第13話 パーティーでの初報酬は?
丸戸はいつもより早く起きて出かけた。
宿が東門近くにあり、集合場所が西門。移動に2時間ほどかかるのである。
西門までたどり着くと、すでにフロストが荷物を背負って待っていた。
濃い茶色のベストにくすんだ青いシャツ。茶色のズボンに革のブーツ。この町でわりとよく見かける服装だ。左右の腰にはナイフが装備されている。
身長は丸戸より10センチメートルほど低いが、そのぶんすばしっこそうに見える。
「おはよう、フロスト。早いね」
「うん、おはよう、レイ。僕は一番近いのが南門だったから、遅れないようにと早めに来たんだ」
「俺も東門近くだよ。この移動距離は忘れてたなぁ。宿泊先も考えないといけないね」
フロストと話している間に、濃い緑色のローブを着たリナも小走りでやって来た。
2人の姿が見えて、急いだのだろう。挨拶を交わして、呼吸が整うのを待つ。予定どおり鐘の音が鳴ったころに出発した。
門まで移動距離があったので、歩くペースは少し遅い。
昨日初めて会ってパーティーを組んだので、まだ距離感があり、道中の会話は最低限であった。
予定に従い時計が2時間進んだ地点で草地に入り、作業の確認をする。
街道に近いほうからフロスト、リナ、丸戸の順に並び、採取を始めた。
丸戸は前回と同様、安い報酬の薬草はスルー。そのため2人よりも先行するようになり距離が開きつつある。
そうなることも想定していたので、距離が縮むまでは安い薬草も採取しつつ、周囲に魔物はいないか確認。
今日は西門側で危険は少ないが、東門側に行ったときはどうするか?
パーティーで行動する場合、どうしたら効率的か?
気づいたことをメモして、採取に戻る。
再び距離が遠ざかると周囲を警戒し、スキルを発動。
【胡椒20g 180】【フォーク 50】【スプーン 50】
手早く、全部購入した。
休憩時間となり地面に座って昼食を取りながら、ここまでの感想をお互い話し合う。
「ずっとしゃがんだ状態って、かなりきついわね」
「移動ですごく疲れるけど、いつも町の近くで採取していたから、たくさん取れてうれしいです」
リナはかなり疲れたようだ。フロストはまだ余裕がありそう。
無理する必要はないし、体力的に厳しいなら今日はもう切り上げることを提案するが、予定どおりで大丈夫と言うので、休憩後、採取を続行する。
午前中と同じように、丸戸だけどんどん前進し、辺りを警戒。残り時間を逆算して、リナ、フロストのゾーンにも入って採取し、帰る時間となった。
疲れてへたり込んでいるが、これからまた3時間近く、ギルドまで含めると4時間、男2人は宿までさらに1時間ほど歩くことになる。
「これから帰る時間が一番つらいんだよね。でも、今日がんばったぶんが、どれだけの報酬になったかを楽しみに歩きましょう」
そう言って励ます丸戸であった。
3時間後、ヘロヘロになりながらも、なんとか西門にたどり着いた丸戸パーティー。
これから冒険者ギルドに行くと、待ち時間がかなりかかる。リナが宿泊する宿屋に向かって、時間を潰すことにした。
「やっとついた~」
かなりきつかったであろうリナが、歓喜の声を上げる。
「もうヘトヘトです……」
長時間採取することはあっても、採取時間以上を歩くことはなかったため、さすがにフロストも堪えたようだ。
そんな2人を「よくがんばった」とねぎらう丸戸。
冒険者ギルドで報酬を得たら、今日はそこで解散。明日の2番目の鐘が鳴るころに、ここの宿に集合して、反省会をするという流れだ。
宿屋の食堂で1時間ほどくつろぎ、3人はヨタヨタと歩きながら、冒険者ギルドに向かった。
冒険者ギルドに人はまだ残っていたけれど、それほど待たされずに、丸戸たちの順番になった。
パーティーであれば、本来はまとめて精算して報酬を分配するが、今回は個人でどれだけの稼ぎか把握するため、別々に報酬をもらう。
フロストが1万2600G、リナが1万1000G、丸戸が1万7500Gであった。
丸戸は初めて採取したときより2倍近い報酬、フロストも普段の報酬より4倍以上、リナにいたっては10倍を超えていた。
「1日でこんなに……」と、2人とも手にしたお金に驚いていた。
翌日、リナの泊まる宿屋に向かう丸戸。
昨夜と今朝、忘れずにおすすめ品を確認し、すべて購入しておいた。
  
【ガラスのコップ 100】【陶器の小皿 100】【事務用ハサミ 100】
【タオル 200】【魚肉ソーセージ 100】【オレンジジュース 60】
講習会の日から、とりあえず買っとくという横着な買い方になり、今、何をどれだけ所持しているか、商業ギルドで買い取ってもらう商品はどれかなど、把握できていない。
一度しっかり確認して、自分では使わずに売れそうなものは、売ってしまおうと考える丸戸であった。
目的地の宿に到着すると、受付でリナを呼んでもらう。間もなくリナがやってきて、食堂へ向かった。
すでにフロストも来ていたようだ。丸戸が来るまで、お金のやりくりを話していたらしい。フロストとも挨拶を交わし、果実水を注文、席に着く。
「昨日はお疲れ様でした。今日は、反省会と次の予定について話したいと思います」
リナは初めのほうで張り切りすぎて、後半、疲れ果ててしまったこと。採取に集中しすぎて、周囲の警戒がおろそかになってしまったとフロストが言う。
同じ時間採取したのに、丸戸と他2人の成果が違ったことも、反省材料にあがった。
「リナは最後のほうでペースが落ちたから、採取数も少なくなったね。でも、フロストの採取数は俺よりも多かったよ」
え!? と驚く2人。 何が違ったのかを説明する丸戸。
「だからレイは、どんどん前へ進んでいたのね」
「採取できるものは全部取ることしか、考えてなかったです」
最初に丸戸の採取のやり方を話そうと思ったが、すぐに考えを改めた。
丸戸は自分の経験から、採取する薬草は選んだほうが良いと判断したが、他の人がどう思うかまではわからない。
今までどおりのやり方でも、遜色ない成果が出ることも考えられたのだ。
次は丸戸と同じ方針で採取してみたいという2人。
長時間の移動と採取作業は苦痛である。
とても続けられないと、パーティーを組むことを考え直す者が出ても当然と丸戸は思っていたが、杞憂だったようだ。
雑用の依頼は生活のためにやっていたので、採取でこれだけ稼げることがわかり、パーティーを抜けるなんて考えもしなかったとのこと。
2人に早く次の予定を組もうと急かされる。
「今は安全面を考慮して西門側で採取しているけれど、日帰りできる範囲では、採取できる量も限りがある。いずれ東門方面で採取することを想定しないとね」
西門側で採取しても、東門側で採取するつもりで、行動したいと丸戸は考えていた。
「そうね、昨日はずっとレイに任せっぱなしだったわ。見張りは交代制にしましょう」
「昨日、見張りながら考えていたんだけどさ。採取ポイントというか、報酬の高い薬草が取れる目印とかつけられないかなぁって思ってたんだ。そうしたら見張りで採取できない時間も無駄にならないし、他の人の場所にも目印があれば、探す手間も省けるしね。2人は見張りしながら、採取場所の選別はできそう?」
「私はじっくり観察すれば、なんとか……」
「僕は、この辺りはたくさん取れそうだなというのは、だいたいわかるよ。でも、目印とかどうする?」
「それなんだよなぁ。長めの木の枝とか落ちてないし、かといって木材を買って持ち運ぶのも不便だし……う~ん、帯状の布を結びつけるのはどう?」
「え!? わざわざ布を買うの?」
布自体も決して安くはないので、リナが驚くのも無理はない。
目立つ色の古着を買って、自作するという手もある。それでもお金がもったいなく感じるリナとフロスト。
「自分にだけわかるように、草を踏み潰すくらいだったらできるんだけど、他の人がそれで判別できるかどうか……」
フロストも自分の考えを出してくれる。
「それいいね。まずは自分が採取する範囲でやってみよう」
時計を持つレイが時間を管理する。初めにリナ、次にレイ、最後にフロストでお昼休憩。
後半も同じ順番。採取時間は一人当たり長くて4時間しかないが、単純計算で前日より収入は増えると丸戸は予測する。
それを聞いた2人は、待ちきれないようだった。いつが良いか希望を聞くと、明日が良いと即答。
今日一日休んだだけで、大丈夫か?……と心配になる丸戸だったが、自分も初日から1日休んで2度目の採取、その翌日に3度目と行動しているので、なんとかなるだろう。
食堂でお昼を食べた後、そろって冒険者ギルドへ向かった。パーティー登録の申請のためである。
昨日、採取品を持ち込んだときに職員にパーティーについて尋ねたら、義務ではないが、なるべく申請したほうがいいとのことだった。
受付で書類の記入はリナが行い、それぞれ身分証を提示し申請。
パーティー名はあとで変更もできるということで、名前の部分は管理番号での登録となった。登録されるまでの間、パーティーに関する説明を受ける。
無事、登録が済み、帰り際に掲示板を見て、パーティー名の参考にする。色や金属、生き物や自然、武器などの名称が多い印象。
すぐにこれだと思えるものも浮かばず、移動中にみんなで考えればいいかと、考えることを放棄する丸戸だった。
明日は採取時間を確保したいため、日が出て少し明るくなったら出発したいとリナとフロストに伝える。
丸戸はリナの宿に迎えに行って西門に向かうつもりだったため、フロストも一緒に集まるかと聞いたら、今日、すでに西門近くの宿に移ったので、日の出の時間になったら、門で待ってるという。
丸戸だけ、早く起きて長く歩くこととなった……。
翌日、予定どおり日が昇りきる前に出発。
おすすめの更新までまだ少し時間がかかるので、今日も採取の途中で買う予定。
ちなみに昨夜はこんな内容だった。
【大豆クッキーアーモンドチョコ 100】【ハンカチ 100】【トイレットペーパー 60】
何が必要だとか考えず、無心ですべて購入した。
2時間ほど歩き、前回とは反対側の街道の草地に入り、採取をする。
まず中央ゾーンのリナが見張りをしつつ、自分の採取ポイントにマーキング。
丸戸とフロストはペースをあげて採取する。
1時間経過したところで、丸戸がリナに声をかけ、見張りを交代。
リナは後方に戻り採取をする。この時点で、リナとフロストに1時間分の距離が開く。
丸戸もマーキングのために前進するので、リナが孤立する形になる。この点は改善が必要だとメモする丸戸。
ついでにおすすめチェック。
【シャープペン 100】【消しゴム 80】【シャープペンの芯 100】
あまり出番はないかもしれないが、いちおう全部購入した。
見張りの交代時間が近づき、フロストに交代を告げる。リナと丸戸の距離は近く、フロストだけが前方にいる。この形であれば、とくに問題ない。
休憩時間となりお昼を食べながら、気づいた点を話す。
最初に見張りをする者は、帰りがきつくなる。最後に見張りをする者は前半は大変だけど、お昼前に見張りとなり、休める時間が長い。帰る前にも一休みできる。
「体力的にリナが一番最後に見張りをするのがいいかなと思ったんだけど、リナはどう思う?」
「そうね。帰るときのことを考えると、そうさせてもらうほうが助かるわ」
「フロストは2番目の見張りでいいかい?」
「うん、それでいいよ」
休憩後、新しく決めた順番どおりに見張りを交代し、帰宅時間となる。
前回の採取で疲れも残るが、見張りで休憩が取れ、帰る足取りは軽い。
今回はみな同じくらいの採取量だったので、まとめて報酬をもらうか聞いたところ、2人とも自分の報酬がどれだけになるか知りたいので、今日も別々で……という。
リナが宿泊する宿で休憩後、冒険者ギルドへ行き、採取品の査定。
リナが16600G、フロストが17200G、丸戸が18800Gだった。
パーティー組んで3日間で3万G前後。丸戸以外の2人にとっては、普段の倍以上の収入である。
「僕の計算に間違いなければ、このペースなら1か月に30万G以上だね」
「そんなに収入が増えるなんて信じられないわ! 次の採取は明後日ね」
「このペースで明後日……って、体力的に無理だって! 死んじゃうよ?」
これまでに経験がないほど多くの報酬を得た2人のテンションに、ついていけない丸戸であった。
 




