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ベース⚾ガール!!~HIGHER~  作者: ドラらん
第七章 また、始まる
87/223

85th BASE

お読みいただきありがとうございます。


夏大一回戦も終盤に差し掛かっていますが、決着にはまだまだ時間が掛かりそうな雰囲気がありますね。

実際どうなるかは私も分かりません(笑)


 京子の盗塁が決まってノーアウトランナー二塁。伊予坂は極端なバントシフトを敷いてきたが、それでも亀ヶ崎ベンチは送りバントのサインを出した。


 伊予坂のシフトを突破するため、洋子はあることを思い付く。マウンドの石川が一旦牽制を入れる素振りを見せ、それに伴って洋子も構えを解く。


(二球連続でボールになってるし、もう外してくることはないでしょう。きっと速い球を使って強いバントをさせにくるはず)

(相手の出方を伺いたいところやけれど、それだとスリーボールになる。もしも増川さんを歩かせれば、次は紗愛蘭さんに紅峰さんと続く。ランナー二人置いて尚且つノーアウトでこのクリーンナップと対峙するのはきつい。それだけは一番やっちゃいけん)


 次の投球が三球目。翼はインコースへのストレートを要求する。洋子の読みがぴったりと当たった。


(真っ直ぐで押して強めのバントをさせる。そうすればよりサードをアウトにできるようになるけん)


 バッテリーのサイン交換が終わり、石川がセットポジションに就く。彼女が投球モーションに入ると、それに合わせて高浜と中島は更に前進。投げ終わった石川も猛然とダッシュしてくる。翼を含め四人とも自分でアウトを取る気満々だ。

 投球はそれほど厳しくないコースに来たが、威力はあった。洋子はバットの芯から少し外した部分でバントし、巧く勢いを殺す。


「オーライ!」


 転がった先はマウンド方向。僅かに三塁側に寄っているが、石川のほぼ正面だ。当然の如く彼女は捕球しにいく。


「オーライ!」

「オーライ」


 ところが思わぬアクシデントが発生。なんと中島と翼も処理しようと声を上げたのだ。


「「え!?」」


 三人は揃って身の危険を感じ、無意識に見合って足を止めてしまう。もちろんその間にも京子は三塁へと向かっている。


「何やってるの! 早く誰か捕って!」

「あ、はい!」


 唯一プレーに関与しなかった高浜の声で全員我に返り、いち早く動き出した翼が素手でボールを掴んで送球する。三塁はクロスプレーとなった。夏目のグラブと京子のスパイクが、再び激しくぶつかり合う。


「セーフ!」

「アウト!」


 京子と夏目が吠えるように声を上げ、三塁塁審を仰ぎ見る。他の選手たちも全員固唾を飲んで見守った。判定は……。


「セーフ!」


 勝ったのは京子の足だった。送りバント成功。洋子も出塁したためフィルダースチョイスが併せて記録される。


(しまった……。それぞれのアウトにしたいという気持ちが強すぎたけん、三人とも周りが見えんくなっとった。あのワンテンポの遅れが無ければアウトだったのに……。まさか増川さん、それを狙ってバントしたんか?)


 翼ははっとしながら洋子を見やる。その洋子は涼しい顔で一塁ベース上に佇んでいた。


(おそらく伊予坂のあのシフトは、ここぞという時に使うとっておきの秘策だったはず。だから練習は相当積んでいたんだろうけど、きっと試合で実践した試しは滅多に無かったんだと思う。それを夏大でやろうっていうんだから、自然と連携ミスが起こる確率は高くなる。何にせよ上手くいって良かった)


 洋子の機転が伊予坂のシフトの隙を突き、亀ヶ崎のチャンスはノーアウトランナー一、三塁まで膨れ上がる。反対に大ピンチに陥った伊予坂はまたしてもタイムを取り、今度は内野陣が集合する。更には伝令も送られた。


「一点は止む無しで守っても良いと思う。けどここまでやった以上、強気の姿勢を貫いてみる価値はあるって監督は言ってたよ」


 伊予坂ベンチは選手たちに選択権を与えた。昨年ベスト四の強豪と互角に渡り合っている彼らに任せた方が、良い結果が出るだろうと感じたのだ。


「どうする皆?」


 石川が内野手たちに尋ねる。皆どうすれば良いか分からず戸惑いの表情を浮かべる中、翼が沈鬱した空気を打ち破って答える。


「……私は、一点もやりたくないです! せっかく〇対〇で来とるけん、簡単に一点を上げるってことはしたいないです!」

「翼……」


 ここまで冷静な対応でチームを亀ヶ崎とがっぷりよつの守り合いを演出してきた翼。彼女はここが最大の山場であることを認識していた。この想いに石川を始め、他の選手も賛同する。


「分かった。じゃあそうしよう。何か具体的な策はある?」 

「具体的ってほどではないですけど、私としては次の紗愛蘭さんを歩かせた方がええと思います」

「ということは満塁にするってこと?」

「そうです。もちろん石川さんが大丈夫ならの話ですが……」

「私は全然大丈夫。翼が言うならそれに従うよ。寧ろ満塁の方が余計なこと考えなくてやりやすいし」


 非常に酷な翼の提案だが、石川は承諾する。確かに満塁にすればホームはフォースプレーになり、ゲッツーだって取れるかもしれない。とはいっても紗愛蘭の後は四番の珠音。絶体絶命であることに変わりはない。


 まさに成功すれば天国、失敗すれば地獄の大博打。ただそれくらいやらなければ亀ヶ崎には勝てない。そのことは翼や石川だけでなく、伊予坂ナイン全員が承知していた。


「よし。じゃあ三番は歩かせて塁を埋める。そして一点も与えない守備をする。私たちだってこの大会に向けてたくさん練習してきたんだ。持てる力を出して守り抜こう!」

「おー!」


 石川の鼓舞に内野陣全員で応え、彼らは各々の定位置に散っていく。翼も自分のポジションに戻ったが、座ることはせず立った状態で紗愛蘭が打席に入るのを待ち構える。


「あれ? 座らないの?」

「はい、すみません。このままで」


 紗愛蘭が思わず質問したところ、翼はそう答えを返す。これが何を意味するかは、その場で見ていた者全てが瞬時に悟った。


「敬遠!? 満塁にして珠音さんと勝負するってこと?」


 ベンチにいた真裕は驚きを隠せない。彼女だけではなく、亀ヶ崎ナイン全員が同じような感情を抱いており、当事者の紗愛蘭もその一人だった。


(私を歩かせて珠音さん勝負か……。さっきのバントシフトと言い、ここにきて大胆な作戦を採ってくるな。正直びっくりだけど理には適ってる。だけど珠音さんはうちで一番凄いバッター。絶対に打ってくれる)


 紗愛蘭は特に喜怒哀楽を表に出さず、打席の中で淡々とボールが増えていくのを眺める。後ろにはチームで最も頼りになる珠音が控えているので、何の憂いも無かった。


「ボール、フォア」


 敬遠が成立。紗愛蘭はバットを置いて一塁へ小走りで向かう。全部の塁が埋まり、主砲の出番がやってくる。



See you next base……

WORDFILE.10:故意四球(敬遠)


 その名の通り意図的に与える四球のこと。一般的に敬遠と呼ばれているが、公認野球規則などでは故意四球と定義されている。

 故意四球が記録されるのは、「捕手があらかじめ立ち上がって投手の投球を待ち、しかも誰が見ても作戦上その打者を敬遠するという守備側の意図が明らかな場合」である。つまり捕手が明らかなボールゾーンに構えていても、座っている限りは通常の四球として記録される。もちろん故意四球になったからといって通常の四球と何かが変わるわけではない。

 故意四球を行う場合、ボールが投手の手から離れるまで捕手は両足をキャッチャースボックス内に置いておかねばならない。違反すればボークとなる。

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