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ベース⚾ガール!!~HIGHER~  作者: ドラらん
第七章 また、始まる
97/223

95th BASE

お読みいただきありがとうございます。


一昨日から甲子園での交流試合が始まりましたね。

やはり聖地で躍動する高校球児を見ると、自然と胸が高鳴ります。

一試合しかないからこそ生まれる感動もあると思うので、今年はまた違った楽しみ方ができるかもしれません。


《三番ライト、踽々莉さん》


 今日の紗愛蘭は敬遠の四球が一つあるものの、ヒットは打っていない。不調というわけではないようだが、今一つ自分のバッティングができていない。しかし一流選手というのはここ一番の場面で結果を残すもの。紗愛蘭の勝負強さが発揮されるか。


(京子にも洋子さんにもカーブを主体の組み立てをしてる。なのに捉えられたのはえみあいさんだけ。それだけ打ち辛いってことだ。そのカーブを狙うか。それとも真裕みたいに他の球種に絞るか……)


 紗愛蘭は若干迷いながらバットを構える。その初球、カーブがアウトローに来た。紗愛蘭はスイングせず、ストライクとなる。


(かなり落差があるな。皆が空振りしてる理由が分かる。でもそれを打ってこその価値があるんだと思う。全球カーブだってありえるわけだし、狙ってみるか)


 二球目はストレート。外角一杯への投球だったが、ボールの判定が下される。だがこの一球で翼は紗愛蘭の狙いを見抜いた。


(今のボールはあんまり打つ気の無い見逃し方やった。おそらく紗愛蘭さんはカーブを打ちたがっとる。あの人らしいけん。そして実さんもカーブに自信を持っとる。だから最後はカーブで勝負したい)


 三球目。実篤の投球はど真ん中に真っ直ぐ進んでいく。一見失投かと思われるがそうではない。紗愛蘭の手前でブレーキを掛けて沈み出すチェンジアップである。


(むっ……。タイミングが合わない)


 紗愛蘭はバットを出せずに見送った。これでワンボールツーストライクと追い込まれる。


(これがチェンジアップ。真裕や優築さんに投げていたやつだ。けどどうして最後まで取っておかないんだろう。カーブを決め球に持っていきたいってことかな)

(とにかく紗愛蘭さんは追い込むまでが大変なんよ。こうなればやりようはある。まだ紗愛蘭さんには一球しかカーブを見せとらん。このカウントで決め切るけん!)


 翼は強い気持ちを前面に押し出してカーブを要求する。実篤にもその気迫は伝わり、彼女は勇ましい顔になって頷いた。


(ピッチャーの表情も良い感じになってる。自信がある証拠だ。ならばやっぱりカーブを投げてくる。打ち砕いてみせる!)


 紗愛蘭も腹を括った。次の一球で勝負は決しそうだ。


 実篤が四球目を投じる。縦に割れるカーブが紗愛蘭の体の近くで曲がる。ストライクのため打つしかない。

 紗愛蘭はバットを体に巻き付けるようにしてスイングする。芯ではなくやや先端寄りで打ったが、インパクトの瞬間に腹筋を使って左腕を押し込み、強引に掬い上げた。


「くわっ!」


 右中間へ飛球が上がる。詰まってはいるものの、最後の一押しにより力が加わっているため思いの外伸びていく。


「ライト、センター、捕れる!」


 翼が外野陣を信じて叫ぶ。他方、紗愛蘭も打球に向けて声を上げながら走る。


「抜けろー!」


 紗愛蘭と翼、二人の(ゆう)の願いが交錯する。……通じたのは、紗愛蘭の方だった。ライトとセンターの中間に白球が弾む。


「おお! ナイス紗愛蘭ちゃん!」


 まずは三塁ランナーの真裕がホームイン。続いて京子も駆けこんでくる。


「回れ回れ!」


 更には一塁ランナーの洋子も三塁を蹴った。ボールはライトの樋口が処理し、中継の正岡に返球されたところだ。


「バックホーム!」


 翼が呼びかけに導かれ、正岡が本塁に送球する。だが彼女の元に届く時には、洋子が足から滑り込んでベースに触れていた。


「セーフ」

「ふう……。やったね」


 洋子は立ち上がると、先に生還していた二人と喜びを分かち合う。紗愛蘭の走者一掃のタイムリー。亀ヶ崎は三点を追加し、五対一とリードを広げた。


「すみません実さん。紗愛蘭さんが狙っとるって分かってたのに、カーブを投げさせてしまいました……」

「何言ってんの。あれで良かったんだよ。私もカーブ狙いは薄々察してたけど、私自身がカーブで決めたかった。翼はその思いを汲み取ってくれたんでしょ。だから謝るな」


 申し訳なさそうにボールを渡してきた翼を、実篤が慰める。その表情は清々しく、打たれてことで却ってすっきりしたようにも見える。


「それにまだ試合は終わったわけじゃないだろ。亀ヶ崎が四点取ったんだったら、私たちだって四点取れる。いつもの翼ならそう言うんじゃない?」

「……確かに。その通りです。これくらいのことでめげてちゃ、亀ヶ崎には勝てません。取られた分、最終回で逆転します!」

「うん。もちろんだ」


 翼と実篤はグータッチを交わして互いをもう一度奮い立たせる。そうしてそれぞれのポジションに戻った。因みに先ほどの記録はツーベースだが、紗愛蘭は本塁への送球間に三塁まで進んでいる。


 もう点をやるわけにはいかない伊予坂。四番の珠音を敬遠で歩かせ、次の杏玖との勝負を選択する。


《五番サード、外羽さん》


 初球、実篤はカーブを投じた。杏玖が果敢に打って出る。しかし芯で捉えることはできず、バットの下に引っ掛けた。


「サード!」

「オーライ!」


 三遊間への平凡なゴロ。京子が打った時と同じようなコースに転がったが、今度は中島が夏目の前で捕った。彼女はその流れで二塁に送球し、珠音を封殺する。これにてスリーアウト。長い亀ヶ崎の攻撃が終了した。


「よし。ナイスピッチです」


 翼は実篤に拍手を送り、二人で一緒にベンチへと帰っていく。点差は付いてしまったが、まだ諦めてはいない。それは他の伊予坂の選手も同じだった。


「皆、ここまでよく戦った。でもまだ終わりじゃない。絶対に逆転しよう!」

「おー!」


 六回まで好投していた石川を中心に円陣を組み、全員で気合いを入れる。これが彼女たちの最後の攻撃。どこまで追いすがれるか。


 一方、マウンドには当然の如く真裕が上がる。思えば彼女のバットが勝ち越し点を生み出し、その後の三点にも繋がった。


(紗愛蘭ちゃんが打ってくれたから、四点もリードを貰えた。それはありがたいことだけど、かと言って楽なピッチングをするつもりはない。この回を三人で、無失点で抑えて試合を終わらせる)


 真裕に慢心は無い。ロジンバックに触れながら心身を清め、最終回の投球に向かう。



See you next base……


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