第14話 個人指導
「ご利用、ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」
丸戸は10日間宿泊した東門側の宿を出ることにした。もう少し西門側で採取をするためだ。
また西門よりの宿に行こうかと思ったが、出発するとき短時間の移動で済むか、ギルドに寄って帰ったとき長く歩くかを考えた結果、多少高くてもギルド付近の宿を選ぶことにした。
温水シャワーが部屋にある宿で1泊6千G。とりあえず3泊で部屋を取った。
それからリナの宿泊先の食堂に行き、反省会と次回の予定を決める。次は街道からさらに離れた位置で採取することにした。
魔物が出現することを想定し、丸戸は明日はギルドで訓練を受けるつもりだと話す。
2人にもできる範囲で準備して欲しいと伝え、明後日に前回と同じ時刻に集合することを確認し解散した。
丸戸は冒険者ギルドに行き、個人指導の申し込みをする。
講習会では長剣か槍がいいと聞いたので、槍を選んだ。
5千Gとちょっと高く感じたが、それくらいの金額を取らないと、指導者が捕まらないのかもしれない。
申し込みを終え、宿に戻った。
これから荷物整理である。使うもの、使わないもの、それと売るものを分ける。
サンプルとして見せるものは別に取りわけ、木箱や籠、布袋などに入れておく。
こうして1日を終え、翌日、冒険者ギルドへ向かった。
冒険者ギルドの受付で、個人レッスンを受けに来たことを伝える。訓練場へ案内してくれるとのことで、職員の後についていった。
数分歩くと、冒険者ギルドが所有する建物の中に入る。足元は地面がむき出しだが、体育館ほどの広さがある。
本来は魔物を解体するときに使用するらしいが、ここに運び込まれるほど魔物の数は多くはない。
普段は素材置き場だが、一部は多目的に利用できるようだ。
すでに半分の面で何かの訓練をしている人たちが見える。
職員に連れられた先に、1人の男性が待っていた。職員に礼を言って、男性の下へ向かう。
190センチメートルくらいあるだろうか? 濃い茶色の短髪で髭を生やし、黒っぽい衣服。30代後半くらいに見える。
「訓練を希望したレイだな? 俺はイワンだ、よろしくな」
「レイです。よろしくお願いします」
「槍を希望なんだってな。武器はまったく扱ったことがないと聞いているから、基本的な動きから教えていくぞ」
そういって槍に見立てた長い棒を渡される。初歩の初歩からみっちり指導され、草原で出現する魔物を想定した戦い方のレクチャーも受ける。
一度ですべて身につくわけもないが、こうして練習するのとしないのとでは、雲泥の差となるだろう。
休憩を挟みながら5時間ほど指導してもらい、お礼を言って冒険者ギルドを出た。
一度宿に戻り、シャワーを浴びて着替える。次は商業ギルドで商売だ。
総合案内ではなく、取引用のカウンターに向かう。以前買取してもらったものと、それとは別にいくつか商品を持ってきたので、売る売らないはともかく、査定してもらいたいと告げた。
カウンターで待っていると、見知った男性が近寄ってきた。
「こんにちは、レイ様。覚えておられますか? カーティスです。今日もよろしくお願いします」
「お久しぶりですね、カーティスさん。こちらこそよろしくお願いいたします」
「いくつか商品を持ってこられたとか? ここではなんですから、あちらのお部屋でお話を伺わせていただきます。ささ、どうぞこちらへ」
以前とは違う部屋に案内された。品のある部屋で、高そうなテーブルとソファーがある。着席すると、秘書らしき人がお茶を入れてくれた。
「いやぁ、前回レイ様が持ってこられた石鹸と肌着が好評でしてね。在庫はないのか、仕入れはどこからだと、ちょっと騒ぎになりましたよ。今回も同じ品をお持ちなんですよね? そちらは高く買い取らせていただきます」
前回でもかなり高く買い取ってもらったと思ったが、今回はさらに高く?……とびっくりした丸戸だった。同時に、何点渡そうか、瞬時に考える。
(肌着は4着を着まわしている。予備も残しておきたいけど、必要性はそんなにないな。石鹸も元々10個買ったつもりが30個だったから、思い切って売ってしまうか? あぁ、でも石鹸は自分で買うとなると高そうだから、少し残しておきたいな……)
考えた末、石鹸は10個、肌着は未使用の4着すべてをリュックサックから取り出した。
前回と同じ商品だが、カーティスは一つひとつ審査する。「どれも素晴らしいです」と買い取り金額の話になった。
「こちらの石鹸は5万G、肌着は2万Gで買い取らせていただきたいのですが、いかがでしょう?」
丸戸は顔を強張らせながら、その金額で買い取ってもらうことを了承した。
商品を渡し、58万Gを受け取る。
「他にもいくつかお持ちいただいたとか? 拝見させてもらえますかな?」
「売り物になるかどうかわからないものもあるのですが、いいですか?」
丸戸がそう尋ねると、もちろんですと返された。
リュックサックと大きな皮袋から、ハンドタオル、タオル、ハンカチ、バンダナ、ガラスコップ、陶器のマグカップ、陶器の小皿、軍手を取り出す。
タオル2種は見たこともない技術による品。ハンカチとバンダナは品質がいい、食器類もサイズが均一で素晴らしいと評価を受けた。軍手も質はいいがそのぶん一般人には高く、富裕層には需要がないかもしれないとのこと。
食器類以外は買い取ってもらいたいぶんをすべて持ってきている。相場を知らないのに1点ずつ交渉をするのも疲れるので、相手の言い値のまま買い取ってもらう。
買い取り額は、タオル4万G、ハンドタオル2万5千G、バンダナ1万2500G、ハンカチ1万G、軍手2千G。
合計で65万9千Gとなった。
取引を終えると、丸戸は初心者向けの槍が欲しいので、お店はどこがいいか訪ねた。
「それでしたら、ちょうど良い品がありますよ。参考までにご覧になりますか?」というので、お願いした。
数分後、先端にカバーを取り付けた槍が届けられる。
「こちらは貴族のご子息が鍛錬のために所有していた一品でございます。一見、ただの鋼の槍なのですが重量軽減の付加魔法によって、攻撃威力は維持したままなのに、とても軽いのですよ」
試しに持たせてもらうと、確かに軽い。軽いとすぐに破損するのではないかと不安で質問してみたが、魔法で軽くしたから、強度がもろくなることはないという。
(木の槍とか中古の金属製の槍を買うくらいなら、こういった武器を買ったほうが良いか? 問題は値段だ……)
丸戸はすでに買いたい気持ちへ傾いている。それを感じ取ったカーティスが話を続ける。
「一般的な鋼の槍は、店頭販売では30万Gほどします。魔法が付加されたものですと、その種類によりますが、数倍になるでしょう。ですがレイ様は、仕入れとして買い付けができます。当ギルドではこちらの商品は35万Gで売り出す予定でしたが、今回良い取引をさせていただいたので、レイ様なら30万Gでお譲りしたいのですが、いかがでしょう?」
お店で魔法付加のない状態で買うなら30万G、付加されたものは数倍。それが普通の槍と同じ価格で買えるのだ。
「買います!」
何の迷いもなく、買い付ける丸戸だった。
 




