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ベース⚾ガール!!~HIGHER~  作者: ドラらん
第七章 また、始まる
96/223

94th BASE

お読みいただきありがとうございます。


お盆休みですが、各地でコロナへの警戒が強まっていますね。

県を跨ぐ規制や大人数の食事を避け、皆で節度を保った過ごし方を心掛けましょう。


 七回表、ツーアウト二塁から真裕が勝ち越しのタイムリーツーベースを放つ。またしても亀ヶ崎が先に一歩前へと出た。


(完璧な当たりやった。真裕さんはこの球を狙っとったんか。けどツーストライクなのにフルスイングしてくるとは。……きっと私の心が読まれとったんやね)


 翼は二の腕で頬に垂れた汗を拭いつつ、険しい表情を見せる。配球自体は悪くなかった。緩い球をしつこく続けた後の速球。如何に真裕が読んでいたとはいえ、易々と打てるものではない。

 ただし一つ悪かった点を挙げるとするならば、実篤の投球が要求よりも真ん中に入っていたこと。そのため真裕は窮屈にならず、自分のスイングをすることができたのだ。


 いくら翼が外れて良いと思っていても、既にボールが二つある状況では、投手の実篤にとっては中々割り切れるものではない。ストライクに投げなければいけないという気持ちがどこかに残り続けてしまう。真裕の言っていた“狙い目”とはそういうことだ。


(あそこでインコースを突いてくるところは翼ちゃんらしいよ。それが私たちを苦しめてきた一因だからね。でも投手からしたら、この場面で内に投げさせられるのは凄く苦しい。まあ投げ切れれば抑えられる確率は高いし、実際に投げ切れらなきゃいけないんだけど、どうしても失投しちゃうもんなんだよ)


 自分と同じ投手の切迫感と、厳しく攻めたい捕手との間に生じたほんの小さな齟齬に活路を見出した真裕。隆浯の期待通り、自らのバットで勝利への道を開拓した。


(真裕、よく打ってくれたぞ。エースとしてまた一歩高みへ登ったな)


 隆浯は真裕とアイコンタクトを交わし、隙の無い笑みを浮かべて頷く。それを見た真裕は思わず隆浯に向けて拳を掲げた。


《一番ショート、陽田さん》


 亀ヶ崎は更なる追加点を狙いたい。一番に返って四周目に入り、京子が打席に立つ。


(投げて打って、真裕は大活躍だね。ウチも負けていられない。相手は気落ちしてるだろうし、杏玖さんが言っていたように一点で終わらず一気に突き放すんだ)


 初球、ストレートが低めに外れる。真裕に投げていた時と比べて球に威力が無く、京子の手元でお辞儀してしまっている。明らかに実篤の腕の振りは鈍っていた。


「タイム」


 すかさず翼がマウンドへと駆け寄る。投手が弱った状態のまま投げ続けさせるわけにはいかない。


「実さん、まだ一点取られただけです。ここを切り抜ければチャンスはあります。だから弱気になっちゃいけませんよ」

「……う、うん。分かってる」


 実篤は俯き、沈んだ声で受け答えをする。真裕に打たれたショックを大きく、自信を喪失してしまっているみたいだ。


「実さん!」

「わっ!」


 どうにかして活を入れたい。そう思った翼は咄嗟に実篤の左腕を掴んだ。実篤はびっくりして思わず顔を上げる。


 不意にぶつかった翼の眼差しは、真っ直ぐに実篤の目を捉えていた。その瞳は綺麗に澄んでおり、実篤を信じて疑わないと言わんとしている。


「大丈夫ですよ。実さんの本気の球ならそう簡単には打たれません。受けている私が自信を持って断言しますけん、信じて投げてきてください」

「つ、翼……」


 翼の訴えが実篤の胸に突き刺さる。これほど頼れる女房役から励まされれば、投手としては立ち直らないわけにはいかない。


「……ありがとう翼。元気出たよ。そうだね。まだ試合は終わってないもんね。一点で凌いで、裏で逆転サヨナラにしてもらおう」

「はい。もちろんそのつもりです!」


 バッテリーが柔和に笑い合う。翼に勇気付けられ、実篤は活力を取り戻した。そうして再び京子との対戦に臨む。


(一年生に励まされるなんて私も駄目だね。けどここからならまだ挽回できるはず。どんな球でも翼のご所望通りに投げてみせる!)

(こういう苦しい時は得意球をどんどん投げていって、早く自分たちのペースに持っていくのが一番けん。とにかく実さんには思い切り腕を振って投げてきてもらわんとね)


 二球目。翼は実篤にカーブを投げさせる。先ほどまでのようにストライクゾーンを縦に裂いていく。打ちにいこうとした京子だが、あまりに球筋が鮮やかさだったため途中でバットを止め、つい見入ってしまった。


「ストライク」


 この一投を見るに実篤は立ち直れたみたいだ。失点こそ喫しているが、彼女が自分の球を投げられている限りそこまで打ち込まれることはないだろう。


 三球目もカーブ。京子はスイングしていったものの、バットに当てられない。


(このカーブほんとに凄いな。愛さんが打った以外は皆ほとんど空振りしてる。ただバットが届かないわけじゃないし、強引に打とうとしなければウチにも対応できるはず)


 四球目は高めの直球。京子は少し反応が遅れながらも弾き返し、三塁ベンチ側へファールを打って逃れる。


(今の真っ直ぐに陽田さんは差し込まれとった。このカウントはきっとどの球種も追いかけとる。それで実さんのカーブを打つのは難しい。自信を取り戻してもらうチャンスけん)


 翼が五球目のサインを出す。実篤は意を決した顔付きで頷くと、ランナーの真裕の動きを確認してから投球動作を起こす。

 カーブがアウトハイから落ちていく。京子はできる限り引き付けて、目一杯腕を伸ばしてバットを振った。だが強いスイングはできず、辛くも当てただけのバッティングとなる。


「ショート!」


 三遊間にゴロが転がる。サードの中島はベース寄りに守っていたため追い付けない。代わりにその背後で夏目がカバー。正面に回り込み、捕球してすぐ一塁に投げる。

 ところが京子の足は速い。夏目の送球も悪くはなかったものの、タイミングは際どい。


「セーフ、セーフ」


 一塁塁審は先に京子が駆け抜けていたと判定を下す。内野安打となった。


(セーフかあ。せっかく打ち取れたのに……。いけん、私が落ち込んどっちゃ)


 翼はマスクの裏で顔を歪ませた。しかし瞬時に首を振ってショックを振り落とし、実篤に声を掛ける。


「実さん、完全にこっちの勝ちでした。飛んだところが良かっただけですけん、気にしないでいきましょう!」

「うん、分かった」


 伊予坂にとってはアンラッキー。翼も実篤も切り替えられそうなものの、ピンチは続く。


「ボール、フォア」


 次の洋子は粘った末、十一球目で四球を選ぶ。これでツーアウト満塁。打席には三番の紗愛蘭が入る。



See you next base……


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