宝くじ五等で女騎士当たった! けど、御セックスを致さないと帰ってくれないそうです!!
財布の中からシワだらけの宝くじが顔を出す。随分前に買って、すっかり忘れていた物だ。
「おめでとうございます! 五等当選です!」
宝くじ売場の紫色の髪をした湿布臭いオバチャンが、飛び切りの笑顔で鐘を鳴らした。五等と言えども嬉しいことは確かだ。俺は頭を掻いて、周囲の人が鳴らす祝福の拍手に、はにかみながらお辞儀をした。
「じゃ、好きな子を選んで?」
クジを差し出す小さな枠から、小冊子を差し出される。表紙には『五等当選用女騎士一覧』と書かれており、俺は「えっ?」とオバチャンの顔を見つめた。
「アンタ来るのが遅かったから良い子は残ってないかもしれないけれど、残り物には福があるって言うからね。ささ、どれにするんだい?」
「えっ? 女騎士をくれるんですか?」
と、言いながら表紙をめくると、そこには様々な容姿の女性が、まるでカタログのように並べられていた。しかし、写っている女性の写真の上には、配送済み、のハンコが捺されていた。
「何言ってんだい。五等は女騎士、四等は十万円、三等は百万円ってそこに書いてあるだろう?」
(……女騎士って十万円以下なのか?)
軽く女騎士の人権問題云々を考えながらも、更にページをめくる。強い女騎士、可愛い女騎士、変な女騎士と、様々な女騎士が並んでいるも、どれも既に人手に渡っているようだ。
「あれ、どれもこれもアレだねぇ。誰か残ってないのかい?」
オバチャンが待ちきれずに、俺から小冊子を取り、自分でページをめくり始めた。
「なんだ、ちゃんと居るじゃないか。もうこの子が最後だからこれで決まりね」
オバチャンが膝元にある引き出しから大きなハンコを取り出し、配送済みの印を推した。
「じゃ、明日にでも届くから、宜しくやるんだよ! ヒヒッ!」
意味深な下劣な笑みを浮かべたオバチャンから立ち去り、俺はその日の用事を済ませた。明日は日曜、帰りに酒を買ってレンタルDVDを借りに行って今日の夜はお楽しみ会なのだ。
「お! 海原くるみちゃんの最新作出てんじゃーん!!」
思わず暖簾の中で大きな声を出してしまい恥ずかしくなってしまうハプニング。俺はそそくさとレジを済ませ、マスクをいつもより上に上げて、家へと帰った。
そのせいか、俺は女騎士の事なんかすっかり忘れてしまっていた。
夜、酒を飲み、平日に録画して置いたバラエティやドラマを酒を飲みながら観る。至福の時だ。
「ハハハッ」
時折堪えきれず笑い声が出てしまう。酒が切れて冷蔵庫へ向かうと、キッチンの時計が0時を回っていた。
「うー、もう日曜か。明日からまた仕事だと思うと憂鬱だな……」
俺は忘れるように、少しアルコール度数の高い酎ハイを開け、喉へと流し込んだ。
「おっ、そうだ。くるみちゃんを拝見しないとな……♪」
俺は脱ぎ捨てた服の山の中から、DVDが入ったレンタル用バッグを取り出し、くるみちゃんのディスク、略して『くるみちゃんディスク』をセーーーーット! した。
「よし再生!」
酎ハイをさらに飲み、口の中がシュワッと甘い香りに包まれた。
「何が始まるんです?」
おいおいこのタイミングで話し掛けんなよ。くるみちゃんが始まるってのに……。
「何って、くるみちゃんのイメージビデ──ってお前誰だーー!?!?!?!?」
どっしりと座椅子にもたれる俺の隣に、全くの赤の他人である謎の女が正座で座っている!! The・理解不能!!
「どうも! 五等の女騎士『ガバンティーノ・オマコ』です! ヨロシクね!」
ペコリと深く頭が下がり、長い髪がフワリと舞った。ヤバ、マジで女騎士が来やがった…………てか忘れてた。つーか日付変わって直ぐに来るなんて聞いてないぞ!?
「そ、そうですか。宜しく……」
「はーい! 御セックスも辞さない覚悟で頑張ります!!」
「辞せ! 御セックスは辞せよ!!」
いきなり何を言うかと思えば女騎士とは思えぬあばずれ発言!
「えー? で、も……このDVDって…………御セックスビデオよね?」
「お、おおお、御セックスちゃうわ!! イメージビデオだよ!!」
画面の中ではくるみちゃんがバランスボールに座り激しく上下している。極めて健全だ。
「つまりそなたは御セックスもやぶさかではない、とな?」
「話聞いてた!? 聞いてました!? ご静聴しておりましたか!?」
どうにも調子の狂う女騎士との会話に、俺は酒の回りもあって、酷く疲れるものとなった。
「…………いや、ね?」
急にしおらしくなる女騎士ガバンティーノ・オマコ。て、ゆーか名前がまず酷くね? キラキラネームどころかイライラネームだわ。
「御セックスしないと帰れないのよ……実は」
「…………えっ?」
「ナニもせずに帰ると御セックス法案とやらで処刑なんだぞ♡」
可愛らしく親指で首をガッとする女騎士。
いやいやいやいや! えっ!? この国ってそこまでヤバいの!? 独裁政権なの!? 女騎士はお喜び申し上げ組なの!?
「と、言う訳で──Let's 御Sex!」
ジリジリと迫り来る女騎士。しかし、俺には心に病を抱えている。故にその行為に及ぶことは出来ないのだ…………。
「ゴメン……その、実は…………」
「え? なになに? まさかホモォなの?」
「学生の時なんだけど…………俺の学校マンモス校でさ。学校に沢山居たんだよね。俺、アレが小さいって皆にいじめられてたんだ。それから俺……アレを出すのが凄い恥ずかしくて…………」
隠すのも悪く思い、思い切って学生時代のトラウマを打ち明ける。女騎士は俺の話を真顔で聞いていたが、直ぐに笑顔になった。
「大丈夫。気にしないからさ♪」
「……ありがとう」
俺は女騎士の優しい言葉で、俺は過去のトラウマが清流で浄められる思いがした。そして憑きものが落ちたかのように、一気に怒髪天を突くかの如く、アレが限界に達した。
「──ファァァァッ!?」
まるでズボンの中にスイカが入っているかのような張り具合。国家予算がパンパンな状態を人に見られるのは久し振りだ。しかし優しい女騎士の前では大丈夫。
「いやいやいやいや!! おかしいって!! えっ!? 小さいって言ってたよね!? ね!? どー見てもコレ、インド象レベルっしょ!!」
「マンモス校だから、インド象レベルでも…………」
「マンモスってそっちの意味かーい!!!!」
「さ、御セックス法案を可決させようか…………?」
「ダメ! 解散!! 御セックス国会総辞職!! 御セックス法案否決!!」
「臨時国会開催!! 強行採決!!」
限界に達した俺は、もう止まることを知らない。と、言うか自分でも止められないんだ。スマン。
「こんな巨大な支持率、私の国会には向いてないよ!! 議事堂ブレイクダウンしちゃう!!」
「…………」
「何か喋って! 無言怖い! いや! イヤーッ!!!!」
──ボゴォ!!
「☆♬〒★㌍↓⇄*♯!!!!」
女騎士のスキャンダラスな週刊誌砲撃が俺の内閣にヒットした。あまりの激痛に、俺の内閣支持率は急降下し、あえなく解散となった。
次の日、目が覚めると俺はリビングで寝ており、着けっぱなしのテレビからは、逃走した女騎士のニュースが流れていた。
「捕獲された女騎士は『流石にマンモスとは御外交政治出来ません!!』と意味不明な発言を繰り返しており、警察では派遣先の人物の特定を急いでおります」
ニュースキャスターの原稿を読む手が笑いを抑えるのに必死で、俺にはこの上ない地獄でもあった。