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きりん七匹  作者: 暁月夕日
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LOST


 私はその頃、商人であった。まともではない商人。麻薬を密輸し、売っていた。

 私にはその他に何も無かった。妻とは10年ほど前に離婚し、それっきりたった一人の愛娘にも会えていない。離婚した時、娘は4歳だったから、今はもう13、14くらいだろう。

 商人でありながら同時に薬中だった私は過去の記憶によく思い出せない部分があり、娘の顔がどんなだったか、時々思い出せないことが多々あった。そんな時にはポケットにしまったパスケースを開いては、たった一枚の写真を見て、そうか、こんな顔だったか、と思い出す始末であった。

 勿論、昔からこんな商売をやっていたわけではない。妻と一緒にいた頃はごく普通のサラリーマンだった。どんな仕事だったか、企業名などは、記憶の障害のせいでよく覚えていない。もしかしたら、私のたまたま見た映画の話か、ある晩の夢なのかもしれないと思うほどだ。

妻と別れた後、私の人生は悲惨なものとなった。

 離婚を期に、病弱な母を見るために実家にもどったが、母は2日後に脳溢血で倒れ、そのまま還らぬ人となり、母の葬儀後の後(確かそんなに日が経っていなかったと思うが、よく覚えていない)母を追うようにして、父は自宅で首を吊り、自殺した。 

 一人息子だった私は、父からの相続財産として、築30年の自宅と5年落ちのクラウンと、おまけを相続した。

 自宅も30年経ってはいるが、間取りもよく、父と母がきれいに手入れしていた事もあり、物はよかった。

 車に一切興味のない私には、クラウンは大きすぎて困ったが、あって困るものではないし、父の形見として乗るのも悪くないなと思っていた。

 そのうち母の加入していた生命保険から、死亡保証の500万が振り込まれ、保険の担当から説明があった。父の保険金は自殺であった為、下りないこと、母は小額保険であった為、500万である事を丁寧に説明してくれたが、そのお金は親が私に相続してくれた大事な財産として、使うつもりは更々無かった。

 勿論、母を追うようにして亡くなった父を恨むつもりもなかったし、父の気持ちをすんなりと理解した。が、それもおまけを相続するまでの話だった。

 父の四十九日の法要が終わり、少し落ち着いた頃、おまけはやってきた。

 そこにはスーツを着たガラの悪い30代と思われる男が立っており、名刺を私に差し出してきた。名刺を見ると日日金融と企業名が書かれており、男は父が借金を返済していないと告げてきた。

 近隣の目を気にして、自宅へ男を招き入れると、男は一枚の契約書の控えを見せて、言った。

「アンタのオヤジさん、奥さんを追って自殺したんちゃうで。これに書かれているとおり、2000万借りた事になっているんで」

その契約書には父の直筆のサインはもちろん実印も打ってあった。

「2000万、、、」

目の前が一気に真っ暗になり、男が続けて何かを口走っていたが、上手く聞く事ができなかった。

「おい!聞いとるんか?」

はっとし、見上げると、男は口調はキツめに話しかけてくるものの、ニヤリとふてきな笑みを投げかけている。

闇金、、、直感でそう思った。男は続けた。

「相続人はあんたや。借金も相続してもらうのは知っとるやろ?利息入れるとな、今の時点で2500万くらいや。どないして払う?」

男はそうたたみかけてきた。

「すみませんが、いきなりこんな大金用意出来ませんよ、、、」

「アホな事言うたらあかんで、ちゃんと契約書生きてるやからな。あ、ちなみに、ウチは利息もグレーゾーンギリギリでやってるから、弁護士に相談しても無駄やで。弁護士費用まわす分も支払いに当てたほうが早よ終わると思うで」

男はそう言ってフヒヒと笑った。

 私が絶望に包まれ黙っていると、男は不気味な低いトーンで囁いた。

「家も車ももろたろ?母親の保険金も入ったろ?全部知ってるでぇ。ははっ!どにかできますやろ?」

男はそう言って、また不気味に笑うと、

「明日また来るさかい、よー検討しとってや」

と言って去って行った。

 それから私は死に物狂いで金を掻き集めた。

母からの保険金と自分がこれまでに溜め込んだ預金全額を下ろし、父の形見とみていたクラウンを売却し、家を売りに出した。

 しかし、父の身勝手な自殺が仇となり、家は事故物件として買取額は微々たるものだった。しかも買い手はなかなかつかなかった。それでも手元に何とか1004万円を手にした。

 私は日日金融の男を呼び出し、その金を渡した。

「おおきに。なかなか迅速やないか。感心感心」

「とりあえず、残りの1500万をすぐにでも払いたいが、少し待ってくれ」

「待つのはええよ。大金やもんな。三ヶ月くらいは待つで」

「その、すまないが、、、言いにくいんだが、無利息で待ってくれないか。とてもじゃないが、三ヶ月の利息が上乗せされると、私が詰んでしまう」

1000万を用意できたほっとした気持ちと、相手の機嫌、つまりは甘えて相手の足元を見てしまった。だが、これがいけなかった。

「あんた、何か勘違いしてまんな」


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