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ベース⚾ガール!!~HIGHER~  作者: ドラらん
第六章 争奪戦!
73/223

72nd BASE

「栄輝! 思い切りかっとばしたれ! 栄輝なら打てるぞ!」


 ベンチからきさらが元気に声援を送る。それを聞いた栄輝はうっすらと笑みを浮かべながらバットを構える。


(きさらってば元気だねえ。試合やる毎に声を枯らしてるじゃん。まあそういう存在がいるとこっちも励みになるから、ありがたいんだけどね)


 一球目、内角低めにカーブが来る。栄輝は果敢にフルスイングしていったが、ボールはバットに当たらず空振りとなる。


「良いよ良いよ! 空振りオッケー。怖がらず次も振っていこう!」


 きさらは声を飛ばし続ける。こうした同級生の鼓舞は確かな活力となり、不思議と打てる気がしてくるものである。


 二球目はアウトコースのストレートが外れる。栄輝は悠然と見極めた。球筋はよく見えているみたいだ。


(真裕さんよりもスピードは出ていないし、しっかりスイングすれば差し込まれることはなさそう。力勝負なら負けたくないもんね)


 栄輝は速球に狙いを定める。ほんの少しだけ左足に重心を寄らせ、始動を早められるように備える。

 マウンドの竹内がサインに頷き、三球目の投球動作を起こす。投げてきたのはインコースの直球。栄輝は臆せず打って出る。


「いけー! 栄輝!」


 きさらも再び大きな声を上げる。それに後押しされるかの如く、右中間目掛けて大飛球が舞った。


「ラ、ライト!」


 ライト、センター共に必死で背走する。けれども打球の滞空時間が長く、中々失速する気配を見せない。

 暫くしてようやく落ちてきたものの、その落下地点はフェンス手前の最深部。もちろん誰も追い付けずに長打となる。


「回れ回れ!」


 この一打で一塁ランナーは三塁を蹴って一気にホーム突入。外野からの返球は内野で留まり、亀ヶ崎は一点を先制する。栄輝も二塁を陥れた。


「やったぜ栄輝! ナイスバッティング!」


 ベンチからいの一番にきさらが両拳を掲げる。まるで自分が打ったかのようだ。栄輝もそれに乗せられ、思わず右腕を突き上げる。


(芯で捉えられたとは思ったけど、あそこまで飛んでくれるとは。私の実力八割、きさらの応援が二割ってところかな。やっぱりあれだけ飛ばせると気持ち良いね)


 栄輝の最大の魅力は豪快なスイング。しかしこういった緊張感のある試合でそれを貫くのは決して容易ではない。どうしても失敗を恐れて当てにいくバッティングに頼りがちだが、栄輝はそうはならなかった。それだけ彼女の気持ちが強かったというのは言うまでもないが、もしかしたらきさらの声掛けの効果もあったのかもしれない。


「アウト。チェンジ」


 後の打者が凡退し、更なる追加点とはいかなかった。ここから試合が動いていくかと思われたが、五回は両チーム得点を挙げられず。一対〇で六回表に入る。


「サード」

「おりゃっ!」


 先頭打者の竹内の代打、小和泉が初球を三遊間に弾き返す。きさらが威勢良く跳び付いていくも、打球はその前を通って外野に抜けた。春歌はレフトへのヒットを許す。


 その後は送りバントとセカンドゴロでツーアウトとなる。しかし同点のランナーは三塁まで進む。


《三番ショート、円川さん》


 ここで打順は万里香に回る。三打席目は念願のチャンスで巡ってきた。


(さてさて、この打席はどうやって攻めてくるのかな。またインコースを使ってきても面白いけど)


 万里香はどこか愉快気に、足取り軽く打席に立つ。その姿が春歌には気に食わなかった。


(どうしてあの人はあんなに楽しそうなの? まるで真裕先輩みたい。……嫌いだ。こういう人には負けたくない)


 予定では春歌はこの回まで。万里香を抑え、無失点でマウンドを降りたい。 


(さっきは内角で勝負にいった球が打たれた。やり返したいけど、点を与えるわけにもいかない。そこはきちんと割り切らなきゃ)


 春歌は私情を排し、万里香を抑えに掛かる。初球はアウトローのツーシームから入った。


「ストライク」


 際どいコースに決まり、まずはストライクを先行させる。二球目は内角低めへの直球。こちらはボールとなった。


(インコースを見せ球にして、外でカウントを整えていく作戦かな? シンプルだけど、きっちりコースを投げ分けられるなら良い組み立てだよね。でもそれで抑えられるほど、私は甘くないよ)


 万里香は一度打席を外し、汗で湿ったバッティンググラブを付け直す。再度打席に入ってから春歌に送る眼差しは、心なしか鋭さを増している。まさしく勝負師の顔だ。


 三球目、春歌は外角にカーブを投じる。万里香は手元まで引き付けてスイングし、バットの芯で捉える。そうして狙いすましたかのように鮮やかなライナーをライト線に飛ばす。


「ファール」


 だが打球の落ちた先は白線の外側。フェアであれば一点入っていただけに、非常に惜しまれる当たりとなった。


「あら、切れたか。良い感じに打てたのに」


 万里香は残念そうに奥歯を噛み締める。一方の春歌はファールの判定が下された瞬間、地面に目をやり、ほっと胸を撫で下ろす。


(危なかった……。でも明らかにこっちの攻め方が読まれてる。追い込んだとはいえ、打ち取れるイメージが湧かない。菜々花先輩、どうしましょう?)


 春歌は切羽詰まった様子でサインを覗う。菜々花もここからの配球には頭を抱えていた。


(円川ならこれくらい読んでくるとは思ってたけど、案の定対応されてる。ぶっちゃけ苦しい。でもこっちだって策を持ってないわけじゃない)


 四球目、バッテリーは低めに沈むチェンジアップで空振りを誘う。だが万里香は見向きもしない。


(ほう、チェンジアップも持ってるのか。だけどこれは精度がいまいちだね。これなら十分見極められる)


 これでツーボールツーストライク。四球を出したくないとするなら、このカウントで決着を付けたい。


(チェンジアップを振ってこなかったのは想定済み。勝負は次の球。練習でもあんまり投げたことないけど、春歌のコントロールを信じてこれを使ってみよう)


 菜々花がサインを出す。受け取った春歌は僅かに目を見開く。


(え? その球って……。確かに円川さんを抑えようと思ったらこれしかないのかもしれないですけど……)

(大丈夫。春歌なら投げられる。それだけの力はあるはずだよ)


 戸惑う春歌に、菜々花はミットを叩いて無言の檄を送る。春歌はそれに応えるように首を縦に動かした。


(……分かりました。そういうことならやるしかない。というかここで投げられないで、何処で投げるって話だ)


 春歌は額から流れる雫を左の手首で拭い、セットポジションに入る。それから意を決して五球目を投じた。



See you next base……


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