表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異種族ハーレム! ! のはずだった。  作者: 無有極
第一章 脱出
4/4

夢中になると回り見えなくなるタイプ

  ──つ、疲れた……。


  結乃は神木の中、地面にばったりと倒れて天と向き合っていた。

  身体中から汗が噴き出て、毛穴という毛穴が開いている感覚がある。

  脱水症状の一歩手前。とまではいかないが、それほど身体中の水分が放出されているのが分かった。


「はぁ……はぁ……調子乗りすぎた……。バカだ俺」

 

  自分の力量を過信し、限界のまで頑張った彼の腕はまるでベンチプレスをした後のように、パンパンに張っていた。それほど自分を限界まで追い込んで少女を楽しませていたのだ。


「うーうー」

 

  少女は結乃を心配しているのか、はたまたもう一回の()()()()を望んでいるのか、彼のお腹をユサユサと揺らしていた。

 

「うーうー。うぁ?」


  結乃が、揺さぶってくる少女もかわいいなぁ、なんて思っていると。

  突如、少女が結乃から手を離す。

 

  リラックスするつもりで目を瞑っていた結乃は、急に少女が揺さぶりを止めたことに疑問を持った。

  そしてその疑問は目を開くという行動へ繋がり、彼はゆっくりと目を開けながら少女のいる方向に首を動かす。

 

「うん? どうs……」


  彼は目を開いた一瞬のうちに自分の体の上に影が重なっていることに気づいた。そして、それに気づく前に、彼の目はあるものを捉えていた。

 

  こちらを見下げる巨大な狼の顔を。

  彼の横で前足を伸ばして座っている。

 

  結乃はすっかり忘れていた。一つの事に夢中になると回りが見えなくなる彼の事だ。少女に熱中するあまり、巨大狼の存在をすっかりと忘れていた。

  忘れるくらいに巨大狼が動きを見せなかったのもあるが。

 

  彼の思考は最悪の事態を考えることを始める。もしかしたら、この巨大狼は少女を使って自分を疲れさせる事が目的だったのではないか、と。

  この巨大狼は疲れ果てたところを狙って自分を食べるつもりだったんだ、と。

 

  逃げようにも疲れてろくに動けない。頑張って動いたとして、満足出来る事は今の彼には出来ないだろう。

 

  そして、逃げることもままならない彼の怒りの矛先は自分をここまで追い詰めた(?)少女へと向けられる。

 

  目を見開き、噛み締めた歯を見せて、精一杯の怒りを顔面に表す。

  そんな彼の顔面に気づいた少女は、それを見るなりどんな反応をしたか。

  この場合、小さな子供が彼の顔面、いわゆる憎しみのこもった変顔に対する反応は大きく分けて二種類ある。恐怖するか、笑うか。

  少女の場合、どうだったのかというと。


「ぷぷぷ……キャハハ!」

 

  紛れもない後者であった。

 

  そして、少女にそんな反応を見せられた結乃は、逆に心から恐怖した。

 

  こいつ笑っていやがる、と。人の不幸を見て笑っていやがる、と。


  結乃は噛み締めていた歯が小刻みに震えるのが分かった。それが、これから喰われる事への恐怖なのか、はたまた、年端の行かない少女が自分を追い詰めて、嘲笑っている事への恐怖なのか。彼には分からなかった。

 

  ただ絶望だけが目の前にある。今見える自分の未来は「死」だけ。獣相手では交渉もくそもない。

 

  人間、悲しいことにどんな環境、状況下でも腹は減る。結乃の場合、この森に来る前、すなわち家にいたときから何も食べていなかったのだ。彼の腹の虫が鳴ったのはいわば必然的な事だった。

 

「タイミング考えろよ……」

 

  今の状況で腹の音なんて鳴らしたら余計食欲を促進させる事になる。自分の死へのカウントダウンを早める事になるのだ。


  タイミングの悪さに呆れて、結乃が自分のお腹を触ると、その上からフニッとした感触の何かが重なってきた。結乃の手とほぼ同じ大きさの何か。それでいて何か柔らかいような硬いような不思議な物がついている。

 

  結乃は驚いて自分の腹に目を向ける。彼の予想が正しければ、彼の手に重なっている何かは、


「デカ……」


  巨大狼の前足。結乃の手に重なることで、より一層大きさが分かる。彼の手の大きさとほぼ同じ。いや、それ以上か。普通の狼とはやはり違う。

 

  結乃は最初、腹でも引き裂くのかと死を覚悟したが、そうはならず、巨大狼は静かに手を重ねるだけだった。むしろ、捕食者に使う言葉でもないかもしれないが包まれている感覚さえあった。

  そして、巨大狼の行動を見て真似したくなったのか、少女も巨大狼の前足の上から手を重ねる。小さくてかわいい手。この手はどれだけ目一杯広げても巨大狼の前足には満たない。

 

  巨大狼は一瞬驚いた素振り見せてから、少女に向かって横に首を振った。どうやら少女が乱入してくることは想定外だったらしい。

 

「あうぅ……?」

 

  巨大狼に首を振られて、少女は寂しそうに手を引っ込める。それに伴うかのように巨大狼も前足を結乃の手から離した。

 

  そして、立ち上がるとそのまま神木の出入り口へ向かい、丁度出入り口の前で止まる。

 

  この時点で、巨大狼に結乃を食べる気がないことは一目瞭然であり、その事は結乃にも分かった。彼は巨大狼が何をしたかったのかさっぱり分からず、眉を潜めて巨大狼を目で追っていた。

 

  巨大狼は体を曲げて結乃の方向を向き、彼と目を合わせて、首をクイッと外向きへ曲げた。

  ついてこい、と言わんばかりに。

 

「予想外の展開……すぎる……」


  彼は肘をついて起こしていた体を起き上がらせて、腕を組む。

 

「ついてこいって感じだったよな……。見た感じ普通の動物じゃないし、何かありそうって意味じゃついていくのが吉か? いや、でも万が一食われたりしたら……」

「うぅあ?」

「うぉっ! ? びっくりしたぁ!」

 

  結乃が巨大狼の意図について考え込んでいると、目の前にジャンプしてきた少女が彼の顔を覗いてきた。

  その顔は「行かないの?」と言いたげである。

 

  彼はその顔を見て九割方巨大狼についていくことを決める。


「この子も食われてねぇしな……。あの狼、人は食わないのか? ……だとすると」


  行った方がいっか。

 

  これが彼の答えである。

 

  結乃は疲労で重い体に鞭を打ち、立ち上がる。横になったことでフラフラしていた体は大分楽になり、まぁまぁ歩ける状態まで回復していた。

 

  少女は結乃が立ち上がるのを確認すると、彼の手と自分の手を繋がせて、巨大狼の元へ駆け足を始める。

 

「ちょ、ちょっと待って。走らんで……!」

 

  その様子を見て、立ち止まっていた巨大狼も歩みを再開させた。

 



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




「もう無理ぃ……歩けないぃ……! 疲れたよぉ……休みたいよぉ……!」

 

  神木から歩き始めて早数十分。筋力の限界を迎え、水分不足に陥っていた結乃は、足をふらつかせながら少女に連れられていた。

 

  少女は結乃がバテていることを察しているらしく、彼を鼓舞しながら歩いていた。時折結乃の方に振り向き、片手を上げ下げしている。

 

「うーあ! うーあ! うーあ!」

「うぅ……ありがとよぉ……。こんな情けない男、応援してくれて……ん?」

 

  すると、彼の耳にとある音が入り込んできた。何かと何かがぶつかり合う音。それと、水が勢いよく流れているような音。

  彼にはその音に聞き覚えがあった。


「……滝?」

 

  彼がそう口して数秒後、先頭を歩いていた巨大狼が急に立ち止まる。そして、結乃の方を向いたかと思うと、横に体を避けた。彼が困惑していると、巨大狼は首をクイッと前方へ曲げる。

 

「行けってか?」

 

  結乃は少女の手を握りしめて、光が射し込む場所へ慎重に歩き始める。が、何やら興奮した様子の少女が、結乃を強引に引っ張って光の先へ突っ走ってしまう。


「あぅぅ!」

「うぉっ! ? ちょっ……」

 

  躓きそうになりながら木々の外へ出た彼は、目一杯浴びせられた太陽光に目を眩ます。その後、目を少しずつ開いて見えたものは、


「やっぱりな……」


  小高い崖から落ちてくる滝だった。


「あうー!」

 

  滝の下から流れる川に近づくと、少女は結乃の手から自分の手を離した。そのまま着ていた毛皮を脱ぎ捨てて、すっぽんぽんの状態になったところで川へ飛び込んだ。


  突然の事に結乃は呆気にとられる。数秒後に我に帰った結乃は、とりあえず少女が脱ぎ捨てた毛皮を手に取った。

 

  一人の水遊びがそんなに楽しいのか、というほど少女はキャッキャッと笑っている。

  水面を叩いたり、顔をしばらく川に浸けたり、大した遊びはしていない。

 

  川は少女の腰辺りの深さで、流れも穏やかである。少女にとって、水遊びには絶好の場所。少女はいつもここで遊んでいるのだろう。


  結乃は、ふと考える。巨大狼がなぜ自分をここに連れてきたのかを。少女に水遊びをさせるために連れてきたのだろうか。

 

「いや、でも確実に俺の事見てたしな。俺にも川で遊べって事? まさか」


  さすがに裸になって川で遊ぶような年齢じゃない。水着があっても結乃には遊ぼうとは思えなかった。

 

  すると、結乃の隣に大きな影が現れる。彼もさすがに驚きを隠せるようになってきた。

  雪像の如き巨大狼である。

 

  巨大狼は結乃を通りすぎて川の前に立つと、水面に顔を近づけて、そのまま川の水を飲み始めた。

 

  結乃はそれを見てゴクリと唾を飲み込む。忘れかけていた喉の乾きを思い出したのだ。

  巨大狼を見ると、水飲みを終えて彼をじっと見つめている。

 

  さすがに川の水を飲むわけにもいかず、ひたすらに唾を飲み込み続ける。しかし、それは気休めにもならず、彼の喉の乾きを潤しはしない。


  人は水分を取らなくても三日は生きれるというが、結乃は今すぐにでも倒れてしまいそうであった。自分がしばらくの間何も飲んでいないことに気づいた途端、頭がくらくらしてくる始末だ。

 

  遂に耐えられなくなった結乃は、きれいな水が流れる川へユラユラと歩き始める。

  巨大狼の隣に膝をついて、皿にした両手を川に浸ける。そのまま水を掬って顔の前まで近づけた。

  後は口に含んで飲み込むだけ。だが、結乃は掬った水を口に含もうとしない。

 

  多少の潔癖を持つ結乃は、ギリギリのところで最後の決断を下せずにいた。


  この水、飲んで大丈夫なのか? そんな考えが頭をよぎる。

  川の水は煮沸してから飲め、とはよく聞くものである。

  百パーセントの安全が確保されていない水を飲む勇気が彼にはなかった。

 

「飲まないのか?」


  結乃は驚いて、声のした方向を勢いよく向く。その方向にいたのは、彼を見つめる巨大狼。


「しゃべった……?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ