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ベース⚾ガール!!~HIGHER~  作者: ドラらん
第七章 また、始まる
84/223

82nd BASE

 二回表。先頭の珠音が、三球目を捉えて三遊間を破るヒットを放った。


「あー……、素直に打っちゃった。もっと角度を付けられれば長打になったかもしれないのに。もったいなかった」


 一塁をオーバーランしたところで、珠音は口惜しそうに奥歯を噛む。ヒットにはなったものの、満足できなかったみたいだ。

 一方の翼は目を丸くし、暫し打球の飛んだ先を見つめて唖然としていた。


(がいな……。これが珠音さんの打球か。聞きしに勝る凄まじさやな。打ち上げられとったらどこまでも飛ばされそうやったけん)


 珠音の打球スピードに驚きを隠せない。テレビで見るのと生で見るのとでは全く違った。


(……いけん、これくらいでびっくりしとっちゃ。この先やっていけんよ)


 翼は咄嗟に我に返る。それから打たれた石川に向けて激励を送る。


「石川さん、切り替えていきましょ! ランナー出しても点取られなければ良いんです。ボールは走ってますから自信持って!」


 亀ヶ崎がこの試合初めてのランナーを出し、先制のチャンスを迎える。打席に立つのは五番の杏玖。翼は彼女の臨機応変なバッティングを警戒する。


(杏玖さんは打撃も守備も高いレベルで兼ね備えてる。状況的にここはランナーを進めに来る可能性が高いけん、阻止したい)


 一球目、バッテリーは低めやや内寄りのストレートで攻める。杏玖はバットを動かさずに見送った。判定はストライクとなる。


 二球目は外角のボールゾーンに逃げるスライダー。杏玖は一瞬反応するも我慢し、冷静に見極める。


(こっちが右打ちを狙ってると踏んでいるような配球だね。まあ強ち間違ってはいないけど、それに拘ってるわけじゃないよ)


 三球目、石川の投げた直球はインコースを抉る。杏玖は思い切り引っ張ろうとスイングしかけたが、ボールと判断して途中でバットを止める。それを翼は訝し気に見ていた。


(お? 今のは引っ張りに掛かってたかな? 何となく打ち方が変わった気がするけん。ならこっちも少し組み立てを変更してみよか)


 翼は外角低めにカーブのサインを出す。石川はミットの構えられたところに投げ込んだ。内角への意識があった杏玖には遠く感じられ、バットを出さない。


「ストライクツー」


 ところが球審はストライクをコール。忽ち杏玖は追い込まれる。


(しまった。狙っていれば右に打てそうだった。上手く裏を掻かれたね。決め球は何で来る? 落ちる球があるみたいだけど……)


 五球目。石川の投球は真ん中低めのコースを直進していったが、杏玖が打ちにいこうとしたところで落下する。フォークだった。


(これがフォークか。三振はしたくないぞ)


 杏玖は懸命に落ち際をバットに引っ掛けた。三塁前方に高く弾んだゴロが転がる。


「サード!」

「オーライ」


 前進してきたサードの中島がショートバウンドで打球を掴む。彼女はすかさず二塁を覗うも、間に合いそうにないと判断。一塁へと送球する。


「アウト」


 杏玖はサードゴロに倒れた。しかし珠音が進塁し、ワンナウトランナー二塁に変わる。


(うーん……。三振取れると思ったんだけどなあ。こうやって苦しくても最低限の仕事を果たしてくるところはキャプテンの鑑やけん、亀ヶ崎も強いはずやね)


 翼の配球も巧みだったが、杏玖が何とか食らいついてチャンスを広げた。ここから二人の“あい”に打順が回る。


《六番レフト、琉垣さん》


 先に打席に立つのは“ルーあい”こと逢依。深く深呼吸をしつつ、静かに構えを整える。


(六番と七番を連続で打つ二人の“あい”さんか。両方とも去年の夏はほとんど出とらんかった。一応春の様子がちらっと見えたし、そっちを参考にして考える。真裕さんが投げているのに先制点をやるわけにはいけんよ)


 初球は外角へのカーブ。逢依はタイミングを外されて見送り、ストライクが一つ灯る。


(こっちの逢依さんはパワー自慢のプルヒッター。とはいってもそればっかりじゃないところは注意しないといけん。内外に散らして惑わせる)


 二球目。翼は胸元にミットを構える。石川の投球はそこを真っ直ぐ貫いた。その勢いに押され、逢依のバットが思わず出かかる。


「ボール」

「振った! スイング!」

「ノースイング」

「えー。まじかあ……」


 捕球した翼がすかさずアピールするも、一塁塁審は両手を広げた。翼は臍を噛みながら石川に返球する。


(振ってると思ったんのになあ。まあええわ。これで外角をより効果的に使えるけん)


 三球目。バッテリーはアウトローのストレートを使う。逢依は打ちにいったものの、微妙にバットの芯からは外れる。


「ファール」


 打球は一塁側ベンチの上を越えていく。これで逢依は追い込まれた。


(内に外にバランス良く散らしてくる。これだとこっちは中々絞り切れないし捉えにくい。この一年生、良い配球をしてるな)

(順調にツーストライク目を取れた。でも逢依さんには粘り強い一面もあるから気を付けないけん。表より裏の配球が必要やね)


 翼は内角への直球を要求する。頷いた石川は二塁ランナーを見ながらゆったりと足を上げ、それから翼のミットに目を向けて五球目を投じる。


 投球は若干真ん中に寄ったが、低めには来ており球威もある。逢依はほとんど予期していなかったのかバットの出が遅れ、詰まった打ち方になってしまう。


「ショート」


 鈍い音が響き、平凡なゴロが石川の左を通って転がっていく。ショートの夏目は正面に入って丁寧にボールを掴むと、一旦ランナーの珠音の動きを確認。彼女は二塁と三塁の中間辺りを走っている。


(お、これなら刺せるかも)


 夏目は三塁封殺を狙う。ところがそのタイミングで本塁から大きな声が轟いた。


「ファースト!」

「え?」


 咄嗟に夏目は体を反転させ、一塁への送球に切り替える。際どいタイミングではあったがアウトを取った。


「ナイショートです!」


 翼はミットを叩いて夏目を称える。今のプレーだが、決して夏目の判断は間違っていなかった。仮に三塁へ投げていたらアウトになった可能性は十分にあった。しかし、もしもセーフになっていれば一転して大ピンチに陥る。そうなれば先制点はおろか、複数点も覚悟しなければならなくなっていた。


(正直あれは私がショートを守っていても三塁に投げたくなったと思う。アウトにできれば大ファインプレーやけんね。だけどここではそういうのは要らない。亀ヶ崎に勝つためには背伸びせず、終盤までがっぷりよつで行くのが一番ええんよ)


 冒険するより確実にアウトを増やすべき。翼はリスクマネジメントをした上で、瞬時により良い判断を下して指示を出したのだ。


局面はツーアウト三塁に変わる。そして打席には、もう一人の“あい”が立つ。



See you next base……


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