説明しなくても、あの時その場にいた人に事情聴取すればわかることなのに。そうしなくてはならない、別の理由でもあるのか?)


 使者の狙いが、いまいちわからない。

「いいですよ」とは、すぐに言えなかった。



「力を貸せ……とは、具体的にどういうことでしょう?」

「我が国の第二王子が隣国との戦争で亡くなりました。まずはその仇を取るために、ぜひご助力を!」


 敵討ちということなのだろうが、丸戸が戦場に出ねばならない理由がわからないし、その気もない。


「私は最低ランクの冒険者ですから、無理ですよ。それにパーティーを組んで仲間もいます。そちらの国を出る前だったらともかく、今は戦場で戦うなんてことは考えられませんね」


 ユニークスキルの使い方がわからず、お金がなかったら、ちょっと心が揺らいだかもしれない。

 でも、スキルが使えるようになったおかげで、自分でも信じられないほど好転した。

 この世界を1人で生きていくには難しいと考え始めたころに、良い仲間もできた。今さらあの国に戻るなんて考えはない。


「まだ身分証の期限は切れていないはずです。貴方もシンディヤナの民なのです。どうかお戻り願えませんか?」


「身分証はもらいましたけど、他にもお金や旅に必要なものまで用意して、1日も経たないうちに、そちらの王都から馬車で追い出されましたよ。よっぽど、この国にいて欲しくないんだろうなぁって、思いましたね」


 あの時の感情が思い出される。異世界にたった1人になって、なんと心細かったことか……。


「ですから、それは宰相たちの陰謀なのです。貴方が戻ってくれれば、彼らは罰を受けるでしょう」


「そこまで宰相たちの失策が明らかなら、処分なりなんなりすればいいじゃないですか? 見ず知らずの私なんかの手を借りなくても、残った人たちで仇を取ったほうが、戦争で亡くなった人たちも浮かばれると思いますよ」


「いえ、それは……その……、我が王が直々に呼び寄せたマルトレー様が先陣に立てば、士気も大いに上がりましょう」


「それでしたら、私じゃなくもう1人の方に頼むべきです。彼は戦闘能力があるみたいでしたし」



 突然、ドガンと大きな音が鳴る。

 丸戸とサテウの話を聞いていたコウゾが、机を力強く叩いたのだ。


「こちらが下手に出ているからといい気になりおって……つべこべ言わず、黙って我々に従え! この愚か者が!」


 丸戸が素直に応じないものだから、怒らせたみたいだ。



「私がいると士気が上がるどころか、味方を怒らせちゃうみたいですね。この話はお断りさせていただきます。ギルド長、もう帰っても良いですか?」


「それは困ります。では、こちらで冒険者に依頼を出します。彼を指名しますので、我々の護衛をお願いします」


 断らせまいと、サテウが必死につなぎ止める。


「確かに冒険者だけど、さっきも言いましたように私は最低ランクです。そのランクでは……」


 チラッとギルド長を見ると……


「指名依頼は基本的にCランクからだ。Gランクでは話にならないな。もっとも仮に依頼を出せても受けるかどうかは、冒険者しだいだ」


 ギルド長自ら、冒険者ギルドの説明をしてくれたので説得力が違う。


「冒険者ギルドは冒険者に強制できる権利もあるのでは?」


 サテウはなおも食い下がる。


「こんな事案で強制できるわけなかろう、貴国の問題を冒険者やギルドに押し付けるな」


 ギルド長にそう言われ、サテウは沈黙してしまう。



「この国と我が国は友好関係にある。ギルド長も我々に協力してくれまいか?」


 今度はコウゾが説得を試みる。


「ふん。だったら貴国の宰相あたりが、外交で交渉をすれば良いではないか。なぜGランクの冒険者を戦場に出す必要がある? 士気を上げるなら第一王子のほうが、よほどふさわしいだろうに」


「あ……、もしかして宰相や第一王子に出てこられるとまずいとか?」


「ぐ……!貴様は黙ってろ、この雑魚が!」


 図星だったようだ。サテウも、あちゃーという表情をしている。

 なんとなく想像はついた。ようは身内での派閥や権力争いみたいなものだろう。


「宰相たちが隠蔽した私に、戦場で何か適当に活躍した話でも作れば、この件に絡んだ人はみんな立場が悪くなりますね。責任を取って職を失うかもしれない。いや、そうなるように仕向けるんですよね、きっと。でも、私じゃなくて第一王子が出てきてしまうと、その計画もつぶれて困る……と」


 何か言い返したいのだろうが言葉が出てこず、コウゾは怒りの表情で睨み返すだけだった。



「いや、マルトレー様、さすがにそれは悪く決めつけた考え方です。我々は……」


 サテウの言葉を遮って、丸戸が発言する。


「いえいえ、サテウさん。今さら取り繕うとしたって、もう手遅れですよ。話は単純で、私を利用したいだけですよね? おそらく貴方たちの仕える貴族は第二王子寄りだったのではないですか? これも推測ですが、第一王子側につこうにも、宰相をはじめ、取り巻きが多いんでしょうね。だから自分たちが取り入ったり、出世するために、宰相一派を引きずり降ろしたいってことでしょう?」


 両肘をテーブルの上につけ、頭を抱えるサテウ。自分たちに都合良く話を進めるため、丸戸を利用したいだけであった。ギルド長もそれを理解し、口を開く。


「使者殿、これ以上交渉しても、答えは変わらぬみたいですな。本日のところは引き上げたほうがよろしいのでは?」

「はい……、後日改め、お伺いさせていただきます。今日は時間をとっていただき、ありがとうございました」


 サテウとコウゾが部屋を出て行った。



「ところで、どうして私の居場所がわかったのでしょうか?」


「それはだな、先ほどの使者がこの町で人を探していてな。マルトレーはどこだ、ここに来ていないかと何度か問い合わせがあったのだ」


 ギルド長の話によると、使者が自国の外交員を使って調べたところ、丸戸が町を出て行った形跡はなかった。


 身分証がないと田舎の小さな村などはともかく、町では暮らしにくい。

 シンディヤナ国の身分証の期限が迫っていることは知っていたので、この町で身分証を作るはず。そう考えて商業ギルドへ行った。


 この町に馬車で到着した日から間もなく、確かに身分証を希望する男がいた。だが、冒険者ギルドで作るため、そこでは作らなかった。

 冒険者ギルドに問い合わせたが、マルトレーという名前で登録した冒険者はいなかった。


 マルトレーの特徴を伝え、ここ数日で身分証を作った男性を調べ上げ、レイとレイ・マルトという男性がいることを今朝知ったらしい。

 冒険者のレイならギルド近くの宿に泊まっていることを見かけた者も少なくなく、居場所がわかったそうだ。



(この町、いやこの世界って個人情報の扱いってどうなっているんだろう?)


 自分の住んでいるところがすぐに把握されてしまうのは怖いし、さっきの2人に押しかけられるというのも困る。


「あの人たち、また来ますかね?」

「来るだろうな。でもお主は冒険者だ。自分の好きなように判断したところで、誰も文句は言わんよ」


 これで終わりというわけでもなさそうだ。


(しかし、今後もあの国の人に付きまとわれると、2人に迷惑をかけるかもしれないな。一度ちゃんと話しておいたほうがいいか?)


 今日の予定が狂い、とくにすることはなくなった。結局、洗濯と荷物整理で1日を終えることに。

 途中、宿の延長を思い出し3日延長しておいた。

 おすすめ品も忘れずに購入。朝と夕は以下のようなものであった。


【キッチンペーパー 250】【ペーパータオル 200】【割り箸 100】

【蜂蜜500g 500】【レトルトおでん 250】【ミルクココア300g 250】


 朝はともかく夜のほうは、昼間、気疲れしたせいだろうか?

 ありがたく、すべて購入した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ