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ベース⚾ガール!!~HIGHER~  作者: ドラらん
第七章 また、始まる
99/223

97th BASE

お読みいただきありがとうございます。


伊予坂戦も決着です!

翼と真裕の運命や如何に?


 七回裏、ツーアウト一塁。二番の夏目が三球目のスライダーを高々と打ち上げる。


「落ちろ!」

「落ちて!」


 翼や夏目、更には伊予坂ナインが揃って声を轟かせる先で、打球は一二塁間の後ろに飛んでいく。打った瞬間は面白いコースへ行ったかと思われたが、セカンドの愛が素早く動き出し、あっという間に落下点に入った。


「オーライ」


 ボールが落ちてくる。そして無情にも、愛のグラブの中に危なげなく収まる。


「アウト」


 電光掲示板のカウントランプが全て消える。この瞬間、亀ヶ崎の勝利が決まった。


(終わっちゃったかあ……)


 翼は地面に顔を向けながら立ち上がり、駆け足で整列に向かう。その瞳にはうっすらと雫が光ったが、零れる前に拭き取られた。


「五対一で亀ヶ崎の勝利。ゲーム!」

「ありがとうございました!」


 六回までは一対一の接戦。下馬評を覆して粘った伊予坂だったが、最後には力尽きた。対する亀ヶ崎は思わぬ苦戦を強いられたものの、七回に見事な集中打でリードを広げた。


 その中で最も光ったのは真裕である。ピッチングでは一失点完投、バッティングでは勝ち越しタイムリー。彼女の活躍は翼の胸に深く刻まれたことだろう。




 後片付けと試合後のミーティングが終わり、亀ヶ崎の選手たちは次の試合を観戦してくことになった。皆順々にスタンドへと入っていく中、真裕は一人自販機で飲み物を買う。そんな彼女の元に、ユニフォームから制服に着替えた翼がやってきた。


「あの真裕さん、今日はありがとうございました。とても楽しかったです」

「あ、翼ちゃん」


 翼の目元はうっすらと赤く腫れている。ついさっきまで涙を流していたのだろうか。真裕はそんなことを考えてしまう。


「お疲れ様……」


 どう接して良いのか分からなかった真裕は、少し困惑気味に労いの言葉を掛けた。ただ翼本人から沈んだ雰囲気は感じられない。開会式の時と同じように愉しげな表情をしている。それを見た真裕は安堵感を覚えつつ、自らも素に戻る。


「……こちらこそ楽しかったよ。翼ちゃんってば、ほんとに凄かったね。一年生でここまでやれるなんてびっくりしたよ」

「あ、ありがとうございます。えへへ……」  


 嬉しそうに口元を綻ばせる翼。試合中では見せないようなあどけなさが溢れ出る。やはり彼女は一年生なのだ。真裕は改めてそのことを実感し、一緒になって笑みを零す。


「ふふっ、可愛いなあ……。けど翼ちゃん、一つ聞いても良い?」

「何ですか?」

「私のことを憧れてるって言ってたけど、具体的にどんな部分に憧れてくれたの?」

「どんなところか……。本人を前にして言うのは照れくさいですね」


 真裕が質問した途端、翼の頬が急激に赤くなる。それから少しだけ過去を(うれ)いた後、恥ずかしそうに語り出す。


「実は私、中学で野球を辞めようかなって考えてたんです」

「そうなの? 高校に入る前の話?」

「はい。どうしても中学の部活で男子との力の差を痛感してしまって。それで続ける勇気が出なかったんです」

「そうだったんだ……」


 心の内で驚く真裕。翼ほどの実力があっても、こういった悩みを抱えていたとは思いも依らなかった。


「でもそんな考えを変えてくれたのが真裕さんたちでした。真裕さんたちの活躍する姿を見て、私のような女の子でもちゃんと野球をできるんだって、熱い試合ができるんだって思ったんです。だから高校でも野球を続けようって決心ができました」

「そうだったんだ……。自分から聞いといてなんだけど、面と向かってそんなこと言われるのは照れちゃうな」

「はい。私も恥ずかしいです……」


 真裕と翼は揃って背中にむず痒さを感じる。しかし相手に悟られるわけにはいかず、互いにはにかんで誤魔化した。それから少し間を置くと、再び翼が話し始める。


「真裕さんって、ほんとに凄い人だなって思います。今日対戦してみて、それをより感じました」

「え? どういうこと?」

「真裕さんには見ている人を惹きつけるというか、心を動かす力があるんだと思います。実際私が心を動かされましたし、他にも動かれた人は多いはずです」

「そ、そうかなあ。そりゃそう言ってもらえるのは嬉しいけど……」


 腕組みをして首を傾げる真裕。周りからももう何度か言われているが、こういうことは本人では気付けないものだ。


「そうですよ。だから私は真裕さんみたいな選手になりたいんです。私みたいに男女の差で悩んだり、野球が男の子のスポーツってレッテルに苦しんだりしてる選手はたくさんいます。そういう人たちに勇気を与えられるようになりたいんです。それが今の目標です」

「そっか。凄く良いと思う。寧ろ私の方が憧れちゃうよ」

「ほ、ほんとですか? それは嬉しいけん。……あっ」


 翼が咄嗟に手で口を覆う。その姿がとても愛おしく、真裕は思わず撫で回したく衝動に駆られたが、どうにか堪えた。


「ふふっ、翼ちゃんの方言って可愛いね。もっと聞いていたいな」

「そ、それは勘弁してください……」

「えー。それは残念。……あっ、そろそろ行かなくちゃ試合が始まっちゃう。また来年会えるのを楽しみにしてるよ」

「はい。こちらこそ楽しみにしてます! ありがとうございました」


 深々とお辞儀をする翼。真裕も軽く会釈をしてから、スタンドへ駆けていった。


「来年か……。次は私が勝つけん」


 真裕の背中を見守りながら、翼はそう呟く。ちょうどその時、木陰から一人の少女が彼女の方へと歩いてくる。


「ん?」


 翼は少女を見やる。すると向こうも翼に気付き、持っていたスマホを仕舞って足を止める。その少女の正体は春歌だった。


「お、あんたって瑞沢春歌よな。亀ヶ崎の一年生の」

「え? そ、そうだけど、よく知ってるね」  


 先に翼から声を掛ける。春歌は自分のことが知られているとは思っておらず、若干たじろいだ。


「もちろん知っとるよ。亀ヶ崎のことならとことん調べたけんね。あんたとも対戦したかったんよ」

「そ、そりゃどうも……。でも残念だけど私は控えだから」

「いやいや、亀ヶ崎で一年からベンチに入ること自体凄いんよ。来年は絶対対戦しよ!」


 真裕の時とは打って変わって、翼は砕けた口調になる。春歌はその勢いに押されつつ、努めて淡々と話す。


「できたらね。もしも対戦することになったらよろしく」

「うん。その時は私が勝つけん。楽しみにしとるよ。……そだ、連絡先教えて」

「私の?」

「他に誰もおらへんよ。ここで会ったのも何かの縁やし、いけん?」

「……別に良いけど」


 二人はスマホを取り出し、連絡先を交換する。翼はメッセージアプリの友達欄に春歌が追加されたのを確認すると、彼女にみかんをモチーフにしたご当地キャラのスタンプを送った。


「ありがとう。ほんじゃ私は行くけん。二回戦からも頑張ってな。優勝してよ」

「ああ……、分かった」


 翼が小走りでチームメイトのところへ帰っていく。一人残された春歌は、ふと顔を上げて空を見る。


「男に負けないくらい熱い戦いができる……か。そんなこと言えるのは、あんたらみたいに才能がある人だけだよ」


 試合前に上空で張っていた雲は、既に跡形も無くなっている。そのため陽射しが眩しく、春歌は思わずきつく両目を瞑った。



See you next base……

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