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ベース⚾ガール!!~HIGHER~  作者: ドラらん
第六章 争奪戦!
76/223

75th BASE

お読みいただきありがとうございます。


今回は波乱?の背番号発表です。

 六月もあっという間に三週目になった。私たちは今日も普通に学校へと通い、放課後は野球の練習に励んでいる。


「ショート!」

「オーライ」


 三遊間の打球を京子ちゃんが逆シングルで捕り、素早く一塁に送球する。先日の試合でも安定した守備で多くの打球をアウトにしてもらった。


 来週から亀高はテスト週間に入る。だがその前に、女子野球部には大きなイベントが一つある。来るべき夏大のメンバー発表だ。


「集合」

「はい!」


 いつもより少し早めに練習を切り上げ、監督が私たちを集める。監督の隣には第二顧問の森繁(もりしげ)(なごみ)先生が立っていた。森繁先生は普段は厳しい指導をする人だが、根は私たちのことを親身に考えてくれている姉貴分である。

 そんな森繁先生が抱えている白い箱。あの中に背番号が入っている。


「それでは今から夏大のメンバーと背番号を発表していく。名前を呼ばれたら返事をして前に出てきてくれ」

「はい!」


 私たちの返事は瞬時に空へと溶け、場の空気が一気に張り詰める。選手にとってはここで名前が呼ばれるか呼ばれないか、呼ばれるとしたらどの番号で呼ばれるのかは、生きるか死ぬかの問題に匹敵すると言っても良い。だから緊張感が高まらないわけがない。


「じゃあまずは一番からだな」


 そう監督が言った瞬間、私は喉元がきつく締め付けられる感覚に苛まれる。一番はエースの背負う番号。言うまでもなく私が最も欲しているものだ。

 これまでしっかり結果を残してきた自負はある。春歌ちゃんや祥ちゃんも好投しているが、この番号は譲りたくない。


「……一番、柳瀬真裕」

「はい!」


 監督が私の名前を呼ぶ。私は安堵の念を覚えながら返事をし、前へと出る。


「真裕、秋からの一年間よくぞエースとして投げ抜いてくれた。この番号を付けるのは他にはいない。お前の右腕でうちのチームを優勝に導いてくれ。頼んだぞ」

「はい! もちろんです!」


 私は監督の言葉を聞いて満面の笑みを浮かべる。そんな風に言われるとは思っていなかったのでとても嬉しかった。その後森繁先生から背番号が配布される。


「どうぞ。胸を張って投げてこい」

「はい。ありがとうございます」


 目の前に広げられた一番を受け取り、私は綺麗に畳んで胸の前で大事に持つ。去年の十一番とは比べ物にならない重みが感じられた。


「続いて二番、桐生優築」

「はい」


 他の背番号も続々と発表されていく。優築さん含め、去年からレギュラーを張ってきた選手で布陣が固められる。


「六番、陽田京子」

「はい!」


 六番のところでは京子ちゃんが呼ばれる。昴ちゃんからの突き上げを振り切り、めでたくショートのレギュラーに任命された。


「春からで考えるとお前が一番苦労したかもしれん。けどお前は自分自身の力で道を拓いた。だから自信を持って夏大に臨んでくれ」

「はい。分かりました」


 京子ちゃんが背番号を貰い、私の隣に戻ってくる。私たちは互いに顔を合わせると、二人同時に無言で頷いた。


「九番、踽々莉紗愛蘭」


 ライトのレギュラーは紗愛蘭ちゃんだ。ここはもう代えがきかないところだろう。


「十三番、沓沢春歌」

「はい」


 続いて控えメンバーの背番号も配られていく。十三番は春歌ちゃん。一年生で最初に名前を呼ばれた。


「夏大は投手一人では勝ち抜けない。必ずお前の力が必要になる。上に行けばどこかで先発も任せることになるだろう。その時のために今後も鍛錬に勤しんでくれ」

「はい、分かりました」


 背番号を受け取り、春歌ちゃんが元いた場位置へと下がる。その表情は非常に険しかった。嬉しさなども微塵も感じられず、寧ろ強い悲壮感が漂っている。


「十六番、木艮尾昴」

「はい」


 メンバーに選出された一年生は計三人。春ちゃんの他には昴ちゃんと栄輝ちゃんだ。皆これまでの試合で光るものを見せ、夏大でも活躍できる力があることは実証している。


「以上の十八名が夏大に出場するメンバーだ。今後は基本的にメンバーを優先した練習となり、選ばれなかった者にはサポート側に回ってもらう。申し訳ないがよろしく頼む」


 監督が軽く頭を下げる。どうしようもないことではあるが、やはり全員が夏大に出られないのは悲しい。だからこそ選ばれた私たちは誇りと自覚を持って臨まなければならない。


「ただまだメンバー登録までは期日がある。選ばれた人間の中でこの先もしも気の抜けたようなプレーをした者がいれば、誰であろうと容赦なく入れ替えるからな。その点は覚悟しておいてくれ。良いな?」

「はい!」

「よし、では今日は解散とする。最終下校時刻も迫っているので、やることが済んだら全員すぐ帰宅するように」

「ありがとうございました!」


 時刻は午後七時に到達しようとしていた。空は完全に真っ暗ではないものの、大分辺りも見え辛くなってきている。手早くグラウンド整備を済ませ、私は京子ちゃんと荷物を持って部室へと向かう。その途中、前を歩いている春歌ちゃんと昴ちゃんの姿を見つけた。


「春歌ちゃん、昴ちゃん、お疲れ様!」

「あ、真裕さん。お疲れ様です」

「お、お疲れ様です」


 私が陽気に声を掛けると、二人は揃ってお辞儀をする。共に同じ鞄を左肩に掛けているが、おそらくその中に背番号が仕舞ってあるのだろう。


「春歌ちゃんも昴ちゃんも夏大のメンバーに選ばれたね。二人なら絶対に選ばれると思ってたけど。一緒に協力して優勝しよう!」

「はい。よろしくお願いします!」


 昴ちゃんがはにかみながら応える。一方の春歌ちゃんは仏頂面をし、気怠く口を開いた。


「言いたいことはそれだけですか? 協力するって言っても、慣れ合う気は無いですので。そういうのが目的なら止めてください」

「ちょっと春歌、そんな言い方は無いでしょ。真裕さんに失礼だよ」


 春歌ちゃんは厳つい眼差しで私を睨むように見る。慌てて昴ちゃんが間に入った。


「だってそうでしょ。慣れ合って優勝できるほど、夏大は甘くないよ」

「あはは……。春歌ちゃんは相変らず手厳しいね。こっちとしても別に慣れ合ってるつもりはないんだけど……」


 私は思わず苦笑いを浮かべる。ただそれが春歌ちゃんには(しゃく)に障ったのか、彼女の口元が僅かに動いて苛立ちが露わになる。


「何笑ってるんですか? こっちは真剣な話をしてるんですよ。……まあ良いや。そうやっていつまでもへらへらしてれば良いですよ。今に私が足を掬ってやります」


 春歌ちゃんは何かを堪えているかのように拳を震わせる。それから私にこう宣言した。


「私はいつか、貴方からエースの座を奪ってみせます。今回は譲る結果となりましたけど、次回はそうはさせません。そのためにも夏大で良い投球をして、私でもエースになれるんだってところを見せつけてやります」

「春歌ちゃん……」


 私は口を開けたまま唖然とする。春歌ちゃんの強い想いに気圧されてしまった。


「ではこれで失礼します。……夏大、頑張りましょうね。絶対に負けませんから」


 春歌ちゃんが颯爽と立ち去る。咄嗟に昴ちゃんが私に一言謝罪をし、後を追うように駆けていった。彼女たちが校門から出るのを見届けたところで、後ろから京子ちゃんが呟く。


「凄い気合いだね、春歌の奴」

「うん。私もうかうかしてられないよ。夏大で無様な姿は見せられない」


 あれくらい戦意むき出しの方が春歌ちゃんらしいし、それ故に頼もしい。といっても私だって負ける気は無い。ふと見上げた上空では、星が幾許(いくばく)か輝き始めていた。


 出場メンバーが決まり、夏大への準備は整った。去年は準決勝で敗退。その雪辱を果たし、今年は頂点に登りつめてみせる――。



See you next base……


PLAYERFILE.25:森繁和(もりしげ・なごみ)

学年:教師

誕生日:11/18

投/打:右/右

守備位置:第二顧問

身長/体重:162/58

好きな食べ物:落花生、はかりめ


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