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ベース⚾ガール!!~HIGHER~  作者: ドラらん
第七章 また、始まる
95/223

93rd BASE

お読みいただきありがとうございます。


一回戦からかなり長い話になってしまいました。

しかし最終回に突入し、もう少しで決着……するはずです!


《九番ピッチャー、柳瀬さん》


 監督の隆浯は代打を送らない。真裕を降板させたくない気持ち以上に、彼女のバッティングにも期待したのだ。


(こういう苦しい展開を、己のバットで打破する。そうした勝負強さもエースとして求められることだ)


 攻撃に投手か野手かは関係無い。真のエースというのは、打つ方でもチームに貢献するもの。真裕ならそれができるはずである。


(優築さんが打てなかったのなら、私が打てば良いだけの話。ここで一点を取って、今度こそ必ず守り切る)


 真裕自身も試合を決める気は満々のようだ。その初球、アウトローに来たカーブを見逃す。ストライクが先に一つ灯った。


(真裕さんは本職は投手だけど、バッティングも良いセンスを持っとる。当然の如く全力で抑えにいかんとね)


 二球目も翼はカーブのサインを出す。得意球で一気に追い込もうという考えのようだ。実篤もそれに応え、低めに落ちていくカーブを投じる。

 真裕は逆方向を意識してスイングする。しかし予想以上に変化は大きく、バットは空を切った。


 二球でツーストライクとなり、伊予坂バッテリーが圧倒的優位に立つ。投手だからと油断せずに攻められているのが功を奏している。


(優築さんが最後に打ったのはチェンジアップなのかな? ブレーキの掛かった球だったのは間違いないと思う。それをこの後のどこかで使ってくる可能性は高い)


 真裕は三つの球種どれにも対応できるよう備える。三球目、またもや実篤は低めへのカーブを投げてきた。


(これは届かない。……堪えろ、堪えろ!)


 打ちにいった真裕だが、前の球以上に低く来ていたため咄嗟にバットを止める。球審はボールを宣告したものの、すぐさま翼が一塁塁審にスイング判定を仰ぐ。


「振ったけん!」

「ノースイング」 


 翼のアピールは実らず。一瞬ひやりとした真裕だったが、危機を逃れて思わず息を吐く。


「ふう……」


 ここまでは全てカーブ。そろそろ他の球種が来ても良い頃だが、追い込まれている打者の身では決め付けるわけにいかない。


(どれもこれもを追いかけてたんじゃ打てない。でもヤマを張るにはもう一球ボールが増えると良いんだけどな……)

(空振りは取れんかったけど、さっきの様子を見るに真裕さんはかなり迷っとるみたいやね。今のうちに抑えたいけん)


 四球目、バッテリーはあのチェンジアップを使ってきた。アウトコース高めから、若干ながら更に外へと逃げながら沈んでいく。


(これがチェンジアップか。ストライクだから打たないと)


 真裕は腕を伸ばし、バットの下っ面で引っ掛ける。力の無いゴロが三塁前方に転がる。


「オーライ」


 サードの中島がダッシュで前に出て捕球する。その勢いに乗ってランニングスローを試み、一塁に良い送球を投じた。


「ファール、ファール」


 サードゴロでチェンジかと思われたが、中島が捕る前に打球は三塁線の外側に出ていた。ファールで仕切り直しとなる。


「あ、ファール? 良かった」


 辛うじて難を免れた真裕。一塁を駆け抜けた彼女は少しだけ相好を崩しつつ、折り返して打席へと戻っていく。


「どうぞ」

「ああ、ありがとう」


 打席の前では翼がバットを拾って待っていた。受け取った真裕は礼を述べながら翼と目を合わせる。二人とも額や前髪には多量の汗が光り、頬は真っ赤に焼けている。暑さで体力が奪われている証拠だろう。だがどちらも疲れはほとんど感じていない。この勝負を心から楽しんでいた。


(気のせいかもしれないけど、翼ちゃん笑ってたな。こんなピンチの時でも楽しそうに野球できるなんて凄いよ)

(真裕さんは何となく楽しそうにしとった。そういうの見せられると私も楽しくなるけん。ま、もう既に楽しんどるんやけどね)


 五球目、またまたカーブが来た。しかし外角に僅かに外れている。真裕は冷静に見極め、待望の並行カウントまで持ち直した。


(投手からしたら次は絶対にストライクを取りたい。けど翼ちゃんは思い切ったリードをしてくるはず。そこに狙い目がある)


 これまで翼がやっていたように、真裕は翼の特徴から狙いを定める。果たしてその分析は実を結ぶのか。対する翼も次の一球の重要性は理解していた。


(真裕さんもそろそろカーブに目が慣れてきとるけん。それを利用して懐を抉る。もしボールになっても最後の球には必ず活きてくる。だから実さん、外れることを恐れず投げてきてください)


 翼は六球目のサインを出し、真裕の臍付近にミットを構える。実篤は重々しく首を縦に振ると、小さく息を吐いてからセットポジションに入る。

 真裕も深呼吸をして投球を待つ。マウンドからホームの間でほんの数秒の沈黙が流れた後、実篤が足を上げて投球動作を起こす。


 実篤の右腕から放たれた白球が、真裕の膝元に向かって突き進む。しっかり指に掛かっており球威も十分だ。


 だが、真裕はこの球を待っていた。


(……来ると思ったよ。打てる!)


 真裕は豪快にバットを振り抜いた。高々と舞い上がった飛球が、鮮やかな放物線を描いてレフトに伸びていく。


「レ、レフトバック!」


 翼が慌ててマスクを外して声を張り上げる。それに押されるように宮澤は背走し、懸命に打球を追いかける。


 ところが打球の勢いは衰えることを知らない。尚も飛距離は増し、遂に宮澤の頭の上を越えた。ようやく落ちてきた地点はフェンスの一歩手前。ワンバウンドして跳ね返り、宮澤が追い付くまで転々とする。


「愛さん、ノースライ!」

「おっしゃあ!」


 二塁ランナーの愛が拳を握りながら勝ち越しのホームを踏む。打った真裕は二塁まで駆け込んだ。


「ナイバッチ!」

「えへへっ、やったね」


 真裕はベース上で笑顔を弾けさせる。値千金のタイムリーツーベース。先に一歩前へと出たのは、またしても亀ヶ崎だった。



See you next base……


WORDFILE.11:ホームコーチャー


 ランナーが本塁に駆け込んでくる際、ネクストバッターがスライディングの要否や方向を指示する。今回愛がホームインする時には京子が行っていた。

 ホームコーチャーは一、三塁のランナーコーチのように明確なポジションとして定義されているわけではないが、本塁では直接得点に繋がるクロスプレーが起こるため、その指示の重要性は非常に高い。加えて適正なスライディングを促すことでランナーの怪我防止にも繋がり、決して疎かにしてはならない役割となる。


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