第11話 講習会
講習会当日。やや遅めに起床した丸戸は身支度をする。
講習会は、朝一番の鐘の音から約3時間後に鳴る、二つ目の鐘の時間に始まる。
移動時間もかかるのであまりゆっくりもしていられないが、朝のおすすめ品を忘れないうちに確認する。
【牛乳紙パック200ml 70】【ロースハム 180】【果物ナイフ 200】
昨日の夕方の更新時から、食べ物関係が続く。とりあえずすべて購入し、食堂で朝食を済ませた。
冒険者ギルドの受付に行き、講習会に参加することを伝える。
職員に教えてもらったとおり2階に上がると、扉が開け放たれた部屋があった。
中に入ると木製の机と椅子が横に2列、縦に5つ並んでいる。机1つに対し椅子が2つあるので、講習には最大20人まで参加するのだろう。
すでに何名か来ており、どうやら座席の指定や、前から順番に座るような規則はなく、バラバラに座っている。
丸戸は一番前や一番後ろは気が引け、左列の前から2番目、左端の席に座った。
時間が経つにつれ、講習会の参加者が増え、空席が埋まっていく。
「隣の席、空いていますか?」
不意に女性に声をかけられ、ビクッとする丸戸。
「はい、空いていますよ」
返事をしつつ声のしたほうに目を向けると、金髪に白い肌、緑色のローブを着用している。目は合わせられなかった。
女性に免疫がないわけではないが、こちらの世界の一般人とあまりコミュニケーションを取れておらず、必要以上のことは話せない。
留学などで、現地の学生と交流せず、日本人同士で集まってしまう心理に近いのかもしれない。
結局、世間話すらできず、黙ったままの丸戸であった。
正面の壁の左側、ちょうど丸戸の前にもドアがあり、そこから男性一人が出てくる。
プロレスラーのようながっしりした体格のこの人が、講師のようだ。正面中央にあるテーブルの前に立ち、挨拶をする。
「おはよう、諸君。今日一日、君たちの講師をする冒険者のバルディスだ」
講義の最初の内容は、薬草採取についてだった。
薬やポーションの材料になる薬草類の種類や採取の方法、どこで採取したら良いかなど話される。
採取方法はミハエルに教わったが、まだ知らない植物と採取の方法も紹介され、メモを取る。
丸戸がこの町に初めてきたときに馬車で通った南門は、数が取れないので採取に向かないそうだ。
西門より東門方面のほうが薬草類を多く採取できるが、魔物にも遭遇しやすいので、効率を取るか安全を取るかは自己責任であると説明される。
採取の講義を終えると、次は魔物について講義が始まった。
基本的に、町の周囲には魔物が現れることは、あまり多くない。
台地の上に町があり、魔物の侵入路が限られているためである。
それでもすべてを排除することはできない。
警備が行き届かない所、足場の悪い斜面などから侵入する、兎や鹿、狼といった魔物の特徴が話される。
魔物の倒し方は、講師バルディスの視点による解説。
彼が初心者の頃、どんなことに注意をして戦っていたのか、参加者は熱心に話を聞いていた。
台地を降りた町の近くなら魔物も見つけやすいので、腕に自身のあるやつはそこで狩ると良いとのこと。
実際に素材の一部もサンプルとして見せてもらった。
解体の仕方も有料で教えているらしい。
ここで一度講義が終わり、休憩となる。
丸戸はお昼ご飯を用意してきたが、皆が昼食を取るかどうかもわからず、近くの人に一緒にご飯を食べようとは話しかけられない。
半数以上が部屋を出ていった。丸戸も荷物を持って職員用のトイレを借りて用を済ませ、席に戻った。
部屋には丸戸を含め7人。机に突っ伏している者、素材のサンプルを観察している者、何やら食べている者。
部屋で食べても問題なさそうと判断し、丸戸も昼食をリュックサックから取り出す。
ロールパンを食べつつ、講義内容を記したメモ帳を見ていた。食事を終えると、重要な点を手帳のほうに書き写す。
休憩時間も終わりに近づき、参加者が部屋に戻ってきていた。席は自由みたいだが、午前中隣だった女性が再び同じ席に座る。
午後は野営について。必要なものを揃えた大きな袋を一人ひとりに担がせ、重さを体感させる。
袋の中から道具を取り出し、用途などを説明。食事の用意や夜の見張りについてなど、最低限の知識を教わった。
続いて、パーティーについての講義。役割分担、理想的なメンバー構成、報酬の分配、お金や荷物の管理方法などが解説される。
パーティーは同じくらいのランクの者で組むことが多い。そこで最後に全員が自己紹介して、お互い希望が合えば、パーティーを組むと良いと講義を終える。
(そんなの聞いてなかったぞ。どうしよう? とりあえず他の人を見て参考にするか……)
自己紹介は左の列からということで、丸戸の前の席の人が立ち上がり、教室を見渡すように身体の向きを変え、話し始める。
「ブレモントで実家の農業の手伝いをしているトラルです。弓矢で角兎を何度か狩ったことがあります。普段は町の中での依頼をこなしています。よろしくお願いします」
一番手でどう話したらいいかと、思いつくまま話した感じだ。続いて2人目が起立する。
「同じく農業の手伝いをするボグスです。俺も弓矢で角兎を狩るくらいです。トラルとはパーティーを組む予定でいます」
そして丸戸の番となった。
「シンディヤナから来たレイです。冒険者としては主に各種薬草の採取をしています。よろしくお願いします」
これじゃ薬草採取していることしか伝わらないじゃん……と、自己紹介し終えてから後悔する丸戸であった。
「ラスティアから来たリナ・グレイスです。学園で魔法の勉強をしましたが、冒険者としての実績はほとんどありません。どうぞよろしくお願いします」
隣の席の女性が自己紹介したが、人の多いほうに身体を向けるので、丸戸の前にはお尻しか見えなかった。
こうして次々に自己紹介が終わる。みな、何かしら武器や長所となるものをアピールしていた。
半数以上ができるだけ早く、魔物を対象とした依頼をこなすことを意識しているようだ。
丸戸のように採取メインの活動を考えているものは少数派である。
自己紹介が終わると講義も終了、以後はフリータイムとなる。パーティーの打診をする者、帰る準備をする者、講師に質問する者と、それぞれ動き出す。
丸戸は講師に質問していた。
「東門のほうで採取しているのですが、魔物に備えて武器を持つとしたら、何がいいのでしょう?」
「障害物はほとんどないし、少し練習する必要はあるが、長剣か槍がいいだろう。盾も持っていたらなお良いが、採取だと邪魔になるな。そこは自分の判断で決めるように」
「今まで武器はまともに扱ったことがないんです。練習はどうしたらいいでしょうか?」
「有料だが、ギルドで実践訓練もやっている。時間をつくり、申し込むと良い」
そういうこともやっているのかと知り、お礼を言って席に戻る。
リュックサックを手に取り帰ろうとしたところで、声をかけられた。
「あの、一緒にパーティーを組んでくれませんか?」
 




