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ベース⚾ガール!!~HIGHER~  作者: ドラらん
第七章 また、始まる
86/223

84th BASE

お読みいただきありがとうございます。


夏の到来を予感させる暑い日が増えてきました。

熱中症に気を付けつつ、亀ヶ崎の熱い戦いをご堪能ください!


 六回表。先頭打者として安打を放った一塁に京子を置き、二番の洋子の打席を迎える。


(亀ヶ崎としては何としてもこのランナーを活かさないといけんと思っとるはず。ほたら送りバントの可能性も十分ある。一球様子を見ておきたいけん)


 初球、伊予坂バッテリーはアウトコースに直球を外す。亀ヶ崎に動きそうな気配は無い。


(増川さんは普通に打つ構えで見逃しとった。送るという考えはないんかな)


 翼は洋子の一挙手一投足を観察しながら配球を練る。ただし洋子に関しては何の作戦も無い。あるのは京子の方だった。


(監督はグリーンライトのサインを出してる。走れたら行って良いってことだ。大事な場面のはずなのに、ウチに任せてくれるのか)


 京子はベンチの指示を確認すると、直ちにベースを離れてリードを取る。両頬を多量の汗が伝っていたが、彼女はそれを気に留めることなく、石川の背中をじっと見つめた。


(零原の肩はどれくらいなんだろう? それなりに強いとは思うけど……。まあ不明確なことをいちいち心配しててもしょうがないか。ウチはウチを信じて挑むだけ。真裕が与えてくれた自信を結果に繋げて、一緒に良い思いをしたい。それがウチの夏大での目標だ!)


 石川が牽制球を投げてくる。京子は頭から滑り込んで戻った。クロスプレーにもならないタイミングでセーフになり、すぐさま起き上がって再び離塁する。


(クイックも牽制もそんなに上手じゃない。おそらく投球に気を取られてるから、ランナーを刺す意識が希薄になってるんだ。あんまり強くないチームというのはこういう部分に弱点がある。さあ、勝負に出るよ!)


 深々と息を吐き、覚悟を決める京子。マウンドの石川がサイン交換を終えてセットポジションに就く。それから一塁方向に目を向けることなく投球動作を起こした。


(いけ!)


 京子は勢い良くスタートを切った。石川の投球は高めに外れ、洋子は悠然と見送る。


(単独スチール!? 嘘よんけ)


 捕球した翼は虚を衝かれつつも、素早く二塁に投げる。低く鋭い送球がベースカバーに入った夏目のグラブに収まった。それに少し遅れたタイミングで、京子が足からスライディングを仕掛けてくる。


(よし。刺した!)


 翼はアウトを確信する。送球の方が早いのは明らかだった。

「セーフ! セーフ!」

「え!?」


 ところが二塁塁審の両腕は大きく広がった。翼は驚きを隠せなかったが、すぐにこの判定が正しいことに気付く。


「あ……」


 目を凝らして再度二塁を見てみると、ボールがベースの横に転がっている。タッチをした際に夏目のグラブから零れてしまったのだ。


「ご、ごめん……」


 夏目は慌ててボールを拾い、申し訳なさそうな顔で石川と翼に謝る。痛恨の落球。京子に盗塁が記録される。


(危なかった……。というかセカンドが落としてなかったら普通に失敗してた。肩自体が強いだけじゃなく、捕ってからのスピードとコントロールも良かった。ほんとに凄い一年生だな。去年の真裕や紗愛蘭みたい。……けど成功は成功。あとはホームに還るだけだ)


 立ち上がった京子はお尻に付いた黒土を掃う。相手のミスに助けられたとはいえ、彼女の勇猛果敢な走塁で亀ヶ崎のチャンスは拡大。ノーアウトで得点圏にランナーが進む。


(まさかスチールで来るとは……。もちろん京子さんの足が速いことは分かっとった。それでも単独は無いと思ってたけん、私の詰めが甘かった。もっとちゃんと皆に呼びかけるべきだった。夏目さんは責められん) 


 翼はうっすらと顰め面をしながらも、他の人には悟られないようすかさず表情を整える。それからタイムを取り、一旦マウンドの石川の元に駆け寄った。


「翼、ここからどうするよ?」

「亀ヶ崎は何としでても一点取ろうとしてます。やけん確実にランナーを進めてくるんじゃないでしょうか」

「うん。私もそう思う。決め付けは良くないけど、私たちじゃどれもこれも警戒するなんてできない。バントならバントってことで全員で覚悟を決めて、三塁でアウトを取ることに全力を注ぐべきじゃないかな」

「同感です。ではそれでいきましょう。ここを凌げれば必ず流れがこっちに来ます。攻めの姿勢で守り切りましょう!」

「そうだね。私も最後の力を振り絞るよ」 


 相談が終わった。翼は定位置に戻ると、内野陣にバントシフトのサインを送る。ファーストの高浜とサードの中島が塁間の半分程度の位置まで前進してきた。


(随分と思い切ったシフトを敷いてくるな。終盤のターニングポイントだし、向こうも腹を括ったか。こっちはどうでますか?)


 洋子はベンチの策を覗う。監督の隆浯は内心決め兼ねていたが、悩んでいる時間など無い。咄嗟に決断を下さなければならないのだ。


(これだけ極端なシフトとなると、如何に洋子でも送りバントは難しい。裏を掻いてヒッティングもありだし、上手くいけば大量点も狙えるかもしれん。……だがそんな甘い考えで夏大が勝てるわけがない。地道に着実に事を進めて、この一点を是が非でも取るぞ!)


 隆浯は送りバントを選択する。相手のシフトは関係無い。一点を捥ぎ取りにいく。


(分かりました)


 洋子はヘルメットの鍔を触って承諾する。その後もう一度伊予坂の内野陣形を確かめる。


(サードもチャージを掛けてきてるのか。私にバントをさせて、とにかく三塁で京子を刺そうって魂胆みたいね)


 通常、ランナーが二塁にいる時のバントシフトでは、サードは三塁ベースに就いているので前には出てこない。そのため三塁側に転がすのがセオリーとされる。

 ところが伊予坂はショートの夏目を三塁のベースカバーに入らせることで、サードの中島が前進しても大丈夫なようになっている。これで一塁側、三塁側、及びマウンド正面と、全ての方向で誰かが待ち構える形が出来た。

 ただし代わりに本来一塁のベースカバーを行うセカンドは、ランナーを二塁に釘付けにする役割を担うことになり、打者走者の洋子をアウトにすることが難しくなる。だが今の伊予坂にとってそこは気にしていないのだろう。何が何でも京子を三塁に進ませない。そのことだけに注力しているのだ。


(一体どこに転がすべきなんだろうか。京子がランナーだから完璧なバントは必要無いんだけれど……)


 洋子が打席で構えに入りながら思考を巡らす。するとあることを思い付いた。


(あ、これならいけるかも)


 果たして洋子の思い付きとは。京子を三塁に進めることができるのか。



See you next base……


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