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ベース⚾ガール!!~HIGHER~  作者: ドラらん
第七章 また、始まる
89/223

87th BASE

お読みいただきありがとうございます。


突然ですが、幼馴染という関係性がとても好きです。

 六回表。亀ヶ崎は無死満塁の絶好機を作ったが、四番の珠音がまさかのホームゲッツーに倒れる。依然として得点が奪えない。


「そんな……」


 亀ヶ崎ベンチから大きなため息が漏れる。力無く一塁を駆け抜けた珠音は思わず空を仰ぎ、暫し動くことができない。


「まじかあ……」


 決して当たりは悪くなかった。寧ろ珠音は狙い球をしっかり仕留めたと言えるだろう。ただただ飛んだコースが不運だったのだ。しかも打球にスピードが付いていたことが逆に災いし、ダブルプレーにまでなってしまった。


「おし! ナイスナカジ! よく捕った!」

「えへへ。まあグラブに入っただけかもしれないけどね」


 石川と中島は互いに親指を立て合う。ムードは一変。伊予坂側が活気付く。


《五番サード、外羽さん》


 しかしまだ亀ヶ崎のチャンスは終わっていない。ツーアウト二、三塁に変わり、主将の杏玖が打席に立つ。


(珠音がゲッツーを食らうとは……。最低でも犠牲フライくらいにはなると思ってたのに。でも上手くいかないことだってある。その時のために私が後ろに控えてるんだ)


 誰かが駄目なら誰かがカバーする。それがチームというものであり、この大会で優勝するためにはそういった力が特に求められる。加えてその関係性が主砲と主将という間柄であれば、良い意味でも悪い意味でも及ぼす影響は大きくなる。杏玖のこの打席が、試合の命運を左右することになるだろう。


(どうしても抑えなあかんところだったけど、併殺まで取れるは思っとらんかったけん。石川さんも強気を貫いてくれたし、そのおかげで勝利の女神がこっちに微笑みかけてくれたってことかな。でも油断はできん。外羽さんに打たれたら全部おじゃんになる)


 珠音を打ち取れたことに安堵していた翼だったが、再び気持ちを引き締め直して杏玖との対戦に臨む。初球は外角のカーブを投げさせることにした。


「ストライク」


 石川の投球はやや甘くなったが、タイミングを外すことはできていた。そのため杏玖は打つことができず見送る。


(私にはカーブから入ってきたか。流れに乗ってイケイケで来るかとも思ったけど、キャッチャーの子はきちんと冷静になって組み立ててる。ピンチなのにこれだけどっしり構えてられるなんて、ほんとのほんとに一年生? まあほんとだから私たちはこんなに苦戦を強いられてるんだろうけど)


 二球目はスライダー。外角のボールゾーンに曲げて空振りさせようというところだったが、杏玖は引っ掛からない。


(満塁じゃなくなって押し出しを気にしなくても良いから、向こうの配球に大分余裕が出てきてる。おそらくゾーンも広く使えるようになってるはず。その中で打てる球を絞って見つけていかなくちゃ。おそらく次は速い球が来る。打てると思ったら迷わずバットを振り抜くぞ!)


 杏玖の心臓は、先ほどからずっと強い拍動を打ち続けている。彼女はどうにかその緊張感に飲み込まれないようにしつつ、努めて平常心を保っていた。


(外羽さん、落ち着いとるけん。慌てる様子も無いし、これまでと全然雰囲気が変わっとらん。こういう時に相手にするのは凄く嫌な感じやね……。だけど私たちだって負けてられん。ここを抑えて番狂わせを起こす!)


 翼は強い意志を持って次のサインを出す。要求したのはストレート。杏玖が張っていることは何となく察していたが、それでも押し込む自信があった。


 マウンドの石川が三球目を投じる。コースこそ厳しくなかったものの、球威のある直球が低めに行く。杏玖は打って出た。


「サード!」


 打球は三遊間への詰まったゴロとなった。サードの中島がいち早く正面に入る。勝ったのは伊予坂バッテリーだ。


(よし!)

(やったけん!)


 石川と翼は共に心の中で歓喜する。絶体絶命のピンチを乗り越えた。


 ……そう思った。


 ところがその喜びは、泡沫(うたかた)の如く唐突に消え去る。中島が捕球しようとした寸前で打球がイレギュラーな跳ね方をしたのだ。


「え?」


 打球はそのまま中島のグラブの土手で弾かれ、ショートの定位置辺りを転がる。夏目は中島のカバーに回っていたため追いかける向きとは逆を突かれる形となった。


「嘘でしょ。くっ……」


 夏目はすかさず方向転換してボールを拾い、一塁へ送球しようとする。だが既に杏玖はベースの手前まで来ている。


(お、これはもしや一塁に投げるのか? それなら……)


 三塁をオーバランしていた紗愛蘭は、夏目の手からボールが離れるのを見て本塁へと突っ込んだ。果敢に二点目を狙いにいく。


「ファースト、バックホーム!」


 翼の叫びがグラウンドに轟く。当然ながら杏玖をアウトにすることはできない。ファーストの高浜はベースを離れて送球を受け、ホームへと投げた。

 送球が翼の元に渡る。俊足の紗愛蘭も本塁目前まで到達し、滑り込み始めていた。翼は紗愛蘭の爪先を狙ってタッチする。


「アウト!」


 間一髪のタイミングでアウトの判定が下り、紗愛蘭の生還は阻止された。だが思ってもいない形で亀ヶ崎は待望の先取点を獲得。記録は杏玖のタイムリーヒットとなった。


「ああ……」


 一方の伊予坂ナインは意気消沈。攻守交替にも関わらず、多くの者がベンチに引き揚げられないでいる。中でも中島は魂が抜かれたかのように、顔面蒼白で立ち尽くしていた。


「ご、ごめん……」

「何言ってるの、ナカジのせいじゃないよ。記録はヒットじゃん。堂々とベンチに帰れば良いんだよ。ほら皆も固まってないで! 次は私たちの攻撃なんだから」


 石川の扇動でようやく選手たちは動き始めた。けれども痛すぎる失点に、ほぼ全員が天国から地獄へと突き落とされたような気分になっている。


(て、点を取られてしまった……。しかもこの終盤で。投げてる相手が真裕さんやけん、絶対に先行を許したらいけんかったのに……。私たちの攻撃は残り二イニング。ここまで打てそうな気配は無い。逆転できるんか?)


 翼までもが大きなショックを受け、愕然としている。か細い糸で何針も縫い繋ぐように慎重に慎重に事を進めてきたが、その苦労が一瞬にして、しかも完成間近で儚く崩れ去ってしまった。これでは戦意を失いかけてもおかしくはない。


「おい翼、何を湿気た顔をしとるんよ。せっかく可愛い顔が台無しけん!」

「え?」


 そんな翼に、一人のチームメイトが話しかけてきた。彼女は松山(まつやま)勢登香(せとか)。翼と同じ伊予坂の一年生部員である。それだけではない。二人は小学生の頃から仲の良い幼馴染なのだ。


「たかが一点取られたくらいで何を諦めとるん。せっかく憧れの柳瀬さんや踽々莉さんたちと野球しとるんやけん、楽しまんと」


 勢登香は翼に諭すように語りかけ、防具を外すのを手伝う。それが終わると予めを用意していたバットを差し出し、満面の笑みを浮かべて言った。


「ほい、この回はあんたからや。どでかいの打って、反撃の狼煙を上げてきな!」

「せっちん……。そうやね。このまま何も無く終わったら悔いが残る。じゃ、一つ良いところ見せてくるけん!」


 憧れの人たちと試合をしているのだから、高々一点リードされたぐらいで沈んでいるのはもったいない。幼馴染に勇気付けられ、翼の闘争心が復活。彼女はバットを受け取ると、意気軒昂と打席に向かった。



See you next base……

PLAYERFILE.27:松山勢登香(まつやま・せとか)

学年:高校一年生

誕生日:10/18

投/打:右/右

守備位置:内野手

身長/体重:155/52

好きな食べ物:せとか

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