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ベース⚾ガール!!~HIGHER~  作者: ドラらん
第七章 また、始まる
78/223

76th BASE

お読みいただきありがとうございます。


早いもので今年も6月に入りました。

梅雨時のじめじめした気持ちをスカッとさせる、少女たちの爽快なプレーをお楽しみください。


 七月下旬の早朝。蝉も騒ぎ立てる夏真っ盛りとなり、学校は長期休暇に入った。先ほど私はシャワーを浴びたのだが、出掛ける支度を整えただけでもう大量の汗を掻いている。


「お、今日から行くのか」

「お兄ちゃん。おはよう。そうだよ」


 二階からお兄ちゃんが降りてくる。起きたばかりだからか、髪は無造作に跳ねている。


「そっか。頑張ってこいよ」

「もちろん! 暫く帰ってこないから、寂しかったらいつでも連絡してね。会いに来てくれても良いよ」

「ふっ、馬鹿言うな。寂しいのはお前だろ」


 私の言葉をお兄ちゃんは軽くあしらう。そんな悲しいことを言わないでよとも思うが、ただ去年も応援に来てくれたし、今年も私が頼めばきっと来てくれる。


 そうこうしている内に家のインターホンが鳴った。確認してみると、玄関の前にヒ……京子ちゃんが立っている。


《おはよう。迎えに来たよ》

「はーい。今行く。よいしょっと……」


 私は満杯に膨らんだ鞄を背負う。約一週間分の荷物が入っているので、いつもの三倍くらいの重さがある。


「じゃあ行ってくるね」


 玄関で靴を履き替える私を、お父さん、お母さん、お兄ちゃんが総出で見送る。


「行ってらっしゃい。気を付けてね。ちゃんと毎日連絡するんだよ」

「うん。分かったよお母さん」


 最初にお母さんが一言声を掛ける。その隣ではお父さんがおろおろしている。


「あ、危ない目に遭ったらすぐ電話しろよ。お父さんがすぐ駆け付けるからな」

「いや、そんなに心配することじゃないだろ。真裕ももう高校生なんだし。それに引率の先生や監督もいるんだから大丈夫だって」


 お兄ちゃんがお父さんを落ち着ける。あんまり言いたくはないがちょっと面倒臭かったので、そこを察してくれたのかもしれない。


「そういえば今日は普通に電車で行くの?」

「うん、そうだけど。どうして?」


 唐突にお母さんが尋ねてきたので、私は理由を聞き返す。


「だってほら、そんな荷物背負って電車乗るの大変でしょう。そうだ飛翔、京子と一緒に送ってってあげなさい」

「え、俺?」


 お兄ちゃんがびっくりした様子で自分を指さす。それはありがたい。私もお母さんに乗っかり、少しだけ甘えた声でお願いする。


「え! お兄ちゃん乗せてってくれるの? じゃあお願いします!」

「いやいや、何でお前もその気になってんだよ。……まあ良いや、仕方ない。着替えるから京子と一緒にちょっと待ってろ」

「やった! ありがとうお兄ちゃん」


 私が大袈裟に喜んでみせると、お兄ちゃんは呆れたように溜息をつきながら準備に取り掛かる。やっぱりお兄ちゃんは優しい。私は心が温まるのを感じ、自然と笑みが零れる。


 それからお兄ちゃんの車に乗せてもらい、私と京子ちゃんは学校へと向かう。朝の混雑で少々進みは遅かったが、集合時間には間に合った。


「ありがとうお兄ちゃん。行ってくるね。あと応援に来てくれるのも楽しみにしてるよ」

「はいはい分かったから。はよ行ってこい」


 私はお兄ちゃんと言葉を交わし、京子ちゃんと皆の元に歩いていく。私たち以外の人はもうほとんど揃っており、出発の時を待つという状態になっている。


「あ、おはよう真裕、京子」

「おはよう紗愛蘭ちゃん」


 サク……紗愛蘭ちゃんが挨拶してきた。彼女は野球バッグに加え、普段学校で使っている鞄も持ってきている。参考書とかが入っているのだろうか。


「今日は車で来てたみたいだけど、お兄ちゃんに乗せてきてもらったの?」

「そうだよ。荷物があるから電車だと大変だろうって。お母さんと一緒にお願いしたら乗せてきてくれたんだ」

「へえ、お兄ちゃん優しいね。けどさっきの会話が何かカップルみたいで面白かった」

「何それ。そんな風に見えてたの?」


 私と紗愛蘭ちゃんは他愛なく笑い合う。これから戦いが始まると言っても、ずっと張り詰めていたら疲れてしまう。こうやってリラックスできる時間をできるだけ多くも確保するのも重要になってくる。


 やがて残り数人のメンバーも集合し、私たちはバスに乗り込んだ。いざ決戦の地へ。向かう先は兵庫県丹波市だ。


「皆さんお疲れ様でした。着きましたよ」

「ありがとうございました!」


 バスに揺られること約四時間、私たちは宿舎へと到着する。運転手さんに一人一人お礼を言いながら降車し、荷物を持っててきぱきと宿舎に入っていく。


「ようこそいらっしゃいました。今年も皆さんの力が存分に発揮できるよう、こちらも全力でおもてなしさせていただきます」


 女将さんを筆頭に、出迎えてくれた従業員の人たちが並んでお辞儀をする。私たちも玄関に整列すると、杏玖さんの声に続いて全員で挨拶する。


「こちらこそ大会が終わるまでの間、よろしくお願いします!」

「よろしくお願いします!」


 亀ヶ崎の女子野球部は、創設から毎年同じ場所で宿泊している。ここの宿舎は全体的に和風で淑やかな造りとなっており、去年泊まった際は毎日健やかな気持ちで寛ぐことができた。料理も非常に美味しく、つい食べ過ぎてしまった記憶がある。


「では各自部屋で荷物を整理してこい。少し休憩したら軽く体を動かすぞ」

「はい!」


 私たちはそれぞれの部屋に移動する。三人若しくは四人一部屋で割り振りがされており、私は京子ちゃん、紗愛蘭ちゃん、祥ちゃんと同室となった。


「よいしょっと。はあ……、疲れた」


 部屋に入るや否や、京子ちゃんは背負っていた荷物を勢い良く降ろし、畳の上に寝転がる。トイレ休憩を挟んでいたものの、バスに乗っている最中は座りっぱなしだったので、皆それなりに疲労が溜まっているのだろう。


「またこの四人だね。やっぱりこのメンバーが落ち着くから嬉しいなあ」


 そう言って安堵の笑みを浮かべるのは紗愛蘭ちゃんだ。私もこの四人なら気兼ねなく過ごせる。今年もこの部屋割りで良かった。


 それから部屋の中で一時間程度休憩し、私たちは近くのグラウンドへと移動。陽が沈む手前まで軽く汗を流す。


「ナイスボール!」


 私はブルペンで計五〇球を投げ込んだ。調子は上々。夏大の開幕が楽しみだ。



See you next base……

★主要メンバーの背番号


1.柳瀬真裕(2年、投手)

2.桐生優築(3年、捕手)

3.紅峰珠音(3年、一塁手)

4.江岬愛(3年、二塁手)

5.外羽杏玖(3年、三塁手、主将)

6.陽田京子(2年、遊撃手)

7.琉垣逢依(3年、左翼手)

8.増川洋子(3年、中堅手)

9.踽々莉紗愛蘭(2年、右翼手)

11.笠ヶ原祥(2年、投手)

12.北本菜々花(2年、捕手)

13.沓沢春歌(1年、投手)

16.木艮尾昴(1年、内野手)

17.西江ゆり(2年、外野手)

18.野極栄輝(1年、外野手)


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