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ベース⚾ガール!!~HIGHER~  作者: ドラらん
第六章 争奪戦!
75/223

74th BASE

お読みいただきありがとうございます。


緊急事態宣言が関東でも解除の方向に向かい、プロ野球も開幕のめどが立ちました。

ここから焦らず、そして少しずつ日常を取り戻していけたらと願うばかりです。

 六回裏、七回表と共に点は入らず。このまま引き分けで終わるかと思われたが、七回裏に亀ヶ崎は絶好機を迎える。


「ボール、フォア」


 ヒット二本と四球でツーアウト満塁。サヨナラのお膳立てが整い、打順はトップに返って四巡目に入る。


《一番ショート、木艮野さん》


 昴が本日四度目の打席に立つ。ここまでの三打席はいずれも凡退。三振が二つ、そしてサードファールフライと内容も芳しくない。


「昴、決めろ! いつもの力見せてやれ!」


 二塁ランナーのきさらが昴に奮起を促す。若干かすれ声になってきているが、元気はまだまだ衰えていない。昴はきさらの方に一度目をやり、口を真一文字に結んで点頭する。それから改めてバットを構えた。


(今日はきさらの元気のおかげで皆がいつも以上に活力を貰ってる。私もそれに乗って打ちたい)


 マウンドには三番手の右投げの宮田(みやた)が上がっていた。彼女は春歌たちと同じ一年生。昴としては尚更負けられない。


 一球目、宮田は低めにストレートを投げてきた。昴は打ちにいこうとするも一瞬躊躇ってしまい、スイングできずに見送る。


「ストライク」


 今のは積極的に打っていってほしい球だった。おそらくそれほどプレッシャーの掛からない場面であれば、当たり前のように打ちに出ていただろう。昴は初回に感じた緊張から抜け出せないでいる。


「どうした昴! どんどん振っていこう! アウトになることを怖がるな!」


 再度きさらから声が飛んでくる。言うまでもないが、尻込みしていても打てない。バットを振らなければ何も起こらないのだ。


(ストレートのスピードはまずまず。球威もありそう。けどこれくらいなら打てなくちゃ駄目だ。緊張で体が動かせてないのは分かってる。でももう四打席目。この感覚には慣れた。あとは己で打破するだけだろ)


 二球目も直球。こちらは高めに大きく外れ、昴は余裕を持って見逃す。


(ある程度ボールは追えるようになってる。落ち着け、気持ちを楽にして待て。そして臆せず自分のスイングをすれば打てる!)


 昴は深呼吸して強張った肩の力のガス抜きをする。マウンドの宮田は長い間合いから投球動作を起こし、三球目を投じる。


「ボールツー」


 宮田はカーブを使ってきたが、外角に抜けてしまった。これでツーボールワンストライクと打者有利のカウントとなる。


(もしもフォアボールなら押し出しで終わり。変化球はあまり制球できていないみたいだし、真っ直ぐでカウントを整えてくる可能性が高い。そこを狙う)


 昴は手首を柔らかくして次の球を待つ。宮田がサイン交換を終え、四球目を投げた。


 アウトハイにストレートが来る。昴はコースに逆らわない角度でスイングし、バットを振り切る。澄んだ金属音を奏で、鮮やかなライナーが左中間を目掛けて飛んでいく。


「おお! ナイスバッティング!」


 きさらが絶叫しながら走り出す。打球は彼女の横を勢い良く通り過ぎる。


「させないよ!」


 外野まで抜けるかと思われたが、その前に万里香が立ちはだかった。彼女は背筋を伸ばして高々と飛び上がり、ダイレクトで捕球する。着地時もバランスを崩すことなく、白球はグラブに収まったままだ。


「アウト、ゲームセット!」

「ああ……」


 打ち終わって一目散に駆け出していた昴だったが、打球が万里香に捕られたのを見て天を仰ぐ。昴らしいバッティングを見せるも、残念ながらサヨナラの一打とはいかなかった。


「ありがとうございました!」


 結局一対一でゲームセット。拮抗した試合展開で両チーム譲らずドローとなった。




 試合後のグラウンド整備も終わり、亀ヶ崎の選手たちは荷造りに取り掛かっていた。その中でも隣り合っていた春歌と昴が何やら会話を交わしている。


「お疲れ。最後の打席は惜しかったね」

「そっちこそお疲れ。あれは自分としてもしっかり打てたからヒットになってほしかったよ。でも今日はその前の三打席で何もできなかった。それがとにかく悔しい……」


 昴はそう言いながら作業を続ける。だが心なしか手の動きは重たい。


「春歌はナイスピッチングだったじゃん。後ろで守ってても安心して見ていられたよ」

「ありがとう。けど私だって納得はいってない。守り切って終わりたかったし、まだまだ力不足だって実感したよ。特に円川さんには全然敵わなかった」


 春歌も悔恨の念を口にする。二人は一年生ながら、入学したての四月から試合に出続けてきた。順風満帆に階段を登ってきているように見えるが、全くそんなことはない。試合を経験する毎に壁にぶつかっている。今日の試合では昴は心を操れずノーヒット、春歌は万里香に歯が立たなかった。


「そっか……。じゃあお互いに課題が残ったってことだね」

「うん……」


 二人の会話が止まる。ふと顔を上げた昴の目に、偶然真裕と京子の姿が映る。


「京子ちゃん、ちょっと私のグラブ持っててもらって良い? 靴紐結びたい」

「はいよ」


 少し前まで険悪な雰囲気だった二人だが、今日は終始仲良さそうにしている。試合中も互いに励まし合っていた。その関係性が、昴にとっては羨ましく感じられた。


「何見てんの?」

「え? あー……、ちょっとね」


 春歌に問いかけられ、昴は咄嗟に視線を逸らす。奇しくもこの春歌と昴は、真裕たちと同じピッチャーとショート。チームの要となるポジションを務めている。


「ねえ春歌……」

「どうした?」

「……いや、何でもない」


 昴は首を振り、纏めた荷物を肩に掛ける。仄かな期待を抱いているが、まだ自分たちはそんなレベルには達していない。そう思いつつ、彼女はそそくさと帰り路を歩み出す。


「ええ……。何なの一体?」


 春歌も後からすぐに追いかける。いつ間にやら夕陽が沈み始めていたものの、地平線が時期尚早と押し返しているかのように、その進行はとてつもなく遅い。


 かくして夏大のレギュラーを懸けた練習試合は幕を閉じた。エース真裕の好投、不振だった京子の復活など上級生が意地を見せる一方、春歌や昴ら新入生は満足な結果が出せなかった。今回の内容を受け、果たしてメンバー構成はどうなるのか。発表は来週行われる。



See you next base……


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