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ベース⚾ガール!!~HIGHER~  作者: ドラらん
第七章 また、始まる
85/223

83rd BASE

お読みいただきありがとうございます。


春のセンバツに選ばれた高校が甲子園で野球ができることが決まりました!

一試合だけではありますが、球児の皆さんにはこれまでの全ての想いをぶつけ、思い切り楽しんでほしいと思います!

《七番セカンド、江岬さん》


 ツーアウトランナー三塁となり、もう一人の“あい”が左打席に立つ。逢依とは対照的に肩を小刻みに揺らしながら構えを整えるなど、その動きは少々忙しない。


(三年生三人で作ったチャンス。燃えないわけがないよね。この夏最初の得点は、私が叩き出すよ)


 そう息巻く愛に対し、石川が初球を投じる。低めから斜めに落ちていくスライダー。打ち気に逸っていた愛は思わず手を出してしまい、空振りを喫する。


(こっちの愛さんは勢いに任せてどんどん振ってくるタイプやけん、その分粗さも目立つ。積極的と言えば聞こえはええけど、それを逆手に取る配球をすれば勝手に空回ってくれる。上位の人たちに比べれば非常に与しやすい)


 二球目はアウトローのストレートがボール一個分外れる。愛は見送りこそしたものの、この一球にも手を出しかけていた。もちろんその様子は翼の目にも映っている。


(打ちたい気持ちが表に出てきとる。性格的に抑えられないんやね。これなら次もストライクは要らなさそう。少し外れていてもきっと打ってくる)


 翼はボールになるカーブを要求する。石川の投げた三球目が、真ん中付近から愛の膝元に向かって曲がっていく。案の定、愛はバットを出していった。


(カーブか。狙ってはいないけど、これなら打てるかも)


 インローに沈んできたところを掬い上げる愛。高い飛球がライトの樋口(ひぐち)の頭上を襲う。


「ライト!」


 樋口は打球の行方を目で追いながら、半身の体勢で後退する。走り出しは慌ただしかったものの、その足取りは徐々に緩やかになる。


「オーライ」


 やがて樋口の足が止まる。打球は彼女の掲げたグラブに吸い込まれるように、失速して落ちてきた。


「アウト。チェンジ」


 ライトフライでスリーアウト。三塁ランナーは残塁となる。


「ああ……」


 愛は天を仰ぐ。内角のボール球を強引に打ったため窮屈なスイングになり、力が伝わらず伸びの無い打球となってしまった。


(よしよし。こっちの思う通りに打ってくれたけん。その前にちゃんとアウトを取っておいたのも良かった)


 翼は樋口が捕球したのを見届けると、満足気に首を数回縦に動かしながら引き揚げていく。もしも逢依のショートゴロの時に一、三塁となっていれば、今の打球なら悠々タッチアップできていただろう。翼の好判断、更にその後の好リードに寄って、亀ヶ崎は初めて訪れたチャンスを潰した。


「ショート」

「オーライ」


 二回裏。ツーアウトから七番の宮澤(みやざわ)がショートフライに倒れる。真裕はエラーでランナーを一人許したものの、後の打者に繋がせなかった。以降も危なげなくスコアボードにゼロを刻んでいく。


「ストライク、バッターアウト」


 五回までに七つの三振を奪うなど、内容も上々。圧巻の投球で伊予坂打線に付け入る隙を与えない。 ところがこの好投に打線が応えられない。度々ランナーを出しながらも、生還に繋がる一打が出ない。各打者の特徴を分析した翼の巧みなリードを打ち崩せないでいた。


《六回表、亀ヶ崎高校の攻撃は、一番ショート、陽田さん》


 両チーム無得点というよもやの展開で、試合は六回まで進む。亀ヶ崎は三巡目に突入し、一番の京子から攻撃が始まる。膠着状態を打破するためには彼女の出塁が重要な条件だ。


(舐めて掛かってるつもりはないけど、正直もうちょっと簡単な試合になると思ってた。このままずるずる行くようじゃほんとに負ける。この回で絶対に点を取るんだ!)


 京子は危機感を持って打席に入る。彼女の言う通り、そろそろ得点できなければ流れは伊予坂に傾きかねない。いくら真裕が投げていると雖も、勢いの付いた伊予坂を完封できるとは限らない。


 伊予坂のマウンドでは石川が投げ続けている。その初球、彼女の投じたカーブはワンバウンドとなる。京子は見向きもしなかった。


(前の回くらいから石川さんの制球が乱れてきとる。ここまでよく投げてくれてるんやけど、その代償で疲労も溜まってるはず。交代も視野に入れんといけん)


 石川のスタミナを懸念する翼。伊予坂のブルペンでは既に次の投手が準備していた。代え時が近づいているのは間違いない。


(ひとまず陽田さんまでは石川さんで行くことになる。だから私は全力のリードで後押しするけん)


 二球目は外角から入ってくるスライダー。京子は打ちに出た。しかし打球は前に飛ばず、三塁ベンチ上のネットに当たる。


(うーん……。相手が疲れてきてるのは分かっているのに捉えきれない。内外に散らされることで目先を変えられて、ここぞという時に微妙にズレが生じてるんだ。そうなるのは全部の球を追っているから。それじゃ打てない。狙いをしっかり絞らなきゃ。これまでのウチへの配球を考えると、きっとここで内の真っ直ぐを使いたいはず)

(陽田さんには一球インコースを挟みたい。石川さん、苦しいとは思うし、ボールになっても良いけん、お願いします)


 翼は京子の懐にミットを構えた。石川が足を上げて三球目を投げる。要求通り内角にストレートが行く。


(おお! ナイスボールです)

(やっぱり来たか。打つ!)


 京子はドンピシャのタイミングでスイングする。しっかりとバットの芯で捉え、鮮やかな金属音を響かせた。


「あ、ライト!」


 翼がマスクを取って叫ぶその先で、鋭いライナーが一二塁間を破っていく。そのままライトの樋口の手前に弾む。


「おし」


 京子は一塁を回ったところでストップし、小さく握り拳を作る。決して甘い球でも得意なコースでもなかったが、見事な狙い打ちでヒットにしてみせた。


(石川さんの投げた球は良かった。やけど陽田さんはヤマを張っていたけん、上を行かれてしまった。私の配球ミスや……)


 翼はマスクを被り直しながら唇を噛む。相手の嫌なところを突くリードが裏目に出てしまった。


(くそ……。でももうなってしまったものはどうしようもない。後を抑えて取り返すんだ。石川さんはまだ代わらないみたいやし、私が引っ張らんと)


 試合が動きそうな香りが仄かに漂う。一塁に京子を置き、二番の洋子の打席を迎える。



See you next base……


石川’s DATA


ストレート(最高球速105km:常時球速95~100km)

スライダー(球速85~90km)

カーブ(球速80~85km)

★フォーク(球速85km~90km)


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