表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ベース⚾ガール!!~HIGHER~  作者: ドラらん
第七章 また、始まる
83/223

81st BASE

お読みいただきありがとうございます。


プロ野球が開幕しました!

史上初の無観客であったり交流戦が無かったりとかなりイレギュラーな事態となっておりますが、兎にも角にも開幕してくれたことが嬉しいです。

まずはテレビの前から、熱い声援を送りたいと思います!


《三番キャッチャー、零原さん》


 翼の初打席を迎える。彼女はネクストバッターズサークルを出ると、小走りで左打席に向かう。


「よろしくお願いします!」


 元気な挨拶を響かせた後、バットを真っ直ぐ縦にして構える翼。肩に余計な力は入っておらず、自然な立ち姿をしている。明らかに他の選手とは違う。真裕と優築の二人は瞬時にそれを感じ取った。


(翼ちゃん雰囲気あるなあ。打席でもキャッチャーの時と同じくらい落ち着いてる)

(一年生にして三番キャッチャーか。それ相応の実力を持ってるんだろうけど、データが全く無いから実際には未知数。バッティングの方は一体どこまでやれるのか。この打席でできるだけ見極めたい)


 初球、バッテリーは容赦無く内角を抉る。翼は打つ体勢に入ったが、バットは振らずに見送る。判定はストライクだ。


(ふむ……。テイクバックを取った時にちゃんと間ができていた。タイミングが計れている証拠だ。次はどんなスイングをするのか見てみたい。これなら振ってくるか?)


 二球目。優築はアウトコースへのツーシームを要求する。しかし真裕の投球は狙いよりも若干外側に外れた。翼はまたもや手を出さない。際どいところではあったが、こちらはボールとなる。


(なるほど。今のがツーシームやね。明らかに遠かったから見送れたけど、ストライクに来たら真っ直ぐと錯覚して振っちゃいそう。気を付けないけんね)


 一旦翼は打席を離れ、二度三度素振りする。それから真裕をじっと見つめながら戻る。


(それに一球目のストレートも凄かった。ベース盤まで勢いが衰えんけん、めっちゃこっちに向かって伸びてくる感覚がある。流石真裕さんやね。益々楽しくなってきた)


 翼は周りに隠れて小さく笑う。待ち侘びた真裕との対戦に、心が躍って仕方が無い。


 三球目、真裕が外角低めに直球を投じてくる。翼はバットを出していった。シャープなスイングで快音を響かせ、三塁方向に鋭いライナーを放つ。


「サード!」


 打球はジャンプする杏玖の頭上を越えて外野へと飛んでいく。だがスライスが掛かっており、最終的にファールゾーンに落ちた。


「あらら……、切れたか」


 一塁を蹴っていた翼は残念そうに唇を噛み、打席に引き返してバットを拾い上げる。優築は新しいボールを真裕に渡しながら、その姿を横目で追う。


(初めてバットを振ってきた。一年生で三番を打ってるだけあって、良いスイングをしている。けれど真っ直ぐのスピードには付いていけてるとは言い難い。緩急を交えて更に詰まらせるようにしたい)

(分かりました。それでいきましょう)


 四球目は低めに沈むカーブ。翼はほとんど動くことなく見送った。カウントはツーボールツーストライクとなる。


(ここで緩い球を挟んできたんは、ストレートを決め球にしたいってことか? 分かりやすい配球やけど、真裕さんの力があればこれでも十分抑えられるんやろうね)


 五球目。翼の予想通り優築は直球のサインを出し、内角にミットを構える。真裕はそれに従って投球を行う。


(さっきのファールはちょっとびっくりしたね。振り遅れながらもあれだけ強い打球を飛ばせるんだから。でもこの打席は、私が抑えさせてもらうよ)


 真裕の速球が翼の臍付近を抉る。翼は腕を畳んだスイングで応戦。しかし一球前のカーブが効いており、バットの振り出しが無意識にワンテンポ遅れていた。


「む……」


 翼は案の定差し込まれる。バットの芯に近い部分で当てたものの、打球は小フライとなって二塁後方に上がる。


「オーライ! オーライ!」


 センターの洋子に加え、ショートの京子も一緒になって追いかける。けれども最後は愛が大きく手を挙げてアピール。斜めに走りながら捕球する。


「アウト、チェンジ」

「ナイスピッチ!」


 伊予坂の一回裏も三者凡退で終了。真裕は淡々と駆け足でマウンドを降り、チームメイトとハイタッチを交わす。その顔は非常に充実そうな色が浮かんでいる。


(よしよし。翼ちゃんも打ち取れたし、良い感じに投げられた。より楽しんでいこう!)


 一方、翼はベンチに戻ると、そそくさと防具を付けて準備を整える。ただ頭の中では先ほど見た真裕の球筋が巡っていた。


(真っ直ぐが来ると分かっとったのに打てんかった。緩急も効いてたけど、それ以前にタイミングが遅れとるけん、修正しな。次の打席で仕切り直す)


 翼はひとまず気持ちを切り替えて守備に就く。キャッチャーは守りの要のポジション。バッティングが上手くいかなくても、それを長々と引き摺るのは許されない。


《二回表、亀ヶ崎高校の攻撃は、四番ファースト、紅峰さん》


 二回表に入る。先頭打者の珠音は打席に立つと、自分のペースを計るかのようにゆったりと彼女特有の神主打法を作る。主砲としての気負いは無い。そんな雰囲気が覗える。


(この人が亀ヶ崎の四番、紅峰珠音さんやね。その打棒は規格外で高校レベルは悠に超えてる。テレビ越しでも迫力が感じられたわい。こういう人を抑えるためには弱気は厳禁。強気にならんと)


 初球、翼はインコースへの直球を要求する。だが石川は投げ切れず、高めに大きく外れる。


(石川さん、びびっとったらいけんよ。ささっ、もう一球内を攻めてみましょう)

(おいおい、またインコースなのか。翼の奴怖くないのかな? まああの子の言うことだから、従うしかないんだけどね)


 石川が二球目を投じる。今度は狙い通り内角低めに投げ込むことができた。


「ボールツー」


 ところが僅かに外れていると判断され、球審の手は上がらない。珠音に対してボールが二つ先行する。


(バッティングカウントにしてしまった。珠音さん相手にこれはいけんなあ。まあさっきの球は悪くなかったし、打たれるのも四球も覚悟で攻めるしかないでしょう)


 三球目。翼はインコースを続けようとする。ところが石川はまたもやコントロールミスを犯し、ストレートが真ん中低めに行く。


(む、不味い)

(お、やっと打てる球が来た)


 翼が肝を冷やしたのも束の間、珠音は強烈スイングで打ち返す。打球は三遊間をあっという間に破り、レフト前へと転がった。



See you next base……


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ